第3話 ドラゴンを殴ってみた

 ……なんなの、このドラゴン。俺が聞いているのに、俺と人間という種族を一緒にしやがった。


 ふざけるなよ、家族以外の人間あんなのと一緒なんてこっちから願い下げしたいのに。それに死ぬのをただ何もしないで待つ?


 そんな事、俺がするとでも思っているのか。ほら、さっさと治りやがれ、そのあと一発殴らせろ!


 ラキを治した時よりも、五倍以上大きい光が突如出現した。ドラゴンを包み込むようにしたと思ったらパッと消え去る。


 あれ、前よりも治すのが早い。なんでだろうと不思議に思っていたら、ドラゴンがブチ切れた。



『貴様、この我を侮辱するつもりか!散々痛め付け回復させるとは、それほど我を使役したいのか、浅ましい人間め!』

「うるさい。俺と家族以外の人間あんなのを一緒にするんじゃねえ。ぶん殴るぞ?」



イラついたから、ドラゴンに近づき顔をぶん殴る。でも殴ったところがクッソ痛い。これなら殴らなきゃ良かった。ジンジンと痛む手を振ったけど、痛いままだ。



『その程度か、人間!さっきの人間の方が強かったぞ?まあ回復してくれた礼だ、受け取れ!』



ドラゴンが立ち上がった。そう思いきや、ラキが三メートルぐらいになってて、俺を庇う。それと同時に、ドラゴンの尻尾を猫パンチで受け止めていた。



『そこまでよ。これ以上この子に怪我させたら、いくらドラゴンといえど殺すわ』

『ふん、人間に使役されるなど、ライハイトの名が泣くぞ?喧嘩は勝ってやるがな!』



グッと背中を押されて、その勢いでこの場から離れるように動く。振り返ってあの場所を見ると、ラキとドラゴンの激しい戦いが繰り広げられている。


 とは言っても、速過ぎてよく分からないけどね。下手しなくても流れ弾が当たっただけで確実に死ぬと思う。だから少しでも距離を置きたい。


 でも動いたら動いたで、当たりそうなんだよな。どうしよう?






 このドラゴン、余程死にたいのかしら。攻撃も大して強くないし、おまけに隙があり過ぎて、何処に攻撃しても喰らっているんだもの。速さしか取り柄がないのね。


 ここまで一方的だと喧嘩にならないわ。ただの弱い者いじめじゃない。あの人間たちの方が断然強かったわね。



『貴方が弱すぎて、話にならない。啖呵を切った割には大した事出来てないわよ?』

『それで良い。人間に利用されるのなら、お前に殺された方が名誉ある死を迎えられる』



呆れた。こんなに腰抜けなんて思いもしなかったわ。何が名誉ある死よ、生き残ろうと足掻いて努力しないと、ただ無駄死にするだけ。それが分からないのかしら。



『はあ、つまらないわ。殺す価値すらも無くなったから、もう良い。二度と会わないでね』

『何を言っている!我を殺す価値が無いだと!ふざけるな!』



ごちゃごちゃうるさいのよ。


 その辺にあった尻尾に爪を食い込ませて、その場で回って勢いが付いたところで、離した。勢い良く飛んでいくドラゴンを見届ける。


 これでかなりの距離を稼げたわ。そう簡単に戻ってこれないでしょ。さて、エリのところに行きましょうか。






 俺は唖然としていた。だけどラキがやる事を終わらせたみたいで、こっちに来るのが分かって止まっていた思考を動かす。


 なんでそんな感じになっていたかだって?それは、さっきまで居たはずのドラゴンが、少ししたら消えているんだよ。目を疑うよね。ラキがやったんだろうけど。


 ラキが近くに来て、俺の周りをくるくる回っている。


 どうかしたのかな。気になるから、聞いてみよう。



「ねえ、ラキ。やたらと俺を見ているようだけど、何かあったの」

『怪我をしていないか、確認していただけよ。その様子だとしていないみたいね』



怪我のチェックしていたんだ。別に俺は怪我していないから、大丈夫……じゃない!そういえば、ドラゴンをぶん殴った手が、痛くなっていたのを忘れてた。


 言わないで隠し通せるかな?うーん。でも、隠した方が怒られそうな気がする。ちゃんと言おう。



「ごめんね、ラキ。実は俺、右手を怪我しているんだ」

『右手ね。新たに怪我を増やしてどうするのよ。それで、普通に動かせるの?』

「痛いけど、動かすのは問題ないよ。ほら、見て』



ラキに動かしているところを見せる。動かす度にズキズキと痛み、ドラゴンを殴った事を改めて後悔した。



『折れていないなら良いわ。ほら、食べ物を探すんでしょう?早くしないと日が暮れるわよ』

「そうだね。行こうか」



行く当てもないので、とりあえず森の奥を目指そう。その方向に向くと、視界の隅で何かが見えた。


 チラッと見たら、そこにあったのはキノコみたいな物。全体的に赤くて、指が地面から何本も生えているように見える。


 食べられるか確認しよう。そう思ったら、目の前に青と緑の中間のような色をした板が出てきた。板には文字がこう書いてある。


カエンタケ:食べられる。きちんと火を通してから、食べること。かなり辛いので注意。


 辛いのか。うーん、俺辛いの苦手だから、せいぜい香辛料代わりにしか使えないと思う。一応持って帰ろうかな。何かに使えるかもしれない。


 しゃがんで二、三本千切ってポケットに入れておいた袋に入れる。


 するとラキが五十センチくらいの大きさに縮んで、こっちに来た。俺が袋の中に入れたカエンタケを見て言う。



『エリ、こんな物を食べる気なの?お腹壊すわよ』

「大丈夫だって。ちゃんと火を通せば食べられるって書いてあったから」

『そこまで言うなら、止めはしないけど。気を付けなさいよ?』

「分かってる。他にもないか探してくるね!」



立ち上がって、地面や倒れている木々を隅々まで見ていく。だけど特に何も見つけられなかった。仕方ない、森の奥に向かおう。


 何かないかなと探しながら、森の中を歩いていると、青い実がなっている木を見つけた。近寄ってみるとグレープフルーツぐらいの大きさ。


 思っていたよりも多くなっている。これが食べられるなら、良い物を見つけられた事になる。美味しいと良いんだけど。おっ、あの板が出てきた。


シュタの実:食べられる。瑞々しく美味しい。皮を剥いて食べること。皮が石のように硬いので剥く時は気を付けて。


 えっ皮が石のように硬いの?剥くのが大変じゃん。それって包丁でどうにかできるのかな。不安しかない。


 でも美味しいと書いてあるし、持ち帰る価値はあるね。頑張って採ろう。


 と思ったけど俺右手怪我してるから、木登り出来る訳がない。そもそも木登りなんてほぼした事がないよ。ラキに頼もう。



「ラキ、この木になっている木の実を採ってくれる?美味しいんだって」

『良いわ。あの木の実は美味しいのは知っているから、いっぱい持ってくるわね』

「いっぱいは多過ぎるから、三個だけ持ってきてよ」



ラキからの返事が無い。聞こえているとは思うんだけど、もしかして聞く気が無いのかな。


 大量に採っても保存が利くかも分からないし、腐らせたらもったいないよね。それに運ぶのも大変だから、あまり採ってこない事を祈ろう。


 ラキが一個ずつ木の実を下に運んでくる。上り下りが早いなって感心している場合じゃない。早く止めないと、色んな意味で大変な事になる!



「ラキ、もう採らなくて良いよ!」

『あら、もう良いの?なかなかこの木の実は実らないのよ、ある分だけ持って帰りたかったんだけど』



そんな事言われたら、欲しくなっちゃうじゃん。ああもう、どうにでもなれ。



「ラキが全部家まで、運んでくれるんだったら良いよ。いくらでも持って帰ろう」

『分かったわ。それぐらいは、しないといけないわね。大きくなるから、背中に乗せてくれない?』

「うん、任せて。どんどん乗せるから、覚悟しておいてね」



ラキがこくりと頷いたのを合図にして、邪魔にならない程度に離れる。五メートルくらいに大きくなった。これ以上大きくならない事を確認する。


 ラキが置きやすいように、伏せをしてくれた。


 それから木の実を袋に入れて、ほど良いところまで入ったらラキの背中に乗せる。この作業を何回も繰り返して、袋自体がなくなったのでどうしようか悩む。


 往復するには、距離があるから嫌だ。例え俺が頑張ったとしても、せいぜい三個ぐらいしか持てない無理。かと言ってカエンタケと一緒に入れるのはやりたくない。


 一か八かで落ちないように、周りを袋で囲むしかない。袋の位置を動かして、置く場所を確保する。そこに木の実を置いていき、なんとか全部ラキの背中に置けた。



「乗せ終わったよ。木の実が落ちやすくなっているから、気を付けてね」

『了解よ。起き上がるから、少し離れてなさい』

「うん」



俺が離れると、ラキがそーっとバランスを保ちながら立ち上がる。見たところは木の実を落としていないみたい。これなら家まで持ち帰れるね。


 ラキの五メートルの体では方向転換出来ないから、ちょっと大回りして帰る事になった。


 道中何も起きないまま、無事に家に到着する。良かった、迷子とか変なものとかがなくて。大きめのドアを開けて、ラキを中に入れる。


 それにしても玄関のドアが、ここまでデカい意味があるのかと思っていたけど、案外使えるね。まあ、開けるのは大変だけど。


 ラキに伏せしてもらい、背中の物を下ろしていく。袋のやつは収納に入れて、袋に入っていない木の実は袋に入れる。カエンタケは別の場所に入れておこう。


 量が量だから、大変だったけどやっと終わった。食べ物を確保するのはかなり疲れるね。


 近くに木の実の種を植えたら、生えてこないかな。物は試しって言うし、あとで種を植えてみよう。


 やっと家に帰ってこれたし、休みたいけどまだ俺にはやる事があるんだよな。それは、シュタの実を食べる事。


 とりあえず、二階に上がってまな板と包丁を持ってくる。丁度良い高さの台にまな板を置いて、まな板の上にシュタの実を置く。丸いから、切る時は気を付けないと。


 スイカみたいに真ん中から、切れ目を入れようとしたんだけど、びくともしない。右手を怪我しているから、尚更難しくなっている。



「そういえば、ラキってシュタの実を食べた事があるんだよね。どんな方法で食べたの?」

『そうね、一個貸しなさい。やってあげるわ』

「やった。ありがとう、ラキ!」

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