第28話 お弁当
「皆月君、何で昨日は学校に来なかったんですか! 貴方のせいで私がどんな思いを…」
「うん」
「本当に凄い目に遭ったんですよ? でもそのお陰で友達も…」
「うん」
「? 皆月君?」
「うん」
「…もういいです」
麗奈は話すのを諦めて、席で不貞腐れた様に頬杖をつく。
氷川さんは蓮さんの事知ってるのかな…。あの隠し様だと氷川さんにも隠してる可能性もあるんだよな。何であんなに周りに隠して、病院にも行きたがらないんだ…。
空はその理由を聞くために、麗奈に話しかけようとするが寸前の所で先生が教室に入ってきてタイミングを逃す。
うっ…まぁ、言っちゃ悪いけど氷川さんなら友達も居ないし、話す人も僕ぐらいだから話す機会なんて幾らでもあるか。
空はそんな事を思いながら朝を過ごし、昼休み。今日は保健室に行かずに、麗奈に話しかけようとする。
すると、麗奈は席を立つとすぐに教室からお弁当を持って出ていく。
珍しい! 氷川さんがお弁当を持って教室を出て行くなんて! いつもは教室の隣で食べてるのに!
空は、教室から雄太郎の「空ー!? 俺を1人にしないでくれー!!」という声を無視して、麗奈を追いかける様に教室から出る。
教室から出ると既に麗奈の姿は無い。
どこに行ったんだ? まだ教室から出て数秒しか経っていないのに…。
「レシティ! 一緒にお弁当食べよう!」
ん?
空は隣の教室を覗く。
そこには、麗奈と銀髪美少女が先に座り、楽しそうにお弁当を食べようとしている光景があった。
窓際で美少女達が談笑している光景に、教室にいる全員が「ほふぅ」という、声にならない息を吐く。
つ、遂に氷川さんに友達が!?
空は驚いたが、麗奈へと話しかける為教室に入る。
◇
「あれ? この匂い…」
「どうしたの? レシティ?」
「い、いえ…気にしないで下さい」
こ、この匂いはもしかして…!!
レシティは首をキョロキョロ忙しなく動かす。
「レ、レシティ?」
麗奈が少し引き気味で此方を見ていますが、今は関係ありません!! あの方が近くに……いた!!
「あ、あの氷川さん、ちょっと良い?」
「…何ですか? さっきまで私を無視していた皆月君?」
空は麗奈の前まで来ると話しかける。
れ、麗奈!? 貴方まさか!?
「そ、それは謝るよ。少し聞きたい事があるんだけど、良い?」
「何ですか? 今、レシティと話してるので忙しいんですけど…」
な、何を断ろうとしてるのですか!?
「レシティ? あー、あの時の。体調はどう? 熱は下がった?」
空が座っているレシティの横に来て、膝に手をつき目線を同じ高さにする。
「お、お、おかみゃいなく!!」
「へ?」
ま、また噛んでしまいました! う〜…どうしても緊張してしまいます。しかも横にいる麗奈は変な顔で私を見ています…。
「前と変わらず噛み噛みだね」
空はニコッと歯を出して子供の様に笑う。
はわわわわわわわ!!!
レシティの顔はそれを言われたと同時に、茹で蛸の様に真っ赤になり、顔を俯かせる。
「…レシティ?」
麗奈は不思議そうにレシティの顔を覗き込む。
ど、どどどどうしますかこれ!?!?
先程の顔は何ですか!? カッコよすぎます!!
少年の笑顔の様に歯を見せて笑っているのかと思えば、どこか少しバカにしてる様な…。な、何でしょうか? 心臓がドキドキしています…。
い、今だって保健室ほどではないですが、凄い香りを感じます…。
レシティはチラチラと空を見た後、落ち着く為、目を思い切り瞑り、顔を俯かせたまま大きく息を吐いた。
◇
「…レシティ?」
麗奈はレシティの顔を覗き込む。
ん? レシティの顔が凄い赤い?
麗奈はレシティの顔色が明らかに先程と違う事に気づく。
レシティは空の事をチラチラと見て、顔を一層赤くさせるが、落ち着く為か大きく息を吐いた。
さながら…恋する乙女の様な…
そ、そうか! レシティは皆月君の事が!!
麗奈はそう確信すると、
「あ、私そう言えば用事があったんだった、ごめん! レシティ!」
そう言って立ち去ろうとすると、スカートの裾をガッ! っと掴まれる。後ろを振り返ってみると、そこには涙目のレシティがいた。
…なるほど。
麗奈はそこに座り直す。
「え、用事があったんじゃ…」
「今なくなったんです」
麗奈はいじらしい友達を一生懸命応援する事にした。
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