第24話 あさごはん
「兄貴、そんなとこで寝てんな。邪魔」
空は光に足蹴にされ、リビングの床を転がる。
「久しぶりに平日、兄がいるというのになんだその態度は」
「兄貴なんていても、いなくても変わんねぇよ」
光は空にそう言うと、眉に皺を寄せて、そっぽを向きながら罵声を返す。空はそれに対して少し悲しく感じたが、それよりも空には考えている事があった。
『ほらほら! そんな事より早く帰りな! 妹ちゃんがいるだよね? 待ってるぞ!』
蓮さんのあの慌てふため様。顔色が悪くないかと聞いてからだよな…ああいう風になったの…。
「あ、兄貴?」
どう考えてもあれは体調崩してるよな…。
「何だ? 怒ったのか? べ、別に私は兄貴が嫌いって訳じゃなくてな? えーと…」
今から戻って言うか? でも何であんなに隠そうと…今日行っても正直に言わなそうだな…。
「わ、わわ私はちゃんと兄貴の事、す、すす…尊敬! 尊敬してるんだぜ! そ、そんなに黙っていないでくれよ…」
…明日、学校サボって蓮さんを無理矢理にでも病院に連れて行ってみるか。何なら僕が少し診察してみても良いし。
「はぁ…」
「ひゃっ!?」
空が突然立ち上がると、何故か近くにいた光が後ろにのけぞり、尻餅をついていた。
「ん? 何してんだ光?」
「…も、もう!! 兄貴のバカー!!」
バタンッ
「ん?」
何だ光の奴? リビングの扉をあんな強く閉めていくなんて…珍しいな。さて…光も部屋に戻ったみたいだし、僕も光を見習って早く寝ようかな。
空は背伸びをすると、自分の部屋へと向かった。
◇
「ママ……私、バイトする」
「アンタまだこっち来たばっかで何言ってんの」
「だって!! ママ1人だと…このままだったら倒れちゃうよ!!」
「なーに! ママこう見えて身体丈夫なんだよ?」
「ママ……正直に言って。この前の朝、私に秘密で病院に行ってたよね?」
「ふふっ! 麗奈何言ってんのよ! 私は空とラーメンを食べに行ったんだよ〜?」
「…コートのポケットの中…レシート入ってたよ」
「…」
「ママ…!」
「大丈夫! 安心して!」
「だって…雪那の事も…」
「そういうのもママに任せて! 麗奈は安心して勉強と青春を楽しむ!」
「…」
「ほら! この話は終わり! 明日も学校なんだから早く寝る!!」
蓮はそう言うと、押し入れから布団を取り出そうとする。
ガクッ
「ッ!! ママ!?」
蓮は布団を持ち上げようとした瞬間、膝から崩れ落ちる。
「あはは、ちょっと足の力が抜けちゃった…」
「…」
今の私では、膝をついているママの手を取る事しか出来なかった。
◇
翌日。
「ふぁ…」
「兄貴! 起きて来るの遅いよ!!」
光が大きな声で怒鳴って来る。
「何だよ? 朝ご飯は作って置いただろ?」
「そうじゃない! 学校行かねーのかよ!」
「あー…今日サボるから。気にしないで光は先に行ってくれ」
ドンッ
光は部活のバックを床に落として目を大きく開き、呆然としている。
「あ、兄貴がぐれた…。私が昨日怒らせちゃったからだ…」
光は何かに取り憑かれたのかの様にブツブツと何か言いながら、玄関から出て行く。
「光の奴…昨日から何か変だよな? またクッキー作戦でいくか? それとも激辛ご飯作戦にするか…」
空は妹の異様な様子に、ご機嫌を取る時に使う作戦を考えながらキッチンへと行く。
冷蔵庫から昨日作ったオムライスを取り出し、レンジで温める。
チンッ
「よし…朝ご飯食ったら、氷川さんの家に行ってみるか」
空は温かいオムライスをテーブルに置き、ゆっくりと食べ始める。
あー、もうちょっとこれケチャップ入れた方が良かったかな?
そんな事を思いながら、食べ進める。
うん、美味しかった。それじゃ、食器を水に浸して、と。
空はまだ寝起きで、動きが緩慢だった。
空がこの時、もう少し早く動いたら。もう少し早くご飯を食べたら。もう少し早く起きたら。
いや、昨日のうちに戻っていたら。
今の空は、その事を知る由もない。
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