第21話 人間(トラウマ)

 いや、探す時にわざわざ攻撃なんてしていたら、まともに探せないと思うんだけど。ん、違うか。何かを探すために攻撃して誘導したと考えられなくもない。


 それっぽい結論が出たな。まあ、探し物がなんだったのかまではわからないけど、とりあえず起き上がって一階に向かおうかな。ラキもそこにいると思うし。


 起き上がろうとして、体に違和感があった。なんだろう、これ。あまり動かして内部分をいきなり使ったような感じ。どうしてだろう? 不思議に思って首をかしげる。


 すると誰かが走ってきた。ガチャッとドアが開く。そこにいたのは人型になっているラキだった。



「エリ、起きたのね。体の調子はどう? 悪いのなら、無理はしないでね」

「わかったけど、どうしてラキが人型になっているの?」

「それはあれよ、メートに色々と人型について教えてもらっていたの。そんなことよりもエリ、貴女七日も寝ていたのよ? エリこそ、気を付けないといけないわ」

「えっ本当に? いや、流石にそんな冗談に引っかからないよ?」



冗談と言った瞬間、ラキの視線が冷たくなった。えっマジで冗談じゃないの? そっかー。


「……本当のことなんだね。みんなに迷惑かけたみたいで申し訳ないな」

「申し訳ないと思うんだったら、元気な姿を見せなさい。他の動物たちも心配で毎日ここに通っているんだから」

「そうなんだ。じゃあ早速行こうよ。あっでもお腹空いたから、何か食べてからでもいい?」

「わかったわ。食べる物を持ってくるから、ここで待ってなさい」

「うん」



ラキが部屋を出ていった。特にやることもないから、何もしないでラキが戻ってくるのを待とう。


 少しするとラキが戻ってきた。シュタの実を渡されて、これを食べておきなさいと言われる。ラキはまだ料理できないから、こうなるのも仕方ないね。


 シュタの実にかじりつきながら、俺が一週間も寝ていたのか考えてみる。一つ思い当たるのはスキルの使い過ぎ。


 今まであれだけの回数を使ったことがないから、急に使ったことで体に負荷がかかったのかもしれない。原因と思われるのがこれしか思いつかないな。


 シュタの実を食べ終わり、ラキと一緒に動物たちのところに向かった。


 俺を見た動物たちは安心したみたいで、一息ついた後、次々と俺の頭を撫でていく。どういう安心の仕方なんだろう?


 そこにはメートさんもいて、会うのは久しぶりな気がした。まだそんなに日にち経ってないけど。


 なんでも、ラキが相談に来たから何が起きたんですか! とラキに問い詰めたらしい。ラキが相談に行くのってそんなにもびっくりするほどなのかな?


 動物たちと話をしていると、みんなの様子が一変した。相手にバレないように、普通の振りをしているけど、明らかに警戒しているみたいだ。


 こんな風になるってことは、少なくともみんなの知り合いではないね。じゃあ誰なんだ? 一応俺も気を付けていよう。また何かあるかもしれないし。


 少しピリついている雰囲気の中姿を現したのは、人間の男だった。ガッチリとした体格でスーツを着ている。


 一体なんの用でここに来たのか。つい、手を握る力が強くなる。ラキが自分の背中にそっと俺を隠す。



「やあやあ、そんなに緊張しないでおくれよ。ただ、話がしたくてね。そこに隠れている君に」



まさかの俺を指名しちゃう? 動物たちじゃなくて? あまりこの雰囲気で出ていきたくないんだけど。


 仕方なく、本当に仕方なくラキの隣に行く。これ以上は行くのはラキが怖いんで勘弁してほしい。



「それで、俺に何の用です?」

「なに、簡単なことさ。君に来てもらいたいんだ、城にね」

「(なんだろう、嫌な予感しかしない) ……城ですか。俺を見世物にでもするつもりですか?」

「見世物? そんなことはしないよ。ただ君にしてもらいたいことがあってね。どうだい? 大人しくついてきてくれれば、傷付けはしないよ?」



大人しくしてれば傷付けないということは、抵抗したら攻撃するってことだよね。


 しかも何をするって具体的に言わないのも気になる。ついていったらどうなるのか想像がつかない。


 かと言って俺が拒否したら、ここにいるみんなに迷惑をかけてしまう。素直に行くしかない。案外すぐその用とやらが済むかもしれないしね。



「わか『行っては駄目。あんな気味が悪い奴についって行ったら、何されるかわからないわ』(ごめんね、ラキ)……りました。わかりました。行けばいいのでしょう。その代わり、ここにいる動物たちには手を出さないでください」

「わかった。私は手を出さないよ。さあ、行こうか。生け贄くん」



そう言い終わると同時に景色が変わる。辺りは薄暗く、ホラーゲームに出てきそうな、そういった雰囲気のある牢屋みたいな場所だった。


 これが瞬間移動か、と少しボケていないとやってられない。ホラー苦手なんだよ。さっきの男が前を歩いて、それに俺がついていく。


 今にも何かが出てきそうな気がして、早く目的の場所に着いてと願いながら歩くこと十分は経った。いい加減着いてほしい。


 男が急に止まって、ここに入ってねと言う。ぱっと見やたらと頑丈そうな扉がある。生け贄というくらいだから間違いなく死ぬのだろうと覚悟して入った。


中に入った途端、血の濃厚な香りが漂ってくる。ここの照明は明るいようだ。部屋の真ん中には血まみれの金属製の椅子が置かれている。


 それになんだか変な感じがするんだよな。なんだろう、有ったものが急に無くなったみたいな、そんな感じ。ただただ寂しい。


 感傷に浸っている間に強引に椅子に座らされ、拘束される。えっ何? 何されるの?


 混乱していると男が何かを呼んだ。部屋の奥の方から足音が聞こえてくる。姿がはっきりと見えた。それは異形。


 キメラみたいだ。辛うじて人間っぽい形はしている。だけど体のあちこちにツギハギがあって、人間なのか違うのかがわからない。


 何故この人(?)を見せたのか。疑問に思っていると、男が一言。



「治してくれないかな」

「……えっ?」

「君の力なら治せるんだろう? 前もそうやって動物たちあいつら治していたようだし、できるよね? 拒否権はないから断ったら痛い目に遭うかもよ?」



ここで治したくないから、無理! なんて言ったら、暴力を振るわれるよね。人間じゃなければ治せると思うけど、この人(?)は人間だとしたら治せない。


 治せなかったら、俺はどうなるんだ? 暴力なのか、解放してくれるのか。いや、解放はないか。普通に治すだけだったらこんなところに連れてこない。


 わざわざ地下牢みたいなところに連れてきた時点でしられたくない何かがあるってことじゃないかな。秘密を知られたら、殺される的なやつだ。まあ、治したとしても殺される気がするけど。


 仕方ない。一か八かで治ってくれて解放してくれることを願おう。



「……わかりました。治せるかわかりませんが、やってみます」



目を閉じて元の姿に戻るように祈る。だけど、一向に光が出てくる様子はない。ということは、人間だったんだ。これはヤバい。想定した中で一番酷い目に遭う確率が高いやつだ。


 だめだったことを伝えるのが怖い。ロクでもないことになるのは確かだ。それでもやるべきことはやったと言うしかないね。



「すみません。全力を尽くましたが、俺の力では何もできないようです」

「……へぇ、無理だったとでも言う気なのか。使えない訳がないとおもうんだけど? わざと使わなかったのかな? それなら仕方ないね、ちゃんと使うまで痛めつけてやらないと」

「まっ「言い訳なんて聞きたくないんだよ。黙ってくれないかな?」……」



マジかよ。なんでそうなる?! 俺ちゃんとやったよ? 人間には使えないんだって!


 困惑している俺の頬に容赦なく殴った。割と痛い。殴られた頬が熱を発し始めた。ヒリヒリと痛んだ時、不意に小学校の時のいじめていた***と重なる。


 怖い、怖い、怖い……!


 体が震えて息が荒くなる。逃げようと思っても拘束されているせいで、逃げられない。***が拳を上げた。


 まただ。また、殴られる。痛いのはいやだ、いやだ、いやだ! 助けて。こっち来ないで。いや、いや、イヤ、イヤ!


 さっきとは反対の頬を殴られた。


 痛い。血の味がして歯が変な感じがする。


 今度は腹を殴らレる。


 ただ、痛イ。呼吸が辛イ。逃げたイ。イヤだ、イヤだ!


 次ハ顔面。


 鼻ガ痛イ。何かガ鼻かラ出る。辛イ。ナンデ、俺がこんナ目に、遭わない、とイケないんダ……!


 首ヲ絞めラレる。


 息がデきなイ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。イしきガ……。……殴ラレて起コサれた。痛いのハ、モう嫌。


 マタ殴ラレる。


 痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。


 殴ラレル。


 痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。助ケテ。


 マタダ。


 痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。助ケテ。痛イ。


 マダ終ワラナイ。


 痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。


 イツニナッタラ、殺サ終ワレル?


痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。助ケテ。助ケテ。痛イ。痛イ。


モウ、殺サレ終ワリタイ。


痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。痛イ。助ケテ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。辛イ。助ケテ。辛イ。辛イ。助ケテ。辛イ。痛イ。痛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。辛イ。痛イ。痛イ。辛イ。助ケテ。痛イ。辛イ。辛イ。助ケテ。辛イ。助ケテ。痛イ。辛イ。辛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。痛イ。痛イ。辛イ。辛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。助ケテ。痛イ。痛イ。助ケテ。ラキ。






  疲レタンダ、私。ダカラサ、寝テテイイヨネ。



「……! ………………!? ……、……! ……、…………!」

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