雪が聴こえる (短文詩作)

春嵐

雪が聴こえる

 まだ、晴れていた。このあと天気が崩れる。

 彼が来るまで、まだ時間があった。といっても、何もやることはない。ただ待つだけ。来るかどうかもわからない彼のことを。

 わたしは、彼を知らない。目の前にいるのに、どこにいるのか分からない。

 彼に出逢ったのは、目が見えなくなってからだった。目は見える。でも、見えなくなった。視力ではなく、この場所にない何か、別な世界の何かを見る目が見えなくなってから。彼に出逢って。彼を求める。そして彼のことは目視できない。この世界にいない。別な世界にいる。でも、ここにいる。わたしはここにいて、彼を待っている。


「おっ」


 彼が来た。

 何か、静かなものおとが聴こえる。

 雪、だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪が聴こえる (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る