第6話 人間の町を目指す

 ラキの邪魔にならないぐらいまで離れて、大きくなるのが終わってから背中に乗る。そして家にレッツゴー!


 もふもふって素敵だ。嫌な事も忘れさせてくれる。そう油断していたのが間違いだったのだろうか。


 ラキが何故か猛スピードで家に向かっていく。正直言って、そのスピードに耐えるのが大変過ぎて家に着いた頃には、立つのもやっとな状態になっていた。


 もう、もふもふを楽しむどころか、しがみつくだけで精一杯。よく耐えられたな俺。足がガクガクなところにやってきたのは、メートさんだった。



『さっき振りですね、お医者様。この建物の入口と思われる場所にお礼を沢山置きましたので、良かったらお使いください』

「ありがとう。でも医者という言葉を知っていたの?」

『おや、知りませんか?私たち魔獣は人間に化ける事が出来るんですよ』



マジか。人間に化けられるの!という事は、町に行こうと思えば行けなくもないんだ。そもそも魔獣ってなんなのかも知らないけど。


 魔獣というものにラキが入っているなら、ラキも人間になれちゃうんだ。ラキが人間に変身したら俺はどう思うんだろう。拒否反応が出るかな、それとも平気なのか。


 拒否反応は自分でも抑えが効かない。それでラキが傷付いたら、嫌だ。


 それに今は解決しないといけない問題はあまりないけど、いつかは人の町に行く時がくる。


 前は家族が手助けしてくれた。でもこれからは一人で買い物とか手続きとかする必要が出てくる。普通の人なら、平気なんだろう。普通じゃない俺は平気な訳が無い。


 人に対する嫌悪感は、怒りや逃げたい気持ちでいっぱいだ。目の前に人がいて、あの時と同じ反応されたら、きっとおかしくなる。


 いまだに俺は俺を信じ切る事が出来ない。



『えっと、大丈夫ですか?おーい!私の声聞こえています?』



メートさんに声をかけられて、ハッとする。いけない、暗い方向に考え始めていた。気を取り直して話を聞こう。



「ごめんなさい。ちょっと考え事をし過ぎてた。申し訳ない」

『別に良いですよ。その様子では、魔獣の事を良く知らないと思うので説明しますね』



メートさんの話を簡単に言えば、言葉を使って意思疎通が出来る動物らしい。やっぱりラキも魔獣になるんだ。そっか。



「魔獣については分かったけど、そもそもなんで人間の事を良く知ってるの?」

『それは人間の町に時々行っているからですね。色々なお店があって食べ物の種類も豊富ですから。行く度に変化があって毎回楽しいですよ。一回でも行ってみてください!』



メートさんにとっては楽しい場所なんだろうな。流石に木の実と干し肉だけだと、栄養バランスが悪いからそろそろ行かないと駄目だよね。


 背に腹は代えられないし、野菜とか肉とか買いたい。そういえば冷蔵庫あったっけ?無いとまとめ買いしても、腐っちゃうよね。あとで探そう。


 どうせなら、メートさんについてきてもらえると、幾分か楽になりそうだから聞いてみよう。一人よりは平気になるはず。駄目だったら、覚悟して行こう。



「その内行くと思うから、案内してもらっても良い?無理にとは言わないんだけど」

『良いですよ!是非、その時はお呼びください。私がなんでも教えます!』

「ありがとう。頼りにしてるね」



ふと考える。後日買い物行くより、今から行ってしまった方が気が楽なんじゃないかと。メートさんには迷惑をかけるけどね。



「その内と言っといてあれなんだけど、今から行く事ってできる?早めに買っておきたい物があるんだ」

『そういう事なら、お任せあれ!少し準備をする時間があれば問題ないですよ!それでは準備してきますので、しばしお待ちを』



早速、メートさんは準備しに行ってしまった。相変わらず、行動力があるひとだ。それにしてもあんなに速く走る必要があるのかな?不思議に思う。


 ラキは町に行く気があるのかを聞いておこう。人間が苦手だから行かないって言うかもしれないけど。



「ラキは人間の町に行く?」

『どうしようかしら。正直行きたくはないわね。人間の住み家なんて行ってもしょうがないし。でも、エリは行くつもりなんでしょう?』



こくりと頷く。あまり人には会いたくないけど、会わざるを得ない。俺にサバイバル知識があれば、行く必要は減るんだけどね。


調味料があれば料理もしたい。そのまんまじゃ、いつかは飽きるからちょっとでもバリエーションを増やす事が重要だ。



「そうだね。森にある物でやりくり出来れば良いんだけど、俺はそういう経験や知識が無いから、どうしても行く必要があるんだ。残念だけど」

『そうなの。私も一緒に行くしかないわね。今回私は人間には化けないで行くから。そこは分かってもらえると嬉しいわ』



ラキはいつもの姿で行くみたい。これで人間の姿で行くなんて言い出したら、色々大変な事になるところだった。


 俺の服は着ている物だけだし、新たに作る事も出来ないから。実質詰みって奴だね。今回はこれで良かったな。


 うん?そういえば、俺金なんて持ってないな。何か持っていって金に交換してもらうしかない。メートさんに聞けば、どれが一番金になるか分かるかな?


 とりあえず、家にある物で持っていけそうな奴を探すか。



「ラキ、俺は探し物してくるから、メートさんが来たら待っててって伝えといて!」

『分かったわ。でも急ぎ過ぎて怪我しないようにね』



ここで怪我していたら、ただでさえ辛い買い物が更に大変になるのは、目に見えて分かっている。いつも以上に気を配ろう。怪我をしないように。



「気を付けるー!」



俺は周りをちゃんと見ながら、駆け足で家の玄関に行く。そこら辺には山積みになっている様々な木の実があった。メートさん、どんだけ持ってきてるの……。


 思わず呆れてしまう。はっ!呆れている場合じゃない、お金になりそうな物を探さないといけないんだった。お礼としてもらった木の実を売るのは止めておこう。


 木の実と建物の間になんとか入り込み、ドアを開ける。少しの隙間が出来た。外開きだからあまり開かないんだ。忘れてたよ。


 仕方ない。木の実をどかそう。建物側にある木の実を運んで、離れたところに置く。


 それを繰り返して何十往復したんだろう。やっとドアに俺が入れるまで開く事が出来た。良かった、良かった。早速家に入る。


 持っていけそうな物と言えば、木の実ぐらいしかないよね。確かこの辺にあったはず。あった、あった!シュタの実とカエンタケ。


 シュタの実は数え切れないほどあるし、カエンタケについてはいつ使うのかすら決まってない。だから、持っていっても良いと思った。


 ポケットから袋を取り出して、詰めていく。シュタの実は六個、カエンタケは一個持っていく事にする。合計二袋になった。その場に袋を置いて後は冷蔵庫の確認だ。


 階段を上り、部屋に入って冷蔵庫っぽい物があるか探す。普通にあったね。でも思っていたよりもただの大きい箱みたいだな。


 こんなので大丈夫か心配になるけど、文句を言っていても仕方ない。中はどのくらい入るんだろう?開けてみると、割と大容量だった。


 いっぱい入るなら、あまり量を気にせず買えるね。良かった。冷蔵庫の確認も済んだ事だし、さっさとラキとメートさんのところに行かないと。


 部屋を出て階段を下りる。袋を持って外に出た。待っていると思うラキとメートさんのところに向かう。



「ごめん、これでも急いだ方なんだけど待たせた?あと、メートさんお礼ありがとう」

『大して待ってないから大丈夫よ。そうよね、メート?』

『ライハイト殿の言う通りです。礼に関しては感謝の気持ちですから、好きに使ってください』

「それなら受け取らない訳には、いかないね。本当にありがとう。助かるよ」



走ってきたので、少し休ませてもらった。ある程度休んだので、もう大丈夫な事を伝える。ラキがもっと休まなくて平気なの?と心配してくれた。


 だけど、問題ないよって言い、ラキが納得するまで言い続けて、やっと出発する事になる。



『それでは出発です!こっちの方向に人間の町があります。ついてきてくださいね』

「はーい!」『ええ』



ふと、なんだか嫌な予感がしてきた。今からメートさんに全力とはいかなくても、俺から見たら十分に速いスピードで走られたら、ついて行くのが無理。


 それは流石に分かっているとは思うんだけどね。すっかり忘れていない事を信じるしかない。


 ドキドキしながらメートさんが動くのを待っていると、辛うじて動くのを確認できる速度だった。あっという間にメートさんは見えなくなる。


 案の定って奴だ。全く、方向を教えてもらっていなかったら、即迷子になるところだよ。これ。


 おいてかれてしまったのは、どうにも出来ない。なのでラキに聞いてみる。



「メートさんはちゃんとあの方向に行ってた?」

『私が見える範囲だと、そうだったわね。ここで突っ立てても仕方ないし、追いかけてみましょうか』

「そうだね。メートさんが町に入る前に気付いてくれると良いんだけど」



少し不安になりながら、メートさんが消えていった方向に歩いていく。まあ家の周りはすべて木に囲まれているから、どの方向でも森に入る事になるんだけどね。


 森を何分か歩くいていると、ラキが急に止まってと言った。びっくりしながらも止まる。



「どうしたの、ラキ。なんかあった?」

『あまり大きな声を出さないで。アイツがいるわ。よりにもよってなんで今なのよ……』



ラキがそこまで言う相手って誰か気になって、見ているその方向を見る。そこにはドラゴンらしき姿が見えた。ラキの反応的には、ラキが消したはずのドラゴン?


 もしそうなら、ドラゴンって不死なの?それは凄いね。憧れはしないけど。



『気付かれる前に、さっさと移動するわ。なるべく低い姿勢でついてきて』

「うん」



屈んで、ラキの後を追った。なるべく音を立てないように気を付ける。緊張感の中、歩き続けてラキがボソッと呟く。



『どうやら気付かれてしまったようね。エリは近くに隠れてなさい。面倒だけど相手をするしかないみたい』

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