第10話 街で買い物3
店の人が俺の指定したヒンフトを持ってきて、さばいていく。覚悟はしていたけど、結構精神に負荷がかかるな。
生きていく為には避けて通れないから、耐えるしかない。これで動じたら、面倒な事になる。
そして解体が終わり部位ごとに分けられて、肉が入った袋を渡された。受け取ったのはいい。だけど、あまりの重さに数秒くらいしか持ち上げられない。
これは想定外だった。でも考えてみたら鶏より大きいんだから、このくらいの重量になるよね。後先考えてなさすぎる。
どうしようか悩んでいると、店の人が声をかけてきた。
「大丈夫かい? 連れの人がいるなら、そこまで持っていってあげようか?」
「すみません、ありがとうございます。あそこ辺りにいると思うんですけど、おねがいします」
店の人と一緒にメートさんのところに向かう。
そういえば、ラキはどこに行ったんだろう。近くを見渡しているけど、見当たらない。迷子にはなってないと思うから、メートさんのところにいるのかな。
メートさんがなんとなく目視できるくらいに近付いた。俺に気付いたのか、手を振ってこっちに向かっているみたい。
メートさんと合流できた。でも、ラキがいないようだ。メートさんに聞けばわかるかな。
「あっ、エリさん!ここの買い物は終わりましたか?」
「はい終わりました。メートさん、すみませんがこの肉も門まで持っていってくれませんか?俺じゃとても持てなくて」
そう言うと、メートさんがニコっと笑って頭をなでてくる。なんだか、温かい気持ちになってきた。
「お安い御用ですよ。これからも頼ってくださいね。肉屋さんも、ここまで持ってきてくださってありがとうございます」
「おう、メートじゃないか!お前さんの活躍は聞いてるよ。まあ、このくらいどうってことねぇからな。じゃあな嬢ちゃん、また来てくれよ」
こくりとうなずく。お金が溜まったらまた行こう。
メートさんがなでるのを止めて俺の足元を見た。俺としてはなでられるのが終わって、少し残念だなって思った。あっ、ラキのことを思い出した。
「エリさん、ラキさんは一緒じゃないのですね?」
「そうだよ。その様子だとメートさんもわからないかー。全くどこに行ったんだ?」
「それがわかれば良いんですけどね。私にも見当がつかないですよ」
「うーん、どこか行きそうな場所か」
首をかしげて顎に手を当てて考えてみる。ラキって猫に近い種族だから、猫といえば魚のイメージがあるけど、どうなんだろう。
他に思いつくところがないし、とりあえず行ってみるしかない。
「メートさん、もしかしたらなんだけど……」
「そうですか。では行ってみましょう」
ということで来ました、魚屋さん。ここも広いな、ショッピングモールかよ。ここからラキを探すとか大変過ぎない?
大きい荷物はメートさんが持ってくれています。俺だけだったら家まで持って帰れないよ。本当に感謝。
俺も片手に買った野菜が入ってる袋を持っている。だけど、メートさんほどの重量じゃないので持てた。これ以上持つのは難しいかな。
荷物の話はこのくらいにして、手当たり次第にラキを探すしかないよね。
なんだ、あれ?やけに人が集まっている。何をしているんだろう。メートさんに断って見に行く事にした。
人だかりをかき分けて見てみると、そこには大きな魚がいた。何の種類かわからないけど、もしかして解体ショーみたいなものをするつもりなのかな。
何気なく、足元辺りを見る。ラキがいた。えっ、ちょっと待って。簡単に見つかったんだけど。
勘違いかと思って二度見したけど、あの首に巻いてある布は間違いない。ラキだ。しゃがんで声をかける。
「ラキ、ここにいたんだね。探したんだよ。買い物は終わったから、もう帰ろう?」
『待ってちょうだい、エリ。この魚はとても美味しいの。せめて一口だけ食べさせてほしいわ』
美味しい魚なんだ。それを聞いてお腹が減っている事に気付いた。もうそろそろ、昼飯の時間だよな。ついでに食べてもいいかもしれない。
その場でラキが食べるから、荷物にはならないと思うし丁度いい。俺は出店かなんかを探そう。
でも、値段がなー。怖いんだよ。金貨一枚と銀貨七枚くらいだから、あっという間になくなりそう。魚も値が張りそうだからね。
解体するから、その分安くなると信じるしかないかな。
「わかった、買えそうな値段なら買う。でも、値段が高いやつは買えないからね」
「あと、この魚丸ごとは買えないけど、一部だけなら買えると思うからそれで我慢して」
『流石エリ、わかっているじゃない!丸ごと食べられないのは残念だけど』
ラキに納得してもらったところで、魚の解体ショーが始まった。頭や腹を切り分けていくのがこんなにも迫力がある。
魚自体が大きいことも理由の一つだと思う。だけど、手際よくさばかれていくのにも凄さを感じた。
しばらくして解体ショーが終わり、小分けにされた切り身が売られていく。大きめの切り身だと金貨一枚はかかるから中くらいの切り身にしておこう。
銀貨七枚を支払って、中くらいの切り身を買った。ついでに生でも食べられるか聞いてみようかな。多分ダメだと思うけど。
「すみません。これって生食できますか?」
「嬢ちゃん、この魚は最新の冷凍魔法が使われている船で運ばれてきたものなんだ。生食でも十分食べられるぞ!ただ、皆は生食を怖がっているんだがな」
「そうなんですね。ありがとうございます」
意外なことに生食でも食べられるらしいし、ちょっとラキの分もらおうかな。これでここに用はなくなったから、メートさんと合流しよう。
「ほら、魚もちゃんと買ったから。ラキ、メートさんのところに行こう」
「わかったわ。あとで魚食べさせなさいよ?」
「もちろん、そうするつもりだよ。俺もお腹空いてきたから、何か食べたいな」
「じゃあさっさとメートのところに行きましょう。魚も早く食べたいから」
俺たちはメートさんがいる場所まで小走りで行った。早く昼飯が食べたかったからなんだけど。
メートさんのところに着いて、ラキが見つかって魚を買ってきたことを話す。ついでに出店がどこにあるかを聞いた。
どうやら、商店街の近くに出店が集まっている場所があるみたいだ。早速みんなで向かうことにする。
いっぱい出店があるな。初詣かなってぐらいあちこちにあるから、圧巻だ。
食べ物はどんなものがあるかな?良い匂いがする方に向かって行くと、焼き鳥みたいに串に肉が刺さっている出店を発見。串焼きって言うのかな。
メートさんに言って近付いてみる。
「おや、もしかして買ってくれるのかい?」
「はい。三本お願いします」
「三本だね。全部で銅貨三枚だよ。熱いから気を付けな」
銅貨三枚を渡し、三本受け取る。美味しそうだ、よだれが出そう。お礼を言ってから、みんなのところに戻る。
今思ったけど、人間用のご飯をラキやメートさんに食べさせて良いのか?買ったあとに気付いた時点で遅いんだけどね。これはちゃんと聞いておかないといけない。
「今更なんだけど、ラキやメートさんって人間の料理食べても体に悪影響があったりするの?」
「そうですね。特にはないですよ。強いて言えば、気に入って料理を食べたくなるくらいですかね。なのでラキさんに気にせず渡してあげてください」
「そうなんだ! じゃあこれはメートさんに買ってきたので、食べてね」
「ありがとうございます。では、いただきます」
一本をメートさんに渡して、もう一本はラキの口元に持っていてやり、いただきますを言う。
流石異世界だな。タマネギとかチョコとか食べても平気なんだと思いながら、俺の分をかじりつく。
うん、牛肉の味がする。味付けは塩のみ。シンプルだけどそれが良い。この肉はブホルの肉なのかな?味もあんまり違わないから、そのまま牛肉の代わりに使えるね。
『なにこれ、美味しいじゃない。火で焼くだけでこんなにも変わるものなの?』
「焼くだけじゃなくて、塩で味付けされているんだよ。他にも色々味があって食べ比べしても楽しいよ」
『そういうものなのね。塩以外にどんな味があるのかしら?』
「んー、そうだなぁ。醤油とかソースとか味噌とかかな、他にも色々あるけど」
想像したら、少し食べているはずなのにお腹が空いてくる。ゆっくり食べるつもりだったけど、空腹に耐えられずに急いで食べた。
串焼きにしては肉の量が多かったけど、一本じゃ足りない。違うものも食べようかな。でもそれはラキが食べ終わった後にしよう。
ゴミ袋代わりに適当な袋を出して串を入れる。近くにゴミ箱があれば良いんだけど多分ないから、持ち帰って捨てるか。
『ショウユ、ソース、ミソ? 何の味なのか分からないけど、今度食べさせて』
「家に帰ったら、準備できるよ。丁度いいのをもらって来たから、楽しみにしてて」
『そうなのね。楽しみだわ』
調味料の実があのくらいあれば、色んな味付けできるからしばらくは大丈夫かな。
そう聞いてラキが幸せそうに一口ずつ噛みしめて食べている。それを見ると速くしてって言えない。よほど楽しみなんだろうな。
そういえば、魚も買ったんだった。ラキの分から一口もらって食べようか。
「ラキ、魚ちょっともらうね。いい?」
『良いわよ。食べなさい』
「ありがとう」
ラキから許可をゲットしたから、魚を食べちゃうぞ。袋から切り身を出してって片手で出すのが割と大変。よし、なんとか出せた。
チラッとラキの方を見ると、俺が手こずっていた間に食べ終わったみたいだ。ラキの食い終わった串をゴミ袋に入れる。やっと両手が空いた。
ラキの熱い視線を浴びて魚を一口食べる。美味しいな。マグロの味がする。醤油が欲しくなるね。もう一口いこうとしたけど、ラキの分だから止めておこう。
「俺の分は食べたから、どうぞ」
『もっと食べなくて良いの? でもさっき食べようとしていたわ』
「それはそうだけど、元々はラキが食べたくて買ったわけだから、別に食べなくていいよ」
「そうなのね。じゃあ気にせずに食べようかしら」
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