第9話 ぼ、僕のせいじゃ…

 隣の人って…


「…しく…ます」


 う、嘘だと言って。朝に引き続きヤンキーみたいな言い方みたいなんだけど。


「よ、よろしく氷川さん」

 僕は先程の印象を良くする為、なるべく明るく接するが…


「…」

 麗奈がジト目で見てくる。



「よーし、じゃあペア組んだなー! じゃあ始めろー!!」


 ピーッ


 先生の始まりの笛が鳴らされる。



「じゃあやろうか?」

「…ん」

「まず先に僕が背中を押すよ!」

「…ん」



 き、気まずい!!

『ん』、しか返ってこないんですけど!?



「痛くない?」


 グッ


「…んっ」



 また『ん』か。




 ググッ




「んっ…!」




 …ん?



「あんっ…」



 待て待て待て待て!! 氷川さんの背中を押す度に変な声が出るんですけど!?

 空は麗奈の背中から手を離す。



「あの、背中押されるのいやかな?」

「…ッ!」

 麗奈は力強く首を横に振る。


「そ、そう?」

 ならいいけどさ…。


 空はもう一度、背中を押す。


 グッ!



「あぁんっ!」



 いや、やっぱおかしいよね!?

 周りの人達からの視線が痛いよ!?



「んんっゔん!! そろそろ交代しようか!?」

 空は麗奈のストレッチをそれまでにし、交代する。


 これ以上あったら何かと保たない…。

 そう思って空は後ろを向くと、


「…ん」

 麗奈から何故か悲しげな声が聞こえてくる。


 何だ? もっとしっかりストレッチしたかったのかな?

 でもごめん。そういう声を出すなら別なんだ。


 ほら。

 周りを見てごらん。視線で人が◯せそうな人達がいっぱいだよ?



「…◯すか」

「…手伝うわ」

「先生…俺体調悪いんでスコップ持ってきます」

「先生ー、靴紐が切れちゃったんで縄持ってきていいですか?」

「先生から許可なんていらない!! 俺が許可する!!」

「浜田…俺がそんな事を許可する訳ないだろ…。まぁ、個人的にはアリだが」



 ……雄太郎、お前はどの立場から言ってるんだ。お前はこのクラスでは最底辺の立場の人間だぞ。


 それと先生…多分最後、本音出ちゃってます。



「あ、あの、すみません。わ、私って昔から背中弱くって…」

 麗奈が空の背中を押しながら、謝ってくる。


 お!? 話してきてくれたぞ!?

 遂にあの顔を見た事を許して…


「因みにまだ保健室での事は許してませんから」


 ギロリ


 お、おふ。そうですか。

 麗奈の顔を見る事は出来なかったけど、空は後頭部に刺さるような視線を感じる。


 心なしか僕の背中を押す力も強くなった気がする…。


「せ、背中、言ってくれたら触らなかったの……ですが」

「…運動前はしっかりと準備運動したかったので」

 空は気を遣い、敬語になってしまう。そして麗奈の声が尻すぼみになっていく。


 …なるほど。

 空が麗奈の話を聞いてる途中、周りの女子達が、



「あれ? どうしたの?」

「皆月君が…」

「皆月君? 何したの?」

「それがさ………」

「え…キモ」

「本当それ、足も臭いらしいし」

「え! 外見はカッコいいのに…」



 ……。



「皆月君?」

「…ん」

 空の言葉が自然とさっきまでの麗奈の様な言動になる。


 女子達、聞こえてる…。どうせなら聞こえない様に言ってくれ。


 僕はもしかしたら雄太郎と同じ立場になっているのではないか。

 そんな心配をしながらも空達はストレッチを終わらせた。




 ピーッ!


「よーし! お前ら集まれ〜!」

 先生が集合の合図をする。



「じゃあ今日は『バスケットボール』をやるぞー」


 そう言うと先生は、2クラスを合わせ男子と女子に分けさせる。


 へー、まだ見た事がない奴も結構いるな。


「チャンスだな…」

「あぁ、やるチャンスだ」

「ドサクサに紛れて"鼻"でいいか?」

「いや、"目"だろ」

 うちのクラスの奴がヒソヒソと隅で話してる。


 何の話をしてるんだ? あいつら?


「ん? ちょいちょい」

 隣の男子生徒の1人が集団に話しかける。


「あ? あぁ、隣のクラスの奴か」

「さっきからお前のクラス何しようとしてんの?」

「あぁ、実はな…」

 一層声が小さくなり、内容が聞こえない。



「はぁ!? 可愛い転校生にセクハラ!?」

「しっ! バカッ!! 声がデケェよ!!」



 ……。



「それは誰がしたんだよ…」

「あそこに居んだろ? あのキザな顔面してる奴だよ」

「あぁ、あの細い奴か」

「そうそう。だからバスケやってる途中にでポキッとな…」



 ………。




 …病院行こ。






 治される側で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る