第2話 猫さんの名前を考える

 目が覚める。体を少し動かしてみると、ちょっと痛く無くなった気がするね。ちらりと窓を見ると、もう夕方らしい。


 そういえば、前起きていた時よりも、毛並みがもふもふになっている。なんかしたっけ?


 もふもふの謎は置いておこう。なんとなく周りを見たら、何かしらの建物の中みたいだ。もしかして猫さんが移動してくれたのかな。あとでお礼言わないと。


 そっと猫さんの上から降りる。体は痛むけど、ここがどこなのかを確かめておきたい。壁とか天井とかの模様を見て思った。ここは俺の家だと。


 猫さんはどう考えても知らなかったみたいだし、偶然見つけたのかな。


 さて、まだ何も食べていないから、食べ物を持ってくるか。階段をいつもよりゆっくり上がって台所に向かう。干し肉を二つ食料庫から出して、ゆっくり階段を降りる。



『貴女、一体何処に行っていたの。ここは他の人間の巣なのよ。また怪我したらどうするわけ?』



どうやら猫さんが心配してくれたみたい。嬉しいね。思わず笑ってしまった。



『なんで笑っているの?全く、私が心配していたのに馬鹿みたいだわ』



ちゃんと猫さんにも説明しないとね。



「ここ、俺の家なんだ。だから、他の人が入ってくる心配はないよ」

『はあ?貴女、帰る場所が無いって言っていたじゃない。どういう事なの!』



俺はここに来るまでの経緯を、包み隠さず全部話した。もちろん、神?に拉致られた事から猫さんに会うところまで。


 まあ、信じてもらえたら嬉しいけど、信じなかったらそれはそれで別に良いと考えているから、どっちでも良いや。



『ふーん。理解はしたけど、納得はしないわよ。それにずっと言いたかったけど、私は猫じゃないから。ライハイトという種族。そこら辺にいる猫とは格が違うの。分かる?』

「うん。分かるよ。でも猫さんは猫さんだよね!」



猫さんがブツブツ何か言っているけど、最終的には納得したのか、まあいいわと言った。



『それで貴女に考えてもらいたいものがあるんだけど、良いかしら?』

「何を考えれば良いの?」

『私の名前よ。良い名前をお願いね』

「じゃあ、猫さ『却下。他のやつでお願いするわ』えー!良いと思ったのに……」



そう言うと猫さんは、毛づくろいし始める。


 んー、猫さんは駄目みたいだし。他に猫さんの名前を考えないといけないね。何が良いんだろう。


 外見から取ると、茶虎だからトラ?でもまた却下されそうなんだよね。他は目の色が蒼から取ってアオみたいな?安直な感じがして嫌だなー。


 はっ!なかなか良い名前を思い付いちゃった。猫さんに言ってみよう。



「名前、思いついたよ。「ラキ」なんてどうかな?」



俺がそう言ったら、猫さんが毛づくろいを止めてこっちを向く。そして体を伸ばしたと思ったら、俺の正面に座り直した。何処か真剣そうな雰囲気が漂ってくる。



『「ラキ」ね。良い名前じゃない。私の名前にしても良いわよ』

「じゃあ、決定だね。ラキ、俺の名前は恵理だよ。これからよろしく!」



ラキは顔を近づけてきて、ツンと鼻で俺の額を突っついた。それと同時に何かで、俺とラキが繋がったような感覚がする。


 ラキが離れていき、ゴロンと寝転がった。しばらくして、こっちを向いたと思いきや話しかけてくる。



『ちなみに名前の意味はあるの?』

「秘密だよ!」

『そうなのね』



ちゃんとした意味はあるんだけど、なんとなく秘密にしておきたかったから、言わない!謎のノリで、ラキの上にそっと乗る。体がズキッと痛んだのは内緒。


 もふもふの毛並みを堪能していると、何も食べていない事を再度思い出す。体に乗られたまま、食事されるのは嫌だろうなと考えた。


 だからラキの体から降りようとした時に、ラキが止めてくるとは考えもしなかったので、普通にびっくりする。



『私に気遣わなくて良いわ。ただでさえ怪我が治るのが遅いんだから、あまり動かないの。そのまま食べなさい』



治るのが遅いって言われてもね。普通の人と同じなはずなんだけどな。むしろラキが早過ぎるんじゃないか?


 まあ、そんな事言っても仕方ないから、素直に食べようかな。



「それじゃあ遠慮なく、いただきます」



干し肉を取り出して、一口食べる。干し肉になっているだけあって、噛めば噛みほど味が染み出て美味しい。ちょっとしょっぱいけど。


 干し肉を二枚持ってきているから、ラキにもあげよう。



「ラキ、良かったら食べて」



俺が干し肉を渡すと、興味津々でにおいを嗅いだり、ペロッと舌で舐めてみたりと楽しんでいるみたい。


 そして干し肉を一口で食べて、味を確かめるように何回か噛んだあとに、ボソッとしょっぱいわねって言ってた。


 ラキもしょっぱく感じるんだね。なんだか暖かい気持ちになる。俺も干し肉食べよう。しょっぱいけど、美味しいな。


 干し肉も食べ終わって、だんだん眠くなってきた。ついでとばかりに喉も渇いてくる。ラキからそっと降りて、水道に向かう。


 蛇口を捻って手で水をすくって飲む。それを何回か繰り返して、満足した。なので二階で寝ようと思う。



「俺は二階で寝るつもり。ラキはどうする?ここに居ても良いし、一緒に二階に行っても良いけど」



寝転んでいたラキが俺の方を見て、何かを考えているのかジッと動かない。いきなり立ち上がって言う。



『分かったわ。私も一緒に行く』

「それなら、体をもう少し小さくしないと窮屈だと思うよ」



ラキは体を小さくさせていき、普通の猫サイズになった。



『これで問題ないでしょう?』

「そうだね。二階に行こうか」



ゆっくり階段を上がって寝室に向かう。部屋に入ってそっとベッドに寝転んだ。ラキもベッドに入り込んできた。


 流石にこれ以上は眠気に勝てそうにないから、寝よう。



「ラキ、おやすみ」

『おやすみなさい』



俺は眠りについた。






 目が覚めて体を伸ばす。体の痛みはあんまり無いみたいで、通常に近い動きも出来そう。不意にさっきまで寝ていたのに何故か欠伸が出る。


 俺が欠伸しているとラキも起きたのか、手で顔を擦っていた。そして体を伸ばし終わったあとにこっちを見る。



「おはよう、ラキ。怪我も治ってきて、いつも通りに動かしても平気になったよ」

『おはよう、エリ。怪我は治りかけが一番油断しちゃいけないのよ?気を付けなさい』



ラキからの小言を食う。言っている事は、間違っていないから反論する気は出ないけどね。


 そういえば俺よく痛かったところが、痛く無くなったから思いっきり動かしたら、痛みがぶり返して妹から自業自得だと言われてたな。


 調子に乗らないであまり負荷をかけないように、気を引き締めていこう。



「そうだね。油断大敵、動かし過ぎないのが今は良いか」

『動き過ぎたら、強制的に休憩させるつもりだからよろしく』



どことなく圧力を感じて、とりあえず頷く。強制的に休憩させるってどんな事をするのかが、想像できないから怖いね。


 まあ、ほどほどに動いていれば、問題ない事だし考えない方向でいこう。


 昨日は干し肉を食べたけど、そろそろお腹が空いてきた。


 別に昨日と同じ干し肉でもいいんだけど、食料は無限に出てくる訳じゃないから、在庫がある内に食べられる物を探しておきたい。


 森に探しに行く事は確定だけど、ラキに食べ物のありかを聞いた方が良いかな。何か知っているかもしれない。



「ラキ、ごはんを探しに行きたいんだけど、美味しい物がある場所って知ってる?」

『ごはんね、基本的に水辺の近くで待ち伏せして、獲物を捕まえるんだけどエリには難しいかもしれないわ』



待ち伏せで獲物を獲るのか、ラキの言う通り俺には難しいな。罠とか作れればワンチャンあったかもしれないけど、そういうのは知らないから出来なさそう。


 うーん。何かいい手はあるかな?あっそうだ!ラキには面倒な思いをさせるけど、これなら問題ない。


 ラキに相談して了承を得たので、これで心置きなく出発できる。準備は物を入れられる袋を何個か持っていくだけ。ポケットに入れといてっと。それじゃあ出発!


 家を出て森に向かう。ん?何するつもりだって?なんのひねりも無いよ、ただラキに護衛してもらうだけ。これで安心して採取ができる。


 ラキも私はこの森だと強い方よと言ってたし、そこまで強い奴がゴロゴロいないはずだから、問題ない。そうなるとラキを痛め付けていた男どもってヤバいね。


 気を取り直して、森に入ってからある程度歩いたので採取しようかな。そう思っていたんだけど、少し先の木々が倒れてる。何があったんだろう。



「ねえラキ、行っても良い?」



そう聞くと、ラキは俺と木が倒れているところを交互に見て、ため息を吐いた。



『明らかに面倒事になるのは分かっているわよね?』

「分かってる。それでも行かないと、気になってしょうがないから行く」

『止めても結局行くんだったら、今行ってもらった方が良いわ。さっさと行きなさい』



なんだかんだで、ラキから許可が下りた。やったーとガッツポーズする。この勢いに乗って、さあ行こう!


 木で新たな怪我を増やさないように、気を配りながら歩いていく。


 半袖だから何かが肌に触れると危ないんだけど、残念ながら長袖を持っていない。とても森に入る服装に見えないんだよね。


 そんな事を考えながら歩いていると、何かいた。なんだろうと近づいてみる。


 うつ伏せになってて、五メートルぐらいの大きさで、鱗があって、翼もあって、前足もあって、酷い怪我をしている。


 んー。もしかして、ドラゴン?とつい、首をかしげる。



『近寄るな、人間。殺すぞ』



近寄るなって言われたから、少し遠ざかる。ラキがドラゴン?に近づいていく。何をするのか見守っていると、何故か煽っているようにしかみえない言葉を言い放つ。



『あら、ドラゴンじゃない。人間にでもやられたのかしら?貴方たちは人間に好かれているもの。見下していた人間にやられるなんて、恥さらしにも程があるんじゃない?』



ラキの言葉が刺さったのか、ドラゴンが顔をしかめた気がする。ドラゴンの表情なんてよく分からないけど、そんな感じがした。



『ライハイトか。認めたくはないが、確かにその通りだ。だが、我の死に際を人間に見物されるのは虫唾が走る。さっさと何処かに行け!』

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