第15話 ドラゴンからの贈り物

 ラキが戸惑っているみたい。だけど、その内仕方ないと言わんばかりにため息をついた。小さく、わかったわよ、考えればいいのでしょう。と聞こえる。


 それから、座り込んで時節唸っている。ちゃんと考えてくれているみたいだ。少しし経ったら立ち上がってドラゴンと話している。


 何か思いついたのかな。小声だからよく聞こえない。内緒にされてるようだ。ハブられているように感じるけど、気のせいだよね?


 いや、ラキはそんなことしない。何かあったら直接言うから、その心配はないはず。もしかして言えないほどの何かがあるのか?


 不安な気持ちになりながら、ジッと待っていること体感十分。



『人間よ、これを持つがいい』

「これって鱗だよね。普通の鱗に見えるけど、何か違うの?」

『これには魔術が組み込まれている。これを持てば我と会話ができるようにしたのだ。連絡したいことがあれば使ってくれ。長時間は使えないから注意しろ』



手の平サイズの黒い鱗に灰色で何か模様が描かれている。鱗が黒いのはドラゴンが黒いから。何故に灰色なんだろう。気になる。


 それに長時間使えないってどういうことなのか? 素直に聞いてみよう。



「これを使えば、連絡できるんだね。なんで灰色? あと長い時間使えないの?」

『危ないから鱗は私が持っていくわ。これについて詳しく説明するわね』



ラキの説明を簡単に言うと、俺とドラゴンを繋ぐ魔術を使い続けるから長時間使えないらしい。


 基本は魔術を使うのに体に含まれている魔素を使う。体内魔素と呼ばれていて限界があるようだ。ちなみに体内魔素が回復するのは時間がかかるみたい。


 体内魔素量は種族によって大まかに決まっているけど、個体差によってバラツキがあるらしい。俺よりラキの方が体内魔素量が多いから、ラキが預かる分には問題ないみたいだ。


 ちなみに鱗を使った理由は、魔力の通しやすさが高いんだそうな。


 これでドラゴンは上空を飛びまわなくていいようになったね。よかった、よかった。


 こっちの世界の人間は、俺から見ると身体能力がかなり高いし好戦的な奴が多いから、あまり関わる要因を増やしたくない。


 そういえばドラゴンがこれを作っていれば、わざわざ呼び出す必要なかったよね。なんでだろう。もしかして深い理由があるのかな。



「ねえ今更だけど、なんでドラゴンは最初からこのや……『魔道具と言うのよ』を作らなかったの?」

『すまぬ、あまりこういうものは扱わなくてな。思いつかなかっただけだ』

「あっそうだったんだ。それなら仕方ないね」



思いつかなかっただけなんかい! と、つい心の中で突っ込みを入れてしまった。でもドラゴンが道具を作るイメージがないね。魔法は使いそうだけど。


 用事も済んだことだし、ドラゴンに別れを告げた。二度目の物凄い風に耐えながらドラゴンを見送った。姿が見えなくなったので家に戻る。


 なんだかんだで、時間がかかっちゃったから、もう夕方だ。いい時間になったので夕食を食べようか。その前に手を洗おう。ラキは手足をタオルで拭いてあげた。


 二階の洗面台のところに行って手をしっかり洗ってから、台所で夕食の準備をする。ラキはもうすでにいたので、呼ぶ必要はなし。


 ふたりそろったのでいただきますと言って食べ始める。


 油淋鶏を一口食べた。鶏肉の美味しさと油淋鶏のタレがよく合うね。ご飯はどうかな。うん、上手く炊けているみたいで、おこげも良い。ご飯と油淋鶏の組み合わせも素敵だね。


 黙々と食べ進めていき、ついに最後の油淋鶏だ。少し大きいけど一口でいく。さっきよりも噛み応えを感じながら美味しくいただいた。


 食べ終わったから、ラキの方を見る。ゆっくり左右に尻尾を振っているので、楽しみながら食べているようだ。毎回ジッと見ているのは悪いから、使った食器でも洗っていよう。


 食器を洗い終わり、ふきんで拭いてから片付ける。ラキは食べ終わったかな? チラッと見てみると食べているみたい。


 んー、昨日はもう食べ終わっていた気がするけどな。まあ、そんな時もあるか。あっお風呂の準備してない。洗ってお湯を溜めて入ってこよう。






 私がユーリンチーという物を食べ終わった時には、エリはどこかに行っていた。一体どこに行ったのかしら。あちこちの部屋を探すとオフロに入っているみたい。


 水は苦手なので中に入ろうと思わない。だけど、楽しそうなエリの鼻歌が聞こえてくるから自然とドアの近くで聞き入ってしまったわ。


 あっ、エリに気付かれる前に戻らないと。聞いているのがわかってしまったら、ちょっと恥ずかしいわ。


 戻ろうとした時に足音が聞こえてきた。ここにいたらばれてしまうわ! 速く移動しなきゃ。


 さっきいたところに戻ってきた。しばらくするとエリが来たので、何事もなかったように振る舞う。これでどこからみてもご飯を食べ終わっただけだわ。






 お風呂から上がってきて、リビングに来た。なんだか知らないけど、ラキが満足気だ。何か良いことでもあったのかな。気になる。



「ラキ、嬉しそうだけど良いことあった?」

『そうね。ユーリンチーが美味しかったわ。また作ってちょうだい』

「それは良かった。また気が向いた時に油淋鶏を作るね」

『楽しみにしてるわね』



そっか。そんなに油淋鶏が気に入ったんだ。覚えておこう。


 お風呂は入ったし、ついでに歯も磨いた。あっ、ラキの皿洗ってないな。さっさと洗おう。これでよし。あとは寝るだけかな。



「俺はもう寝るけど、ラキはどうする?」

『私も寝ようかしら。そう考えたら眠くなってきたわ。早く行きましょ』

「そうだね」



ふたりで寝室に行ってベッドに入る。だんだん眠気がやってきてそのまま寝た。






 自然に目が覚める。あくびをしながら体を伸ばした。ラキを起こさないように起き上がって洗面台に向かう。顔を洗って口をゆすいで、寝室に戻った。


 着替えをしながら、ふと思う。そういえば、服を洗濯してないな。臭くなる前に洗おう。着替える服もなくなっちゃうし。ちなみに服は家に置いてあったよ。


 そうと決まれば早速やろう。脱いだ服を持って脱衣室に行く。前のものも一緒に洗濯機の中へ。洗剤を適当に入れて洗濯スタート。


 洗濯したのはいいけど、干すところどうしよっか。なんか良い感じのものあるかな? あっそういえばベランダに物干し竿あったな。それでいいや。


 洗濯終わるまでに、朝ごはんの準備しよう。台所に向かって、冷蔵庫から朝用に残しておいた油淋鶏を出す。ご飯は電子レンジで少し温めて、ちょっと温かくして出した。


 朝ごはんはこれでよし。あとはラキを呼ぶだけ。朝から料理するのは大変だから、あまりやりたくない。まあ、ラキに頼まれたらやるけどね。


 寝室に行って、さっきは見なかったことにした独特な寝相のラキを起こす。ラキが起き上がったけど、寝ぼけているのか反応が薄い。



「おはよう。朝だよ、起きた?」

『……』



また横になった。そのまま目を閉じて、寝息が聞こえてきた。って寝てるじゃん。もう一回体を揺さぶって声をかける。反応をうかがってみるけど、特になし。


 うーん。どうしよっか。俺だけ先に朝ごはん食べてもいいんだけど……。やっぱり一緒に食べたいな。じゃあ俺も寝ようか。


 いや、待てよ。洗濯物が俺を待っているんだ。まだ寝るわけにはいかない。まだ洗濯終わってないと思うけど。


 じゃあ何をして待つか。よし、料理でもしよう。昼の分を先に作っちゃえ。何を作ろうかな。


 そうだ、カレーの材料あるしチキンカレーを作ろう。肉は多めに入れておけば、ラキも喜ぶかな。量はそこまで多くならないけど。


 あっ、カレーのルーってあったっけ? 探してみるとルーの実があったから問題ないね。それでは作っていこう。カレーの材料を冷蔵庫から出してと。


 まずは野菜を細かく、肉は一口大に切る。鍋に油の実を割って入れて、野菜を炒める。火が通ったら肉を入れて、肉の色が変わるまで炒めた。


 次に水を入れて煮込む。野菜が柔らかくなったら、一旦火を止める。ルーの実を割って中身を入れて溶かす。


 最後に火をつけてとろみをつけたら完成。ちゃんと火を消してと。


 あっ、洗濯物干さなきゃ。もう洗濯終わってるよね。


 脱衣室に向かう。中に入っているものを取り出して、物干しざおのところに行って干していく。洗濯物を風で飛ばないように洗濯バサミで固定してっと。これでよし。


 そういえば、ラキはまだ寝ているのかな。寝室に行ってみるか。中に入ってみるとラキはいなかった。


 ん? どこに行ったんだろう。リビングかな。リビングを覗いてみてもいないみたいだ。じゃあ、台所にいるのか。おっ、いたいた。


 どうしてここにいるのか不思議に思った。そっか、きっとチキンカレーの匂いに誘われてきたんだ。とりあえず、挨拶をする。



「ラキ、おはよう。朝ごはん食べる?」

『エリ、おはよう。もちろん、食べるわ』

「さっき起こそうとしたけど、全然起きないからどうしようかって思っていたんだ」

『そうなのね。あの時起きたんだけど、もう少し寝ていたくて寝ちゃったのよ』



そうだよね。寝ていたい時もあるよ。と返事をして、ご飯を電子レンジで温め直す。そうだ、チキンカレーのことを言わないと。



「昼食用に作ったチキンカレーがあるけど、少し食べる?」

『チキンカレーが何かわからないけど、きっと美味しいのでしょ? 食べたいわ』

「わかった。じゃあ盛り付けするから、ちょっと待ってね」



ラキ用の皿にご飯を少し、そのあとにチキンカレーを盛って油淋鶏を添えて完成。ついでに残ったチキンカレーを皿に移して、冷蔵庫に入れておく。これでいいかな。


 ラキに声をかけてから言う。いただきます。油淋鶏は冷えているけど、おいしい。


 はっ! 今更だけど、チキンカレーを味見してない。多分、美味しくできているはずだから気にしないようにしよう。


 でも、一旦気にしちゃうとずっと頭から離れない。どうしようないから、俺も少しだけチキンカレーを食べよう。盛ってあるご飯にチキンカレーをちょっとかける。


 さて、どんな味なのか。チキンカレーってあまり作らないから、これで合っているのかわからなかったんだよね。だから普通のカレーみたいにやったんだけど、どうかな。


 ドキドキしながら一口食べる。うん、まあまあかな。これなら問題ない。良かった。あまり美味しくなかったらどうしようかと思った。

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