第22話 召喚状を受け取った
4日目1
―――ピロン♪
目を覚ました俺の前に、昨日と同じくポップアップが立ち上がっていた。
【おはようございます】
【今日も【殲滅の力】を使用して、ナナの力を解放して下さい】
残り16時間25分23秒……
現在003/100
うん、まあさすがに4日目ともなると、ちょっと慣れたかな。
そう言えば、タイムリミット?のカウントダウン下の数字、昨日は002/100だったはず。
現在003/100ってなっているけれど、この左側の数字、3は、俺が昨日までに【殲滅の力】を使用した回数と一致している。
て事は、右側の分母、100ってなんだ?
もしかすると、100回使用したらこの妙な義務とやらから解放される?
しばらく頭を捻ってみたけれど、当然、正解に辿り着けるわけも無く、俺はすぐにその無駄な行為を停止した。
まあいいや。
今日は朝食
で、夕方はナナの服を何着か買ってやる。
頭の中で今日の予定を反芻した俺は、手早く着替えると、ナナと一緒に階下に向かった。
夜は大勢の冒険者で賑わう『無法者の止まり木』1階の酒場だが、朝のこの時間帯は、宿泊している冒険者達が数人、朝食を食べているだけでやや閑散としていた。
俺達が階下に下りて来たのに気付いたらしい宿の主人、ゴンザレスが、俺に近付いてきた。
「おはよう、カース」
「おやじ、おはよう。朝ご飯、いいかな?」
「すぐ準備するから適当に座っていてくれ。そうそう、ついさっきギルドからコレ、お前宛てに届いたぞ」
ゴンザレスが1通の茶色い封筒を俺に手渡してきた。
一件何の変哲も無い茶色の封筒だが、裏を見ると、冒険者ギルドの封印が押されていた。
なんだろ?
もしかして、昨日延期になってしまった【黄金の椋鳥】の連中との“仲裁”の日程でも決まったのかな?
ナナと一緒に隅の席に腰を下ろした俺は、封を切り、中身を読んでみた。
召喚状
カース殿。
昨日発生したダレスの街北郊の森林地帯における異常に関して、情報提供のご協力をお願いしたい。
ついては本日午前、出来るだけ早い時間帯に冒険者ギルドまで来られたし。
冒険者ギルドのシンボルマークと日付、それにギルドマスター、トムソンのサインが入っている。
これって間違いなく一昨日の謎の大爆発の件だよな……
まさか、俺がやったってバレた!?
心臓の鼓動が知らず早くなっていく。
いや落ち着け。
情報提供って書いてあるじゃないか。
多分あれだ、昨日バーバラに話した“
俺が気持ちを落ち着けようと深呼吸を繰り返していると、ゴンザレスが料理を運んできた。
黒パンにスープ、そして果実ジュース。
『無法者の止まり木』定番の朝食メニューだ。
ゴンザレスが、まだ手に召喚状を持っている俺に、話しかけてきた。
「ソレ、何の話だったんだ」
「ああ、コレね……」
少し言い淀んだけれど、隠す話でも無い。
昨夜もここの酒場で
「ほら、一昨日、なんかロイヒ村方向の森で謎の大爆発あっただろ?」
「ああ、なんか帝都から騎士やら司祭やらが来ているってアレか」
「実は俺達、昨日の帰り道、その現場付近通ったんだけど、妙な光を見たんだ。その話、バーバラには伝えたんだけど、多分、その件で呼び出されたみたいだ」
「本当か?」
ゴンザレスが、なぜか食い気味に俺の方に身を乗り出してきた。
「本当かって……ちょっと光を見ただけだ。なあ」
俺はナナに視線を向けた。
元々綺麗な光云々は、ナナの“目撃談”だ。
しかし俺に視線を向けられたナナは、黒パンを片手に不思議そうに小首を傾げただけ。
「光以外は何か無かったのか?」
「何かって?」
「音とか、あと怪しい人物やら何かを見たとか」
「音は……」
謎の大爆発の“爆心地”にいた俺は、音と言うには余りに凄まじ過ぎる音圧を全身で感じただけ。
しかし昨夜、やはり俺の【殲滅の力】の目撃者になったらしい若い男は、ドーンという音を聞いたようだった。
「なんか大きな音がした……かな?」
「それ以外は?」
「それ以外は……何も無かった、かな?」
俺は再度ナナの方を見た。
彼女は俺達の会話に関心無さそうに、黒パンをもぐもぐ食べている。
「そっか……」
ゴンザレスが残念そうな顔になった。
「いやしかし、まさかカースが目撃者だったとはな」
「目撃者っていうか……現場見たわけじゃないしな」
ホントは、目撃者どころか、俺が“犯人”なんだけど。
気になった俺は、ゴンザレスに探りを入れてみた。
「おやじは、他の冒険者から何か聞いてないのか?」
「いや、大した話は聞けてないさ。皆、噂話ばっかりだ。一昨日の謎の大爆発の件で、実際の目撃者は俺にとってはお前が初めてだ」
なるほど。
だからあんなに食いついて来ていたんだな、
「そういや、昨日の夜中にも、街の南で大きな音と光を見たって話していた奴がいたな」
―――ドキン!
心臓が一瞬跳ね上がった。
「もしそれも一昨日の謎の大爆発と同じ現象だったとすれば、一体、何なんだろうな。帝都からわざわざ調査隊も来ているっていうし」
ゴンザレスが他の客に呼ばれて俺達のもとを離れて行った。
俺は黒パンを頬張っているナナに、小声で聞いてみた。
「なあ、一昨日の綺麗な光って、ナナは光以外、何か気付いた事は無かったのか?」
ナナは何かを思い出そうとする素振りを見せた後、ふるふると首を振った。
「音とかは?」
「音は……した」
「ドーンって?」
ナナは頷いた。
「他は?」
「他……?」
ナナが小首を傾げた途端、俺は思わず噴き出してしまった。
……今のやりとり、さっきの俺とゴンザレスのやりとり、まんまじゃないか。
なぜか少し気が楽になった俺は、その後、ナナと他愛もない話をしながら朝食を終わらせた。
宿を出て冒険者ギルドに到着した俺は、大勢の冒険者達で賑わう1階ホールでギルド職員を捕まえて来意を告げた。
そしてそのギルド職員の案内で、昨日の朝と同じ小会議室のような場所へと通された。
そのまま椅子に腰掛けて待つ事数分。
扉が開き、ギルドマスターのトムソンと……知らない女性が一人、部屋の中に入って来た。
「カース、すまんな。朝から呼び立てて」
立ち上がって挨拶する俺に、手で座るよう促しながらトムソンが笑顔を向けて来た。
トムソンは、俺達とはテーブルを挟んで向き合う位置に、女性と並んで腰を下ろした。
なぜかトムソンが、明らかに年下のその女性に、へりくだった態度で席に着くのを勧めていたのが印象的だった。
俺のはす向かいに座った女性は、見た感じ、俺と同年代に見えたけれど、
上は白系統のブラウスに、下はこげ茶色のパンツスタイル。
強い意志を感じさせる碧眼と非常に整った顔立ち。
そして金髪を後ろに長くポニーテールに結って垂らして……
そこまで観察した時、俺は彼女の顔に既視感を覚えた。
もしかして……
俺の予想をトムソンの言葉が肯定してくれた。
「カース、こちらの方は、帝都からお越しになられた深淵騎士団副団長のイネス・ナタリー・ジョゼ・ヴィリエ卿だ」
帝都から来た騎士。
俺は昨日、転移陣を使用してダレスの街に到着した騎士と司祭達の事を改めて思い出していた。
彼等の中に、確かに金髪をポニーテールに結って後ろに長く垂らしていた女性の姿があった。
目の前の女性の容姿は、その女性と一致している。
女性――イネス――が口を開いた。
「初めましてカースさん。それと、お隣の女性は、ナナさん、ですね。私の事は短くイネスと呼んで下さい。早速ですが、あなた達が一昨日に見聞きした事、出来るだけ詳細に話して下さい」
こうして俺達の“
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