第12話 蛇さんに出会う

 ラキはからあげをどんどん食べて、気が付けば山盛りだったものが消えてしまった。でも満足そうなラキを見ていると、幸せな気持ちになるのであまり気にしない。


 からあげがなくなったから、明日の朝ごはんは残りの肉野菜炒めとシュタの実でも食べようかな。ラキのおかげでいっぱいシュタの実があるし。


 冷蔵庫に残りの肉野菜炒めを入れってっと。そうだ、シュタの実を冷やしたら美味しくなるかもしれない。一個入れておこう。


 これ以上は入らないから、明日の料理次第かな。


 寝る前に、風呂に入って歯磨きもしたい。風呂を沸かしておけばよかった。今から沸かすか。一応ラキに言っておいた方がいいよね。



「ラキ、俺風呂入ってくるから。ここで待っててもいいけど、先に上で寝ててもいいからね?」



ラキは尻尾を軽く振って返事をした。まあ、分かったならいいか。じゃあ準備をして入ってこよう。


 ああ、サッパリした。歯磨きもしたし、もうやることはない。ラキも寝ているみたいだし、明かりを消してもいいかな。よし、寝よう。おやすみ。






 自然に目が覚める。あくびをして、体を伸ばす。ラキをそっとなでた。お腹に顔を埋めて、息を吸う。ラキに気付かれる前に止めたけど。


 適当な服に着替える。それじゃ、顔を洗おう。ついでに朝食べるシュタの実を出そうかな。


 こんなもんでいいかな。シュタの実三個と昨日の肉野菜炒めを出してある。一個は冷やしておいたやつで、あとは常温のやつ。


 シュタの実はラキに割ってもらおう。肉野菜炒めはラキの分を取り分けてと。あとはラキを起こしに行こう。


寝室に行って、仰向けに寝ているラキをゆすって起こす。目が覚めて、大きいあくびをしているラキ。かわいい。



「おはよう、ラキ。朝ごはん出したから、食べようよ。昨日の残りだけどね」

『エリ、おはよう。そうね、朝ごはん食べるわ」



とことこ歩き始めたのを確認して、俺もリビングに向かう。そしてリビングに着いて、シュタの実を割るのをラキにお願いした。


 ラキの爪でスパッと割れるシュタの実。相変わらず、良い切れ味しているね。


 冷やしておいたシュタの実を半分こにした。食べやすいようにラキのは中身を皿に取り出しておく。


 冷えている方からではなく、常温のやつからいただきます。グレープフルーツの味がして美味しい。果汁もたっぷりでジューシーで、種はシャリシャリしている。


 あっという間に常温のがなくなった。それじゃあ、今度は冷えているやつをいただきます。


 うん。こっちの方が断然ウマい。素敵だね。次からは食べる分は冷やそう。肉野菜炒めも食べ切った。ごちそうさまでした。


 でも今は入るところがあまりないから、肉を使って空きを作らないとな。それに米もあったら食べたい。


 今日は米を探しに行こう。どの辺りに生えているんだろうな? よくわからないけど頑張って見つけるぞ!


 ラキに今日の予定を伝えようとそっちの方を見た。ラキが味わってじっくり食べながら、尻尾が左右にゆっくり揺れている。


 楽しんでいるのを邪魔したくないし、食べ終わるまでしばらくラキを眺めていようかな。かわいいし、こういうのを見ているだけでも癒される。


 ラキが食べ終わって、俺に気付いたみたいだ。こっちの視線の先に何かあるのかと、後ろを向いた。でも何もないから不思議そうに首を傾げている。


 それを見て、耐えきれなくなって思わず吹いた。



『何で笑っているの?』

「……なんでもないよ。それで今日の予定なんだけど、森で探したいものがあるんだ。ラキも一緒に行ってくれる?」

『納得がいかないけど、いいわ。ついて行ってあげる。それで探すものは何?』

「こんな感じの植物なんだ」



俺は身振り手振りでイネのことを伝える。紙があったら描いて見せるんだけど、鉛筆と紙はこの家にあるのかわからないから、できないんだよね。



『見覚えはあるけど、あれをどうするの?』

「できたら食べたいかな。おかずと食べると美味しいんだ」

『ふーん。美味しそうには見えないけど、そうなのね。わかったわ、連れて行ってあげる』

「ありがとう! 楽しみだなぁお米」



お米が食べられる。それだけで落ち着いていられなくなった。だけど、行く準備がまだできていない。速くやろう。


 まずは食器を洗って、食べ終わったシュタの実の皮をゴミ箱に捨てる。ゴミ箱に入れた途端、皮が消えた。なんなんだ、このゴミ箱? まあ、便利だからいいや。


 次にお米を入れる袋を用意する。街に行った時のゴミは捨てておこう。


 最後にラキの毛並みを堪能して完了。えっ? 最後はいらないって? 何を言っているんだ、もふもふエネルギーはチャージしておかないと動けなくなるよ。


 お米をゲットしに行く用意はできた。さあ、行こう!


 家を出て、ついでに植えたシュタの実の様子を見てみる。あれ? 一日しか経ってないはずなのに、俺の背丈と同じくらいになっている。


 衝撃を受けながら、水やりをした。育つスピード早いよね。これも異世界パワーなのか? 凄いなぁ。


 ラキにまだ水やり終わらないの、とせかさせたのでラキの元に向かった。車サイズになったラキの背中に乗せてもらってお米のところに出発!


 向かう途中で、見たことのあるキノコを発見した。ラキから降りて名前を確認する。この特徴のあるキノコはカエンタケだった。


 高値で買い取ってもらえるから、少しだけ残して持っていこう。八個千切って袋に入れてと。こんなもんでいいかな。


 周りを見て、気になるものがないからラキに乗せてもらう。お米のところに再出発した。


 他にも調味料の実が生えていたり、野生のブホルたちに会ったりした。ちゃんと診療所の宣伝もした。道草をしつつ目的地に着いた。


 そこは大きな川が流れていて、日当たりがいい広場。ここで横になって昼寝してみたくなっちゃうな。



『エリが言っていたオコメってこれのことよね?』

「そうだよ。ラキ、ここまで連れてきてくれてありがとう」

『当然のことをしただけだわ。それにしてもこれを食べるの? 美味しくはなさそうだけど』

「流石にこのままじゃ食べないよ。加工してから食べるものだからね」



 ラキがわかったのか、わからないのか、なんとも言えない返事をする。猫は基本肉食だから、穀物は食べないので美味しそうに感じないのかもしれない。


 そのことは一旦置いといて早速、袋に詰めていこう。黙々とお米を千切っては入れ、千切っては入れるを繰り返す。


 三袋目がいっぱいになったところで止めた。このくらいあればしばらくはご飯が食べられるね。


 帰りに調味料の実がなっているところに寄ってもらおう。結構油の実がなくなっちゃったし、他の実の補充もしておきたい。


 あと、メートさんからもらった木の実を仕分けしないと。少なくとも十種類はあったから、どんなものなのか調べておかないとね。



「ラキ、このあとなんだけど、さっきあった調味料の実があるところに行きたいんだ。いいかな?」

『あそこね、わかったわ。じゃあ行きましょう』

「うん」



寝転がっているラキの背中に乗る。ラキが起き上がって、来た道を戻っていく。


 調味料の実がある場所に着いた。さっき来たばっかりだけど、やっぱり凄いな。こんなにもたくさんの種類がそろっているところはないんじゃないか。


 醤油や味噌、砂糖、酢、塩の基本的な奴から、コチュジャンや一味唐辛子とか辛味のある奴もあるし、油や料理酒などもある。便利だね。


 とりあえず油の実を多めに採って、あとは適当なものを採っていこうかな。袋は多めに持ってきたけど、足りるかこれ?


 二袋分は油の実で、他三袋は色々な実を詰めておいた。これだけあれば、なんとかなるかな。あとはもう家に帰って整理するだけだ。


 ……ん? なんだろう、ラキの様子が変だ。何故かそわそわしているような。



『嫌な予感がするわ。エリ、早く逃げましょう』

『なーにが嫌な予感だって? 全く酷いじゃないか、ライハイト君』



音も立てずに姿を現したのは、大蛇だった。体が車のタイヤ並みの太さで長さはどのくらいあるのか見切れてわからない。


 このくらいの大きさなら、移動する音もデカいと思うんだけど? そこまで近付かないとわからないってなんだそれ。わけがわからないよ。


 ラキが嫌そうにしているのが、珍しいな。人間相手の反応と同じってどんだけ嫌っているんだか。



『ふん、この程度の扱いでお前は十分よ。直してほしいなら誠意を見せなさい。と言っても意味がないでしょうがね』

『えぇ? ちゃんと誠意は見せてるよ? ほら、何十年前だかにあったじゃん』



ラキが嫌な顔をしつつも、心当たりがあったのか即答する。



『あの猛毒の花を私の口に突っ込んだこと? どこが誠意よ。ふざけているの? 嫌がらせにしかなってないわ!』

『えー、だってあの花物凄く痺れるよ? 素敵だと思ったんだけどなー』

『それは、毒で、痺れている、だけよ! どこが君にピッタリな花を見つけて来たんだとか言ってそれを口に突っ込む奴がいるのよ!』

『ここにいるけど』

『そこで偉そうにしないで!』



あの蛇さん、なかなかやるじゃないか。ラキにあそこまでツッコミをさせるなんて、なんていう奴だ。天然(って言っていいのかわからないけど)もここまでくると怖いね。


 っていうか俺空気じゃん。まだ言い合っているし、面白いものがないか近くを探索しよう。暇だから。






 あの野郎と言い争っている内に、エリがどこか行ってしまった。だから、こいつに関わるとろくなことにならないのよ。


 前にあったこともそうだけど、普通じゃ考えられないことをしでかすのよね。それに嫌気がして避けていたんだけど。こいつはそれにも気付いていないのかもしれないわね。


 でもこいつ自体には悪気はないみたいなのよ。純粋(?)な気持ちでしているようなんだけど、それが迷惑なことになるとわかっていない。


 少しずつ直していければいいんだけど、それもここ何十年変わっていないからなんとも言えないわね……。


 でも、こいつのためにもちょっとは指摘しておかないと、それこそいつまで経っても変わらないんじゃない? エリにも相談しておこうかしら。

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