第8話 火の山岳 2

 ボス部屋に入ると、ガシャン、と後ろで何かが落ちたような音がした。

 振り向くと扉が閉まっていた。

 なぜだ? 

 通常は撤退できるように扉は開きっぱなしのはずなのに。


 嫌な予感がする。


 ボスを見ると、2.5メートルほどの騎士型モンスターが2体いた。

 兜の奥の赤い目がギラリと光り、僕の背丈と同じくらいの長さの紅に染まった槍がこちらを向く。


 挨拶代わりにと炎の矢が2本飛んでくる。

 ファイアナイトは魔法を使わないはずだ。

 ということはこいつらは噂に聞くレアボスか。

 今日はレア祭りだな。



 右に軽く飛んで躱すと、壁に着弾した2本の炎の矢が爆音を立てて弾けた。

 やばい、絶対に初級のファイアアローの威力なんかじゃない。

 中級のフレイムアローあたりか。

 僕の紙のような魔法防御と【全属性耐性半減】のせいでもし当たったら一巻の終わりだ。

 絶対当たってはいけない。


 また、炎の矢が飛んでくる。

 次は大きく躱して、すぐにポーチから火耐性ポーションを取り出して自分の体に振りかける。

 これで火耐性が20%上昇だ。

 焼け石に水かもしれないが、取れる対策は取っておかないと。



 僕には威力のある遠距離攻撃がないから、とにかく近づかないといけない。

 一応『ウォーターボール』があるが、僕の知性の値だととても効きそうにないから接近戦一択だ。


 相手の詠唱の合間にできるだけ近づき炎の矢を躱しながら、2体の槍の間合いまで何とか接近できた。

 炎の矢に何回か掠ってしまい2割ほどHPが削れていた。


 今度は左のボスの槍が横なぎに襲い掛かってくる。

 剣で受け止めて跳ね上げる。

 どうやら腕力はこちらが上のようだ。

 そして少し間をおいて右のボスは真っ直ぐ突きを繰り出してくる。

 これもすぐ横に躱して弾き返す。


 タイミングよく2体のボスが交互に槍を繰り出してくるため、こちらから大きな一撃を与えられず、ちまちま反撃するのが精一杯だ。


 何回か攻防を繰り返した後、右のボスが少し力を溜め、真っ直ぐな突きによる旋風を伴う一撃が繰り出される。

 確かこれは中級槍術の『絶風槍』だ。

 これも躱すが、旋風の勢いにより後方に押し出されてしまう。


 すると、槍の間合いから外れたせいか、またボスが詠唱を開始し、炎の矢が飛んでくる。

 旋風の余波のせいで思うように動けないため、左のボスからの炎の矢に当たってしまう。


 着弾した炎の矢の衝撃で、僕はさらに後ろに吹き飛ばされ背中から壁に激突する。

 追撃を避けなきゃいけないのに、燃えるような痛みですぐに体が動かない。


 熱い。痛い。


 HPはもうわずかしかない。

 次の炎の矢がもうすぐ放たれそうだ。


 こんなところで死ぬのか。

 せっかくレアスキルを手に入れたというのに……



 そうだ! それなら一か八かだが取得したばかりのを使ってやろう。




 僕は、目の前にディメンジョンボックスを展開した。

 対象が生命以外の物だから、魔法も収納できるだろうと思ったのだ。

 そして、僕は賭けに勝った。




 ボスは炎の矢が次々と収納されていくのを見ても魔法を止めない。

 どうやら思考ルーチンは単純なようだ。

 今のうちにHPポーションを飲んでおこう。

 

 しかし、すぐに収納の限界がやってきた。

 【弱者の意地】で精神を水増しした状態でディメンジョンボックスを作成したがそれでもあまり容量がないみたいだ。

 

 8本目の炎の矢が入ったあたりでミシミシ、とディメンジョンボックスから音が聞こえた気がする。

 このままだとどうなるかわからない。

 いったんディメンジョンボックスを閉じて、左のボスの目の前で展開しなおす。


 直後、耳をつんざく音がして、ディメンジョンボックスが爆発した。


 ていうか、異空間って爆発するんだ。

 容量以上に無理やり積み込んだらそうなるのか。


 爆発によって左のボスの詠唱が中断される。

 僕は痛む体を無理やり動かしてその隙に近付き、ボスの腰辺りを狙って今の全力で真横に剣を振りぬく。

 騎士系の敵はそこに弱点があるはずだ。


 狙い通り弱点の核が破壊され、光の粒子となって消えていく。

 しかし、衝撃に耐えられなかったウォーリアソードがポッキリと折れてしまった。


 残ったボスはMPが切れたのか魔法は使わず、こちらに向かってくる。

 僕の武器がないが、先に倒したボスのところにドロップ品の赤い装飾の入ったダガーが落ちていた。

 ダガーを拾って、ボスに立ち向かう。


 ボスはMPが切れているので、武器による単純な攻撃ばかりだ。

 先ほどは2体交互に攻撃されたから反撃しにくかったが、1体なら対応できる。

 槍を弾き返したらすぐに懐に潜り込んで、核のある場所に斜め下から勢いよくダガーを突き刺す。

 ボスが光の粒子となって消えていく。

 ドロップ品は、さっきと同じダガーだった。




 ああ、やっと終わった。


 勝ったことは勝ったけどズタボロだ。

 レアボスがこんなに強いなんて。

 てかソロはきついな。

 とりあえず帰って休みたい。

 その前に魔石も回収しなきゃ。

 ボス部屋の扉はいつの間にか開いている。

 転移陣の周辺は敵が出ないから、少し休んでから帰還しよう。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 エリアが火の山岳にクラウスを誘導したのは、前話でのレアスキル獲得のためでした。

 ただ、エリアのスキルでは具体的に何が起こるかはわからないので、まさかエリアも今話でクラウスが死にかけたとは夢にも思ってません。

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