第17話  決着

 龍昂爺さんの具合が良くなり、監獄星に収監された龍昂の子分や此処で仲間になった人は安心した。治した崋山も、癒しの超能力者として監獄星では大いに幅を利かせた。ここでは戦闘能力などより、癒し能力者の方が価値があるとされるのは当然の事だ。崋山は今まで、癒しには感情の爆発が必要だったが、爺さんを治してから、何故かはわからないが冷静な時にでも、能力を発揮出来ていた。最初は、苦しんでいた崋山の子分候補の弟の一人を治すことが出来た。怪我をしていたが、ここでは治療できずどうしようも無く、放って置かれていたのだが、崋山は気の毒になって試しに怪我をしている所を触ってみると、治ってしまった。それからは次々に、具合の悪い人が治してほしくて、崋山のご機嫌取りをするようになった。治療費を払うすべがない彼らはせいぜい、崋山に愛想よくするしかない。それでストレスの無いようになったから癒し能力が強くなったのだろうか。崋山はこんな快適な監獄送りはありえないと、少し気が引けていた。元はハッキングで最悪の結果になったのを、反省するつもりだったが、この待遇は少し居こごちが悪い。そんな天狗にならない所が崋山の長所と言える。

 そんなある日、

「今日の癒し人数は少ないな。段々みんな悪いところが無くなっている。みんな元気になったとこで、次の収監船がムニン22さんの銀河の船だといいな。そしたらみんなで乗って、前の龍昂みたいに、敵の船を襲って必要なものを頂いで暮らすんだ」

 崋山は機嫌よく将来の展望を、ムニン22さんに語ると、ムニン22さんは、

「その将来的展望には、一つ問題があるな。俺は宇宙船みたいなデカい船は動かせないぞ」

 と言うと、崋山は龍昂爺さんが言っていた事をムニン22さんに言ってやった。

「あのな、爺さんによると、子分たちが操縦の仕方をいつもの来る人たちからテレパシーで聞き出しているから彼らが操縦するそうだよ。だからムニン22さんは操縦しなくて良いんだってさ。ただ第16銀河の人じゃあないとアクセスキーが開かないそうだ。掌認証とムニン22さん達が生まれた時につけられたID Noがアクセスキーだそうだよ。だから第16銀河の人が味方になってくれて有難いそうだよ」

「それを早く言えよ。操縦を当てにされていたのではなくて安心したよ」

「言って無くて悪かったな。それと言うのも、あの子分たちの能力は口外してはならないと言う掟があるそうなんだ。でも、だんだんその掟は済し崩しになって来ているよね。だけど、ムニン22さんもそう言う事だから、操縦できない事は内緒にしていてほしいな」

「そりゃ、内緒に出来るものなら黙っているが、誰かが俺に操縦しろとか、操縦の仕方を教えろとか言ってきたらどうする?どうせ、俺が彼らに教えたって事になりそうじゃないか」

「そうだね、俺も出来るだけ皆がその話題を持ち出すのを邪魔しよう」

「お前の話は呑気でいいな」

 それからしばらくしてとうとう第16銀河の収監船がやって来る事が解った。看守はほとんど龍昂が味方にしていたので、来ることが判ったところで報告してくれることになっていた。

 三日後だそうなのでそれまでに準備ができる。残りたいものも居たがそれは元々敵だった銀河の人で、味方は全員乗るし、ムニン22さんの様に裁判に不服のある敵方銀河出身の人も希望者は脱獄する。立場は脱獄だから、龍昂はもしもの時の覚悟のあるものだけ、付いて来るようにと言った。そう言う事なので手引きをした看守も数人付いて来ると言い出し、何とも言えない雰囲気の乗組員達となった。だが、龍昂の子分たちのにらみが聞いて、皆協力して役割を果たすと誓った。

 崋山は乗組員の名簿を見ながら、

「爺さんも思い切った事するなあ。元敵味方入り混じっているが、大丈夫だろうな」

 ムニン22さんが小声で、

「俺、思ったんだが、あの子分達は人を操れるんじゃあないか。俺は前から、第45銀河の奴らにはちょっとした恨みがあったんだが、奴らに会っても全然気にならないんだ。これは俺にしては絶対怪しい。今度来る船はデカいから、乗員はそれだけの人数は必要だけど、操っているなら何だか危うい感じがするな」

 崋山は、

「ムニン22さんは心配症だな。きっと上手く行くよ。そう思わなきゃ始まらないよ」

「そう思うか、お前みたいに脳天気なやつの側には俺みたいなのが居ないと、釣り合わないぞ」

 ムニン22さんの心配を他所に、収監船到着の日が来た。その日は食料も来る日で、味方の看守には残る人の分だけ降ろすように指示していたのだが、そう言う思いやりは時として不味いことになるようだ。第16銀河の船の乗組員に不信感を持たれたと、看守の一人が報告して来た。

 崋山は、

「どうする爺さん。やっぱり降ろす分を選ぶとそうなるよね」

「ふん、それなら行動に移すかな」

 龍昂は子分たちに、

「お前達、そろそろ、あの乗組員達を、眠らせようかな」

「かしこまりました」

 彼らが大きな声で不思議なメロディを奏で始めた。すると側にいたムニン22さんが、

「わあ、俺までやられる-」

 と叫んでのたうつので、崋山が、

「あれ、子分達。こいつは味方だよっ」

 と慌てて言うと、崋山の子分候補が、

「彼に向かってやっていませんよ。彼はかなり思い込みが激しくて、自分で空想しているだけです。多分寝るだけです」

「困ったな、眠ったら置いて行くよ。おい起きろ」

 ムニン22は置いていくと言われて、パチッと目を開け、

「そんな薄情なこと言うかっ」

 と怒り出すので崋山は、

「手のかかる奴だな。寝ただけなんだろう」

 と、ため息をついた。ムニン22さんは自分はメロディに掛かってない事が解り、機嫌が良くなりその後、みんなで乗船することとなった。船に行くと、眠った乗組員を看守達が降ろしていた。随分あっさり船が奪えたと、崋山は思った。子分たちが居れば、出来ない事は無さそうに思える。乗船してムニン22さんにアクセスキーになってもらい、後は子分たちに任せた。

 崋山は龍昂と共に監獄星から次第に離れていくのを見ながら、感慨にふけっていた。

「爺さん、監獄星に行ってみて、俺良かったと思っている。あのまま地球に戻っていたら酷い一生を送りそうだったな。良心の呵責って俺には相当きついものだな。ところで爺さんはルーク達のお婆さんと別れて何故味方を襲っていたの、ずっと気になっていたんだけど、教えてくれる気ある?」

「そうだな、気になっているなら、言おうか。知っているだろうが第3銀河では、俺が最初の連合軍の兵士さ。あの頃、ある第7銀河の奴と気が合っていて、婆さんと別れてすぐ、そいつと第7銀河に行くことになった。そこで戦闘が始まっていたから、彼が参加するので付いて行ったのさ。相手は第16銀河のお前も知っているあの船長だ。奴は昔は手ごわかった。俺の友達は戦死してね、俺も若かったからすっかり参っちまって、それからは仇討ちのつもりで奴を狙っていたが、第7銀河はこれ以上奴にこだわりたく無い、と言い出した。奴の船はあの頃のレベルでは最強だった。これ以上戦死者を出したくないのさ。悔しいが事情は分かるから俺は袂を分かつことにしたよ。第7銀河の統率者が今までのお礼がしたいと言うから、彼らの宇宙船の中でも、最新型を貰った。乗組員は俺に賛同した、まだあきらめきれない奴らで十分に集まった。彼らは仲間意識が強いからね。ところがいつもの和平話が出ると、第16銀河はこっちの味方に付きやがった。これじゃあ話にならない。どうするか乗員皆に意見を聞くと、俺らはどうせはずれ物達だから、あいつの船だけを狙う事にしようと言う事になった」

「へえ、それで納得した。あいつがどうして第7銀河の人や、俺を殺そうとしたのか分かってすっきりした。それから先の、イワノフ船長の話は言いたくなかったら言わなくていいけど」

「ふん、お前も妙な言い草をするな。言っておくよ、お前の義理の叔父との事だからな。はずれ物として仇の船だけ狙うにしても、生きていくためには必要なものがある。俺らもあの金属を手に入れて、第7銀河の懇意にしている統率者に売って、必要なものを買おうと言う事になった。効率よく手に入れるには、奪うよりも採掘船を手に入れて採掘した方が、たくさん手に入るんだ。こっちにはほら、例の能力者の子分が居るだろう。彼らが他の銀河の採掘船が掘っている様子を見て、闇雲に採掘している。あんなところに金属は無い。とか言ってね。自分たちは金属の含有量の多いところが判ると言うんだ。だから採掘船を手に入れようと言う事になった。その頃は採掘船のレベルが第3銀河は結構高くてね。第3銀河の採掘船を頂こう。という事になった。そして待ち伏せしていると。イワノフ船長の船の登場さ。俺は止めておいた方が良いんじゃあないかと思ったが、第7銀河の連中が、ぐずぐずしていると懇意にしている統率者が交代して、金属を売れなくなるかもしれないと言うんだ。で、彼らに任せると言うと、彼らの計画はこうだ。採掘船が母船から出て来たところでちょっとばかり攻撃して壊す。修理できる程度にね。中に居る奴が逃げ出した所で、ガムで俺らの船に採掘船を引っ張り込む。随分大雑把な計画だが、大体いつも計画は大雑把なんだよ。こっちの思惑どうりにならない事が今まで多かったから、あとは臨機応変だ。俺の子分たちはあまり良い顔しなかったが、俺の意見に合わせていると思われていた。そう言う事になり、第7銀河の仲間は採掘船が母船から出て来ると、まあ奴らにしては上出来な具合の壊し方をしたよ。ところが乗組員が逃げ出してこない。いくら待ってもね。操行不能になっているのだから、逃げだして母船に助けてもらうはずだ。状況からみて、俺たちが採掘船が欲しいのは解かるだろう?まだ採掘していないのだから。それで中の奴らは怪我をしているか、運悪く死んだかと言う事になる。子分たちも怪我人が居ると言うじゃあないか。俺が助けに行こうと言うと、仲間は俺たちのやった事だから、最後まで責任を持ってやり遂げると言うからね、怪我人の救助も任せた。そして救助に行ったんだが、何と乗組員以外にイワノフ船長夫妻が乗っていたんだ。奥さんが採掘の様子が見たいと言ったのか、惑星に降りてみたいと言ったのか。そして運の悪いことに怪我をしていたのは奥さんで、イワノフ船長は奥さんの手当てに必死だった。そして第7銀河の仲間が乗って来ると、逆上して彼ら全員を撃ち殺した。人数で行くとこっちの方が多くて仲間が本気で戦えばこっちが勝っていたんだ。だが仲間は救助のつもりだったからね。一瞬の事だ。奥さんも出血多量で亡くなった。母船に戻っても奥さんの血液パックは無かったらしいが。特殊な血液だったからね。そう言う話さ。地球に帰って奴に合ったら、俺も恨んでいると伝えておいてくれ」

「そうだったのか。嫌な事思い出させて、ごめんな爺さん」

「いや、今度イワノフに会った時、俺も怒っている事を言っておいてくれればいいと思ってな」

「え、この前イワノフ船長が病院に行ったのに、会わなかったの」

「会う訳ないだろう、どっちも顔も見たくないんだ」

「じゃあ、爺さんはフロリモンにも会わなかったの」

「コンタクトしたよ。お前も知っているだろう。会ったも同然じゃあないか」

「そうかなあ、違うような気がするけど。ま、いいか、当人が会っているつもりなら」

 そんなふうに話をしていると、敵の船が現れたと連絡が入った。何と敵の総元締めと噂の、第13銀河のキャプテンズーと言うやつの船だ。そう言って、皆が騒いでいた。崋山は

「ズーとズーム社、何だか似てるんじゃあないか、爺さん」

 と単純な意見を言うと、爺さんは、

「そうだな。世の中、意外と単純に出来ているのかもしれないな。あの船が総元締めと、敵だった奴らが言うなら、実際間違いは無いだろう。崋山、とうとう今日が落し前を付けてやる日になったなあ」

「あ、敵の戦闘機が出て来る。俺、奴らを撃ち落としに行くよ。爺さんは子分達と母船をヤリな」

 崋山はそう言いながら格納庫へ走って行った。龍昂爺さんは驚いて、

「おい、お前は今更そんな危険な事はしなくていいだろう。それに第16銀河の戦闘機を操縦できるのか」

 そこへムニン22が走って来て、

「俺が操縦するよ。崋山のお爺さん。二人で何かあった時は戦闘機に乗る約束だったので。俺もちょっとは自信があるんだ。心配しないで見ていてください」

 そう言いながら、崋山を追いかけて行った。

 龍昂はため息をつきながら、子分たちが忙しくしている操縦室へ急いだ。この船だって相当な攻撃設備が整っている。あの船と良い勝負になるだろう。

 崋山は最初の船の様に一機ずつしか出られないのかとちょっと心配したが、悪趣味なのはあの船だけの様だ。格納してある場所から直接外に出られた。攻撃の仕方はあのころから大体知っていた。今回は操縦をしなくてよいので、崋山は飛び出た後、攻撃に集中でき、直ぐにコツがわかり、敵機を次々に撃ち落としていった。例によって気が付くと敵機はすべて片付けていた。それと同時に、龍昂の子分たちが敵の母船を集中攻撃し出した。

 崋山は、

「あ、俺らに当たらないように気を使って、さっきまで防戦で来るミサイルだけ撃ち落としていたんだな。邪魔にならないように、離れて居ようよ。ムニン22さん」

「そうだな。しかしああいう攻撃は、初めて見るな。同じミサイルでも使い様が違うね。お前らの諺に〈バカと鋏は使い様〉と言うのがあるだろう。まさにこの事だな」

 ムニン22さんはかなり遠くまで位置を取りながら、違う銀河の諺まで知っていて、そう話し出した。

「ムニン22さんて、見かけによらず博識があるんだね」

 崋山が感心すると、

「ふん、見かけによらずかい。俺はこんな事より、他の銀河の文化を調べるのが好きなんだ」

「失礼しました。ムニン22さんは学者肌だったんだ。俺はこんなことが終わったら、どうしようかな」

「お前本当にアホッぽいとこあるな。癒しの達人と違うのか」

「あ、そうだった。最近、割と気軽に出来るようになったっけ」

 呑気に話しているうちに、第13銀河のキャプテンズーの船は、さんざんやられて、爆発でもしそうな感じだ。

「龍昂爺さん、やりすぎと違うかな。もう船はボロカス状態と違うかな。中から火が出ていないか。目が悪いのかな。爺さん。爆発したら不味くないか。この前みたいに」

 崋山は心配になった。

「そうだな。こないだはすごい爆発だったよな。俺らもだいぶ飛ばされたよ。だからこのくらい離れたんだ。爆発させる気だな。あの船はデカいから爆風で崩れはしないと判断したんだろうな」

 ムニン22さんはあの船が爆発しても第16銀河の船はダメージを受けないと、呑気に判断した。だが崋山はだんだん不安になって来た。こういう気分の時はろくなことが無い。そう言うパターンになりつつある。すると何と第16銀河の船の方が爆発した。

「わあっ。どうして」

 崋山が叫ぶと同時に第13銀河の船も爆発した。

「きっと俺らの船も当たり所の悪い所に当たっていたんだろうな」

「もしかしたら、もしかしたら、俺らを巻き添えにしたくなくて、攻撃がちゃんと出来なかったのじゃあないかな。俺が戦闘機に乗っていたせいかな」

「違うよ、彼らは誰が戦闘機に乗っていても初めは戦闘機同士で戦わせて、攻撃は控えるよ。それがルールだ。あの13がいかれているんだ。そして船の急所をどんどん狙って来る。それがキャプテンズーのやり方だ。有名だよ。だけど龍昂や子分も負けてはいなかった。相打ちだ。壮絶だったな。あのキャプテンズーがこの戦争の影の司令官と言われているぞ。表向きはころころ銀河が変わって司令官を交代させているけどな。これでお前の誰かの仇は打てたのかも知れない。あの船に乗ったみんなの敵でもあった。終わったんだ。救助を要請しよう」

「脱獄したのに?」

「ばか。お前は半年の刑じゃあないか。戻ったところでそれほど追加の刑は長くはないさ。俺と違って。俺も脱獄の罪が追加されたって生きていたいよ」

 救助船は直ぐに来た。あたりに残骸が漂ってきていた。崋山は宇宙の藻屑となった爺さんを思った。

「さようなら、狐哲爺さん」

 しばらく口に出していなかった懐かしいあの人の名で呼んでみた。

 救助船は第16銀河の船だったが、ちゃんとした船だったし、崋山もムニン22さんも控訴されていて、罪は帳消しになっていた。


 それから崋山は、ムニン22さんと別れ、地球に戻っていたイヴの元へ帰るのですが、地球に帰ってからの話は、また別の機会に。この物語はここでおしまいです。

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未来家族 龍冶 @ryouya2021

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