第27話 症状

「…おい、どうなんだよ」

「…」

 男が1人上を見ながら話すが、その返事は返ってこない。


「聞こえてんだろ!」

 男は蓮に気を遣ってなのだろうか、あまり大きな声を出さずに声を荒げる。

 男が分かりやすくイライラしている事が分かる。


「…良い、とは言えないですね」

「…」

「寝不足、栄養失調気味、筋肉疲労、その他諸々」

 空は呟くように症状を述べる。


 男はその淡々とした物言いにイラついたのか、それとも蓮を心配しているのか分からないが、舌打ちをして項垂れた。


「精密な機械で調べて見なければ分からないですけど他にも何か……そう言えば蓮さんは何故ここに? 仕事じゃなかったんですか?」

「…俺が仕事を教えてる時にぶっ倒れたんだよ」

「何故病院に運ばなかったんですか」

「蓮さんが病院は嫌だって言ってきたんだ」


 何でそこまで……

 空は眉を寄せて、蓮を見る。その姿はどう見ても体調が悪そうだった。


「子供に心配かけたくなかったんだとさ」

 男は眉尻を下げ、悲しそうに呟く。


 子供…氷川さんにか。


「…他の人に迷惑掛けてちゃ世話ねーけどな」

「…」

 そこで2人の会話が途切れる。


「ちっ…そろそろ店長が来る時間だな…」

 椅子から立ち上がり頭を掻きむしった後、男は空の方へとやってくきて、蓮の顔を覗く。そして頬を掻く。


「アンタ、時間があるならそこにいて蓮さんを休ませてやっててくれ。俺が蓮さんの分まで働いてくっからよ。俺はその人の少しでも手助けしてやりてぇんだ」

「お兄さん……もしかして蓮さんの事…」

「おっと、それ以上言ったら野暮ってもんだぜ? 」

 男はニヤッと笑い、部屋から出て行った。


「……カッコいい」

 空は呟く。


 その言葉に呆然とした数秒後、空は蓮さんの手を取り脈拍数を測ったり等、診察を続けた。




 ◇


「う〜ん…」

「あ、おはようございます」

「やっと起きたか…」

 蓮さんは目を擦りながら起き上がる。

 そして空と男を見ると少し間が空き、目を見開く。


「え!? アキラは兎も角、何で此処に空がいるんだ!?」

 蓮は大きな声で叫ぶ様に言う。目を白黒させてアタフタしている彼女に、アキラは言う。


「そこの医

「あー!!?!?」

「ん?」

 空はアキラの言う事を大声で叫び、指を指すことで蓮の視線を誘導する。そして、アキラに近づき人差し指を立てる。


「お、おう」

 アキラは少し呆気にとられ頷く。


 危なかった…。アキラさんには仕方なく医者だって言っちゃったけど、蓮さんにはバレたらダメだ…。ふとした瞬間に「空って医者だもんねー!」とか言いそうな気がするし…。


「ちょっとー、何も無いじゃん」

 蓮は不貞腐れたように頬を膨らませ、此方を向く。


「あ、いや、なんかあったと思ったんですけど何も無かったです」

「それよりも、蓮さん。体調はどうなんだ?」

 話を変え、アキラが明らかに心配しながら聞くと、


「もうばっちし!」

 蓮さんは片手でピースをしながら、笑顔で答える。


「…そうか」

「もうだって何時? 16時!? 寝過ぎたぐらいだよ〜!」

「…」

 蓮は壁に掛かっている時計を目にして、やってしまった、とでも言いたげに頭を掻いている。


 確かに。この部屋に来た時は11時頃だった…。その前から寝てたと考えると寝過ぎているのかもしれない。だけど、それだけ身体が疲れていたって事だ。表面上は嘘をつけるが身体は嘘をつけない。


「なら早く退勤しろよ、あと30分で終わるだろ?」

「え、でも今日私寝てただけだからなぁー。タイムカード切っても…」

「いいから。30分なったらやっとけ。じゃあ、後は頼めるか?」

 アキラは空に聞くと、空はそれに真剣な眼差しを向けて頷く。


「…よし。蓮さんは此処で30分待機。時間なったらタイムカード切って、帰れ」

「あ、ちょっと!

「じゃあな」


 バタン


 アキラはそう言って部屋から出て行った。


「ほら、蓮さんはもう少し横になっていて下さい。体調悪かったんでしょ」

「えー、もう十分休んだよー」

 蓮は笑顔で呆れる様に言うが、空はそれを無視して無理矢理寝させた。


 ……アキラさんも気付いてたみたいだな。蓮さん、起き上がる時の腕…震えてた。


 空は蓮と他愛無い話をしながら30分過ごし、蓮にタイムカードを切らせるとそのまま家に送り届けた。

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