第31話 執事

「はぁ…はぁ…」

「蓮さん…病院に行こう」

 アキラは蓮さんの手を取る。


「ダメ…私が行ったら…」

「馬鹿やろう…」

 アキラと蓮は店を早めにあがった。アキラは蓮を車に乗せると、病院へと向かった。


 ◇


「さぁ! 着きました!」

 ハーゲンはそう言ってドアを開ける。


「「「おぉ〜…」」」

「大したものはありませんが…」

 レシティが少し照れ臭そうな顔を見せる。


 空達の目の前にあるのはとても大きな建物だ。


「…でっか」

「そんな事ないですよ。早く行きましょう」

 レシティは優しく微笑む。


 いや…デカイよ、僕達の学校よりも大きいじゃん。


 空達はレシティさんに急かされ、屋敷の中へと入った。




「「「いらっしゃいませ!」」」


 ザッ


 扉を開けた瞬間、大きな声が揃って聞こえてくる。屋敷の中を見ると、扉から屋敷の中へと赤い絨毯が敷かれていて、右には執事、左にもメイトが何人もいて此方に向けて礼をしている。


「おー…」

「す、凄いですね」

「ふぉ〜っ!」


 空達はそのあまりの光景に各々感嘆の声を漏らす。


「セバス、今日は友達を連れてきたので失礼のない様にお願いしますね」

「かしこまりました、お嬢様」

 執事はピシッと胸に手を当てて礼をする。どこまでも綺麗な姿勢に空は目が離れなかった。


(凄い…もう結構歳を取っている風貌なのにここまで姿勢を保てるとは…)

 顎に手を当てて感心した様に見ていると、執事が此方を見てニコッと笑う。


 流石に見過ぎてたか、僕は少し頭を下げる。


「空! 何してんだよ! 早く行こうぜ!!」

「お、おう」

 少し目を離した先に3人は奥へと進んでいた。

 僕はそれに追いつく様に、少し小走りで後を追いかけた。


 ◇


「…ふむ。あの方がマジックドクターですか」

「はい。お嬢様が毎晩うわ言の様に呟いている方でございます」

 セバスは後ろに手を回し、空の後ろ姿を見ながら言った。そして背後から若いメイドがセバスに続けて言った。


「前此処に来た時はあんなに小さかったのに…もう恋をする様になりましたか…」

「……セバス様、子供の成長は早いんですよ。もう恋人も連れてきてもおかしくない年頃です」

「なるほど……ならば私はお嬢様の事をしっかりサポートをしなければなりませんね」

 セバスはまたもやニコッと笑うと、そのままの姿勢を崩さず奥へと消えていった。



「はぁ…セバス様のお嬢様バカ具合には呆れ果てますね。皆さん、セバス様が暴走しない様に私達がサポートしますよ」

「「「はいっ!」」」

 レシティのお世話係マイは、周りにいる何人かのメイドに指示すると、セバスの後をスカートをたなびかせずに素早く追いかけた。


 ◇


「此処が私の今のお部屋です」

 レシティが扉を開き、中を見せる様に部屋の真ん中で両手を広げる。


 出会った時はもっと堅い印象だったが、慣れてきたのか笑顔が増え、明るい。

 その顔を見ていると、何処かほっこりする気持ちになれる。


「大きい…何もかもが…うちのはもっと」

「おー!! なんだあれ!?」

 麗奈は部屋を見て、呆然としながら何か手で長さを測っている。雄太郎は部屋にあるベランダへと一直線へと向かう。


 各々何かとやりたい事があって忙しそうだ。僕は部屋の高そうなソファから、2人の様子を見て楽しんでいると、


「えっと…皆月さんは何かしないんですか?」

 レシティさんが少し照れている様な様子で隣に座り、話しかけてきた。


(…まだ少しぎこちないな。まだ会って数日。あの噛み噛みだった時と比べたら大きい進歩か…)

 空は自分のイメージがまだ雄太郎と、そう変わらない事を悟る。


「んー…そうだな…」


 此処で何もないと言ったら、せっかくレシティが振ってきた話が途切れてしまう。そう考えた空は少し間を置いてから言った。


「……シェフに会ってみたいかも」

「あっ! そう言えば皆月さんはお菓子作りをなさるんでしたね!」

 レシティは手を叩いて、思い出した素振りを見せた。


 その姿からはお嬢様特有の気品を感じられる。

 空はそれを見て住む世界が違うなと感じていると、突然、


「シェフの所ですかな?」

 背後に先程の執事、セバスが声をかける。


「うぉっ!?」

「そうです。私が今案内する所で

「シェフは今日、いつもの所にはいらっしゃりませんので私がご案内いたします」

 セバスはレシティの言葉を遮り、そう言いスムーズに部屋の扉を開けた。


 レシティは自分の話を遮られた事に少し驚いたが、すぐに表情を戻して「そうですか。ならばお願いします」と凛とした態度で言った。


「かしこまりました、お嬢様」

 セバスは先程と同じ様に礼をする。



「そう言えばあの2人のことは

「ご安心して下さい。部屋の外にはメイドもいらしたので」

「いや、そうじゃなくて2人も

「此処にシェフが作らせたお菓子を持って来させます。さぁ、行きましょうか」

 僕が氷川さん達も連れて行こうとすると、言葉を最後まで発する事が出来ずに、執事に考えを先読みされ答えられた。


 空はセバスから何処か無理矢理感を感じたが、素直にセバスの後をレシティと2人で着いて行った。

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