第7話 火の山岳 1

 クレミアン商会の依頼を達成してから2週間ほどギルドの仲介依頼をこなしたり、母からポーション類の作成方法を教えてもらったりして過ごしていた。


 常設依頼の薬草採取を終えてギルドに行くと、エリアさんから『明日は火の山岳の攻略を再開してはいかがですか』と言われた。


 以前食事に誘われて以来、エリアさんは僕を探るような言動はしてこない。

 密かに警戒していたが、思い過ごしかもしれない。


 でも、今回の発言はすこし引っかかる。

 冒険者は良くも悪くも自己責任だ。

 受付嬢が聞かれてもないのに冒険者の行動に助言をすることは普通しない。


 エリアさんの意図がわからないが、ステータスが見えてこないので悪意がないことだけは確実だ。

 まあ、しばらくダンジョンには行ってなかったしポーション類も準備できているし、ちょうどいいか。




 というわけで今日は火の山岳の4階から攻略の続きだ。

 道中は【隠蔽Ⅰ】をMPの許す限り発動してスキルレベルが上がるようにしておこうと思う。


 エリーゼさんに教えてもらったのだが、【隠蔽】はⅣになれば変装もできるようになり、Ⅴではさらにステータスを偽造できる。

 Ⅴまで到達すれば万が一スキルを覗かれても大丈夫になるかな。


 あと、【隠蔽】を使用した状態で攻撃を繰り返すと【不意打ち】が生えることがあるようだ。

 【不意打ち】はレベルがなく、効果は相手がこちらに気が付かない状態で攻撃に成功するとダメージが20%増加するスキルで、MPの消費はない。

 できれば取得しておきたい。


 ゴブリンメイジの魔法攻撃だけには一応気を付けながら、6階まで到達した。

 そこからしばらく進んでも、魔物の姿が全然見つからない。



 突然、辺り一面が眩しく光り、思わず目を瞑ってしまう。



 ようやく目を開けると、虹色のスライムが佇んでいた。

 七色が眼に優しくない。

 しかも七色の模様がグネグネと上下左右不規則に動いている。

 見てて酔いそうだ。



 こんな魔物は見たことも聞いたこともない。

 情報がないから戦うかどうか迷うが、色からしてレアっぽいのと、攻撃されるような感じがしないのでとりあえずゆっくりと距離を詰めてみる。


 すると、虹色のスライムがぷるぷる震えだして、また辺りが真っ白くなった。

 目を瞑らされてしまい、足が止まる。

 すぐにステータスを確認するが、特に変化はない。

 ダメージも食らっていない。



 もう一度2歩ぐらい進んだら、また虹色のスライムがぷるぷる震えだした。

 その瞬間僕は目を閉じたが、また足止めをくらう。

 どうやら発光したら強制的に動きが止められるみたいだ。

 実害はないがちょっとうっとうしい。


 結局、何度も足止めされながらやっと接近できたのでウォーリアソードを振り下ろして黒い核を狙う。

 特に抵抗もなくあっさりと核を破壊できた。


 倒した瞬間、頭に軽く小突かれるような衝撃がきた。



スキル

【時空魔法Ⅰ】(NEW)



 うん。何回か見直したけど、変わらないな。



 【時空魔法】はレア中のレアだ。

 汎用スキルなので一応誰でも取得できる可能性があるが、取得の条件や方法は全くわかっていない。

 

 【時空魔法Ⅰ】は、ディメンジョンボックスが使えるみたいだ。

 収納専用の異空間を生成し、収納できる対象は生命ある物以外の物、収納できる量は精神のステータスに依存する。

 自分から離れた場所でも展開できて、収納したいものを指定すれば勝手に吸い込んでくれるようだ。

 すごい便利。



 さらに発動に詠唱は不要。

 魔法系スキルは大抵詠唱が必要なので、さすがレアスキルということか。


 作成時にMPを100消費し、以降は再度作成するまでMPは必要ない。

 でも悲しいかな、僕の精神のステータスはまだF級程度なのでたぶんそんなに入らないだろう。

 こうなると次の【交換】はできる限り精神を優先すべきだな。


 これは本当にラッキーだ。

 だけど、人には言えないことが増えてしまった。

 すぐにでもいろいろ試してみたいが、ここはまだダンジョンの中だ。

 一時的にでもMPがゼロになるのはよくない。

 ここを出てからにしよう。


 じゃあ、続けて進んでいこう。




 ……うっ、また眩しい。


 数歩もしないうちに、2体目の虹色のスライムが佇んでいた。




スキル:

【弱者の意地】(NEW)





 【弱者の意地】は、自分よりレベルが高い相手と戦う際に(100-LV)%ステータス全て(HP、MP以外)を上昇させるスキルだ。

 自分のレベルが100以上になると、効果を発揮しない。

 レベル100ならAランク冒険者になるかどうかあたりだから、それはもう弱者ではないということだろうか。


 自分が高レベルだと死にスキルになってしまうが、今の僕にはちょうどいいスキルだ。

 なんせ今のレベルは13だから、格上相手なら87%もステータスが上昇する。

 レベルが低くてよかった。




 7階の転移陣に到着。

 これでいったん帰れるが、まだ時間も余力もあるし、ここはセオリーどおりMPを100に回復してからボスに挑もう。


 ここのボスは、ファイアナイト一体だ。

 火属性の付与された槍で攻撃してくる。

 まあE級だし、僕のステータスならスキルを使わなくてもごり押しですぐに終わるだろう。



 と思っていた僕はとても甘かったのをこの後思い知ることになる。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 レアスキルが二つも手に入っています。

 主人公だからね。

 性能からすると固有スキルかな、と迷ったのですが、そうすると固有スキルは一人一つというこの世界の原則に合わなくなるので、汎用スキルということにしています。

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