第16話 晶子先生…!

「おー、空ー。またサボりかー?」

 晶子先生が教室の後ろの席から入ってきた僕に言う。


「いえ、先生。僕には重要な任務があったんです」


 隣のクラスの女子の看病という名の昼寝が。

 空が心の中でそう言うと、クラスのざわめきがなくなっている事に気づく。


 ん? 何だ? 何故此処で静かになる?


「せ、折角、人が…」

「はい?」

 晶子先生が、何か言い出しづらそうにボソボソと言っている。


 珍しいな、晶子先生が物事をハッキリ言わないなんて。


「まぁ…その、なんだ、人生は長く辛い事ばかりだ。でもいつかは幸せな事がやって来る! …強く生きるんだぞ」


 え、何その言い方。物凄く怖いんですけど。


 空は戸惑いながらも自分の席まで行って、普通に席に座る。


 隣を見ると、僕の方を蔑んだ目で見てくる氷川さんがいた。


 …何もしてない筈だが。強いて言うなら雄太郎に伝言を…。

 空はハッとすると、雄太郎の方に視線を向ける。


 "お前、ちゃんと言ったんだろうな?"

 という視線を送ると、雄太郎はウインクして、ぐっとグーサインをしてきた。


 …なら良いんだけど。



「あー、じゃあ授業を再開するなー…」

 晶子先生は此方をチラチラと見ながら、黒板に文字を書いていく。


 何でそんな心配そうな表情でチラ見してくる?

 空は晶子先生の行動に疑問を持ちながらも、授業を受ける。


 晶子先生は国語の先生だ。そして今は古文の授業。これはまだ習ってないな、そう思い空は真面目に授業を受ける。


「だからこうなる訳だ。此処、テストに出るぞー」

 先生は黒板をコンコンと指で叩く。


 これは見逃せない…が、ちょうど先生の机と重なって見えないな。

 空は黒板に書いてある文字を見る為、見えるように身体を横にずらした。


 よいしょっと…


 すると、



 カッ!!



「ちっ…」


 ん?

 空の近くで、何かが物とぶつかった様な音が聞こえた。


 今の音は何だ?

 辺りを見渡すと、ある物が目に入る。


 …何故僕の目の前の壁にコンパスが刺さっている?

 空はバッ! と後ろを振り向く。

 そこに居たのは、僕に向かって蔑んだ目を向けている女子と、僕の方を向きながら血涙を流している男子がいた。


「さいってー!」

「氷川さんだけでなくホームステイの人にまで!」

「皆月って実はそういう奴だったんだな」

「見損なったよね」

「話しかけないようにしようよ…」


「隣の外国人美少女を連れてった…だと?」

「…どこに?」

「×$6\|○7$→〆|2%]÷$・々×☆」

「◯ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね」

「家◯やす家◯やす家◯やす」



 ふぉ…。


 そうか…晶子先生はこれを避けようとして、最初サボりか? なんて言ってくれたのか…。

 それなのに僕は自ら、地雷の方へとダイブしに行ったのか。


 晶子先生、アンタ良い先生になれるよ。


 空はその授業以降、コンパス、定規、鉛筆、筆箱、カバン等は平気で俺の元へと飛んで来た。


 最終的には机や椅子が宙を舞い、空の元へと舞い降りていた。


 先生も止めようとはしてくれる。

 しかし、男子達のあまりの勢いと結託感に先生達はタジタジ。


 空はどの時間も寝ずに、授業をしている先生と同じ方向を向いていた。


 先生達は毎授業ごとに空の方を見て、憐れみの目をすると優しく微笑む。


「先生、無力過ぎない?」

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