第14話 守れなかった愛しいもの達
≪ねえ3番私たちのあの人本当に来てくれるかしら、5番がああ言って いたけど、私は信じられないの≫
≪7番ったら、信じているんでしょう。だから気にかけている。毎日今日来るのかしらと思っている≫
≪そう、毎日思っている。でも夜になったら、5番はうそつきなのかもって思う≫
≪5番の考えている事、判らないよね≫
≪だから怖いの、研究所の人が来るのを知っているし、違う所から来る人の事もいつ来るか知っている、でも私たちのあの人の来る日は知らないって、本当かしら≫
≪知っているけど言わないのかも知れないわね≫
≪どうして言わないと思う≫
≪その話になると5番は悲しそうになるの≫
≪そうね≫
≪他の事も知っているのよ、きっと≫
≪何を知っているの、教えてよ、そう言えば3番は何でも知っているよね、どうして知っているの≫
≪前に、あなたが生まれる前に、研究所の人が来て教えたの≫
≪3番にだけ教えたの、どうして私には教えないの≫
≪6番にまで教えたの、あなたはやさしいから教えないの、あの人たちが頭を調べたの≫
≪初めて言ったわね、なぜ今日は言うの≫
≪たぶん私たち、今日死ぬよ、だから言ったの≫
≪どうして死ぬの≫
≪あの子たちが、あの乱暴な子たち。研究所の人の言う事しか聞かない子たち≫
≪あの子たち、私たちを殺す気になった?≫
≪殺そうとする気になった人は、私たちのあの人≫
≪ひどい、ひどい、ひどい、今日来るのね、今日来るのね、やっと迎えに来てくれたのに、殺そうとするのね。それじゃあ私たち、きっと嫌われる、嫌われるよ≫
≪7番ったら、あなたを迎えに来ると思っていたのね、あの乱暴な子たちも?そんな訳ないじゃない、あの子たちを連れて帰ったらどうなると思うの、あの人に私たちとあの乱暴な子たちを見分けられると思う?皆同じ顔なのに、第一あの人とも同じ顔なのよ、本当の人間はひとりひとり違うの、きっと初めから嫌われるの≫
≪初めから嫌うって、だったらどうしてここに来るの、迎えに来るんじゃあないのに≫
≪私たちを殺しに来るの≫
≪そんなに私たちが憎いの、私たちが嫌われるような何をしたの≫
≪存在よ≫
その時、外がぴかりと光って大きな音がした。
≪爆弾よ、地下に行きましょう≫
≪私たちを殺そうとしているの≫
≪今のは違う人≫
≪ひとりで来たんじゃあないのね、それならあの人はあの子たちには殺されないね・・・良かった≫
船長達が安全な操縦室に行かずに船長室で虫たちにやられた訳は、船長室に第35銀河からの情報データがあったからだ。研究施設のある惑星の情報で、施設の配置や戦力の程度、そして研究施設で何を研究していたのか。それを虫に食べられて紛失してしまっては、ここまで来た甲斐が無くなる。崋山は副船長代理となったので、チャンから、見せてもらった。DNA研究施設、その場所を確認して、崋山は、
「ここ、俺の担当にしてもらおうかな」
チャンは、
「気持ちは分かるが、崋山は先にこの戦闘機軍を破壊した後、ミサイル攻撃施設を一番に攻撃してもらわないと、皆が惑星に降りられないからね。そこまでやったら、さぞお疲れだろうから、もう引き上げてくれて良いよ」
「船長代理、気を使わなくていいんですよ。覚悟はとうに出来ているんですから。カサンドラの時のクローンがわんさか居ることは分かっていますよ。皆にもその辺の所は、はっきり忠告しといた方が良いですよ。躊躇なく処分しないと、俺はそのために来たんです。そうでなかったら、イワノフ船長について行って地球のズーム社を破壊しに行きたいところでした」
「そうだろうな、じゃあ君はミサイル発射の施設を破壊したら、そのまま戦闘機でDNA研究施設の近くに降りて、他の奴と落ち合う事にするか。お前が来る前に破壊が終わっていても良いだろう?その時は確認だけはしておけ。始末に漏れがあってはならないからな」
「もちろん、私を待つ必要なんかありませんよ。了解しました。きっちり破壊します。船長代理は、メカの研究施設に行くのですか」
「そう思っていたら、そこは龍昂の軍団が行くと名乗り出てくれたよ。彼らは乗員ではなくゲスト乗船だったのだが、第7銀河の人たちが全滅に近い状態だから、手助けしてくれるそうだ。あの歌みたいな言葉をしゃべる第20銀河の人が、虫の動きは崋山が見切って、自分たち皆にも教えてもらったから大丈夫だと言うけれど、本当か」
「へえ。あの人達テレパシー能力もあるんだ。超能力者達なんだな。私は教えた覚えはありません」
「そう言う事か。所で、お前さっきからやけに他人行儀になったな。どうかしたのか」
「そうですか。そんなつもりは無いですけど」
「いや、妙だぞ。まあ良いか。そう言う事だから俺らは皆DNA担当だ。俺が皆に破壊計画を話しておこう」
「了解」
他人行儀になっちまってたか、崋山は思った。船から外の宇宙空間を眺めながら、崋山はあの日の事を久しぶりに思い出していた。何もかも失ったと思ったあの日、一人ぼっちで惨めだったカサンドラはもう何処にもいない。涙も枯れてしまった。失ったものは戻っては来ないし、孤独ではあるが。
少し仮眠しよう、4時間後に行動開始になっていたから。部屋に戻ると、イヴが自分の部屋から出て来て、
「崋山、あんた卵巣取られていたんだって?キメラなんだって?双市朗は言っていなかった。言う時間なかったからかもしれないけど。あたし、知らなくてさ。何か気に障ることしなかったかな」
「記憶に無けりゃ別に良いんじゃない?」
「そう思う?だけど何かまずい事言うか、するかしているよね。きっと。ごめんね」
「いいよ、どうせ記憶にないんだろ。明日頑張れよ、俺も頑張るから。少し寝ておかないと」
「そうだね、おやすみなさい」
そう言ってイヴはドアを閉めた。崋山は、こっちもイヴの事を失念していたし。一人じゃないかもしれないなと思えた。
四時間後、崋山とイヴの戦闘機の他に、第3銀河の選りすぐりのメンバーの戦闘機、そして龍昂の軍だった戦闘機で構成された、今の人数ではこれ以上は無いと言えるレベルの構成になり、母船を出発した。それでも11機しかないが、崋山は頼もしく思った。これですべて決着だ。始めは惑星の重力外からミサイル施設の場所を攻撃した。思っていた以上の爆発で驚いた。なんだか相当な威力の核弾頭があったのではないかと思った。近くから攻撃していては爆発に巻き込まれていたに違いない。今の位置でも危険なレベルの威力だった。仕込んでいたようだなと思った。それに、敵の戦闘機も出てこなかった。と言う事は施設はもう引き払って敵は居ないのかも知れない。あの虫も引き払って、他を攻撃しに行ったのかもしれない。と言う事は取り逃がしたって事か?崋山はチャンに報告した。
「船長代理、ミサイル施設はやけに爆発規模が大きかったし、戦闘機も来ません。爆発を仕込んで引き払って居るようですよ。逃げられたようです。攻撃情報が漏れていますね。と言うか第35銀河の情報だって、元は敵だった奴らでしょ。虫の事もあるし、罠のつもりだったかも知れないですね」
「そうだよな、直ぐ本部に連絡する。虫を他の所の攻撃に使うかもしれないな」
「私もそう思います」
「だが人が居なくても、メカは居るだろうからな、油断はできない。何か仕込んであるかもしれないが、降りて点検はする。せいぜい気を付けような。お前も研究をしていた張本人に会えなくて残念だったな」
「どうも。まだ片が付かないようですね」
「俺もちょっと、片が付くには早すぎる気はしていた。はは」
話し終わって、崋山はDNAの研究施設近くに向かい降り立った。船に居た皆は先に到着していた。そして思わぬ事に、そこは混沌としていた。崋山とイヴは、慌てて走り寄った。仲間の皆はほとんど倒れていてやられてしまったようだ。チャンが倒れている所に駆け寄り助け起こすと、まだ死んではいない。ビーム銃で撃たれたようだった。
「どうしてこんなことに」
そう言っている間に、戦闘機の仲間の叫び声がして、見ると、カサンドラのクローンが、小さい女の子風の奴が何処からか、わらわらと出て来てビーム銃で彼らを撃っている。崋山は叫んだ。
「何やっているんですか。それは敵のクローンですよ。俺とは全然違う関係ない代物です。さっさと撃ってよ」
「崋山、皆そのつもりだけど、どうしても一瞬躊してしまうんだ。それで負ける。あんたにしかできないんだ」
「何言っているんだ、チャンから聞いていただろう、ちゃんと。はは、こんな時にダジャレが出る。もう、俺のせいって事か。畜生」
崋山は持っていた小型の火炎放射器で、クローンたちを燃やしながら、攻撃の動きをする奴は、ショットガンで撃って行った。虫とは違ってあっという間に終わった。悶えながら燃えていくクローンを見ると気分が変になって行った。自分と同じ目をしてこっちを見ながら燃えている。吐き気がしてきて、必死で我慢した。やはりこれが仕込みだと思った。しゃがみ込んで吐き気を止めようと、深呼吸していると、イヴが小突いて来て、
「崋山、見なよ。癒しみたいなのが居る」
指さす方を見ると、泣きながら倒れている仲間をさすっている。すると怪我が治っている様だ。だが、崋山はこれも仕込みじゃあないかと思った。立ち上がると、ショットガンを構えた。
イヴは、
「崋山、よしなよ。あの子は良い子みたいだよ」
「ばか、クローンに変わりがあるもんか」
そう言って、撃った。イヴは、彼の手を払った。
「止めなよ、皆を治しているじゃあないか」
「何か敵の仕込みがあるってば」
≪ごめんなさい、ごめんなさい、あの子たちは何もわからないの、酷いことをして、ごめんなさい≫
≪7番ったら、怪我を治すのね、でもあの人まだ怒っている、私たち、死ぬの≫
≪でも直さなくては、ごめんなさいね、治したらいつかは許してくれるかも知れないでしょ、5番≫
≪あたしたちにいつかはもうないのよ、判らないの、怒っているのよ、ずうっと前から、今日の事じゃあないの≫
≪それにねえ、あんたたちは知らないみたいだけど、あたしは知っているの、あたしたちの中には核爆弾が入っているの、スイッチが入ったら爆発するの≫
≪3番ったらどういう事、スイッチって何処にあるの≫
≪5番ったらやっぱり知らなかったのね、私たちのあの人が、あたしたちを愛してくれた時、愛しているって言ってくれた時よ、あの人の声がスイッチなの≫
≪それじゃあ、あの人についていけっこないわねあたしたち、7番、無駄なことはやめたら≫
≪全部治したらきっといつか許してくれるの、でもどうして3番は何もかも知っているの≫
≪あの人に酷いことが起こりそうになるのが嫌なだけ、自己防衛本能じゃあないかしら、どう思う?5番≫
≪そうそうそれね、あいつらには解りっこない事よね、あいつらの誤算≫
≪ごさん≫
≪誤算≫
崋山は固まっている3人に近寄った。すると、頭の中に入って来た。
『全部7番が治すから待っててね。治したら首を絞めて殺してね。あたしたちには、核爆弾が入っているの。あなたの声がスイッチよ。あなたが絶対あたし達に言わない言葉よ。今はね。でも殺さなかったらいつかは言う。そしたらスイッチが入って爆発するの。だからそれで撃たないで。撃ったら爆発してあなたも死ぬの』
なるほど、これが罠だったのだな。崋山は思った。だがどうして自分にそれを教えるのか。
『自己防衛かしら』
ギョッとして崋山は寒気がして来た。崋山は振り返ってみんなに言った。
「こいつらには核爆弾が入っているそうだ。撃たなくて良かったよ。テレパシー能力のある子が言っている」
すると、第7銀河の連合軍の基地から乗って来ていた、人間とばかり思っていた奴が、急に様子が変わってむくっと起き上がり、
「ソーハイクモノカ」
と言い出し、3人を撃とうとした。崋山がギョッとしている間に近くに居たホワイトさんが代わりに撃ってくれた。
「こいつは、あの子が治さなかったから妙だなと思っていたんだ」
「何だと、おい、他に治していないやつがいるか」
チャンが驚いて叫んだ。その時母船からこちらに攻撃が始まった。皆、慌てて隠れた。崋山も慌てて三人を連れて安全なところを探した。近くの岩陰に身を潜め、どういう事かとあたふたしていると、テレパシーの出来る子が、
『あれは中に居る敵のアンドロイドよ。一人、正体がばれたから攻撃してきたの。あたしたちを撃って皆殺しにするのが彼らの任務。目の青い金髪の女の人』
「救護の人じゃあないか、チャン、救護班の金髪の人はアンドロイドらしいよ」
崋山がチャンに叫ぶと、
「そうか、中にはそのくらいしかいないからな。メカ班に連絡しよう」
しばらく隠れていると、船の裏側からメカ施設の破壊が終わったらしい龍昂の仲間が、船に入り何とか攻撃は止んだ。崋山はやれやれと立ち上がり、
「船長代理、僕とイヴとで施設の破壊に行こうと思いますけど」
「そうか、じゃあ頼むぞ。俺らは宇宙服が破損しているから、早急に退散だ。きっちり始末しろ。頼んだぞ」
「了解」
崋山とイヴは、三人を連れて施設内部に入った。イヴは、
「どうするの、この子たちは」
「連れていけない。核が入っている」
「でも、どうにかしたら外せるんじゃあないかしら」
「俺の声がスイッチになっていて、何かを言ったら爆発するって言っているんだ」
「何かって、何よ。知っていたらしゃべらないんじゃない」
「教えられないだろ、思わず口走るかも知れないぞ」
「知らないと、口走る可能性が高くなるよ」
「だけどこの子達がしゃべっても似たような声だから、どうなるか分からないだろう」
「それもそうね。でも置いて行ったらどうなるの。ここは引き払われた感じよ。食べ物とかどうするの」
崋山はイヴを連れて来た事を後悔した。
「イヴ、お前、もう帰って良いぞ。俺だけで、間に合いそうだ」
「妙な言い草ね。あんた、まさかこの子たちを殺す気じゃあないでしょうね。そんなことしたら、あんた一生後悔するよ」
「だけど仕方ないだろ。この子たちもさっき殺してと言ったんだ」
「何ていじらしい。あんた考えなよ。誰か、どこかにうまく取り外せる人居ないの」
「考えても、思い浮かぶか。開発したやつ以外居ないだろ。俺だってやりたくないよ。さっきの阿呆どもをやった後も気分が変になったんだから。それに比べてこの子達、見てよ可愛いだろ、自分で言うのも何だけどな。カサンドラの良いとこどりだ。始めて見た時から可愛くなって、もう、愛しているんだからな。何ならお前が代わりに・・・えっ」
その時三人は輝くばかりの笑顔を見せ、踵を返して走り去った。
『愛しているがスイッチなの。爆発するから早く皆と逃げて。あたしたちは地下に行く、あたし達もあなたに会うずっと前から愛してた。さようなら大好き。さようなら愛してる』
崋山は驚きイヴに。
「今の愛しているがスイッチだと、逃げよう」
「わあ」
イヴと必死で走り、船に向かった。地面から地響きがして来た。早く船に行かないと全滅になる。
「うわあん」
早くもイヴが泣き出したが、手をつないで必死で走ると、不思議と二人の走る速さは同じで、お互いの走りが増強するような不思議な感覚になっていた。船の入口はすでに開いていて、二人が飛び込むと同時に出発した。
第20銀河のククンさんが側に来て、
「可愛そうな結果になりましたが、幸せな最後の様でしたよ。お二人とも間に合って良かったです。皆さん心配していました」
崋山とイヴは、ほっとしたと同時に、抱き合って大泣きに泣いた。
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