第17話 部下兼同僚

「皆月先生ー」

「んー、どうしたー?」

 空が夜の病院で机に項垂れていると、慕ってくれている空の部下、もとい同僚の柏原かしわら美柑みかんが此方へとやって来る。


「今日私、先生と同じ時間に仕事終わるんですよー」

 美柑が後ろから、空の頭に自分の顎を置いてくる。空の背中に彼女の胸が押しつぶされる。


「…胸当たってる」

「当ててるんですよー」

 空は大きな溜息を吐いて、美柑から逃げる為、立ち上がる。


 このやり取りを何回したことか…。

 僕も男だ。医者だとしても高校生の男子に対してする行動じゃない。


「うー、逃げないで下さいよー」

「じゃあいつもこれをしてくるな」

「それは無理です」

 美柑はツーンとそっぽを向き、ここだけはハッキリとものを言う。美柑が確固たる意思を見せる時はこの話し方だ。


 此処までがいつもの流れ、そして…


「私とご飯に行くならやめてあげない事もないですよー?」

「…はぁ。分かったよ」


 平日は家に早く帰って寝てから、学校に行かなくてはならないが、休日は何もない。それを狙っての事だろう。しかも空は実家暮らしだ。家賃なし、食費なし、電気代、水道代、その他諸々払っていない。


 空の働いた分の給金は貯まっていく一方で、消費される事がない。


 それを狙って奢ってもらおうとするのが、この美柑だ。


「もちろん! 皆月先生の奢りですよ〜?」

 美柑の口角が片方だけ上がり、悪そうな笑みを浮かべている。


「はいはい」

 空がテキトーに返事をすると、美柑は空の頭を延々とチョップしてくる。


 …それが奢ってもらう立場か。


 空達は退勤時間になると、帰る準備を整えて2人で病院から出た。


 すると前からおじいさん2人組が、こちらに向かって歩いてくる。


「おー、こりゃあ別嬪さんだなぁ」

「これは安産型だべ」

「ちょっとー、いつもそれセクハラだよー」


 これもいつものやり取りだ。

 美柑は毎週、散歩をしているおじいさん達に絡まれる。


 それもしょうがないだろう。


 美柑はハッキリ言えば可愛い。

 とんでもない美少女という訳ではないが、どこか愛嬌があって、いつも笑顔のお陰か、皆に愛されている。


 このおじいさん達はセクハラを楽しんでいるというよりも、柏原との会話を楽しんでいるのだ。


 柏原は人を惹きつける、どこか抜けている様なほんわかとした魅力がある。


「じゃあまたねー」

「「またのー」」


 美柑はおじいさん達と別れを告げる。すると、こちらを振り返る。


「早く行きましょー。先生とご飯食べる時間はこの日しかないんですからー」


 そう言うと、美柑は道をドンドンと歩いていく。


 此処も柏原の良い所だ。

 柏原なりに気を遣ってくれているのか、いつも誘ってくるのは、休日の空が仕事を終える朝の7時。


 平日は学校で行けない。休日は土曜日しか誘われた事しかないが、恐らく1日は休ませてあげた方が良いという思いやりの心が


「遅いですよー。そんなんじゃ私、お腹一杯ご飯食べれないですよー」


 …あると思いたい。

 空は美柑に追いつく様に、歩くスピードを速めた。

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