さて、出発の日ですよ。〜パート2〜

さて、無事に(?)大学の寮から追い出されて途方に暮れていた私は、A ちゃんに「どうやって向かうの?」とだけ聞きました。すると、「とりあえず、タクシーを捕まえるしかない」と言われたので、彼女の真似をしてタクシーを捕まえようとしました。


日本のタクシーって、片手を挙げると思うんですけど、中国では腕を水平に上げて手の平を振るんです。少し変わった止め方をするんだなぁ、と思いつつひたすらに手を振る私達。

そりゃあもう必死ですよ。だって、適当な地図を見せられても全く分からないんですから(笑)


ちなみに海外でタクシー乗ったことある方は分かると思うのですが、日本と違って平気で断るんですよね。「ここに行きたい」と言っても「無理」って断る人はたくさんいます。後、普通に無視するタクシーもいます(笑)


そんなこんなでやっと捕まえたタクシーに行き先を伝えると、「分かるよ。乗りな」みたいなことを言われたみたいで、やっとの思いで乗れました。A ちゃんが談笑しているのを聞きながら少し安堵していると、車が停まりました。重い荷物を下ろして周りをみると、明らかにここではないのが分かる土地。


そうです、タクシーの運ちゃんは「知ったかぶり」をしてたみたいなんです。


ここが何処か全く分からない私達は軽くパニックになり、A ちゃんは「周囲の人に話を聞いてみよう」と言って声をかけました。

着いた場所は大きな集合住宅街っぽい場所でした。高い塀に囲まれていて、入り口が一つ。そこに2〜3人程いました。Aちゃんはそこに話を聞きに行くと、やはり場所は分からないとのこと。私も私でどうしよう、と諦めてかけていると、一人の男性が中から出て来ました。


すると、何やら友達が話していたのでそれを見ていると、こっちに来ました。何かを言いましたが、私が首を傾げているとAちゃんが「この人が案内してくれるって。荷物も持ってあげるって言ってるよ」と言われました。

「場所分かったの?」と聞くと、「分からないって。でも、他の人に聞けば分かるかもしれないからって言ってるよ」と返って来ました。


あの時の彼のことは三年経った今でも覚えています。私が持っている大きなカバンと友達のでっかいスーツケースを彼が一人で持ちました。歩いている間も彼は私にもA ちゃんにも話しかけてくれました。でも、私は彼が何言ってるかなんて全く分かりませんでした。

そんな中でも彼は通りすがりに色んな人に話を聞いてを繰り返して、何とかその場所に着きました。しかし、彼はそこで荷物を置くだけでなく、中の事務所まで私達の荷物を一緒に運んでくれたのです。


事務所にいた寮母さんのような方に色々言われていましたが、A ちゃんが今までの経緯を話すとお礼を言っていました。


彼は笑いながら手を振り、そのまま名乗ることもなく去って行ったのです。


見ず知らずの私達を案内するだけでなく、自分も分からない場所に案内するために私達の荷物を持って一緒に向かってくれたのです。それに、私は日本人です。今日こんにちの状況では嫌われていても仕方ない、と思っていました。それでも関係なしに親切にしてくれた彼に私は心の底から感謝しました。


その後は、私達が住むであろう部屋へ案内されました。そこは四人部屋であり、そこそこ狭かったです。二段ベットのようになっており、下には机がありました。私はやっとそこで一息つくことができ、先に住んでいた女の子二人と話をしました。


一応、その部屋の中にはシャワーがあったのですが、あまりの狭さと汚さに愕然としました。シャワーとトイレが一緒になっているのですが、日本で言うユニットバスのような綺麗なものではありません。トイレのほぼ目の前にある洗面台のすぐ上に、シャワーヘッドが垂れています。近くの蛇口?を捻ると、シャワーヘッドからお湯が出て来ました。私はすぐにシャワーを浴びましたが、そこで緊張の糸が切れて泣いてしまいました。


楽しみだった留学生活は不安なものに変わり果て、正直あのまま野垂れ死ぬのかと思いました。


ですが、A ちゃんは逞しかったです。私が泣いているのを見て、何度も声をかけてくれたのです。「大丈夫だよ。一人じゃないんだから」と言ってくれました。彼女は、まだ出会って数時間しか経っていません。それなのに、こんなにも優しくしてもらえるなんて私には分かりませんでした。


それでも彼女やその時のルームメイトの女の子達は色々話しかけてくれて、本当に温かい気持ちになりました。不安でいっぱいになって、明日はどうなるのだろう、ちゃんと授業を受けられるのだろうか、など色々頭の中に考えが過っていましたが、緊張の疲れと歩いた疲れにより私はいつの間にか眠っていたのです。



<二日目に続く…>


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