第24話 妙な奴につけられていた


4日目3



魔族とは、頭部に一対の角を持ち、背中に蝙蝠のような羽が生えている半分モンスターみたいな連中の事だ。

連中は、なんでも魔神を信仰しているとかで、そのせいでかつて世界がとんでも無い事になりかけた事があるらしい。

そんなわけで魔族は、ヒューマンやエルフといった一般的に“人間”と認識される全ての種族と敵対しているそうだ。

ちなみに俺自身は、生まれてこの方、魔族と遭遇した事は一度も無い。

それにしても、俺が【殲滅の力】を使った場所で、どうして魔族が絡んでいる、なんて話が出るのだろう?


いや、待てよ。

コレは俺にとってはラッキーなのでは?


魔族に責任押し付ける事が出来れば、今後俺が【殲滅の力】を使ってその痕跡を発見されても、全部その魔族のせいにしてしまえるじゃないか。


「そうか、魔族か……確かにあいつらなら、謎の大爆発とか引き起こせそうだもんな」


俺の言葉にバーバラがうなずいた。


「とにかくあんたも気を付けなさいよ。もし本当に魔族が絡んでいるなら、あいつらが街の外をうろうろしているかもしれないって事だから」

「分かった。気を付けるよ」


幾分気が楽になった俺は、ナナと共にギルドを出た。



ナナと並んで『封魔の大穴』に向かって歩いていた俺は、ふと妙な違和感を抱いた。


誰かの視線を感じる……


もしかしてまた【黄金の椋鳥】の連中だろうか?

性懲しょうこりも無く、俺に口裏合わせを強要しようと企んでいる、とか?


俺はそっと周囲に視線を向けた。

しかし、見える範囲でことさら怪しい人物の姿は確認出来ない。

もっとも俺は、気配察知みたいなスキルは持ち合わせていないので、確実な事は言えないけれど。


まあいいや。

もしダンジョンの中までつけられたとしても、今の俺とナナなら、【黄金の椋鳥】の連中に簡単にはやられないだろう。


『封魔の大穴』入り口付近は、今からダンジョンに潜ろうとする冒険者達でやや混雑していた。

しかし昨夜、松明を片手に入り口を見張っているかのように見えた集団の姿は消えていた。

あいつらは結局、何をしていたのだろうか?


大穴の壁面に沿って設置された階段を下りて、俺とナナは39層の入り口に向かった。

俺の前にも2組程、俺達と同じ39層に入って行くパーティーがいた。

俺は彼等と少し距離を取りつつ、39層へと足を踏み入れた。

ちなみに今の俺達の装備は、俺が革鎧に少しだけ魔法強化されたショートソード、ナナは『ウロボロスの衣』。

39層は昨日も潜ったし、この装備でも今の俺達には危険は無いだろう。

本当は40層以降に潜ってみたいんだけど、察知系のスキルを持っている仲間がいないと、例え地図を見ながらでも“遭難”する可能性がある。


幸い、俺達の後方に続くパーティーの姿は無かった。

俺は、先行した2つのパーティーとは異なる区域に向けて進みだした。

と、またも妙な違和感を抱いた。


やはり、誰かに見られている?


そっと後方に視線を向けてみたけれど、後続する冒険者等、怪しい気配は感じられない。

首を捻りながらもとにかく奥に進む事にした。

途中、何度かモンスターが出現したが、特に危なげなく斃していく事が出来た。

ただ、目当てのリザードの尻尾をドロップするケイブリザードの出現率が悪い。

3時間後、俺のリュックサックマジックボックスが、魔石の収納限界を迎えた。

つまり、ここまでで俺達は97体のモンスターを斃し、同数の魔石を手に入れた、という事だ。

その間、ケイブリザードは10体出現して、ドロップしたリザードの尻尾は僅かに1個。

なんだかとっても効率が悪い感じだ。

そしてあの誰かに見られている感じもずっと続いている。

まさかこの違和感が、ケイブリザードの出現率の悪さと関係して無いだろうな?

まあいい。

ちょうどお昼時だ。

ここは一度、地上に戻ってご飯を食べて、仕切り直しといこう。



地上に戻り、冒険者ギルド1階の大広間に入った瞬間、あの妙な違和感は消え去った。


ん?


俺は、物は試しと再びギルドの外に出てみた。

するとすぐに妙な違和感が“再開”した。

素早く周囲に視線を向けるも、怪しい何かは確認出来ない。

本当になんなんだ!?


午前中、クエスト目標のリザードの尻尾が1個しか手に入らなかった事もあって、少々イライラしていた俺は、地面に転がっている小石を無意味に蹴り飛ばしてしまった。

とは言え、根が小心者の俺は、一応、誰も居ない方向に向けて蹴り飛ばしたわけだけど。


小石は風を切って、向かいの建物の壁、人の背丈の倍ほどの位置に命中した。


「ぐふっ!?」


壁に命中したはずの小石が、妙な音?を立てて地面に落下した。


なんだ?


俺は用心深くその壁に近付いた。

そして一見、何の変哲も無さそうな茶色いレンガ造りの壁の、ちょうど小石が命中したあたりに視線を向けてみると……あれ?


何者かが、ヤモリのように壁にへばりついているのが確認出来た。

但しそいつはカメレオンの如く、見事に壁の色と同化していた。

身に付けている装備かスキルの効果だろうか?


そいつは俺に存在が感づかれた事に気付いていないのか、動こうとはしない。

俺は、腰のショートソードを抜いて、そいつのお尻を突っついてみた。


「ひゃっ!?」


再び妙な悲鳴を上げたそいつが、ゆっくりと俺の方に顔を向けて来た。

ただし目元以外、完全に壁と同化しており、年齢はおろか、男女の別も判別出来ない。


「……」

「……」

「……おい」


正体不明のそいつとのにらめっこに、先に飽きたのは俺の方だった。

しかし、そいつは黙ったまま。

俺は隣に立つナナに声を掛けた。


「こいつをちょっとだけ焼いたりって出来る?」


ナナがうなずいた瞬間、そいつが声を発した。


「待つでござる!」

「ござる?」


俺がそいつの奇妙な言葉使いに首を傾げた瞬間、ナナがそいつに右の手の平を向けた。

次の瞬間、そいつのお尻のあたりが発火した。



―――ボッ!



「あちちち!」


そいつはあっという間に壁を這い上り、建物の屋上に辿り着くと、どこかに姿を消してしまった。


……なんだったんだ、あいつは?


気が付くと、あの奇妙な違和感は完全に消え去っていた。

という事は、あいつが原因だった?


とりあえず俺は、ナナと一緒にもう一度冒険者ギルドへと足を踏み入れた。



ギルドのカウンターで、午前中の戦利品をバーバラに換金してもらいながら、俺は先程の出来事を彼女に話してみた。


「……とまあ、奇妙な奴につけられていたみたいなんだけど、最近、そういう不審者情報とかある?」


俺の問い掛けに、バーバラは首を傾げた。


「そんな話はきかないわねぇ……もしかして、【黄金の椋鳥】がそいつを雇ってあんたを見張らせていた、とか?」


なるほど。

その可能性は大いにアリだな。


「【黄金の椋鳥】の連中、昨日、今日とどうしていたか知っている?」

「昨日は40層に潜っていたみたいだけど、今日は見掛けないわね」

「ありがとう。また何か分かったら教えてくれ」

「あんたも気を付けてね」



午前中の戦利品を換金した結果、俺の今の所持金は、8万ゴールド弱になっていた。

低ランクのリュックサックマジックボックスなら、7万ゴールドあたりから買えたはず。

そんなわけで、軽めのお昼を済ませた俺は、ナナに背負ってもらうリュックサックマジックボックスを購入するべく、道具屋に向かう事にした。



街一番の品揃えを誇る道具屋『ベネット交易商会』は、冒険者ギルドのすぐ傍、同じ噴水広場に面して建つ茶色い木造2階建ての建物だ。

店内は俺達同様、冒険に必要な様々なアイテムを買い求める冒険者達で賑わっていた。

目当てのリュックサックマジックボックスは、すぐに見付ける事が出来た。

最低ランク、つまり俺のと同程度の収納量の品が、6万8千ゴールドで売り出されていた。

値切り交渉に失敗して結局定価で買わされたけれど、とにかくこれで一度のダンジョン探索で収集出来る魔石やアイテムの量が倍増した計算だ。


店を出た俺達は、再度『封魔の大穴』に向けて歩き始めた。


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