第13話 蛇さんの引っ越し
しばらくの間、その辺を適当に歩いた。もうそろそろラキと蛇さんの話は終わったかな?
ラキのところに戻ってみると、まだ話は終わっていないみたいだった。だからまた近くを歩き回ろうと思って踵を返した時に、ちょっと待ってと言われる。
『エリ、こいつのことで相談があるのよ。ちょっといいかしら』
「うん、別にいいよ。それで何かしたいの?」
『まあ簡単に言えば、こいつに指導したいのよ。昔から、突拍子もないことばかりするからこいつの知り合いが被害に遭っているの。いい加減なんとかして治ってほしいのよ。だから定期的に家に来てもらって指導をしたいの』
んー。昔からそうなんだとしたら、指導しても変わらない気がするけどな。その人(じゃなくて)蛇がしたいことを無理やり変えるのはどうなんだろうか。
もちろん、本蛇がやりたいんだったらしてもいいけど、やる気もないのにしても意味がないと思うんだよね。
「ラキがそうしたいのはわかった。でも、あなたはそうして欲しいの?」
『ボクはライハイトに会いたいから、してもらおっかな! あまり周りに迷惑もかけなくなるんだったらね!』
「それならいいんだ。じゃあ一緒に行こうか。ねぇラキ?」
『そうね。騒がしくなるけど、それもいいわね』
じゃあ出発! と意気込んでラキの背中に乗って家に向かう。
道中で毒消しができるドクドク草や、痛み止めになるイタイタ草、やけどに効くヤケヤケ草、貼るとシップ代わりになるシプシプ草をゲットした。
蛇さんがこれは? と持ってきた奴の見た目はどこにでもありそうな普通の草。
フェーガン草:食用には適さない。何をしようが解毒不可能。触っただけで力が入らなくなる。
蛇さんはよく平気だね? 蛇には効かないのかな。とりあえず、これを素手で触る勇気はないので直接袋に入れてもらった。何かには使えると信じてる。
そんなこともあったけど、無事家に着く。蛇さんは俺たちの家の場所を覚えただろうし、すぐに帰るのかな?
『ここが私たちの家よ。場所はもうわかったでしょう? ほら、さっさと巣穴に戻りなさい』
『えー? ボクはもうちょっとライハイトと話したいなー。ねっいいでしょ、人間さん?』
「俺は別に構わないけど、ラキ次第かな」
『エリが良いなら仕方なくだけど、もう少し居てもいいわよ。ただし、ここに住みたいと言うのはなしだから』
ラキは蛇さんに手厳しいな。いや、メートさんにもそうだったような。うーん、でも俺には優しいし、何かの差なのか? よくわからないね。
『わかったー。ここの近くに巣穴作るね! じゃあ行ってくるよ』
『ちょっと待ちなさい! はぁ。あのバカ、こういう時に行動が早いんだから……』
「あはは。行ってしまったのはどうしようもないし、荷物を片付けて待っていようよ」
『放置するとろくでもないことになるから、せめて私が場所を指定してくるわ』
いってらっしゃいと手を振ってラキを見送った。
さて、俺は荷物をしまっちゃおうかな。木の実の山もどうにかしないとだし。一階の収納に、さっきの薬として使えそうな草は入れておこうかな。カエンタケも一緒にね。
調味料の実とお米は二階の台所に置いといてと。
あとは山積みになった木の実だな。一旦全部家の中に入れてから、仕分けしよう。空になった袋に詰めて、家の中に持っていって中身を出す。
何十回も繰り返して、ようやく家の中に移動できた。これからが大変な作業だけどね。
木の実を適当に取る。これは明らかにモモだよな。板にモモって書いてあるし、間違いない。モモは適当に置いておくか。
次はなんだ? これはミカンみたいだな。これも合っているみたいだ。ミカンはここに置いてと。それで次はイチゴ。バナナ、パパイヤ、リンゴ、キウイ、ブドウなど。
たくさんのフルーツが勢ぞろいしている。冷蔵庫で冷やしたい。フルーツたちはこっちにまとめておこう。
それで、これは種みたいだな。なんなんだ? ニンジンの種だと。種は袋にいれておかないと大変になる気がする。袋にいれた。
次は、タマネギ。ジャガイモ、ダイズ、レタス、キャベツ、インゲンなどの野菜類の種だったり球根がそろっている。これは俺に農業をしろと言っているのか?
他には、ドクドク草、イタイタ草、ヤケヤケ草、シプシプ草みたいな薬草になる色んな種類のものの種がある。やっぱり自分で育てろってことだよね、メートさん……。
こんなものかな。収納が多いから平気で収まった。これで片付けは終了。疲れた。体を伸ばして一息つく。
『エリー! あいつの引っ越しが終わったわ! 場所を知っておいてほしいんだけど、来てくれる?』
どうやら呼ばれているみたいだ。返事をして、ラキのところに向かう。
『エリ、来たわね。あいつの巣穴はあっちよ。さあ乗って』
「それじゃあ失礼するね」
どっこいしょと言って背中に乗せてもらう。蛇さんの家にレッツラゴー!
少し森の中を進んだところでラキが止まる。ここが蛇さんの家なのかな。辺りを見回してもそれっぽいのが見つからない。どこなんだろうと首をかしげる。
「あれ、どこにあるの?」
『ここよ。正確に言うとこの下と言うべきかしら。エリが困惑しているから、隠れてないで出てきなさい』
そう言うと蛇さんが地面からスルッと出てきた。よく見ると茂みの近くに穴がある。あの大きい体でよく隠れる場所を見つけられたね。
『はーい、ボクの新しい巣だよ。どう? いいでしょ! 丁度良いところにこの穴があったんだ。いつもは魔法を使って穴を掘るんだけど、今回は楽だったなー!』
「えっ、そうなんだ。凄い偶然だね」
『他にも、色んなところに似たような穴があったんだ。おかげで悩んじゃったよー』
「別のところにもこんな穴が? なんなんだろう……」
穴掘りが得意な動物がたくさん掘ったのか、それともたまたま? 気になるな。人間の仕業だったりして。でも、やる意味がないと思うんだよね。うーん、謎だ。
『こいつの巣も見たから、さっさと帰りましょう』
「じゃあね。また明日」
『……! ……、…………!』
蛇さんの返事を待たずに、ラキが家に帰る。うっすら何かを言っている気がするけど、この距離だと聞こえないね。
そういえば、蛇さんの種族ってなんだろう。ラキに聞く。
『あいつの種族? ヴマスよ。もしかしてあいつに興味が湧いたの?』
「ちょっとね」
『そうなのね。まあいいわ、あいつに初めて会った時の話でもしましょうか』
そうなんだ。ヴマスのせいで大変な目に遭っているけど、小さい頃に世話になっていたから、ヴマスのためになんとかしたいって思っているんだ。
そんなラキとヴマスの出会いを聞いている内に、家に到着した。ラキの背中から降りて体を伸ばす。
直に座っているから、ちょっと辛いんだよね。鞍でもあったら楽になるのかな? でも作るのは難しそう。
ラキは人間に襲われていたし、頼んでも作ってくれるかわからない。そこまで長時間乗っていなければ問題ないから、今はそのままで頑張ろう。
よし、メートさんからもらった薬草とか野菜類とかの種を植えていこう。庭が畑みたくなっていくね。全然耕してないし、そういう道具もないけど。
まあ、生えてきたら儲け物って感じでやっていこう。
まずは薬草コーナーを作る。一階の収納から種を持ってきて、一つ一つ等間隔で種類別に植えていく。シュタの実の皮で水やりをしてと。
次は野菜コーナー。薬草コーナーから離れた場所に植えていく。水やりも忘れずにね。こんなもんで終了。
そういえば、実がなったら動物が食べに来るのかな。食べないように説得できたらいいんだけど、そう簡単にできるのか? 餌付けすればいけるかな。悩みは尽きないね。
ふと太陽を見ると、もう昼は過ぎている。普通にお腹減った。何か食べよう。お米は今からだと時間がかかるから、夕食で食べるとして。昼食は果物でも食べようかな。
「ラキは今から何か食べる?」
『そうね。肉が食べたいわ。昨日のからあげ美味しかったから』
「そっか。からあげか。時間かかるけど、それでもいい?」
『平気だわ。からあげが食べられるなら、できるまでちゃんと待てるわよ』
うん、からあげ頑張るか。昼食を食べながらになるね。流石に食べないであの量を揚げるのは、俺が持たない。
ラキに頼んで冷えたシュタの実を切ってもらう。切るのに慣れてきたのか、床を傷付けずに切った。相変わらず、切る瞬間が見えない。速いね。
いただきますと言ってから、切ってもらったシュタの実を片手で食べて、二階に行く。そして鍋に油の実を割って入れた。
シュタの実を食べ終わったので、ゴミ箱に捨てておこう。ごちそうさまでした。
油が丁度いいところまで入れたら、火にかける。油の温度が上がるまでに、冷蔵庫から出した肉を適当な大きさに切って衣をつけてと。
今回は衣にカレー粉を混ぜた奴と普通の奴の二種類にした。連続で全く同じものは作りたくない。
さて、油の温度はこんなもんかな。じゃあ揚げていこう。衣をつけた肉をひたすら揚げては皿に移すというのを繰り返す。油の温度が低くなり過ぎないように気を付けて。
あー、やっと揚げ終わった。夕食用に俺の分は違う皿に取り分ける。あとは使ったものを洗って片付けるだけだな。頑張るぞ。
これで、料理は一旦終わった。立ちっぱなしだったから、ちょっと疲れたな。よし、少しの間休憩しよう。
リビングに行って椅子に座った。ついでに体を伸ばす。
少しして、スッとラキが姿を現した。からあげを食べたくて来たんだろうな。皿を持ってこないとね。そう思って立ち上がろうとした。
『エリ、そのままでいいわ。疲れているみたいだったから、休ませようと思って来たのよ。その、エリは、もふもふするのが、好きでしょ? だから、好きにもふもふして?』
「誘ったのはそっちなんだからね。あとで文句言わないよな?」
『ええ。私は嘘はつかないわ』
ラキの言葉に、疲れを忘れて抱きしめる。
ああ。もふもふ。すてきだな。
肉球を押したり、嗅いだり、顎の下かいたり、色々して、もふもふを堪能した。
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