第23話 家族

「じゃあ僕、そろそろ帰るから」

 空は、麗奈の家の玄関の扉を開ける。


「待って下さい。途中まで送ります」

 麗奈が空の後に続き靴を履いて、後ろをついてくる。


「流石にいいよ」


 そんな僕が女子っていう訳でもないのに。


「でも…皆月君っていつも顔色悪い気がしますし、不審者と間違えられたら大変ですよ?」

「あぁ!! そっちね!! 大丈夫! 気にしないで!!」


 そんな僕顔色悪いかなぁ!? まぁ、確かに毎日寝不足な気もするけどさぁ!!


 空の心の声が表情に出ていたのか麗奈は少しクスッと笑うと、困った様に眉を八の字に曲げる。


「なら、せめてアパートの下までは送られせて下さい」

「あー、それならお願いしようかな」

 玄関の扉を開けて、一緒にアパートの階段を降りる。


 あー、あそこにあのスーパーがあるって事は…アベリア駅ら辺かな?


 意外に家から近いな。そう思っているうちに階段は無くなっており、地面に降り立つ。


「こんな夜遅くまでありがとうございました」

 麗奈は深々とお礼をする。


「いや、良いよ。気にしないで」

「いえ…元々は私が殴ってこうなったんですし」


 …まぁ、確かに。

 2人の間に音が消え、気まずくなり2人共苦笑いをした。


 そんな時、


「あれ? 空じゃん? 何でウチの麗奈と一緒にいるの?」

 そこに不思議な表情で私服でトートバックを持った蓮がやって来る。


「れ、蓮さん!? 何で此処に!? …え、今"ウチの麗奈"って言いました?」

「うん、ウチの娘の麗奈だけど?」

 蓮は何を言ってるの? とも言いたげな表情で空を見る。


 …娘。蓮さんと氷川さんは家族。

 空は麗奈の方を向く。


 麗奈も驚いているようで目を見開いていて、此方を見ている。


「マ、ママ? 皆月君と知り合いだったの?」

「そうよ? 空が私の事を助けてくれたのよ?」

「え!? てことはご飯を奢ってもらったっていうのは…」

 麗奈が空の方を見ると、空はそれにゆっくりと頷く。


「そういう事は早く言ってよ、ママ!!」

 麗奈が怒って蓮に近づく。蓮はそれに対して笑いながら謝っている。


 …氷川さん大変そうだなぁ。

 僕が2人の様子をボーッと見ていると、蓮さんが此方を見て、ニヤリと笑う。


 ん? 何だ?


「それにしても…空は中々のやり手だなぁ」

「え? 何がですか?

「まさかあの可愛いお姉さんだけじゃなく、ウチの娘にも手を出しているとは!!」


 !?!?!?


 なんて事を言うんだ、この人は!?

 そんな事言ったら、氷川さんがどんな事を言うか…!!


 空が麗奈の方を見ると、目を瞑り、深呼吸をしている。


 そして、


「ママ、変な事言わないで。私は今日、皆月君に勉強を教えてもらってただけだから。……まぁ、可愛いお姉さんってのは明日聞くけど」

 麗奈は落ち着いて話す。その凛としている姿は、学校で問題を間違えた時に見せる姿とは考えられない姿だった。


 意外に落ち着いてる。もっと蓮さんに怒って行くのかと思ったな…。ちょっと最後の方は何を言ってるのか聞き取れなかったけど…。


「…へぇ」

 蓮は麗奈の足下を見て、何故か嬉しそうに笑っている。


 蓮さんってこんな顔出来たんだ。娘を慈しむ様な、そんな顔をしている。


 そして空は、蓮の顔を見ているとある事に気づく。


「あれ? 蓮さん? 前あった時と違って何か顔色が悪い気が…」

「ん? あー…最近ちょっと眠れてないからかな?」

「…そうなんですか」

「ほらほら! そんな事より早く帰りな! 妹ちゃんがいるだよね? 待ってるぞ!」


 空は何故かいつもより強引な蓮に、何処かぎこちない笑顔で背中を押され、帰路に立つ。


 あまりに強引な蓮に空が後ろを目だけで見ると、麗奈の顔は何故か下を向き、表情が見えなかった。

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