第23話 バーバラから調査団の話を聞いた
4日目2
一昨日に見聞きした事……と言われて、まさか【殲滅の力】について、全てを話すわけにいかない俺は、当たり
午後7時半頃、ロイヒ村からの帰り道、森の方角で光が見えた事。
そしてドーンという音が聞こえた事。
宵闇も迫っていたので、現場を確認しに行く事無く、そのまま街まで帰って来た事。
それ以外、怪しい人影は見ていない事。
ちなみに、帰り道、山賊かモンスターに襲撃されたと思われる馬車と犠牲者の姿を目撃した事は、イネスにも伝えた。
俺の話を聞き終えたイネスは、ナナに視線を向けた。
「では、あなたから見て何か変わった事はありませんでしたか?」
ナナは小首を傾げて固まってしまった。
俺は助け舟のつもりで口を挟んだ。
「すみません、ナナはちょっと人見知りが激しいもので……」
ナナの“コミュ障?”を人見知りという言葉で表現していいのかわからないけれど。
イネスは少しの間怪訝そうな表情を見せた後、ふっと微笑んだ。
「そうでしたか。気付かず申し訳ありませんでした」
「いえいえそんな……」
同年代に見えるイネスは、なんだか俺よりよっぽど大人に見えた。
「お話は以上です。ご協力ありがとうございました」
ホッとした俺がナナを促して立ち上がったところで、イネスが思い出したように声を掛けて来た。
「そうそう、ナナさんは確か……記憶喪失、だとか?」
知らず、全身が強張った。
「そ、そうみたいですね。まあ、その内色々思い出すんじゃないですかね~」
「確か、『封魔の大穴』で記憶を失った状態でカースさんと出会った、とか?」
「は、はい。そんなところです」
多分、事前にトムソンあたりから聞いていたのだろうけれど、どうしていきなりナナの記憶喪失の話題を出してきたのだろうか?
俺はさっきから無言のまま座っているトムソンにチラッと視線を向けた。
しかし彼は腕組みをして、どっかと椅子に腰をおろしたまま目を閉じていた。
「え~と、もういいですかね?」
立ち上がったまま改めて声を掛けると、トムソンが目を開けた。
彼はイネスに視線を向けた。
イネスがそれに
「おう、もう終わりだそうだ。そうそう、お前等の“仲裁”の件、夕方には連絡出来ると思うぞ」
「ありがとうございます」
二人に頭を下げた俺は、ナナを急かすようにして、足早に部屋を退出した。
ギルドの大広間まで戻って来た俺は、ようやく一息つく事が出来た。
ともかく一仕事終えた気分だ。
思い返しても、そんなに大した話にはならなかったし、後々俺が疑われるって危険性も今の所低いはず。
気を取り直した俺は、奥に見える4つのカウンターの一つにバーバラの姿を確認してから、彼女の方に近付いて行った。
「よお、バーバラ!」
俺が声を掛けると、なぜかバーバラは目を逸らし気味に、言葉を返してきた。
「何かしら? カース君」
「なんだよ、カース“君”って」
「別に。ちょっと昨日、あんたとの距離を感じる出来事があっただけよ」
昨日?
そういやこいつ、昨日様子がヘンだったけれど。
まさか……
俺は周囲に視線を向け、他の冒険者の関心が俺達に向けられていない事を確認してから、バーバラに囁いた。
「まさか、ナナが実は強かったって話が、そんなにショックだったのか?」
バーバラは一瞬大きく目を見開いたかと思うと、顎が外れんばかりに大きく口を開いた。
「はあああ~~~~~!?」
「ちょっ! バーバラ!?」
俺は慌てて彼女の口を手で塞ぎながら、周囲に視線を向けた。
さすがにバーバラの声が大き過ぎたのだろう。
何人かの冒険者達が、こちらに好奇の視線を向けてきている。
「声、大きいって」
「あんたが寝ぼけた事言っているからでしょ?」
「なんだよ、寝ぼけた事って?」
バーバラは少しの間、俺の顔をまじまじと見つめた後、はーっと盛大に溜息をついた。
「おい、さすがにそれは失礼なんじゃ無いか?」
「あんたにはこの程度の対応がお似合いよ!」
なんで罵られているのか、さっぱり心当たりは無いけれど、こんな所で揉めていても埒が明かない。
諦めた俺は、
「とりあえずコレ、換金してくれ」
さすがにその量に驚いたのか、バーバラが目を丸くしながら小声でたずねてきた。
「コレ、全部ナナちゃんが?」
「ん? まあそんなところだ」
もちろん昨日は俺もそれなりの数のモンスター斃したけれど、それを説明すると、かえって話がややこしくなる。
ちなみにナナはいつもの通り、俺達の会話に関心が無いのか、ぼーっとした雰囲気で立っている。
39層のモンスター達の魔石は1個228ゴールドで換金してもらえた。
そしてドロップアイテム分も含めて、俺は総計2万5千ゴールドを手にする事になった。
これで手持ちのお金は5万5千ゴールド弱。
ナナに新しい服は買ってやれそうだが、俺達の装備の新調には程遠い金額だ。
俺はバーバラに頼んでみた。
「ナナも結構強いって分かった事だし、なんか討伐系でいいのないか?」
討伐系。
特定のモンスターを一定数斃したり、そのモンスターがドロップするアイテムを一定数納品するクエストだ。
当然、俺達が一昨日請け負った、届け物や採集系と比較して、相対的に報酬は高い事が多い。
「そうね……」
バーバラが慣れた手つきでクエスト台帳を
やがて手を止めると、クエストを一つ提示してきた。
『リザードの尻尾;冒険者ギルドまで。1本350ゴールド』
「あんた達、昨日は39層潜ったんでしょ? リザードの尻尾、39層に出没するケイブリザードが確率でドロップするから、ちょうど良くない?」
確かリザードの尻尾、ケイブリザードなら、1/10の確率でドロップしたはず。
39層だと、モンスターの魔石も1個228ゴールドで、そこそこの値段だし、ちょうど良いかもしれない。
「サンキュー、恩に着るよ」
バーバラがクエスト受注票を俺に手渡しながら聞いて来た。
「そういやあんた、今日呼び出されていたでしょ? 例の謎の爆発の件で」
「ああ、ついさっき話してきた所だ」
「ところであんた、昨夜の南の森の話は知っている?」
南の森の話……
九分九厘、俺が昨夜、街の南の森で使用した【殲滅の力】絡みの話だろう。
「もしかして、街の南で光やら音やらしたって、あれか?」
「そそ」
なんだか皆、俺の【殲滅の力】の話題で持ち切りだ。
これ、毎日街の周辺で使用し続けていたら、いつか俺の仕業ってバレるんじゃないだろうか。
俺は心の中で溜息をついてから言葉を返した。
「俺もゴンザレスや他の冒険者が話しているのを聞いただけだな」
「そっか……でも昨日のも謎の大爆発関係だったら、ちょっと怖いわね……」
「怖い?」
バーバラが少し声を潜めた。
「昨日の予備調査で妙な事が分かったらしいの」
「妙な事?」
俺の心がざわついた。
「一昨日の謎の爆発現場、凄かったらしいの。半径100m位の範囲内、全てがま~るく無くなっていたんだって」
その爆心地に居たのが俺だ。
周りが暗くてはっきりとは確認出来なかったけれど、確かにそんな感じになっていた。
「まあ、なんか大魔法とかそんなんじゃ無いの?」
俺の適当な相槌にバーバラが首を振った。
「そう思うでしょ? ところが魔力のマの字も確認出来なかったらしいわ」
「じゃあ、誰かが強力なスキルを試し撃ちした、みたいな?」
強力なスキルは、大魔法並みの破壊力を発揮するって話を聞いた事がある。
俺の【殲滅の力】も、ステータス欄では確認出来ないけれど、スキルの一種なんじゃないのかな。
ところがバーバラは首を振った。
「スキルの可能性も無いみたいよ」
「スキルじゃ無い?」
俺は思わず身を乗り出していた。
「ええ。なんでも現場を確認した帝都からの調査団の話によると、魔族が絡んでいるらしいって」
「魔族!?」
驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
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