第22話 家

 ◇


「…あっ」

 ヤバい、またやっちゃった。

 麗奈は床に伏している空を見る。


 で、でも! 女子に向かっていきなり手汗が酷いなんて…そんな事言わなくても…。

 麗奈は教えて貰ってる立場で殴ってしまった事に、とてつもない罪悪感を感じる。


「あの〜、大丈夫ですか? 凄い音がしたんですけど…」

 麗奈の背後から女子の声が聞こえて、振り返る。


 そこには、少し顔色が悪い三つ編みおさげの女子がいた。


「え!? 大丈夫ですか!?」

 その女子は空の方に駆け寄り、大きな声で話しかけ、身体を揺らす。


「あの!何があったんですか!?」

「え!? あ、いや〜、あの、突然その男子が倒れてしまって…」

「そうなんですね…」

 彼女は心配そうに見ている。


 凄い皆月君の事心配してる…。言えないよ…私が殴って気絶させたなんて…。


「あ、あの…その人の介抱は私がやりますので安心してください」

「え! でも…」

 此方を見る彼女の眉は八の字になっている。


 う…どうにかしてこの人の手を借りずに皆月君を保健室に連れて行ければ…。

 麗奈は彼女からの、よけいなお世話に困っていると、


真耶まやさーん、何もなかったなら早く本の整理手伝って〜」

「あっ…」

 彼女はその声に反応する。


 はっ! これだ!


「ほら! 手伝わないといけないんですよね!? 私がこの人を保健室まで運ぶので安心して下さい!! それじゃあ!!」

 麗奈は空の腕を持ち、引きずる。


「あ! ちょっと待っ


 バタン


 麗奈は急いで扉を閉めて、保健室へと向かった。


 ◇


「う〜ん…」

 空は重たい瞼を開ける。


 イテテテテ…また殴られた。俺は何で気づかなかったんだ…学校でシャーペンを洗うとか普通に考えてあり得ないだろ。僕だったら家で洗うし。

 空は自分の頬を撫でながら、起き上がる。


「って、此処何処だ?」

 起き上がると、そこは見たこともない部屋の中だった。


 言っちゃ悪いけど…ボロいな。

 恐らくは何処かのアパートだろうか。部屋の中には冷蔵庫やテーブル等があるが、漫画やテレビ等と言った物は存在しない、殺風景な風景が広がっていた。


「あ、起きたんですね」

 扉を開けて、出てきたのは私服姿の麗奈だった。


「え? 氷川さん? 何で此処に?」

「何でって…此処が私の家だからですけど…」

 麗奈は首を傾げて、此方を見る。


 此処が氷川さんの家なのか…。


「って、何で僕が此処に居るの!?」


 てか、病院!! ヤバい!! 行ってない!! …まぁ、今気づいてももう遅いけど。


 麗奈は空がドタバタと動揺している姿を見て、落ち着いた声音で話す。


「落ち着いてください。何故此処に居るのかの理由ですが、皆月君が気絶して私が保健室に連れて行ったんですけど…皆月君、学校が閉まるっていう時間までずっと気絶したままだったので此処に連れてきました。因みに此処まで保健室の先生が運んでくれました」


 な、なるほど。保奈美先生が運んでくれたのか。なら病院にも連絡が言ってるか…少し安心した。


 空は少し冷静さを取り戻し、改めて麗奈を見つめる。


 氷川さんの私服…ハッキリ言えば、女の子らしい物じゃないな。上下、中学校の体操着だ。


 空がボーッとしながら麗奈を見ていると、


「…意外ですか? この格好」

「いや…見た目には合ってるんだけど、性格的にはもっとヒラヒラした物を着ているかと…」

 空が麗奈にそう言うと、麗奈は口をつぐむ。


 何か言いたげな顔だが、言えない。そんな表情をしている。


「氷川さん…

「それより早く英語のスピーチを教えて下さいよ、その為に私の家に連れてきたんですから」


 空が口を開こうとすると、麗奈は僕の言葉を遮る様にして言ってくる。


「あ、あぁ、うん」

 空はそれについて突っ込まず、それにただ頷いた。


 これ以上は聞いてはいけない、そんな気がしたから。


 空は麗奈からノートを受け取り、麗奈のスピーチの文を書いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る