第8話
「世界は笑っていた」8
銀行員の制服のまま美月は物資を配るのを手伝ってくれた。
夜になるとカラス達があちこちから寝袋やテント、野営するのに必要な物をたくさん集めてきてくれた。朝になるとそれらを被災者に配って歩いた。皇居周辺には比較的被害の少ない平地があり人々は協力しながら救助を待って、自衛隊員が大勢やってきて怪我人や病人を優先してヘリにより救助活動も始まっている。少しずつ地震の被害状況も政府は把握してきているようであり政府からの緊急放送も流れている。
最大震度8
津波による甚大な被害地域、江東区、江戸川区、大田区、品川区全域、港区の一部に甚大な被害がでている。救出の目途が立たない状況である。スカイツリーが倒れたというニュースも流れていた。
倒れたとビルの隙間から東京タワーが見えている。
東京都以外に神奈川県、千葉県にも大きな被害が出ており日本全体の機能が停止したと言っても過言では無かった。
八咫烏のヤッサンがやってきた。
「この天変地異は因果の元の流れで有り破滅では無い」
「どういう事ですか」
「ここからが始まりである。人は神々に近づきすぎて神を越えてしまい神々の存在を疎かにしすぎている。しかし、この天変地異は神が起こしたものではない地球の摂理の一つに過ぎないのである。神の存在は地球の上での存在である」
「何を言いに来たんですか」
「要するに造り直す時と言うことだよ」
「なるほど」
「その為に神々が集うと言うことである。ワシは東京の守護として伊勢に行く事になった。それまで都市部は平将門殿にお任せいたします」
まささんは畏まって深々と頭を下げた。
「都市部以外には京から安陪氏始め不動明王どの達が当たる事になっているから、あなた方はこのままここで人々を助けなさい」
僕達は頭を下げた。
プレハブ住宅の屋根に寝転がって満点の星空を見ながら物思いに耽った。ワンルームのアパートでコンビニバイトしながら暮らしていた先週までの自分が他人のように思える。小学生の頃に母親が亡くなってから 孤児院で高校まで生活していた。他人のことを考えてる余裕なんて無かった。でも、ここから見えるテントの灯りの数だけ魂が存在していて僕もその一つだ。無意味な自分を念うと鼓動が早まり安定剤を飲むけど不安は僕を包んでいた。
何故か今は鼓動が落ち着いていて自分をちゃんと見えている気がする。
「気がしているんじゃなくてちゃんと自分と向き合っているんだよ」
声がした。
「美月さん」
美月が屋根に登ってきた。手にはビールを二本持っている。
「カラスさんがくれたの」
「そうなんだ。ここに来る前にヤッサンとビール飲んでた。燃える東京を見てあのビールどっかに置いてきちゃったよ」
「そっかぁ。飲みなおそう」
「ありがとう」
ビールを受け取り。冥福を祈りながら献杯をした。
「それよりなんで僕が自分を見えてると思ったの」
「なんだかね。サンチョさんの心が見えるの今までの事とかね」
「まじか」
「マジっすよ」
美月は悪戯に微笑んだ。
まるで全てを見透かされているのかのようであった。
つづく
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