もふもふ診療所
むーが
第1話 異世界に来た
俺は家族以外の人が嫌い。波長的なものが合わないと言うしかないかな。まあ小さい時は普通だったけど。きっかけ?そんなの知らない方が良いよ。
それは置いといて、神を名乗る怪しい人が俺を自分の管理している世界に連れていくと言われた。拉致する気満々だね、と言ったら黙れと言ってくる。どうしてキレるんだろう?首をかしげる。
説明する気はないみたいだから、放置するしかないね。周りは何もない空間が広がっているだけで、俺とそこに居る誰かしか居ない。
何もしないまま、ただ時間が流れていく。それにしても暇だな。突っ立ているのも疲れるから座って待つ事にする。
お互いが無言のまま、どのくらいの時間が経ったんだろう。正座している足がしびれてきた。正座するのを止めて横になる。
さっきまで何かに集中していたと思いきや、急に視線を合わせてくる。普通にびっくりした。
「手続きが終わった。お前を移動させる」
有無を言わさず、俺の下に魔法陣みたいな物が出てきて、景色が一変する。周りを見渡す限り森にしか見えない。
下を見ても床だったはずが、普通の地面になってる。とりあえず立ち上がって、服に着いた土を落とす。背伸びして、体を伸ばす。
さて、どうしよっか?ここがどこなのか分からないし、地元の人に聞いた方が良いと思うんだけど、正直会いたくない。かと言って森にいるのは、危険が多い。
悩んでいると、どこからか声が聞こえてくる。
『人間だ!見つからない内に逃げなきゃ!殺される!』
周りを探しても、声の主は見当たらない。もう逃げられてしまったらしい。一体誰が喋っていたんだろう。それに殺されるってどういう事?首をかしげる。
考えてもしょうがない。ここから移動してみよう。
適当に歩き回っていると、綺麗な二階建ての建物があった。綺麗に保たれているから、きっと人がいるんだ。
気乗りしないけど、行ってみた方が良いかな。さっきの声も気になるし。
恐る恐る玄関っぽい所に行って、呼び出しベルみたいな物を押して待つ。でも少し経っても人が出てくる感じがないから、そっと扉を開けてみる。
中を見ると、質素な部屋だった。最低限の装飾があるだけ。小さく失礼しますと言って中に入る。
部屋を見て回った。家具とか少しの食料品とか置いてあるけどなんだろう、使われている感じがないんだよね。不思議だ。
後、二階の寝室の机に手紙が置いてあった。内容はあの神?がこの建物を俺の為に建ててくれたらしい。
通りで変だと思った。だけど、人とはあまり関わりたくないから、ありがたく使わせてもらおう。
手紙には、他にもこんな事が書いてあった。何でも、人間以外の生物を治す事が出来るスキルを使えるようにしてくれたらしい。
食料の事も考えてくれたのか、食べられる物かどうかを判断できるようにしてくれたみたい。意外とあの神?は親切なのかも。拉致ったけど。
さて、ここが自分の家だと分かった事だし、何をどう使うのか動かしてみようかな。
まずは水道。回すと水が出た。締めると止まる。排水の方はどうなっているのか分からない。魔法陣があっただけで、他には何も無かった。
次はコンロかな。コンロと言っても、魔法陣が三つ書いてあるから別物にしか見えない。IHコンロに近いみたい。スイッチを押すと魔法陣が赤くなる。もう一回押すと黒に戻った。
一番重要だと思うのがトイレ。便器とトイレットペーパーがあって、ひねると水が流れた。便器の中に魔法陣が書いてあるところ以外は普通だね。
後はなんだろう。スイッチを入れるだけで、部屋の照明は点くし、お風呂もボタンを押すとお湯が溜まっていったし、二階はこんなものかな。
一階はというと、家具とか家電?とかはほとんどない。収納スペースはかなりあるけど、それぐらいだね。
『誰か、助けて!』
必死に助けを求める声が聞こえてくる。その声に、俺は不思議と応えたくなった。急いで家を出て、声が聞こえた方に走る。
見えてきたのは、男二人が剣と盾で茶虎の猫さんを痛め付けているところだった。舌打ちしたくなるが、抑えた。男二人と猫の間に入って猫を庇う。
「なんだてめえ?俺たちの邪魔する気か?」
「そうだ!そうだ!邪魔するなら、容赦しねえぞ?」
話をする気はない。猫さんをそっと両手で持ち上げて逃げる。
「おい、待てや!逃がさないぞ!」
「絶対、逃がさないからな!覚悟しやがれ!」
幸い、ここは森だから撒きやすいはず。あまり体力がないけど、家までたどり着けばなんとかなると信じる。
走り続けてどのくらい経ったのか分からないけど、徐々に距離が広がってきた。でも、もう体力が持たない。
咄嗟に木の陰に隠れて、猫さんを地面に置く。スキルの使い方なんて分かってないから、一か八かで怪我が治れ!と念じてみる。
どこからか来た光が猫に入って、猫さんが薄っすら光った。
みるみる怪我が治って、傷口も塞がっていく。良かった、ちゃんと治せたみたい。だけど安心するのはまだ早い。どうにかして猫さんだけでも逃がしてあげないと。
「猫さん、怪我は治ったから、ここから逃げて。早くしないと捕まえられちゃうよ」
『怪我を治してくれてありがとう。でも、逃げるなんて事はしないわ。やられっぱなしは嫌だもの』
そう言って猫さんは起き上がり、男どもが来ると思われる方向に体を向ける。尻尾を大きく左右に揺らすと、瞬く間に猫の体が大きくなっていく。
俺は猫さんの変化にびっくりしながらも、邪魔にならないように離れる。二・五メートルほどの大きさになった。心なしか、体がゴツくなったような気がする。
戦闘に巻き込まれるのは、普通に危ない。だからもう少し離れたところで、見守りしておこう。
「やっと追いついたぜ。逃げるのは止めたのか?」
「ガキはお前を置いて逃げたのか。また置いてけぼりにされたんだな。あの時の生き残りよ」
どうやら男どもが、来たようだ。ここにいる事がバレないようにジッとしておこう。
あの時の生き残り……?なんの話だろうと思っていると、辺りの雰囲気が変わった。
『あの時に私の家族を殺したのは、お前たちという事ね……。絶対に殺してやるわ!』
猫さんから聞こえてくる、唸り声はどこか悲しげで、俺も心が引き裂かれそうになる。でも俺が今猫さんの為に出来る事は、邪魔にならないようにするだけ。
両者が睨み合って猫さんが先手を取って、そこから戦闘が始まった。
激しい攻撃が繰り出される中、徐々に血の臭いが漂ってきた。動きが速くてどっちが優勢かも分からないまま、終わるのを待つ。
自分の無力さを噛み締めて、この戦いを見守っていると、両者の動きが止まった。男どもは傷らしい物が無く、代わりに猫さんが傷だらけ。
猫さんの痛々しい姿に、俺は耐えきれなくて、飛び出して間に入る。猫さんが驚いたような気がしたけど、気のせいだと思う。
「……もう、攻撃しないでください」
「はあ?誰がお前の言う事なんて聞くかよ。コイツは俺たちの獲物なんだぞ?そう簡単に横取りされてたまるか!」
「そうだ!邪魔するならさっさと家に帰って、ママにでも泣きついておけ!」
お母さんか、残念ながらこの世界には居ないから、今のところ会えないね。神?に拉致されたから、戻れる保証もないし。
「帰る家は無いので、無理です」
「ごちゃごちゃ、うるせぇ!そんなのどうだって良いだろ!とっとと何処かに行きやがれ!」
「俺たちの邪魔をするなら、容赦しねえ!ぶっ飛ばしてやる!」
相手が怒って、俺の腹に蹴りを入れてきた。何も鍛えていなかった俺は、避ける事が出来ないで普通に当たる。
当然ながら、痛い。これでも一応女子なんだけど、手加減とかはしてくれないみたいだね。まあ、そう見られてない可能性もある。
だんだん立つ事が難しくなってうずくまった。でもここを動くつもりはない。せめて猫さんだけでも助けるんだ!
せめてもの仕返しで男どもを睨みつける。
「へっ意地でも退かないつもりか。退いてくれれば、痛い思いもせずに済んだのにな。おら、退け!」
「邪魔なんだよ。俺たちの依頼がいつまで経っても、終わらないじゃないか!」
次々と色んなところを蹴られて、あちこちの痛みで意識がもうろうとし始めた時、声が聞こえた。
『私の為にそこまでしなくても良いのに、ありがた迷惑ってやつよ。でも私を庇ってくれてありがとう。おかげで奴らに隙が出来たわ』
これがツンデレというものなのかな。意識を失う寸前でそう思った。
目が覚めると、少しゴワゴワしている毛並みの中に俺はいた。体を起こそうとするけど痛みでまともに動けなかった。
起き上がるのを諦めて、考える。あれからどうなったんだろう。
『あっ起きたの?良かったわ。人間の手当の仕方なんて知らなかったから、このまま死ぬのを待つばかりかと思っていたけど、問題なかったみたいね』
問題あります!と言いたいところだけど、この体で無理するのは止めておこう。そういえば、猫さんは確か怪我してたよね。治してあげよう。
治れ!って念じて猫さんが光った。これで猫さんは問題ないかな。
『あら、怪我を治してくれたの。ありがたいけど、貴女自身に使った方が良いんじゃない?』
猫さんの言う通りだと思うけど、このスキルは俺には使えないんだよね。一応試してみようか。自分の怪我が治るように念じてみても、うんともすんとも言わない。
どうやら駄目みたいだね。微妙に使いづらいスキルだ。
うん?何故か眠気が急に出てきた。特にやる事もないし、このまま寝ちゃおうかな。猫さんには迷惑かけると思うけど、許してください。じゃあ、おやすみ。
また寝たみたいね。多分、体が回復しきれていないからだと思うけど。さて、どうしようかしら。起きるまで、ここにいるのは問題ないけど、この子が危ない。
とにかく何処か休める場所を探さないとね。良い場所見つかるかしら?
落とさないように、気を付けながら歩いていると、人間の巣を見つけた。少しの間お邪魔する事に決めた。
そっと入口と思うところから入って寝転がる。これで危険は減ったわ。良かった、良かった。ついでだし、私も眠る事にした。おやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます