第4話 素敵なものができた!

 ラキがやりやすくする為に、シュタの実を目の前に置いた。ラキは右手を上げて、素早くシュタの実目がけて下げる。


 俺に見える程度の速さだったから、手加減はしてくれているんだろうけど、床にヒビが入っている。


 これはやってしまった。頭を抱えていると、不思議な事に少しずつ床が直っていく。もしかすると、魔法の力なのかな。考えても分かんないし、放置という事で。



『なんで変な格好しているの?ほら、甘酸っぱくて美味しいわよ。それとも私が全部食べて良いのかしら?』

「はっ!俺も食べたい。ちょっとは残してくれてるよね?」

『ちゃんと取っておいているわ。そこまで食い意地は張っていないもの。はいコレよ』



渡されたシュタの実は綺麗に、真っ二つになっている。中身はグレープフルーツの赤い奴に似ている。柑橘類に近い匂いがして、美味しそう。


 そういえば、ラキの手ってどうなっているんだろうな。刃物でも付いている訳じゃないし。


 もしも爪でこうしたとなると、切れ味抜群どころじゃないね。もっと凄い何かだね、良い表現が思いつかないや。


 それは置いといて、シュタの実を食べよう。まずは一口。うん、グレープフルーツの味がする。でも所々にシャキシャキがあるね。


 この感じ、キウイフルーツの種を食べている時に似ている。って種は植えるのに使う予定だった!取り分ける為にも、皿とスプーンを持ってこよう。


 シュタの実片手に二階に行って、適当な皿とスプーンを持って一階に降りる。


 本当は箸があれば楽なんだけど、無さそうなんだよね。出来そうだったら、作りたい。種をすくって皿に移していく。


 これであらかた種は取れたかな。果肉もついてきちゃったから、あとで取っておこう。


 残った部分を食べる。流石に皮は食べなかったけど、食べられそうなところはちゃんと食べた。皮の部分も何かに使えるかもしれないから、捨てないでおこう。


 皮を腐らせないように、洗って日干しするか。種が入った皿とスプーンも一緒に、二階へ持っていく。


 まずはスプーンを洗って、元の場所に戻す。次に皮をサッと水で流しておく。最後に種についている果肉を、取っていって綺麗にする。


 皮の水気を切って、種を何個か持って、一階に降りて外に行く。家から少し離れているところに行って、間隔をとって種を二個ずつまいた。これでどれかが生えてくると良いな。


 家の近くに戻って、そこにもまいてみる。まいたら、水やりだよね。そうだ、皮をバケツの代わりにしよう。


 家に入って二階に行き、水を注いで零れないように気を付けながら、外に出て遠い方に水やりをする。水が無くなったから、家にくみに行って今度は近い方に水やり。


 水やりは終わったけど、皮を乾かす場所が無い事に気付いた。何処かに台みたいな物ないかな?家に戻って探してみる。


 すると、踏み台があった。外に持っていってその上に皮を置いた。これで良し。


 右手を庇って左手で色々していたから、だんだん疲れてきた。家に帰って休もう。なんとなく背伸びをしてから、家に入る。



「俺疲れたから、二階で横になってるね」



ラキは軽く尻尾を振って返事をした。俺も手を振り返す。見ていないと思うけど。二階の寝室に向かう。ベッドに入ってゴロゴロしてみる。






 ……はっ!いつの間にか寝てた。寝落ちしてたみたいだ。そんなに疲れてたっけ。


 でも朝から森を探索していたし、挙句の果てにはドラゴンとラキの喧嘩に巻き込まれそうになったね。まあ、喧嘩は俺のパンチでそうなったんだけど。


 あれ?半分ぐらい自業自得だ。やっぱり懲りてないね、俺。それでもドラゴンも非があると思うんだよ。


 第一、俺は異世界から来たばっかだから、こっちの住人と接点がまだ無い。それなのに共犯と間違われるのは、普通の人でも嫌がるだろ、多分。


 待てよ、ドラゴンからみると、人間の見分けなんてつかないよな。うーん、考えれば考えるほど、自業自得感が増してきた。これ以上はもう考えなくて良いや。


 右手の調子はどうだろう。動かしてみるか。右手を閉じて開いた。動かす度に痛むね。さっきと全然変わってない。


 早く治らないかな。利き手を怪我すると何するにも大変だよ。思わずため息をつく。治るのに何日かかるかな。今日だけで治ったら良いのに。



『手をそんなに見つめてどうしたの。何かあった?』

「あっラキ、居たんだね。気付かなかった。んーとね、手が早く治らないかなって考えていたところだよ。ラキ、気晴らしに撫でさせて?」

『それで気が済むのなら、良いわよ。好きに撫でなさい』



片手だけでガッツポーズをする。五十センチぐらいのラキをそっと撫でて、もふもふを楽しむ。あー、癒される。


 ラキのお腹をもふもふしたり、お腹に顔を埋めてみたりした。肉球を触らせてもらって俺はスッキリする。嫌な気持ちが吹き飛んだ。


 右手が痛くなくなるまで、出来るだけ動かさないようにしよう。そう考えて右手をグッと握りしめた。早速、動かしてしまったと思ったんだけど、痛みが走らない。


 どういう事だろう。もしかすると、治った?な訳がないよな。試しに手を開いてみる。痛くならないだと。


 とりあえず治ったと仮定して、何がきっかけで治ったのか、自分の行動を思い出してみた。だが、そんなのが起きそうな事は無かった。訳が分からないよ。


 ラキに聞いてみれば、分かるかな?



「ねえ、ラキ。手の怪我が治ったみたいなんだけど、何か理由分かる?」

『そうね、全く分からないわ。急に治ったなんて不思議な事が起こるなんてね』



ラキでも分からないんじゃ、打つ手なしだ。諦めよう。そういえばラキに、もふもふさせてくれたお礼を言ってないね。ちゃんと言っておこう。



「色々なところを触らせてくれてありがとう。大好きだよ、ラキ」

『礼だけ受け取っておくわ。それじゃあ私は一階に行くから』



言い終わったらそそくさと、寝室からラキは出ていった。やけに行動が早い気がする。一体どうしたんだろう?と首をかしげる。


 それに気持ちは受け取ってくれないのは、どうしてなんだろう。前に何かあったのかな。でも過度に過去を探るのは良くないよね。俺にだってそういうのあるからな。


 まあ、照れてるだけかもしれないし、そっとしておこう。ラキが照れるなんてそんな訳ないよね。






 私は出来るだけ自然に、あの部屋を出た。階段を下りる足が速くなる。階段から遠い部屋に駆け込んだ。それほどまでに私は追い込まれてしまったのよ。


 あの子ったら、何が「大好きだよ」だって?家族以外に言われた事すらないのに。恥ずかしげもなく、平然と言ったのよ、信じられないわ!


 言われた私が恥ずかしくなったわよ。全く、どうしてくれるの!しかも何故か嬉しく感じてしまうし……。あの子に絆され過ぎでしょ私。


 確かに、異世界から拉致されたらしい。だから、家族に会うのは絶望的だからって、家族を殺された私自身とそっくりに思ってしまったのは事実よ。


 でも、だからといって家族になりたいなんて、考えている時点で駄目じゃない。もっとお父さんとお母さんを見習って、しっかりしないとってそうじゃないわ!



「それで良いと思うよ?ラキはラキだから、ありのままで十分だ」

『……聞きたくないけど、聞くわね。エリ、いつから聞いていたの?』

「えっと『言われた私が恥ずかしくなった』だっけ、その辺からだね」

『最初の方じゃない!どうして言ってくれなかったの!』



エリが何かを考えるように、顎に手を当てて首をかしげた。



「うんー?ラキが俺の事をどう考えているか、気になっちゃったからかな。ごめんね、勝手に聞いちゃって」

『はぁー。まあ、聞かれたのは仕方ないわ。そっそれで、どうなのよ』

「家族になりたいってやつ?良いよ!ただし、俺の彼女になる事が条件だけどね」



正直そんな簡単に、家族になれるなんて思わなかったわ。エリは向こうの家族を優先して、私とはそういう関係を持たないと思っていたから。


 だから、驚いてしばらく私は固まって動けなかった。






 あれ?ラキが固まっている。一体どうしたんだろう。やっぱり半分冗談で彼女になってなんて言わない方が良かったみたい。


 これは早く誤解を解かないと、大変な事になるやつだ!



「ら、ラキ?彼女になってというのは半分冗談だから、そこまで気にしないでくれると嬉しいな」



俺の言葉を聞いてなのか、ラキが動き出した。良かった、冗談でもこんな事言うのはもうやめよう。


 それにしても、大分調子に乗ったね。妹が居たらただじゃ済まないな。それほど妹のツッコミは強めだったな。懐かしい。



『ねえ、エリ。家族になれるなら、私が彼女?という物になっても良いわよ』

「えっ良いの。冗談だったのに?」

『今更、冗談だからって引くのは無し。冗談だとしても責任は取ってもらうからね』

「分かってる。ちゃんと責任を取って、俺はラキを彼女にします!これからもよろしくね、ラキ!」



俺が手を差し出すと、ラキはそっと手を乗っけた。つい、嬉しくなって両手でラキの手を握りしめる。あー、もふもふしてる、俺の彼女が最高過ぎる!



『喜んでいるところで悪いけど、彼女ってどういう意味なの?』

「……。うん、そうだろうなとは思っていたから、大丈夫。えっとね、簡単に言うと番になる準備段階みたいな関係だよ。多分、間違ってはいないと思う」



ラキがまたピタッと固まった。これは考えているのか、何をしているのか全く分からない。それから、少し経って動き出して俺を見る。



『番になる準備段階?なんとなく分かったわ。でも、エリって雌よね?』

「そうだよ。何か問題でもあった?」

『エリが気にしないのなら、何も問題ないわ。彼女としてこれからよろしくね』



ラキに返事をする前に感極まって、ラキを抱きしめてしまった。だって、あまりにも可愛過ぎるんだもん。これは反則だよ!


 しばらくしてラキがもがいている事に気付いて、力を緩める。



『全く、はしゃぎ過ぎ。大体そこまで喜ぶ必要がないでしょう?』

「何言ってるの?ラキだから嬉しいんだよ。こんなにも可愛いくて、素敵な彼女が出来たんだから、喜ばないはずがないじゃん」

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