第7話 ドラゴンとの遭遇

 俺はこくりと頷いて近くの木の陰に隠れる。


 ラキにあのドラゴンについて聞きたかったんだけど、そう言ってる場合じゃないね。忘れてなければ、あとで聞こう。


 足音らしき音が響き渡る。ドラゴンって結構大きいから、体重もずっしりしてそうだ。今思った、この近さじゃ戦いに巻き込まれる。


 まだドラゴンとの距離があるから、すぐに移動すればワンチャンあるかな?でもそういえば、あのドラゴンめっちゃ速かった。それこそ目に見えない程のスピードだ。


 下手に動いたら、られるんじゃね?ラキにぶっ倒されたのを覚えているなら、逆恨みみたいなのでストレス発散にされるかもしれない。


 クソ、手も足も出ない。大人しく、震えながら何事も無い事を祈ろう。


 ドラゴンがゆっくりと歩いてきて、ラキの前で止まった。何かするのかと思いきや、攻撃はしなかった。


 代わりにラキに頭を下げる。



『ライハイト、この前は済まなかった』

『ふん、謝るぐらいなら、さっさと私の前から消えなさい。二度と会わないでと言ったのを覚えてないのかしら?』

『覚えている。だが、どうしても謝罪だけはしたかったのだ』



ちらりと俺の方をドラゴンが見た。すぐにラキの方に視線が戻る。


 はあ……。急にこっちを見てきたから、びっくりする。脅かすのは止めてくれよ。心臓に悪い。






 謝罪ねえ。そんなもの聞く気にもならないから、早くどこかに行ってほしいのだけど。さっさと何処か行きなさいよ!


 体を邪魔にならない程度に大きくさせて、近付いてコイツの手を掴もうとした。だけど、躱される。コイツ、前とは少し違う?


 ……。仕方ない。謝罪を聞きましょうか。ただし、適当なものだったら、今度はただじゃおかない。



『それに、あの人間も近くにいるのだろう?重症の我を助けてくれた事を感謝しにきたのだ。大勢の人間たちとは関係がないと分かっていたのだが、それを認める余裕が前の我にはなかった。本当に申し訳ない』

『許してくれとは言わぬ、せめて罰を下してくれ。頼む』



罰?ふざけるんじゃないわ。間違いでも、私が居なければエリは確実に死んでいたのよ?殺して間違いだったからで、生き返るとでも考えているのかしら。


 頭がおかしいんじゃないの。やっぱりコイツはとっとと、この場から消した方が良い。飛ばしてしまおうと考えた時に、エリが木の陰から出てくる。


『何やっているの、エリ?コイツは私が相手するって言ったでしょ』

「ごめんね、ラキ。どうしてもこのドラゴンに伝えたい事があるんだ。許して」



思わず、ため息が出た。そんな事言われたら、大人しくするしかないじゃない。


 とは言っても、コイツが何しでかすか分からない。エリに手出しされそうになったら、絶対に守らないと。


 ジッと睨みつける。どんな行動も見逃さないように。






 ラキがかなり警戒している。無理も無いよね、だってそうさせちゃっている俺が原因なんだから。それでも俺はドラゴンに言いたいんだ。あとでラキに優しくしよう。



『それで我に言いたい事とは?』

「えっとね、俺もいきなり殴ったから、お相子だよ。許す、許さないは無し。だから罰も無いからね。それとお願いなんだけど、俺とラキを町の近くまで運んでほしい」

『分かった。運ぶのはやろう。だが、あの程度の攻撃では我は傷一つ付かない。お相子にはならないぞ』



えー、そんな事言われても困るよ。確かに俺の攻撃と言って良いのか分からないけど、ドラゴンにとってはかすり傷にすらならない。


 だけど半ば八つ当たりでも、攻撃したのは確かなんだ。いくら弱い攻撃でもされる方は良い思いをする訳がないじゃん。


 そう思ったから、お相子にした訳なんだけど。これは伝わっていなかったみたいだ。俺の説明力が無かったのが問題だね。頑張って伝えてみよう。


 という事を俺なりに頑張って言ってみた。だけど、それでもドラゴンは頑なにそれでも我の方が悪いと言って聞いてくれない。どうすればいいんだ……。


 はっ良い事を思い付いた。そんなに罰が欲しいなら、移動手段として使ってやろう。それなら、俺が移動したい時に便利だし、ドラゴンは罰を受けられる。


 一石二鳥だ!多分。よし、早速言ってみよう。拒否権はない。これは罰だから。



「それなら、俺が何処かに出かけたい時に、背中に乗せて運んでよ。遠い場所に行きたい時に呼ぶから。ただの送り迎えじゃ済まないから覚悟してね」

『……だが、その程度では大した罰にはならないぞ?』



罰、罰、言ってるんじゃねえ!どんだけ、罰が欲しいんだよ。このドラゴンはドMか?あいにく、俺はSではないんだよ。喜ばせるほど重い罰なんて考えたくも無い!



「罰になるか、ならないかなんてどうでもいいんだよ。やる気があるのかって聞いてんだ。どうなんだよ?」

『分かった。やろう』

「決まったな。じゃあ早速、あの方向にある町の近くまで送ってくれ。メートさんを待たせてるんだ」

『あの方向だな。承知した。では背中に乗ってくれ』



俺たちは屈んだドラゴンに乗って、落ちないようにしがみつく。その時俺は思った。スピードをゆっくりにしてと頼んでいないから、物凄い速度を出されるんじゃないかって。


 話しかけようとしたけど、ドラゴンが羽ばたき始めて風圧が強いから、話せるどころじゃなくなってしまった。これはもうどうにも出来ない。


 あっちに着く頃に、大変な事になっていなければ良いな。そんな希望を抱いてドラゴンは移動し始める。勿論、ありえない程の速さで。


 ……死ぬかと思った。あのスピードじゃ風圧が強過ぎて、息がほとんど出来なかったよ。


 今度はちゃんとゆっくり進むように言おう。そうじゃないとマジで俺死んじゃう。長時間飛ばなくて良かった。軽い酸欠が起こっている気がする。


 体中で飛ばされないようにしがみついてたから、もうしばらく力が入らない。メートさんを待たせているのは分かるんだけど、この状態では動けないよ。



『エリ、大丈夫?じゃなさそうね。エリが復活するまで、休憩しましょうか』



声を出す気力も無いので、頷いておいた。



『貴方は良いと言うまで動かさないで』

『承知した。それにしても、この速さで人間は耐えるのが大変なのか。これでも遅くしたつもりだったのだが』



あれで遅くした方なの?マジかよ。やっぱり少しは鍛えた方が良いかな。たかが知れてるかもしれないけど。



『それは違うわ。エリが特段弱いだけよ。他の人間は普通に追いかけてきたわ』

『そうなのか。ではかなり遅くしなければいけないな。移動する度に疲れさせるのは駄目だ。それでは罰を与えている事になってしまう。受けているのは我だというのに』



ラキの言い方が突き刺さるね。というか、この世界の人間はどうなっているんだ。あのヤバいスピードで追いかけられるって。鍛え方が尋常じゃない。


 ドラゴンの言う通りだね。確かに強めの罰ゲーム受けている気分だったよ。数秒で終わって良かった。


 それから俺の体力が回復するまで、ラキとドラゴンは話続けている。時々ラキが棘のある言い方をしていたけど、そこまで険悪な雰囲気じゃなくなって良かったよ。


 険悪なままあっちこっちに行く事を考えたくはないかな。間に入る俺の方が疲れそうだし。


 そんなこんなで、やっと俺復活!ちゃんと体に力が入るようになったし、これでメートさんのところに行ける。


 ドラゴンの背中から降りて、地面に着地。ドラゴンの背中で休んでいたせいか、体が強張っている。街を歩いていたら自然に治るかな?


 少しでも強張りを無くす為に、体を動かしたり伸ばしたりしてみる。ちょっとは軽くなった気がした。



「準備完了。もう行けるよ。そういえば、ドラゴンは町に行くの?」

『我は行かん。お前には感謝したが、他の人間と関わるのはごめんだ』



ドラゴンも人間に攻撃されていたんだった。すっかり忘れてたよ。確かに行きたくはないだろうな。多分、この街の人のほとんどは無関係だと思うけど。



「そっか。じゃあ悪いけどここら辺で待っててね。帰りもお願いしたいから」

『ふん、仕方ない。気長に待つとしよう』

「ありがとう。じゃあ、ラキ。行こう」

『そうね。行きましょうか。せいぜい人間に襲われないように注意しなさいな』



ラキ、行き際になって煽ってどうするんだ……。ほら、ドラゴンも唖然としているじゃないか。


 これは早く移動した方が良いかな。もう一階、ラキに声をかけてこの場から離れられた。ドラゴンが怒っていないと良いんだけど。ちょっとした不安を抱える事になった俺だった。


 メートさんが居そうな方向が分からないから、適当に歩いていると不思議な人を発見した。なんと言うか、着ている服のセンスが独創的だな。


 そんな人と目が合った。思わず、後ずさりしてしまったけど、これじゃあ駄目だと思い直し、動じない振りをする。


 何を思ったのか、その人が近付いてきた。えっ俺、なんか悪い事したの?目を合わせたら、何かする決まりでもあるのか?


 動揺を抑えきれずにちょっと挙動不審になる。いつの間にかその人が目の前にいた。その事にびっくりして、脳内でパニックになりかける。


 更に追い打ちをかけるように、待っていましたと言われ、街の入り口から遠ざかるように連れて行かれてしまった。頭がパニック状態で、とにかく訳が分からない。


 ちょっとだけ落ち着いて、とりあえず誰なのかを聞かなければ。恐る恐る聞いてみる。



「あ、あの、申し訳ないんですけど、何方でしょうか?」

「あっ、この姿じゃ分からないですよね。私です、メート族の私ですよ。お医者様」



マジですか。メートさんってこういうデザインの服好きなのか。意外だな。


 というか、ラキが反応しなかった時点で、知り合いの可能性があったね。多分。知らない人間なら目を離そうとしなさそう。


 あくまで想像だから、実際はどうなのか分からないけど。



「えっ……本当にメートさんですか?ごめんなさい。全く分からなかった」

「分からない方が、何かと都合が良いので構いません。では、早速街の中に行きましょう」

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