第26話 スピーチ

 ◇


「えー、じゃあこれから英語のスピーチをしていくぞー」

 先生が黒板の前で言う。


 うう…遂にこの時が…

 麗奈は1人、席で項垂れる。


 今は英語の時間。いつもの席とは違い、隣のクラスの人達と共同でやる為、大きい教室で行われている。


 どうしよう…。


「これなんて読むの…」


 麗奈はノートを見て、ある1つの英単語に頭を悩ませていた。


 最後の英単語の読み方が分からなかった。

 空には全ての英単語の読み方を書いてもらった筈だ。それなのに、そこだけが書かれていない。空の悪戯なのか、それともただ書き忘れていたのか…。


 気になったが、今はそれはどうでとよかった。


「じゃあー、氷川から」


 うっ…

 先生から名前を呼ばれる。


「どうした? 早く立て」

「は、はい」

 私は少し吃りながら立った。


 わ、分からないのはテキトーに発音しよう!

 麗奈はそう心に決めて、スピーチを始める。


「まい、ねーむ、いず、れいな………」

 麗奈は辿々しく空によって書かれた読み仮名を読んでいく。先生は此方を優しく微笑んで見ている。


 うぅ…そんな目で見ないで…。

 麗奈の心の中はズタボロであった。転校して来てから数日で皆んなの前で英語のスピーチ。先生は微笑んで見ている。そして生徒達の様子は見えないが、自分のカタコトなスピーチに笑われている気がしてならなかった。


 あぁ〜…あともう少しだぁ…。

 麗奈は額から汗を流す。その前の文をゆっくりと読み、どう言えばいいのか悩んでいるとそれはすぐに読み終わる。


 そして最後の1文に差し掛かる。


「あー…」

「ん? どうしたー?」

 教壇から先生の叫ぶ声が響く。

 そして生徒達が麗奈の方を見て静まり返る。


 〜〜っもう言っちゃえ!

 私が息を大きく吸い込むと同時に隣から声をかけられる。


「それは〜〜〜と言いますよ」


 麗奈が隣を向くと、そこには銀髪にエメラルド色の目、仕草はお嬢様の様で所々気品を感じる、とても綺麗な銀髪美少女がいた。


「え…」

「その単語の読み方が分からないんですよね?」

「あ、はい。〜〜〜」

 麗奈はその子の言った通りに発音し、スピーチを終わらせる。


「おー! いいスピーチだったな! 皆んな! 拍手ー!」


 パチパチパチパチ


 先生や周りの生徒達が麗奈の方を見て拍手をしてくる。


 麗奈はそれに少し頬を赤く染め、照れながら席へとつくと、教えてくれた銀髪美少女の方を向く。


「あの、あ、ありがとうございます」

「いいえ、気になさらないでください。"困ったら奥様"ですよ!」

 銀髪美少女は、間違った日本語を得意げに少しドヤ顔で言ってくる。


 ふふ…! 困ったらお互い様って言いたいんだろうけど、この子…可愛い…。

 麗奈はそれに対して、優しく微笑むと話を続ける。


「貴方が噂のホームステイの人ですか?」

「噂かどうかは分かりませんが、ホームステイは間違ってないですね」

「名前は?」

「私は紗波さなみレシティと言います。貴方は?」

「私は氷川麗奈です。レシティ…さんはハーフですか?」

「そうです。父が日本、母がロシアです。あと"さん"はつけなくて良いですよ、勿論敬語じゃなくて結構です」

 レシティは手のひらを麗奈に向け、ビシッという効果音が鳴っている気がした。


「あ、ありがとう。じゃあレシティって呼ぶね! レシティも麗奈って呼んでいいから! もちろん敬語じゃなくて良いよ!」

「ふふっ、ありがとう麗奈」

 レシティは上品に口を手で隠して笑った。


 す、すごい…。お嬢様だ…。


「麗奈? どうしたの?」

「あ、いやー、ちょっと気になったんだけどレシティってお嬢様?」

「え、そんな事ないと思うけど…」

 首を掲げ、うーんっと唸っている。


 …うん、何か答え方的にお嬢様っぽい。

 麗奈はそれを見て、何も言わず何度も頷く。


「おー? 今日は皆月は休みかー?」

 すると皆月君の番になったのか、先生が名前を言うと何も返事は帰ってこない。


 今日、朝から居なかったけど…保健室にいるのかな?


 私はそんな事を思いながら、レシティとの会話を続けた。


 レシティのスピーチは、やはりどの生徒よりも群を抜いていた。

 文の最後の方、レシティが顔を赤らめて何かを話していたが、その余りに難しい英語に他の生徒がクエッションマークを出していたが、先生だけはそれに苦笑いをしていた。

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