第18話 ラーメン

「またラーメンか…」

「えー、いいじゃないですかー」

 美柑が勢いよくラーメンを啜る。


 空達は病院の1番近くにあるラーメン屋に来ていた。この店は、病院が勤務場所の人はよく来る所だ。


「そんな勢いでラーメン啜ってたら、いつまで経っても彼氏できないぞ」

 空も美柑と同じ様にラーメンを啜る。


「えー、こんな彼女嫌ですかー?」

「僕は気にしないが、普通の人は嫌だろ。もっと女らしくしてみたらどうだ?」


 そんな事を言うと、美柑がラーメンを啜るのを止める。


 目を瞑り、唸っている。


「んー…ならいいかー」


 美柑は何か呟くと、またラーメンを啜り始める。


「彼氏よりも食い意地か」


 ゴフッ


 そう呟くと、美柑はラーメンを少し吐き出した。


「ん? 急いで食い過ぎたか? ラーメンは逃げないぞ?」

 空はラーメンのスープをレンゲで掬い、ズズッと飲む。


 もう少し女子らしくすると、彼氏の1人や2人は出来ると思うんだが…。


「ん? どうした?」


 僕が頭の中で考えていると、柏原がこちらをジト目で見ている事に気づく。


「なんでこんな…はぁ、何でもないです」

 美柑はそう言うと空から目を逸らした。


「すみませーん、餃子2つお願いしまーす」

「おい、何を

「今日先生の奢りですよね?」

「…うん」


 空は美柑の謎の迫力に押し負け、何も言い返す事なくラーメンを食べ続ける。


 …何か怒っているのか?

 空はチラッとバレない様に美柑の顔を覗き見る。

 美柑は美味しそうに餃子を頬張っていた。


 いつも通り、だよな? 何でさっきまであんな態度を


「先生ー。はい、あーん」

 美柑が餃子を箸で持ち、僕の口まで持ってくる。


「ん」


 パクッ


「美味しいですかー?」

「まぁ、いつも通りだ」


 空は目の前にあった餃子に思わず食いつく。


 周りの店員は黙々と作業を続けるが、周りにいるお客さんはこちらを唖然とした表情で見ている。


 あ、しまった。いつもの癖で。

 店員は慣れているが、他の常連さん以外のお客さんは空達の事を奇異の目で見つめる。


 柏原は病院の机に座って作業をしている僕に、よくお菓子をくれる。それを僕は貰おうとするのだが、頑なに食べさせてくるので諦めて"あーん"をさせて貰っているのだ。


「ほらー、先生もお腹空いてるじゃないですかー」


 美柑はふんわりと笑い、此方を見る。


「うるさい。早く食え」

「うふふっ、分かりましたー」


 返事をした美柑はどこか嬉しそうな笑顔を見せる。


 ったく…。

 空はコップに入った水で、少し動揺を見せた心を落ち着かせる。


「あー! あの時の命の恩人!」

 突然の大声に僕達はビクッと身体を震わせ、声の聞こえた方へと振り向く。


 そこに居たのは…


「…あ、あの時の行き倒れの方」

「うわっ! ちょっと間があったよ! 忘れてたなぁ!」

「うわっ! やめて下さい!」

 行き倒れの人は笑顔で後ろから、空の頭をぐしゃぐしゃにしてくる。


 まさかこんな所で会うとは。


「で、今日は何で此処に?」

「ラーメン食べに来たに決まってるでしょ?」


 …どの口が言うのか。この前は道端で倒れてたでしょ。

 空が行き倒れの人を見ると、笑顔を返してくる。


 どういう気持ちの笑顔なんだ…。


「その人は彼女さん?」

「え?」


 彼女が片眉を上げ、笑ってる視線の先には、今までに見た事のないぐらい凄い笑顔の美柑が居た。

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