第32話 暗闇で
「これは…」
「ど、どうなんだ…?」
「かなりまずい状態です…すぐにでも入院して手術に取り掛からないと」
「蓮さん…」
「ダメ…ダメなの…」
◇
「こちらがシェフの居られる部屋でございます。ごゆりと」
セバスは深く礼をすると1歩後ろへと下がった。
「じゃあ行きましょうか」
そう言ってレシティさんが扉を開けた瞬間、ドンッと後ろから誰かに押されて僕達は部屋に転がり込む。
「あっ!」
「な、何だ!?」
後ろを振り返ると、扉が閉まる直前にこちらを涙ぐみながら笑顔で見ていたセバスさんがいた。
いや…どういう事だよ。
「イタタタタ…」
「レ、レシティさん、大丈夫?」
僕が手を差し伸べると、眉を八の字に変えたレシティさんが上目遣いで此方を見る。
「あ、あの…」
レシティさんの顔がまた真っ赤だ…。そうだろう。男子と部屋と2人きりなんて勝手な偏見だけど、無さそうだもんな。
「ほら」
「う、うん」
手を一段と伸ばして、無理矢理手を掴む様に強要した。少し悪いと思ったけど、いつまでもその調子だとなんかこっちも緊張すると言うか…。
空はレシティを見つめる。
身長は150ぐらい。綺麗な慧眼の瞳に透き通った肌。全体的に幼い容姿ながらも、スタイルは出ている所はちゃんと出ていて、引っ込む所はちゃんと…って! 何を考えてるんだ!!
空は大きく横に頭を振る。
「空さん?」
「うんっ!?」
突然声を掛けられた空は思わず、変な声を上げて後ずさる。
「え…っと…」
レシティの眉尻が下がり、口を閉ざす。
表情はパッと見ただけでも落ち込んでいる事が分かってしまう程だ。
「あ、ち、違」
嫌だったから振り払ったわけではない、そう否定しようとした瞬間、
ガチャンッ
突然明かりが消え、暗闇が訪れる。
「きゃあ!?」
「レシティさん!?」
レシティの叫び声が聞こえ、焦る空。
それと同時に、空の鼻腔の奥をくすぐるオシャレなシャンプーの匂い、胸に2つのなだらかな双丘の柔らかい感触が訪れる。
「れ、レシティさん…!?」
「わ、私、真っ暗な所は……」
「そ、そうなんだ!? でも男の胸に飛び込むというのはどうかと思うんだけど…」
「へ…? ひゃあっ!?」
レシティは変な声を上げた後少し後退る。そして思わず空の鼓動がドキリと大きくなる。
「あ、その、大丈夫?」
「いえ、そ、だ、大丈夫です…」
レシティからプシュ〜ッという音が聞こえる。
何秒か経ち、空は思う。
…ハッキリ言って気まずい。
暗闇の中助けてあげたい気持ちはあるが、今、僕はレシティさんが少し後ずさったとは言え、抱き合っている状態だ。
僕は健全な高校2年生。
性欲もそれなりに…ある。それに部屋の中も暗い…。
僕は一体どうしたらいいんだ…。
空は頭を悩ませながら、天井を見上げるのだった。
*
「くっ!! お、お、お嬢様…も、もう少し近づいても…いや! でもあまり近づき過ぎても…」
空とレシティの部屋を真っ暗闇にした瞬間、セバスは屋敷のコンピュータールームにて2人の様子を赤外線のカメラで様子を伺っていた。
お嬢様の恋路を応援したい! と言う想いと共に、空へのとんでもない嫉妬心を募らせていた。
お嬢様はとんでもない美人。あの暗闇、あんな至近距離での会話など、もしかして本当の本当に一線を超えてしまうかもしれない。
少しやり過ぎたでしょうかーーーセバスは少し心配になりながら画面を見つめる。
「流石にこれはやり過ぎじゃないでしょうか?」
「私もそう思っていた所です。やめた方がーーーん?」
「見つけましたよ? セバス様?」
セバスの直ぐ後ろには、マイが笑顔で直立していた。
「い、居たのですか…」
「まさかこんな事をするとは思っていませんでした」
「い、いえ、これもお嬢様の為ですから…」
「セバス様のお嬢様バカ具合にこんな拍車が掛かっているとは思っていませんでした」
「ば、バカとは
「そうですよね?」
「……はい」
「大人しく2人の関係を見守るべきですよね?」
「い、いえ!」
「何ですか?」
「…なんでもありません」
「…まぁ、少しぐらいなら良いですけど」
「! そうですよね!」
「だからと言って暗い所が苦手なお嬢様にこんな事をするのはダメですよね?」
「…はい」
強いマイであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます