第30話 屋敷

「ゴホゴホッ!」

「…蓮さん、病院行けよ」

 アキラは仕事中、蓮の咳を見て話しかける。


「…ダメだよ。私が病院に行ったら雪那の入院費が…」

「蓮さん…」


 ◇


「此処がレシティさんの…家?」

 空達は休日にレシティの家まで来ていた。


 空達の目の前にあるのは3メートルはあるだろう大きな門と、その横に連なる、城壁とも言えるレンガの壁。


「大きすぎない?」

「でか…」

 麗奈、雄太郎は目を見開き、口を大きく開けている。


「そうですか? そこまで大きくないと思いますけど…」

 レシティはインターホンを鳴らす。


「…レシティ、貴方何者なの?」

 麗奈が真顔で見つめながら聞くと、レシティは恥ずかしそうに口元を隠しながら、否定する。


「普通の高校生ですよ!?」


(普通の高校生はこんな屋敷に住まないと思うけどな…)

 僕は門の奥に、小さく洋風の建物が建っている事を確認する。その小ささからして、此処からとんでもなく離れている事が理解できる。


 ガ…シャン

 門がゆっくりと開かれる。


「じゃあ、近くの警備員の方の車に乗って行きましょうか。迎えを待っていると自宅に着くまで1時間は掛かってしまいますから」

 レシティはそう言うと、門をいち早く括る。


「「「…」」」

 僕達はそれに言葉を返す事が出来ずに、レシティについて行く事しか出来なかった。


 コンコンッ


「はーい」

 山小屋の様な建物のドアをノックすると、男性の声が返ってくる。


「って、お嬢様!? 此処で何を!?」

 小屋から出てきたのはゴツイ2メートルぐらい外人の大男が出てきた。大男はレシティを見て、目を丸くしている。


(…こわっ)

 空はそのガタイのいい体格と、あまりにも歴戦を戦い抜いてきたであろう、その顔にビビっていた。

 空以外の2人もビビっている様で、身体を硬直させている。


「ハーゲン、屋敷まで車を出してくれませんか?」

「車ですか? それは構いませんが…それなら屋敷からの迎えを待てばいいのでは?」

 ハーゲンは眉を顰め、首を傾げる。


 おぉ…顔が…

 僕はその鋭くなった眼光にビビる。


「お友達が遊びに来たので早く屋敷に連れて行きたいんです」

 レシティはそう言うと、後ろにいる空達を紹介する。


「…ど、どうも」

「…まして」

 僕は吃りながらも挨拶、氷川さんに至っては体育の時の喋り方に変わっていた。


 まぁ、しょうがないよな…こんな怖い顔じゃ…。

 空は雄太郎がまだ挨拶してない事に気づく。心配になって後ろを向くと、そこには何故かプルプルして下を向いている雄太郎がいた。


「……すげー筋肉ですねっ!!」

「「「えっ?」」」

 ハーゲン以外の全員が驚きの声を上げる。


「ほぅ。分かるか、この筋肉の素晴らしさが」

 ハーゲンは両手を広げ、天を仰ぐ。


「マジで凄いっす!! 俺もそんな身体になってみたいんです!! 良かったら方法とか教えて貰えないですかね!?」

 雄太郎は興奮した様子で大男へと迫る。


 空達はそれを呆然として見つめていた。


「は、浜田さんって筋肉に興味が…?」

「今日初めてお会いした方なのにあのハーゲンに自ら話しかけるとは…凄いです」


 各々違う反応を見せている。


(てか僕も初めて知ったな…雄太郎が身体を鍛えたかったなんて……いや、それよりも何分話す気だよ)

 僕が呆れて雄太郎の方を見ていると、困った顔をして話しかけようか迷っている素振りを見せている、レシティさんの姿があった。


「あ、えーと…」

「雄太郎ー、それは車の中で思う存分聞けばいいんじゃないかー?」

「ん? あぁ! 悪りぃ!! 皆んなの事待たせちまってたのか!」

 そう言うと、雄太郎はハーゲンとの話を一旦終わらせる。ハーゲンのすぐ後ろについて行く。


「…ふぅ」

「雄太郎にそんな気を遣う必要ないから」

「え!」

 レシティは驚いた様に空の方を向く。


「アレで拗ねるほど器の小さい男じゃないからさ」

 それに空は少し照れ臭そうに答えた。


「…」

 レシティはその空の表情をマジマジと見つめた。

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