第22話 エリの救出作戦開始!

 いきなりエリの姿が消えたわ。それに言い残したイケニエという言葉、あれはどういう意味なのかしら。ロクでもないことには変わらないけど。



『……メート、生け贄ってどういう意味なの?』

『わかりやすく言うと何かの為に捧げる命のことです。大方、エリさんは殺されることになります。早く手を打たねばいけません』

『別に死んでもいいと思うよ。あの人間、ライハイトに近付くだけじゃなくて挙句の果てに家族になったんだよ? 許せないよね』

『ヴマス、そういう冗談を言うなら、次から二度と私たちに近付かないで。それどころの話じゃないの』

『……』

『喧嘩している暇はないですよ。一刻も早くエリさんを助けなければいけません。作戦は……』



皆作戦を聞いてうなずいた。これなら問題ないはずよね。一刻も早くエリを助けないと! 皆で街に向かう。


 ヴマスも渋々協力するみたいだけど、イヤなら止めればいいのに。なんなのかしら。


 私はメートと一緒に街の中にある城に入る予定。あまりに大人数で向かうといざという時動けなくなるらしいわ。


 他の皆は体が小さい者たちを中心に街に潜入して、体が大きい者たちは合図があったら街で暴れることになっているわね。


 私たちは城の入り口付近で入る隙を見計らっているの。


 急に変な感じがしたの。……気のせいかしら? いえ、違うわね。気のせいなんかじゃないわ。これはエリとの契約が切れたのね。


 本当、あの人間の雄、ロクでもないわ。エリに何かあったら許さない。今まで契約を目印にしていたのに、これじゃどこだかわからないわよ。辛うじて城の中にいるのはわかったわ。


 今更だけど、人型じゃない方が楽に入れるような気がするのは私だけかしら? この姿で動くのはそんなに慣れていないのだけれど。


 メートにそう聞くと「人型の方がまだ警戒されないはずです」と返され、頷くしかなかったわ。


 城にいる見張りが隙だらけになったのを確認して、メートが走っていき魔術で眠らせたの。手を振られてそっちに向かう。


 見張りの服を渡されて、この服を着てくださいと言われたのよ。訳がわからないままとりあえず着たわ。


 メートに人間のことを教わっておいてよかった。じゃなきゃ服の着方なんてわからないもの。


 服のことを聞いたら、なんでも城にいる人間は基本同じ服を着ているらしいわ。一部は違うらしいけど。そうなのねと頷く。


 メートも服を着替えて城の中に潜入したわ。外の者に合図をして。


 割と時間が経った辺りで一気に城の中が騒がしくなったの。そしたら次々と人間が城から出ていって、エリを探しやすくなったわ。


 城の中を全部見たはずなのに、エリはいない。エリは一体どこにいるのかしら……? きっと、まだ探していない場所があるはずだわ。どうにかしてそこに行かないと。


 メートが地下にいるんじゃないかって言うけど、どう行けばいいの? 流石のメートも行き方は知らないようで、二手に分かれて地下の入り口を探すことになったわ。


 よく観察しながら歩いていると、ちょっとした違和感。ここ何か変ね。なんとなく弄っていると音がして階段が出てきたわ。これが地下に行く道なのね。


 音を聞きつけたメートと合流して地下に向かう。


 地下も中々広そうなので二手に分かれようとしたら、何かの音が聞こえる。エリかもしれない! 急いで音の方に向かうとそこだけ頑丈そうなドアがあったわ。


 これはエリの声だったのね。ここで間違いない。早く助けてあげないと。ドアを開けてメートが先に入る。



「助けに来ました! なんでそんな姿になったのですか!? はっ、こうしている暇はないのでした! ライハイトさん、エリさんは任せましたよ!」



メートが人間の雄を抑えている間に、私がエリの拘束を強引に外した。痛々しい姿のエリをそっと抱えて外を目指したわ。


 メートは人間の雄をどこからか取り出した紐で縛っていたけれど、あの体勢かなり大変そうだったわ。それにしても、もう片方の人間随分と不思議な姿をしていたけどなんだったのかしら。


 城の外に出て、元の姿に戻って皆と家に帰ってきたわ。薬草を使ってエリを治そうとしたけど、中々治らなくて。


 帰りに街で複数の人間に見られたのよ。でも姿を消すことはできないから気にせず通り抜けたのだけれど。それがまさか、数日後に私たちの家に来るなんて思いもしないでしょう!


 なんでも、私たち人間も助けたいから人間の医者を連れてきたと言われたわ。エリを治してほしいのは確かだけど、かと言って人間を信用できる訳がない。


 人間たちと動物たちの話し合いをした。それで、見張り役の私と医者、エリの三者で治療を始めることになったの。


 皆が緊張している中、慎重に治療が進められていったわ。かなりの時間をかけて終わった頃にはエリの全身が綺麗になっていた。


 よかったわ、あとは目覚めるだけね。エリをそっと持ち上げて皆のところに行く。皆安心したみたいで、脱力して寝そべっている者もいたわ。


 もう用は済んだからと、人間たちは帰っていったの。人間の中にもいい奴はいるのね。皆起きるまではそっとしておこうと解散していったわ。


 それを見届けてからエリをベッドに寝かせて、私も一緒に寝たの。






 俺を呼ぶ声が聞こえる。だけど声の方に行きたくなかった。声の方とは逆の方に逃げる。また酷い目に遭いたくなかったから。


 しばらくすると聞こえなくなった。よかった。でもそれはそれで淋しくなる。


 一体何をしたいのか自分でもよくわからない。わからないから、消えようとした時に強く引き留められる。それどころか引っ張られてどこかに連れて行かれるようだ。






 スッと型にハマったような感じがした。動くと身体がついて来るような感覚。ここまでやられたら、拒否するわけにはいかないよね。怖いけど、行くしかない。


 目を開けるとそこには……。


 ラキがいた。



『……エリ? もしかして起きたの? 本当に? ちゃんと起きたのね!』 



返事をしようと声を出すはずが出ない。どういうことだろう。不思議に思って首をかしげようとしたけど上手く動かない。



『ん? ……声が出ないのかしら、水を持ってくるわ』



ラキが部屋を出ていく。体を動かせないからただジッと待つしかできない。見える範囲で周りを見るとどうやら家にいるみたいだ。


 あれ、あの男はどうなったんだろう? 確か頑丈そうなドアを開けて部屋に入って……。


 そうだ、思い出した。***、あいつにまた殴られる! 逃げなきゃ、見つかる前に! 早く、早く! でも体が言うことを聞かないから焦った。ヤバい!


 ドアが開いて***が来た。どんどん近付いてくる。殴られる! 呼吸が荒くなって焦点が合わなくなる。


 そっと優しく抱きしめられた。混乱している中、耳元でささやかれる。



「いい? ゆっくり呼吸をするの。吐いて……吸って……吐いて……吸って……」



言われる通りにしていると正気に戻ってきた。呼吸も元に戻って焦点も合う。この声はラキだったのか。よかった。


 ラキは抱きしめるのを止めた。すると小さい声でラキが何かを呟いたけど、よく聞き取れない。気になったけど、声も出せないから聞くこともできないね。



「ほら、エリ。水、持ってきたわ。飲みなさい」



上体を起こされて口元にコップを当てられる。水を飲み込んだけど、全部は飲み込めなくて口からこぼれてしまった。


 タオルでこぼしたところを拭かれて、介護される気分を味わった。とてもじゃないけど介護されるのはいやだな。水を飲んだから少しは喋られるかな?



「……」



だめだった。ラキと喋ったつもりだったけど、全く声が出せない。どのくらいの間寝ていたんだ、俺。



「どうしたの? 喋れなかった?」



まぶたは辛うじて動くからまばたきで返事をする。伝わるかな?



「そう。残念ね。久々に声を聞きたかったけど。まあ、エリは半年ぐらいずっと寝ていたの。だから喋られないのはしょうがないかもしれないわね」



えっ? 本当に? 何かの冗談じゃなくて? ……確かに、こんな時にラキが冗談言うはずがないね。だとしたら、体が動かないのは仕方ないのか。



「でもエリが起きてくれただけでも、私は嬉しいわ。ありがとう、起きてくれて。永遠に起きないと思ったのよ。本当に、よかった」



優しく頭をなでられる。ラキに心配をかけちゃったみたいだし、元気な姿を見せないとね。まずは声を出す練習からかな。






 あれからリハビリしてやっと体を動かせるようになった。固形物も食べられるようになったし、声も無事出せるようになったんだ。


 どうやら、城の地下の部屋に入った時にラキとヒリー、フチー、ミカ、ヨル、ユイの契約が強引に切られたみたいで、ラキたちが凄く怒っていたよ。


 元凶の人間を殴りに行くみたいだから、俺も一緒に行こうとしたら止められた。なんでだ……! ラキがOKで俺がだめな理由はなんだ!


 と言ったら酷い目に遭ったからだと。むしろ酷い目に遭ったからこそ、やり返してやりたいんだけど? 納得できない……!


 駄々をこねたら、渋々と言った感じで一緒に行くことになった。そこでトラウマ発動して大変なことになっちゃったんだよね。そこまで考えてなかった、本当にごめんなさい。


 このあとに、ちゃんと契約し直した。繋がっている安心感凄いね。だから、これで精神面は大丈夫なはず。トラウマもそこまで酷くならないような気がする。多分。


 あー、そうそう動物のみんなと人間たちが仲良くなって街に入り浸っているみたいだよ。ラキもちょくちょく行って食べ物を買っているみたい。人間嫌いはどこかに行ったようだね。


 仲良くなったきっかけを聞いてみると、俺をちゃんと治してくれたからだそうな。俺は知らないうちに動物と人間の橋渡しになっていたのか……!


 そんな冗談はさておき、俺はまだ人は嫌いだけど、それでも町の人たちは気遣ってくれるんだ。城の地下で暴力を受けていたことが伝わっていたみたい。


 少しずつ慣れていっているから、その内平気になる時が来るのかもしれない。


 そうなったら、いいね。まだまだ先だと思うけど。


 じゃあまたいつか会えたらね! バイバイ!

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