第8話 街で買い物
メートさんについて行くように、街の入り口に戻ってきた。
改めて街の方を見ると、それなりに高い壁がそびえ立っている。地震が起こったら、被害が確実に出そうだね。少し見当違いな考えだなと笑ってしまった。
「お医者様、壁を見ている場合ではないですよ。初めて、街の中に入るのには手続きが必要なんです。時間がかかるので早く済ましてしまいましょう」
「はーい。分かったよ。でも、お医者様って呼ぶのは変に思われるから、エリって呼んで」
「そうですね。エリさんと町では呼ばせてもらいます。では手続きをしに行きましょう」
メートさんに連れてこられたのは、行列の最後尾。割と、人が並んでいて俺たちの番になるのは大分かかりそうだ。そういえば、手続きって何をするんだろう。
「メートさん、手続きって具体的に何をするんですか?」
「基本的には、犯罪者かどうかの判断があるんですが、初回の場合は登録する為の身分証明をしないといけません。私が初めて街に入ろうとした時は大変でしたよ」
身分証明か、そんなの持っていないね。もしかして俺だけ、街に入れないなんて事があるかも。その時はラキに任せるしかない。
「身分証明する物がないんですけど、俺大丈夫ですかね……」
「私が代わりに証明しますので、平気ですよ。その様子だと、お金も持っていないでしょうし少しあげます」
メートさんから、お金をもらった。これは十円玉にそっくりな色だから、これは銅かな。あと銀色と金色があるけど、そのまんま銀と金なのか?よく分からない。
それぞれ五枚あるけど、どれがどのくらいの価値があるか分からないな。知ったかぶりして損するのも嫌だから、素直に聞こう。
「メートさん、ありがとうございます。申し訳ないんですけど、これってどのくらいの価値があるんですか?」
「銅貨は一枚でパンが買えます。銀貨は銅貨の十倍で、金貨は銀貨の十倍です。もっと細かい通貨もありますが、基本的にはこんな感じですね」
という事は、銅貨が百円ぐらいで銀貨が千円、金貨が一万円。あれ、俺普通に良い額もらっている事になるな。それを簡単に渡せるメートさんはお金持っている方だよね。
なんか凄い
いつまでもメートさんにお世話になるのは駄目だからね。ヒモになる予定は今のところない!持ってきた物がお金になると良いんだけど。
メートさんと話していると、思ったよりも早く俺たちの番になったみたい。ドキドキしながら、受付っぽいところに入る。
中には男が二人居た。二人はメートさんを見るなり、ちょっとびっくりしている。メートさんってひょっとして有名人?
「……おい、あんた。もしかして、あのAランクのメートなのか?」
「そうですよ。でも、あまり騒がないでくださいね。この子が驚いてしまうので」
Aランク?よく分からないけど、凄いんだろうな。だからかな、やたらとメートさんに視線が集まっていたのって。
ただ単に、独創的な服のセンスのせいかなと考えていたんだけど。違ったのか。
「あっはい。すみません。それで、今日は何の要件で来たんだ?」
「この子の登録をお願いします。訳アリで、私が引き取る事になったんです」
「分かった。そういう事なら詮索はしない。で、その猫はペットか?」
「はい。そうです。この子に懐いてまして、離そうとすると怒られるんですよ」
ラキが怒ってる。ヤバい。なんとかして止めないと。背負っていた袋を下ろしてラキを抱きかかえて、小さい声で街の中に入ってから文句言ってと言う。
解せない、と言わんばっかりに、しかめっ面をしている気がする。ごめん、ラキ。これ以上ややこしくすると、メートさんが大変になるから、許して。
俺が申し訳なさそうな顔をしていたおかげか、ラキが仕方ないと暴れるのを止めた。良かった、ここで面倒事を起こしたら、変な覚えられ方をされてしまう。
「申し訳ないんだが、その猫は街に入れない。外で待ってもらう事になる。いいな?」
ひと安心だ。そう油断していたせいか、男が言った事に俺は動揺を隠しきれない。ラキが駄目ってなんでだよ。
見た目は普通の猫にしか見えないはずなのに。何がいけないんだ!でも、メートさんは全然動じてない。何か考えがあるのかな。
「それはこの状態だからでしょう?この布を付けるので、猫も通してください」
「ああ、それなら問題ない。一応、言っておくがその猫が問題を起こしたら、お前の責任になるから、気を付けろよ。ほら、通って良いぞ」
えっそれだけ付ければ、問題ないの?厳しいんだか、緩いんだか分からないな。何はともあれ、ラキも入れるようになったし、忘れないうちにラキの首に巻いておこう。
「分かっています。じゃあ行きましょうか」
こくりと頷き、受付の男たちに軽くお辞儀をする。手を振られたので振り返してメートさんのあとを追った。
入ってから少し離れた場所に来ると、ラキが文句を言う。
『メートの分際で、私を猫扱いするなんて許さないわよ。今すぐ訂正しなさい!』
「あの場で事実を言うと、しばらくは身動きが出来ないので訂正はしません。何せ人というものは珍しい物が大好きですから。大勢の人があなたのところへ押し寄せる事になります。それでも良いんですか?」
ラキの耳がへにゃっとなる。確かに、メートさんが言っている事は間違いじゃない。ラキにとっても人が嫌いだろうから、文句を言うに言えなくなってる。
ラキがそっぽを向いて悪かったわねと反省しているみたいだ。メートさんも、あらかじめ言っておかなかった私も悪いのでこの話はお終いですと言った。
「それで、次に行く予定の市場ですが、かなり人が居ますのではぐれないように気を付けてください。もし迷子になった時はここに戻ってくる事で良いですね?」
「分かりました。あの、さっきの人たちが言っていたAランクってなんですか?」
「それはですね……」
メートさんの説明を要約すると、冒険者ギルドという物があって、そこのランクがある程度あるとあんな感じで有名人扱いされるんだとか。
冒険者になると、初めはEランクの認定をもらえる。それからD、C、B、A、Sと上がっていく。ちなみにAランクになるには、才能と物凄い努力が必要らしい。
依頼をこなしていって、一定のポイントを超えると昇格試験があって試験をクリアすればランクが上がる仕組み。
俺もやってみたいけど、人と関わる事が増えるだろうし、俺には向いていないかな。
そうなると、メートさんもやっぱり規格外なんだね。Sランクもなれそうだけど、どうしてならないんだろう?
メートさんにその事を聞いてみると、Sランクは規制が厳しくて、とてもじゃないがやりたくないんだそう。
なんでも国の呼び出しに応えたりとか、緊急事態の時に応援に駆け付けたりとかしないといけないらしい。その分待遇は良くなるんだけど。
うん。面倒くさいね。そこまでしてSランクになりたくない。
そういえば、木の実を買い取ってくれるところを探さないと。メートさんに聞いてみるか。背負っている袋を下ろして、メートさんに見せる。
「メートさん、これを買い取ってくれそうな場所を知ってますか。知っていたらそこにも行きたいんです」
「これですか、あそこなら問題ないでしょう。買い取りの方を先に行きますよ」
「ありがとうございます」
はぐれないようにメートさんのあとをついて行く。人が多いから、人酔いしそう。なんとか耐えて着いた場所は、他の建物よりボロボロな建物。
なんの建物なんだろうか。さっぱり分からない。
メートさんが平然と中に入っていく。俺もドキドキしながら入る。
中は普通の居酒屋みたい。酒を飲んでる人もいれば、張り紙をじっと見ている人もいる。独特な雰囲気が漂っている気がするね。
メートさんに声をかけられて、そこに行くと受付があった。受付のお姉さんのところに連れてこられると、この人が買い取ってくれるよとメートさんが言う。
「あの、この袋の中身を買い取ってください。お願いします」
「勿論良いわよ。中身を見せてくれるかしら?」
「はい。これで全部です」
「シュタの実六個、カエンタケ一個。少し待っててくださいね。換金してきますわ」
お姉さんがどこかに行く。どのくらいの値段になるんだろう。楽しみだな。
待ち遠しくてそわそわしていると、メートさんから落ち着きなさいと言われてしまった。なんだかんだで自分で稼いだお金って貰った事がないから、落ち着いていられない。
そしてお姉さんが戻ってきた。
「さっきの物を換金したのが、こちらになります。どうぞ受け取り下さいね」
袋を渡されて中身を取り出してみると、金貨一枚と銅貨六枚だった。シュタの実一個が銅貨一枚なのかな。そうするとカエンタケが金貨一枚!?
正直売れないと思っていたのに、ここまで化けるとは。凄いな、カエンタケ。
「あの、カエンタケってなんでそんなに高いんですか?」
「そうね。辛いのが好きな人たちが、どれだけ辛く出来るか挑戦しているらしいのよ。そのせいで香辛料がいつもより高いの。だからその値段なのよ」
「そうなんですね。教えてくださりありがとうございます」
辛い物好きか。どんだけ辛さを追い求めているんだろ?まあ、俺には関係ない事かな。袋も回収しておこう。これで忘れ物はないかな。大丈夫そうだね。
「買い取りはもう終わったので、市場に案内お願いします」
「良いですよ。次はこっちの方面です。迷子にならないように気を付けていきましょう」
再びメートさんのあとをついて行く。人混みにもまれながらも、着いた。
これが市場なんだ。賑やかで楽しそうな雰囲気がある。商品を何故か投げている場所、見世物でお金を貰っている人、泥棒をしている人。いろんな人がいるな。
「まずはここです。野菜を売っているところです。新鮮で美味しい野菜がいっぱいあります。ここの買い物が終わったら言ってくださいね」
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