第15話 熱

「あ、あの」


 グラグラ


 んー、何だ?


「お、起きてくだひゃい!」


 保奈美先生か? そろそろ終わる10分前か。

 空は起き上がる。


「おはよー、まさかちゃんと起こしてくれるとは、ありがとうございます、保奈美様」

 空がそんな事を言って起きると、


「あ、あの保奈美先生? ではないです…」

 と目の前に連れてきた銀髪美少女がいた。


 デスクを見ると、保奈美先生は居ないようだった。


 あの人…僕が頼んだのに何処に行ったんだ。この人が起こしてくれてなかったら寝過ごし…いや、それもありか?

 空はそんな事アホな事を考える。


「あ、あの?」

 銀髪美少女は首を傾げて、こちらを訝しげな目で見ている。


 まぁ、ブツブツと1人で何か話していたら怪しむか。


「あー、ごめん。起こしてくれてありがとう。体調はどう?」


 空はとりあえず、彼女に怯えられないように話しかける事にした。

 何か病気で倒れてしまった時は、何故か寂しくなってしまうものだ。ましてやホームステイ。まだ此方にも慣れていない内に、一昨日親が病院に運び込まれた事もある。なるべく親身に、砕けた口調で、笑顔を絶やさないように話しかける事を空は心掛けた。


「だ、だ、大丈夫でひゅ!」

 彼女は顔を真っ赤にし、中々の声量で叫ぶ。


 まだ、緊張しているのか?

 …部屋に男と2人だと緊張もするか。この子は結構恥ずかしがり屋なのかもしれない。僕はなるべく早く此処から出るか。


「じゃあ、僕は先に行くね」

 空は靴を履き、ベッドから出る。


「ま、待ってください!」


 ん? 何だ?

 空は、制服の服の裾が引っ張られたのを感じ、振り返る。そこにいたのは僕の腕を今にも抱き抱えそうな距離にいる、銀髪美少女。


 …よく見てみると本当に綺麗だ。

 長く光沢のある綺麗な銀髪。まだ寝起きの所為で少し癖のついた髪が、どこか僕に親近感を抱かせる。また身長は女子としては高いが、僕の事を近くで見ている為なのか、一層上目遣いが強調されており、とても愛嬌のある顔だ。


 これだと雄太郎が騒ぐのも無理はない。



「あの…マジックドクターさんですよね?」


 ッ!!

 その突然の言葉に空は一瞬動きを止める。


 ヤ、ヤバい忘れてた! この子の親は僕が治して…此処はどうにかして誤魔化さないと!!


 空は驚きの表情をなるべく浮かばないように努力しながら対応する。


「いや? 何を言ってるのかよく分からないんだけど?」

「と、惚けても分かりますよ!その目元そっくりですから…」

 彼女から食い気味で返答が返ってくる。


 最近こういう事多すぎでしょ!? この前は氷川さんも聞いてきたぞ!!

 彼女と会ったのは昨日…やっぱり無理か?


「ぼ、僕はマジックドクターなんて人じゃないよ!」

「……やっぱり本当の事は言ってくれませんか?」


 …この子もう確信してるぅ!! し、仕方ないか。もうここまで来たら言うしかないな。

 空は大きな溜息を吐いた後、彼女の目を見据える。


「あっ…」

 すると彼女は空の目から視線を外し、下を向く。


 ん? どうしたんだ?

 はっ! もしかしてまだ具合が悪いのか!?


「ちょっと! 顔! しっかり見せて!」

 空は彼女の顔を見ようと、どうにかして顔を上げさせようとする。


「あっ、ダ、ダメです!!」

 彼女は抵抗して、頑なに顔を上げようとしない。


 彼女の顔がが最初に会った時よりも赤い気がする…。熱があるのかもしれない。熱を測らないと!


「ちょっとごめん!」

 空は無理矢理に彼女の顎を掴み、顔を上げさせ、自分のおでこと彼女のおでこをくっつけた。


「ッ!?!?!?」

「ッ!! 凄い熱だ!!」

 空は彼女をベッドへと寝かせる為、彼女の手を引く。


「ぴゃっ!?!?」

 彼女の口から聞いたことのないような声が聞こえてくる。


 熱が上がり過ぎたのかも! クソッ! こんな時に保奈美先生は何処に…


 ガラッ


「空くーん。そろそろ時間…ん? …何してるの?」

 そこで保奈美先生が入ってくる。


「彼女の熱が凄く高いんだ!!」

 空がそう叫ぶと、保奈美先生ははっとした様子を見せると、此方へと急いで駆けて来る。


「…あらあら♪」

 保奈美先生が彼女の様子を見ると、数秒後何処か楽しそうな声を出す。


「とりあえずは冷やす物! それから救急車を!」

「あー…これは大丈夫そうよ?」

「は!? 何を言って

「此処は私に任せて教室に戻っていいわよ」


 保奈美先生が空の言葉を遮り、背中を保健室のドア前まで押される。


「ほらほら! 此処は私に任せて早く授業に行く!」

「いや、ちょっ!」


 バタンッ


 そうして空は無理矢理、保健室から出されたのだった。






 ◇


「はぁ…」

「あら? 大きな溜息ね? 余計なお世話だったかしら?」

 私が大きく溜息を吐いた後、先生が話しかけて来る。


「あ、い、いえ…あの、助かりました」

「ふふっ! そうでしょ? あのままだと貴方、沸騰しちゃうとこだったでしょ?」

 先生が楽しそうに笑いながら、聞いてくる。


 う…うぅ。否定できない。あのままだと私また倒れてたかもしれない。


 私はその先生の問いかけに答えず、無言で顔を熱くさせる。


「もう少し落ち着いてから教室に行きなさい」

 先生は微笑みながらそう言うと、デスク近くにある椅子に座ってパソコンを起動させた。


 私はそれを見て、ベッドへと横たわる。


 そして私は先程、彼の服の裾を掴んだ事を思い出した。


「ま、まさかあんなにカッコよかったなんて…」

 私は病院で出会った彼に恋をした。私のお父さんが病院に運び込まれた時、手術してくれたのが彼…のはず。


 本人からはそうだと言われてないけど…。

 私は心の中で落ち込む。


 それにしても…


「一昨日と同じように優しく接しくれたっ!!」

「ーーーーーーーー」


 私は枕を持ち上げ、顔の上に乗せる。


 すぅー…はぁー…。

 落ち着いて、私。こ、こんなんじゃ、また会った時に倒れちゃうよ〜!!

 私は学校の枕を嗅ぎ、自分を落ち着かせようとする。


 そしてある事を思い出す。


「…近づいた時、あのハンカチと同じ匂いしたな。 もう1度嗅ぎたい!」

「だから聞こえてるわよー」

 私の声が少し大きかったのか、先生から声をかけられる。


「あわわわわ!!?!」

 私はそう言うと、急いで布団へと潜り込んだ。あの人に会ってから、私の熱くなった顔は冷まる事はなく、授業に戻ったのは最後の授業の数十分のみだけだった。

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