第15話 心の氷が解けるとき
崋山達の乗っている船は乗員、宇宙船自体もダメージを負い、言わば満身創痍だ。それでも龍昂の軍の人たちは故郷に返す約束になっていたので、目指す第20銀河近くまで行き、迎えに来た第20銀河の宇宙船に一先ず全員乗ってもらう事になった。第20銀河の人8人と、その近くの小規模の惑星グループから来た人達2人だった。あれから、崋山は、ククンさんやいつもククンさんに引っ付いているクーククさんとも仲良くなり、彼らから気の毒な身の上を聞いていた。クーククさんは世が世なら王族の身分なのだが、第18銀河(敵の中心的な銀河)に攻めてこられ、仲間に入るように要求されたが、第20銀河の人たちは平和を好む人たちなので拒否したそうだ。ところが第18銀河は、王子であるクーククさんを人質にして、言う事を聞かそうとしたそうだ。それで仕方なく不本意ながら第20銀河は第18銀河の仲間になり、ククンさん達クーククさんの付き人は人質として第18銀河の船に乗っていたのだが、龍昂に攻撃され、彼らは助けられたそうだ。しかしその時忠実な部下の一人が、王子に危害を加えようとした第18銀河の乗員をことごとく殺してしまい、それは宇宙法の[協定を結んだ銀河はお互いに危害を加えてはならない]と言うルールに違反した。そしてその時期、和平の話が起こり、彼は裁判により監獄星に送られる事になったそうだ。崋山は第20銀河の人たちは相当強いのだろうと、想像した。だから味方に無理にでも引き入れたかったのだろう。クーククさんは、和平になったら自分たちは故郷に帰れるのに、一人監獄星に行かされた部下の事が今更ながら気がかりだと言い、皆と涙ながらに話していた。なんでも監獄星は、敵味方共通の銀河間の監獄になっているそうだ。今までも敵と味方が、入れ替わることが良く有り、結局共通の監獄になってしまったので、結果的に恐ろしい所になっているそうだった。この話を聞いた時、崋山は嫌な予感がしていた。そう、崋山の嫌な予感は的中することがある。しかし、いくら何でもと崋山は思いなおし、話として聞いておいた。
迎えの宇宙船がとうとうやって来て、こちらの小型船に乗って行くにしても、こちらは装備が少ないので、小型船は持って帰りたく、崋山が操縦して彼らを送り届け、船は持って帰る事になった。操縦の仕方はルルさんから習っていた。唯一虫にやられていない、第7銀河の小型船である。
10人を乗せて、第20銀河の宇宙船に行くと、第20銀河の人たちから大歓迎を受けた。龍昂が彼らを助けて、崋山がその孫だと言う事も、すでに分かっているようだった。崋山は言葉が少しわかるため、どういう訳かこのままこちらに住んでもらえば?と言う意見がちらほら聞こえてきて、早く引き上げた方が良さそうだと感じられるような大歓迎だった。早々に引き上げようとしていると、クーククさんの母親、女王様らしい人が、崋山を抱きしめ、『御武運をお祈りいたします』と言われてしまって、すっかり戸惑った。まだ何かやり合う事があるらしい。一応お礼を言って何とか早々に引き上げた。戻ったら、イヴから、
「意外と早かったね。パーティーとかあるんじゃないかと思ったけど」
「それどころじゃない。こっちで暮らせと言われそうだから、早々に引き上げたんだ」
「ひぇー、どういう事。あんた何かまずい事あるんじゃあない」
「嫌な事言うな」
と言ったものの、なるほど、そう言う見方もあるなと崋山も考え直した。
第7銀河の基地にようやく帰還すると、弱り目に祟り目と言う事は有りがちで、崋山とイヴにとってはさらに追い打ちを掛けられるような、知らせが待っていたのだ。ルルさんは本部に行き、涙ながらの報告をし、崋山とイヴは気の毒で付き添っていたのだが、第7銀河の人たちの様子が以前と違っているのに気が付いた。ルルさんの報告を聞く前からである。本部司令官とルルさんの様子を横目に、以前から懇意にしているピリーさんの所へ行き、
「あのう、こっちでも何かあったんですか」
と聞いてみた。するとピリーさんは少し言いにくそうに、
「気が付いたか。君たちが出航した後、不味いことになった。敵の奴らが厚かましくも、今までお互いに作戦上であろうと、無かろうと、宇宙法に則って違反者を裁判に掛けるべきだと言い出してね。まあ向うだって、お前達が乗っていた船の例の船長に殺されたようなものの乗組員の事が表ざたにはなったんだが、龍昂の敵味方を区別しない攻撃を問題視されてね。そうそう、フロリモンが人質になっていたからね。だからあんたの両親はお咎めなしだったんだが、龍昂は以前から必要物資を第3銀河から頂いていたことを問題視されてね。裁判員のひとりだったベル司令官が『それは第3銀河の内部事情だ』と反論したんだよ。だけどねえ、あのイワノフ船長の奥さんが乗っていた小型船を攻撃した時、奥さんが怪我をして出血多量で亡くなっているんだ。君たちの血液は、中には特殊な人も居るんだってね。ベル司令官がそれも不可抗力だったと、普通なら死ぬはずのない怪我だったと説明したけどね。彼女は一般人だったからね」
「それでどうなったんですか」
「裁判員はベルさんを除いた全員が、監獄星行きの判決を下したよ。それで昨日行っちまったよ、監獄星に。まあ、例の6人の子分もついて行ったから、ボデーガードが居るから良いようなものだが」
「そんなあ、もう年じゃあないですか。一体何年の刑ですか」
「それが、25年だ」
「それって死刑みたいな物じゃあないですか」
「そうとも取れるな」
崋山は愕然とした。龍昂爺さんにあれこれ報告しょうと思っていたのに、もう居ないんだ。これっきりかも知れない。
「崋山、酷いことになったね」
イヴに言われた。崋山はふらふらと外に出た。イヴが寄り添ってくれていた。そこへ帰還の知らせを聞いて、崋山の両親、レインとアンがやって来た。アンが駆け寄って、
「ああ、よく無事に帰って来てくれました。お爺様の事どなたかに聞いたようですね。あなたが帰って来るのが間に合ってくれたらと、願っていたんですが、叶いませんでした。一日違いだなんて」
レインは、
「あいつらはわかっていて、わざと昨日移送したんだ。奴らのやり口だ。崋山、これはかなり不当な扱いだ。ベル司令官が控訴すると言っている。しっかりするんだぞ」
「控訴ですか。当然ですよね」
「そうだ、このまま引き下がれるものか。ところでお前、まさか第3銀河の船からハッキングとかしていないだろうな」
「え、どうしたんですか急に」
崋山はとぼけたが、側にいたイヴが、
「ええっ、もしかしてもうばれたとか」
崋山は舌打ちし、レインはㇱっと小声で、
「やはりそうか。まだ調べが始まったばかりで、遠方でどの船からアクセスがあったか特定されてはいない。しかし動機のある奴の事も調べるはずだからね。ちょっと私らの部屋に行こうか、あの部屋は防音になっているから」
それから四人はダンマリでレイン達の住処に急いだ。
部屋に着くとレインは、
「時期が来ればお前がやったと知れるな。だがこういう事はきっちり証拠が必要な罪だからな。お前のアクセスしたシステムに履歴が有る事を裁判で示せなければ、起訴は出来ない。不可抗力で紛失するとか、システムを特定できないとか。だが今回は特定出来るな」
「あっ、そう言えば虫に一度システムをやられたんだった。それで第2操縦室を出したよ」
崋山が思い出し、希望を抱いたが、
「第2に出来たなら、すべてコピーも出来ているだろうよ」
レインがすぐに希望を打ち砕いた。
「すべてと言う確信はあるの」
崋山が追及すると、
「いや、操縦だけ出来たかもしれない。確かめなければ断言は出来なかったな。不信に思われずに確かめられるかな」
とレインが言い直したので、
「僕、確かめて来る。なにせ副船長代理だからね。操縦室に出入りは出来る」
と言って、崋山は船に行くことにした。
「残っていても消すんじゃあないぞ、証拠隠滅で罪が重くなるだけだ」
「ちぇっ、分かったよ」
崋山が出かけたが、イヴはついて行かず、そこにある宇宙法抜粋のファイルに興味を持った。
「これは、抜粋って」
「ああ、それはね今回改正のあった法律を見ようと思って、資料を借りて出して見ていたんだよ。関係者は本当はこういうものにはアクセスできなくなるんだ。以前手に入れていた原本もあるよ。だけど父さんの件や崋山の件は最近追加された法律だから、改定箇所の抜粋を見れば足りるんだよ」
「ふうん、見てもいい」
「うん、見てごらん。この法律を改定したのは数年前だが、そのころから父さんの件は仕組まれていたようなんだよ」
「そうなんだ」
イヴは龍昂の事は気の毒だが、それよりも崋山のハッキングの事が気がかりだった。もとはと言えば自分のせいだ。それで何か手はないか調べようと思った。その資料には刑法だけではなく、傭兵の待遇改正とか、設備の設定とか、いろいろな改定が載っていた。しばらくじっと見ていた後、イヴは唐突に、
「お父様、お母様。わたくし崋山と結婚させていただきます。それも直ぐに。そうすればわたくしたち、連合軍を退役ですし、そうなると退役者は入隊期間の些細な罪は問われませんの。殺人以外はね。この新しい法律では同一隊の隊員同士が結婚した場合強制退役だって。どこかで三角関係で、もめたらしいの。だから同じ隊の隊員同士の結婚は士気が乱れるので強制退役だそうですの。そして出身の惑星に強制送還ですのよ、おほほほほ」
崋山の両親はイヴの態度にポカンと呆れていた。どうやらアンの真似をしているつもりらしい。レインはイヴの読んでいた所を見返し、アンに、
「本当にそう書いてあるよ。これは名案と言えるな」
「まあ、本当ですの。それは確かに良い事ですわね。そうと決まったら早くしないと。崋山は何て言うかしら。でも、まあ、あの子の意見はこの際、どうこう言っていられないわね。でもきっとイヴの事は好いてるはず。戻ってきたら、管理棟に行かなければ、確か夫婦以外にもう一組ぐらいは署名の箇所があったでしょ」
アンはそう言って奥で何やら探し物をしていたが、どうやら記念に保管していたらしい、ブーケを出してきてイヴに渡した。
「こういうのがないと気分が出ないと思うの」
「ありがとうございます、お母さま。わたくしたち、嫁、姑としてきっとうまくいきますわ」
レインは崋山が何というかと思い、これはきっと一波乱ありそうな気がしていた。
そこへ崋山が上機嫌で帰って来た。
「みんな、超ラッキーなお知らせがあります。虫の奴にことごとく食われていました。おかげでシステムはコピーする間もなくダウンし、新しく立ち上げられていました」
「おう、それは良かった。運がこっちに向いてきたようだね」
イヴ、
「・・・」
アン、
「・・・」
「あれ、こっちの二人は、なんだか嬉しそうじゃないみたいだけど、どうしたのかな」
「いやいや、嬉しいに決まっているだろう。ただ、イヴが記録が残っていた時のプランを思いついていて、ちょっと勢いを削がれているだけだよ」
崋山は、イヴの持っているブーケを見ながら、
「へえ、イヴもプランを考えてくれたんだ。どういうのか教えてよ」
「ううん、記録が無いのなら結果オーライって事で、あたしの案は必要なくなったし」
イヴはブーケを隠しながら口ごもった。
「いやいや、一応聞いておきたいな。プランって多い方が良いよね。父さん」
「まあ、実戦では色々想定しておいた方が良いね。想定外で対処できないっていうのは、副船長代理になったからには、能力を疑われてしまう」
アンは、
「まあ、レイン、オーバーですわ。これは実戦とは関係ないでしょう」
と、イヴに味方の様だ。崋山はますます興味がわき、イヴに、
「言ってよ、イヴ。きっと良い案だったんだろう」
「まあね。この宇宙法の改定箇所を見ていたら、退役したら兵役期間の殺人以外の罪は追及しないって事になったって書いてあるのよ」
「でも、俺らは退役までまだ、だいぶあるよね」
「ところが兵士の任務規定の所に、最近何かトラブルがあったらしくて、同一部隊の隊員同士が結婚したら、強制退役とするってなっていて、そして故郷の惑星に送還って書いてあったんだ。だから発覚する前に急いで結婚したらいいんじゃないかって思ったんだ」
「それって、組み合わせたら願ったりかなったりの改定だよね。確かめたいんだけど、僕って誰と結婚して地球に帰れる案?」
「ふん、あたししか居ないでしょ」
「だよね。そんな気がしてた」
崋山は、しばらくショックでぼうっとしていたが、
「それって良いかも知れないな」
と言い出した。
イヴが、
「記録なかったんだから、あたしの言った事なんか気にしないでね」
と言うと、
「そろそろ帰りたいんだ。ズーム社の事を人任せにしているのが嫌だったから。イヴと結婚して地球に帰る。これはチャンスだ。さっきまで準備していたんだろ。さっさと届けて、既成事実を作ろうよ。婚姻を記録してもらわなきゃ」
「いいの?無理してない?」
「全然、イヴこそ本当に結婚しても良いの?何だかそんな雰囲気なかったのに」
「あたしはもしまた結婚する気になるとしたら、崋山しかいないだろうと思っていたんだ」
「ふうん、じゃあさっさと届けに行こう」
レインとアンは、二人も地球に帰ってしまうとなると、寂しくなるが、従兄弟たちが居るからその方が安全だと賛成した。
皆で第7銀河の記録係の所へ勇んで行くと、
「あんたら、法の改定を見て来たんだろ。これは事実婚じゃないと通用しないよ。こっちも人手が無くなったら困るんだから。最近辞めたくなって届けにくる奴が出て来たんだ。だからこっちも事実婚チェックのロボットさんを装備したんだ。ほら紹介しよう。ロボットのTY60さんだ」
と言われてしまった。崋山はまずいことになったと思ったが、TY60さんは崋山達を見て、
「相思相愛の様ですが、まだ肉体関係は有りません。今時珍しいですが、届が終われば肉体関係になるものと思われます」
と、言われてしまった。イヴも驚いていたが、何とか結婚届を出すことが出来た。
帰り道、イヴが
「相思相愛だってさ」
と言うが、崋山は言葉も出なかった。アンが、
「こればっかりは、不思議な物よ。本人達が気づかないって事がありますからねえ。レイン」
「うん、こんな事、今更言っても仕方がないが、お前の船に乗っていたアンドレ・日向だが、アンドレには叔父さんに当たる人が居たんだ、彼の父親の年の離れた弟、サミュエルといったかな。彼は明らかにペニーを好いていたな。だが好意を持っているのに、何も行動しようとしない。ペニーは自分の事を何とも思っていないからなどと言うが、言わなきゃ判らないこともあるんだ。ペニーはアンが私を思っていたのに同調していたが、彼がペニーにプロポーズしていたら、違う結果になっていたと思うな。ペニーもサミュエルの事は嫌ってはいなかった。彼は地球に残っていたが、事故で亡くなったと聞いている。ペニーと付き合う気にはならなかったのだろうか。君たちもこれを機会に結婚出来て良かったんじゃないかな。そうじゃなければ、結婚相手とは考えてはいない様だったからね」
崋山はレインに言われて、ふとペニーを時々訪ねて来る男がいた事を思い出した。あの人の事じゃあないかな。事故で亡くなったって?崋山の知らなかった事実が、浮かび上がってきそうだった。そして相思相愛らしいイヴとの初夜も気がかりだ。一応第3銀河の仲間には報告すべきだろうと、第3銀河に行ってみるともう皆には知れ渡っていた。誰が知らせるのだろう。イヴが小声で、
「こういうのはきっと連絡行くんだね。なにせ強制退役だもん」
とつぶやいた。
「お前ら、考えたな、畜生。おめでとう」
皆それでも祝ってくれた。少し健康を取り戻したソーヤさんも居て、
「そうか、やったな崋山。前からお似合いだとは思っていたんだ。晴れて地球に帰れるな。この改定はこっちに帰ってから知ったんだけど、お前らも同じスピードで知ったんだろうな。本部に連絡が言ったら直ぐ退役の命令が出るらしいぞ。今日は初夜だし、帰りの荷物をまとめねばならない。お前ら今晩忙しそうだな。あははは」
肉体関係がないと言う話も行っていたようだ。様子を知っていたから解っていただろうが、笑われてすっかり閉口してさっさと第3棟を後にした。こうなったら、レイン達のいる所の方が居こごちが良くなった。
帰り道、まだ事情を知らないらしい、アンドレ・日向とモーリス・キャメロンに出会った。崋山はあのことを聞いてみようと思った。
「日向さん達、丁度いいところで出会ったです。僕たち結婚しました。もうすぐ強制退役のお達しが来るので、お別れです」
二人はひぇえっと驚いたが、
「お前ら思い切ったことするな。あの法改定を利用したんだな」
とキャメロンさんに感心されてしまった。
「ええ、まあ」
と言葉を濁し、日向さんに、
「所で日向さん、日向さんにはサミュエルさんという叔父さんが居たそうですね。僕のあの親父から聞いたんですが、地球に残っていたそうですね。その辺の事情はご存じですか」
「おや、その話題か。大体の事は俺の親父から聞いている事だけど、何だか普通の人の中に好きな人が居て、地球に残ったらしいよ。そうかと言って結婚することも無かったらしい。なにせ新人類にとっては地球で暮らすのは、ズーム社に狙われることになるからね。彼は新しく新人類が生まれたら、脱出させる手配をする係だったそうだよ。だから事故に見せかけて奴らにやられたんだろうな」
「その好きだった人の事は知っていますか」
「そこ来るか。俺の記憶力を試す気か。親父もそう言う話は、知っていればきっと話しただろうな」
そこでアンドレはしばらく考え込んだ。キャメロンさんは、
「こいつは自分の記憶力自慢だから、聞いたことがあれば頭の引き出しの何処からか引っ張り出してくるんだ。見ていろ。じきに出してくるから」
と、解説してくれた。アンドレは少し頭を傾けて、虚ろな顔をしている。見ものと言ってもいいだろう。そのうち思い出したようで、きりっとした顔で言った。
「依田ペネロペ。ぺニーと言っていた。学生時代からの同級生。片思い。情報は以上だ」
崋山はグッと来た。やはりあの人がサミュエルだろう。だから俺の親は、置いて行っても何とかなると思ったのだろう。
「思い出してくれてありがとうございます。その人は僕の育ての親です。叔父さんが亡くなった時の事情は分かりますか」
「うん、大体同じ引き出しだ。お前がズーム社に捕まった時期と同じころだった。事故の知らせで、俺の親父の機嫌も悪かったな。断言は出来ないがそう言う事だな」
「ありがとうございます」
「うん、叔父貴の事は気にするな。任務なんだから」
彼らと別れて歩いていると、イヴが、
「残念だったね。あんたのペニーやその彼氏。付き合っていたみたいだったの?」
「時々、家に来ていた。どうして結婚しなかったのかな。まさか俺に遠慮なんかしてないよな」
「さっき言ってたじゃない。アンドレさんが。ズーム社に感づかれたくなかったんだよ」
「結局感づかれて、死んだのに」
「結果論でしょ。あんたやペニーさんを守ろうとして亡くなったみたいね」
崋山は、ペニーは自分の記憶よりも、幸せに暮らしていたのかもしれない事が解った。そしてあの時のカサンドラにも、守ろうとしてくれた人間が居たのかも知れない。崋山の心の中の氷のかけらが、少しずつ小さくなっていくのが分かった。守ろうとしても、守り切れなかった悔しさ。今は崋山にも理解できた。きっと真実を突き止めて決着をつける。崋山はいつもよりすっきりとした気分になり、決意も新たに両親の住処に戻った。両親は崋山たちの結婚でかなり機嫌が良さそうだったが、もっと気分を良くしてやる事にした。
「ただいま。僕、第3銀河の棟に挨拶に行ってアンドレ日向さんと少し話したんだけど、何だか父さんたちの事、誤解していたみたいだな。ごめんね。僕にはペニーとサミュエルさんが居たんだよね。ペニーから僕を取り上げられなかったんでしょ。大体、事情が分かった」
「まあ、崋山。あなたからそう言う言葉をかけてもらえる日が来るなんて、思ってもみなかった。ありがとう。私たちを許してくれるのね」
アンは泣き崩れてしまったが、動揺しやすいのは大体わかって来たので、気にしないことにした。レインも、
「良かった。解ってもらえて嬉しいよ。お前も結婚したらすっかり大人になったな。イヴのおかげかも知れない」
「いえいえ、わたくしは何もしていませんわ。おかげだなんて恐れ多くて、おほほほほ」
崋山は妙な物言いのイヴをあきれて見ると、アンが小声で、
「イヴはマリッジブルーを誤魔化しているから、優しくしてやってね」
と耳打ちした。崋山はそうだったと、ピンチが待っているかもしれない事に、思い至った。
「優しくしてほしいと言うのは、こっちのセリフかもしれない」
言った途端に、イヴのパンチが飛んできた。うっかり避け切れずにまともに顎に当たり、
「おおっ」
「まああ」
両親は仰天していたが、
「いつもの事ですから」
と安心させて、イヴを引きずってアンが用意してくれていた、ベットルームに逃れた。
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