第18話 家族が増えるよ!
あっ、珍しい。ヒンフトたちの意見が割れてる。出会ってからさっきまではずっと一致していたのに。
でも、まだ少ししか一緒にいないからそんなものなのかな? ラキの方をチラッと見たら、首を横に振られた。ということは、ほとんどないみたいだ。
ラキも心なしか動揺しているようだ。そこまでくると仲良し過ぎなのか、考え方がそっくりなのか。そういえば、仲良しでも喧嘩はすると思うから、仲良し度は関係ないね。
「じゃあそこの三匹は早い者勝ちで、ラキとここの二匹がゆっくり食べても競争になっちゃうから始めから分けていいのかな?」
『そうね!』『それで合っているわ!』『合ってる、合ってる!』『私は分けっこでいい』『そうだね。分けっこにする』
『そうね。私も分けっこでいいわ。大変になると思うけどよろしくね』
「わかった。じゃあ分けてくるね。一緒にするとよくわからなくなるから」
『いってらっしゃい』
俺はからあげのところに行き、皿を三枚用意してからあげを半分に分けた。半分にしたからあげを大体三等分にする。これならわかりやすいね。
やることを終わらせたので、自分の食っていた場所に戻る。食事を再開した。
チラッと見てみると早い者勝ち組のヒンフトたちは、とにかく急いで食べている。時々相手と自分の皿を交互に見て誰がどのくらい食べたのか見ていた。三匹とも食い意地が凄い。
一方、分けっこ組はゆったり食べて味の感想を話しているみたいだ。楽しそうで何よりだね。
二つの組の温度差が激しい。まあ、俺が何かしないといけないわけじゃないから気にしないけど。あっ、ちゃんとおかわりは持ってくるよ。
と思いつつ、完食したから食器を二階の台所に持っていく。きちんと洗って、水をふき取って片付ける。そういえば、冷蔵庫に空きが少しできたから果物を冷やしておこう。
冷蔵庫に果物を入れ終わったから一階に行く。もうそろそろ、おかわりって言われそうだし。
『エリさん、私おかわりしたいわ!』『あっ、待って!私もおかわりお願い!』『私も、私も!』
「わかった。じゃあ持ってくるからちょっと待ってて」
『もう食べたんだ』『速いね』
『私にあれは難しいわね。分けっこしていて良かったわ』
分けっこ組がほっとしているけど、早い者勝ち組も同時におかわりしているから実質分けっこ組と変わらないような……。まあ、みんなが決めたことだから何も言わないけど。
からあげを皿に盛り付けしながらそう思った。残りのからあげがあまりないので、夕食分にしよう。
ラップをして冷蔵庫に入れる。からあげが入った皿を持ってヒンフトたちのところに置いた。
「ごめんね。もう、おかわりのからあげないんだ。夕食はもっと多めに作るから待っててくれると嬉しいな」
『気にしなくていいわよ!』『そうよ、作ってもらっているんだから!』『そうだ、そうだ!』
『私たちも何かお礼させて?』『これは卵だけじゃお礼が足りない……!』
『そうね。私も貰いっぱなしは嫌だったのよ。エリ、何かほしいものはある?』
「お礼は卵だけで十分だよ。でもほしいもの……じゃあみんなで家族になりたい!」
ラキたちはスッと顔を見合わせる。何か悪いこと言ったかなと不安になった。
みんなでアイコンタクトを取ったと思ったら、こっちを向いて始めはラキがピタッとくっついた。そのあとに続くようにヒンフトたちが次々とひっついてくる。
『『『『『もちろん、いいわよ/いいよ』』』』』
『私はもうエリの家族だから、お礼は別で考えておくわね。楽しみにしててちょうだい』
「わーい! やったー! これでみんな家族だね!」
『だけど
『そうね。
『私も行くわ。ヒンフト姉さんたちは名付けしてもらった方がいいんじゃない?』
『そうね』『そうしようかしら』『そうだ、そうだ』『名付けお願いできる?』『いい名前をお願い』
「名付けしてもいいけど、なんで名付けをするの? そんなに大切なこと?」
『いい? エリ、名付けっていうのは……』
ラキが言ったことをまとめると、名付けをしてそれを受け入れることで契約できる。基本は対等な関係だけど、上下関係にすることもできる。もちろん双方の合意がないとできない。
俺たちがやる契約は対等な関係を結ぶだけで、何かをするわけじゃない。それだけで十分だね。家族になるのに契約するっていうのも不思議な感じがするけど。
もしかして契約してくれるくらい信頼があるのかな。そうだと嬉しい。でも名前か、いい名前を思い付ける自信があまりない。
とりあえず考えるだけ考えてみるか。うーん、五匹いるから数字がいいかなと思ったけど管理しているみたいで嫌だな。そうだ、頭文字に使うといいかも。
いち・に・さん、だと微妙な気がするから、ちょっと変えて、ひ・ふ・み、にしよう。ヒンフトたちは喋る順番が決まっているから、その順番で命名することにしよう。
ひ……ヒヨコ? いや、体の色は黄色だからってそれは駄目だろ。他に、ひは何かあったっけ? ヒクイドリ、厳ついけど外見に合ってはいる。ヒリー、でいいか。
ふ……ブンチョウ、かわいいからいいっか。色は緑色だね。フチーで。
み……鳥の名前で思いつかない。色からとるか。赤色だから、ミカに決めた。
よ……ヨウムって聞いたことがある。確かインコの仲間なんだっけ。良いのが思いつかないから、色からで。藍色かー、夜空みたいだから名前はヨル。
い……インコでもいいけど、違うやつがいいかな。色にしよう。黒に近い紫色、夕焼けっぽいね。後ろになっちゃうけど、ユイ。
ヒリー、フチー、ミカ、ヨル、ユイ。気に入ってくれるといいな。駄目だったら考え直すけど、どうなるか。ドキドキしながら一匹ずつ命名していく。
五匹は顔を見合わせて会議しているみたいだ。小声だからよく聞き取れない。永遠にも感じる時間が過ぎると五匹は頷いた。どうやら決まったらしい。
『『『『『この名前にする/わ!』』』』』
最初は断られるかと思ったけど、無事受け入れてもらったからよかった。体の緊張が解けてへたり込んでしまう。いつの間にか止めていた呼吸を再開させる。
「……よかったー! 駄目って言われるかと思った。じゃあ改めてヒリー、フチー、ミカ、ヨル、ユイ、よろしく」
『こちらこそよろしくね!』『これからよろしく!』『よろしく、よろしく!』『これからも仲良くしたい』『私たちをよろしく』
『名付けも終わったことだし、食事をしてから贈り物を探しましょ』
「それだと俺は家で留守番かな。そうなる前に、洗濯物がどうなっているか確認しよう」
脱力した体に力を入れて立ち上がる。力が入りづらくて、ちょっとふらついたけど大丈夫。その内普通に歩けるはず。
気にせず洗濯物が干してあるところまで行った。手で触って洗濯物の乾き具合を確認する。どれも乾いているみたいなので全部取り込んだ。
洗濯物を持って家に入り寝室に向かう。洗濯物を畳んで片付ける。あとは夕食分の照り焼きの量を増やしておかないと。ラキと俺の分しか作ってないから足りないよね。
その前におかわり用のからあげをヨルとユイ、ラキにあげてないのを思い出した。
ちゃんとあげていないとラキは拗ねる気がする。ユイは食い意地が張っているから根に持つ可能性が……。ヨルはあまり気にしなさそうだけど、どうなるかを確認したくない。
急がないと! はやるあまり立ち上がろうとした時に足がもつれて転んだ。ああ、痛い。ぶつけた膝がズキズキする。やっちゃったな。
気を取り直して痛む膝を庇いながらゆっくり立ち上がる。いつも以上に慎重な動きを心がけて移動した。あっ少し痛くなくなってきたみたい。よかった。
多少の無理が利くようになったから、普段の歩き方に戻す。これでラキに何か言われないと思う。あまり心配ばかりさせたくないし。
速くは歩けない。だから、いつもよりゆっくりとした歩きになるんだけど仕方ないね。
そんなことを考えながら、おかわりのからあげが置いてある台所に到着。この状態で三皿を一気に持っていけないので、何かあっても問題ないように一皿ずつにしよう。
皿を持ってみんながいるところに持っていく。皿をユイのところに置いた時にしゃがんだからか、膝に痛みが走る。やっぱりしゃがむのは駄目だったか。
「これ、ユイの分……だから。ラキと、ヨルはあとで……持ってくるから、ちょっと……待ってて」
『おかわりのからあげ、持ってきてくれてありがとう』『私の分待ってるね。ありがとう』
『……』
思わずうめき声が出そうになるのを堪えながら、話しその場を凌いだ。なんとか台所の椅子に座る。息を吐いた。何も言ってないから、多分バレていないはず。
今度は前かがみで挑戦してみよう。それならまだマシだと信じてる。試しにやってみたところ、しゃがむよりは痛くない。
少し不自然な気もするけど、これでいくしかない。ラキのからあげを持って行こうとした時に声をかけられた。
『全く、何してるのよ。膝、痛いんでしょ? 無理しないの。そのまま座っていなさい』
「あっバレてた。これでも普通にしてたのに」
『そんなのわかるわよ。ほら、私が代わりに持っていくから、どれだか教えて』
「こっちがラキの分で、そっちがヨルの分だよ。……でもどうやって持っていくの? 背中に乗せてもいいけど、バランスとるの大変だと思うよ」
『そんなことしなくても、人型になれば問題ないわ。人型になるのは初めてだけどなんとかなるはずよ』
ラキが人型になるつもりだ。どうしよう、不安しかない。
初めて人型になるってことは服がないっていうことも考えられるわけで。そもそも、二足歩行と四足歩行じゃバランスが違うと思うし。
あと俺の人間嫌いが出てくるかもしれない。だから安易に大丈夫と言えない。
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