第12話 罪と報い・・・報いはきっとある
崋山達の任務の計画も決まった。任務は第3銀河と第7銀河の両方に関係しているが、第7銀河は和平会議のホストを務めなければならないので、第3銀河の船で行くことになった。船長はソーヤさんになり、副船長は、班長だった、アスカ・チャンが昇進した。チャンは、
「なんだかなー、崋山達の活躍でうまく和平になったのに、俺だけ昇進してさ」
などと言っていたが、イヴに言わせると、
「乗員の査定とか事務的なことは、たいがい副がするから、崋山はきっと、報酬金額がどんどん上がって来るよ」
と、羨ましがった。乗員は第3と第7銀河以外には、龍昂の船に乗っていた数人の、敵の船から引き抜いていた人たちが、自分たちの銀河に帰るため、途中まで乗る事になった。敵だということになっていたが、実際は強いものと言うか、長いものに巻かれる感じで、無理やり同盟銀河になっていたそうだ。明日、出航となった時、途中まで乗ることになっていた人達の中に第9銀河が含まれていたのだが、そこから、奇妙な情報が入った。宇宙船には共通の信号がある。主なものが地球ではSOSと言っている助けを求める信号だ。その信号を出している第7銀河の船を見つけた第9銀河の船は、どうしたのか通信して尋ねると、
「虫、虫が入って来た。虫にやられている。信号は自動的に出されたものだ。無視してくれ。救護の要請はしない。至急立ち去る事を希望する。救護の要請はしない。虫が来る。そっちの船にも来る。至急去れ。虫が来る。至急去れ」
大体こんな内容だったそうだ。すると確かに、その船から無数の小さな何かが出て来て、こちらの方へ来るので、慌てて離れると追っては来なかった。それで不思議な物を見たが、あれが虫なら殺虫剤でも撒けば良いだろうと言う事になった。しかし、自分たちの船には生憎、必要があると予想していないので、殺虫剤を装備していず、立ち去る事にしたそうだ。船に乗ることになった第9銀河の人曰く、殺虫剤の強力なやつを積んでいくべきだろうと言う事だった。その話を聞いたソーヤ船長は、
「それならどうして行方不明になったのだろう。宇宙に虫が飛んでいるとは初耳だな。その虫が原因なら毒をもっていたのかな。厄介な案件かもしれない。出航前にその話が分かって良かった。生物科学研究棟へ行って相談して来よう」
そう言って、出かけた。今晩がここで最後に過ごす夜になると、第3銀河棟の皆はパーティーを計画していたのだが、ソーヤ船長が居なくなって興ざめになった。ソーヤさんはかなり人気があった。崋山達も、特にイヴが気に入られていて、可愛がってもらっていた。
「ソーヤさんが居ないと、誰が乾杯の音頭を取るの」
等と、イヴが言い出すので、崋山は、
「だから、皆ソーヤさんが戻って来るのを待っているでしょ」
と言ってやった。最近イヴは良くソーヤさんと飲んでいる。仲良し飲み友達だが、出航すれば酒を持ち込むことは禁止されているので、今日が最後の宴会となる。崋山は酒はあまり好みでは無かった。イヴに言わせると、崋山は食べ物でも酔える奴だそうだ。崋山も自分は雰囲気に同調しやすいという自覚がある。ソーヤさんがなかなか戻らないので、白けてしまい皆酒を持って自室に引き上げだし、お開きとなった。
「ソーヤさん夜中まで仕事だったのかな、向こうの人たちと飲んでいたら、絶交してやる」
等とイヴは文句を言いながら自室に引き上げた。崋山は先輩たちと虫について考えたが、皆、今まで噂も聞かなかったそうだ。謎の虫に崋山は嫌な予感がした。
出発の朝になった。ソーさんはずっと虫について調べたが、宇宙に生息できる虫がいるとは考えられない、と言う結論しか出なかったそうだ。謎のままである。船に乗る前、龍昂がコンタクトして来て、虫についてどう思うか聞いてみた。
『生物とは思えないな。見たことは無いから断言は出来ないが。もしかしたら敵方の第11銀河の奴らの新しいメカかもしれない。あそこはメカをよく開発している。気をつけろよ。何だか心配だなあ。お前たち、やはり行くのをやめる訳にいかないかな』
『お前達って?』
『もちろん、イヴとお前だ。イヴはいい子だねえ、そう思わないか』
『別に、じゃあもう乗るから』
崋山は。イヴの年寄相手の人気に気付いた。双市朗からの話でアマゾネスタイプと思っていたので、崋山としては、イヴの事は友達と思っていた。
船は地球環境なので、快適な旅と言えるだろう。だが緊急事態になれば、慌てて宇宙服を着ることになる。それもなんだかねえ、とイヴと話しながらある日、船の中を暇に任せてうろついていた。すると何だか音楽が聞こえてきて、耳を澄ますと、誰かがハミングしているように思えた。どうも数人で少しずつ違う音階をハミングしている。
「誰か歌っているね」
イヴも聞こえたらしい。
「うん、不思議なメロディーだね」
気になって歌声の方へ行ってみると、龍昂の船から乗って来た人たちで、最初に会った事のある人を含めて数人が集まって歌っていた。というか、これは彼らの言葉なのだろうか。彼らは地球環境でもヘルメットはつけていなかった。崋山達は携帯していた翻訳機を出し挨拶した。
「こんにちは、歌声が聞こえてきたので来てみたんです。もしかしたら今のは話し声ですか」
「そうです。第3銀河の人には歌声の様に聞こえるそうですね。龍昂さん達も、そう言っていました。彼らにはとてもお世話になりました。あなたは彼の孫だそうですね。あなた方の事を彼は心配していましたよ。あなた方に出航しなければならない訳があるのですか」
心地よいハミングが共通言語に翻訳されていくのを聞いて、崋山はなんだかうっとりして来た。イヴなどあくびまでして、眠そうにして言った。
「子守歌みたい。眠くなったよ」
崋山が呆れていると、
「ふふふ、そうなんですよ。第3銀河の方だけではありません。どういう訳か、銀河別にリラックス効果のある音階があるようなのです。龍昂さんが少し研究していました。催眠術が出来そうなのですよ、私たちには」
「へえそうなんですか」
崋山はこれ以上ここに居たら、多分イヴは眠ってしまいそうなので失礼して、イヴを引きずって立ち去る事にした。
「ねむいよう」
歩きながらイヴがうとうとするので、仕方なくおぶって部屋に連れて帰っていると、ゲーリー・ワトソンとガン・ホワイトに遭遇した、彼らも暇でうろついていたらしい。
「おや、イヴは寝ちまったのか。それで部屋まで連れて帰っているのか。崋山も隅に置けないね。やるときはちゃんとおきて居る時じゃないと、特に最初は大事だよ」
とホワイトさんに言われ、
「何言っているんですか、誤解しないでください。歌のような声を出す人といたら、イヴが眠ったんです」
「うん、聞いたことあるぞ。第20銀河だろ。龍昂の船に居た奴ら。気をつけろよ。離れていてもノックダウンだ」
「なるほど、だけど別に敵意はなさそうですよ」
「そうかい、じゃあなぜイヴは眠ったのかなあ」
ワトソンさんも、
「気持ち良さそうに眠っているね。これは敵意ないな。多分睡眠不足だったんだろう。敵意があれば勢いよくぶっ倒れて、頭痛になるらしいからな」
「そうなんですか、やれやれ。けっこう重いんですよね」
二人に笑われながら部屋に連れ帰った。イヴの部屋に入りベットに寝かせようとしたが、結構な距離をおぶってきてやれやれと思ったら、割と勢い良く降ろしてしまった。すると目を覚ましたイヴが、寝ぼけているのか崋山に掴みかかって来た。驚いた崋山は応戦した。
「何だよ、寝ぼけるな。やっとここまで運んだのに」
一応文句など言ってみたが聞く耳持たない様子で、仕方なくこれは本気出さないとやられると思ったが、イヴは噂通りかなりの能力だった。
どの位の時間本気で争ったか分からないが、長時間に及んで先にイヴを運んでいた自分は、疲労で不利になって来た。イヴも息が切れてきたようなので、何とか間を作って、
「もう止めようよ、イヴの勝ちって事で良いから。それでも、言っておくけど、こっちはあの人たちの所からお前をおぶってきて、疲労で不利なんだからな。条件同じならこうはならないからな。覚えとけ」
と捨て台詞を吐き、素早くその場から逃げようとドアに走ったら、やはり捕まえられてしまった。
「もう、降参ってば」
今度は泣きの手で行こうと思ったら、
「何よう、人畜無害と言ってたくせに」
とイヴも泣き出したので、
「言っておくけど、お前から仕掛けて来てんだからな。こうなったら、こっちも絶交してやる」
振り切って逃げようとしたら、イヴは酷く泣き出した。それもだんだん激しくなる。崋山は怒りが収まり、
「最初に寝ぼけるなと言ったじゃないか」
と言うと、
「聞こえてないもん。寝たらいつもあの時の夢見るから、無理やり眠らされた感じになって、現実みたいになった」
「ふうん、じゃあ俺、これで立ち去るから」
どう対処すれば良いのか分からず、崋山はとりあえずここは席を外して、気のすむまで泣いてもらおうと部屋を出かかると、また捕まって、
「慰めてくれないの、薄情者」
態度のクルクル変わるイヴだ。
「慰めても良いけど、ベットルームでは止めておく。リビングに行こうよ」
「皆には聞かせたくないの」
「じゃあどこか誰もいない所を探すかな」
「うん」
二人で部屋を出てうろうろしていると、システム管理室が人の気配が無かった。ドアを開けるとやはり誰もいない。
「皆仕事熱心じゃあ無いな。こういう大事なところに誰もいないのは、どうかと思うよ。俺らで居てやろう」
と言う事になり、入ると、イヴは奥の人が入ってもすぐには見えない所まで行き、隅の床に座り込んだ。崋山も付き合って座り込むと、イヴは崋山の肩に頭を乗せ、
「ごめんね、さっきは。あの人たちの所で急に眠くなっていたの忘れてた」
「そうだろうと思っていた」
「寝たらいつもあいつらの事思い出すんだ」
「うん」
「あの時、あいつらが式の前の前夜祭だってたむろしていたんだ。式はハワイのあいつの親父のホテルですることになっていて、みんなで泊まっていた。夕食終わって部屋に居たら、あいつが一緒に飲もうとか言って電話して来て、ホテルの屋上に来いって言うから行ってみたら、昔の双市朗の喧嘩相手がそろっていた。ちょっと嫌な感じしたけど式の前夜だし、親父さんのホテルに居るんだからどおってことないと思った。ウイスキーを勧められたから飲んだら、なんか盛られたって分かった。まずかった。目が覚めたら、ホテルじゃなかった。眠らされている間に移動していて、山小屋みたいなとこ。騒いでも誰も助けは来ないとこ。もう裸にされていて奴も裸だった。他の奴らもみんな居た。双市朗の女を皆で戴くんだって騒いでるの。違うのに双市朗とは兄弟みたいなものだったのに。あいつは双市朗のお古と結婚させられると思っていたんだ。あたし、かっとなって、そうしたら不思議な感覚になったの、何もかもスローモーションになって、あいつがぼうっとしている間に相当殴ってやった。他の奴もテレっとしているから全員気が済むまで殴って、服探すけどないから仕方なくあいつが着ていたらしいのを着て、腹が立ったから、部屋に戻って荷物まとめて家に帰った。そしたら親父がどうしてすっぽかしたのかって怒っているのよ。向うはどうなのかって言ってやったら全員入院しているって。お前の仕業だろうって、怒っているのよ。いかれている。向うの警察では、監視カメラであたしが連れていかれる所とか映っていて、想像がついたらしいけど、あたしが居なくなったからうやむやになったみたい。親父の顔見たくないから双市朗の所へ行こうと思った。それに傭兵の給料ってすごいでしょ。あれだけあれば誰にも頼らず生きていけるでしょ。自立したかったの。自分で分かったの、これが新人類の能力だってね。うちの家系が新人類になりかけているって、双市朗が言っていたし。自分であいつらやっつけたけど、警察でうやむやになったのは悔しいんだ」
「そうだな。俺も仕返ししてやりたいけど。まだ当分地球には帰れない」
「崋山には関係ないでしょ」
「関係あるよ。戦闘機の相方は一心同体なんだ。相方の敵は俺の敵だ。目に物を見せてくれる」
「何だか昔の時代劇のセリフっぽいね」
「そうだ、あいつら全員こっちに呼んで天誅を下そう」
「どういう事?」
「まだ和平があっても、小競り合いは続くんだろう?だけど今まで頑張って来た兵隊さんたちは和平なんだから家に帰りたい」
「それがどうしたの」
「清く正しい、えーとイヴの元婚約者の名前は?」
「中務恭吾」
「何と言う清く正しい名前。中務恭吾。連合軍に入隊希望しました。他の奴も知っている?住所とかも。いや、多分調べればわかる。全員入隊を希望しましたっ」
「何言ってるのよ」
「ここから、奴らの入隊希望を確かめよう。きっと志願書出しているはず」
崋山はそう言いながら、システムのキーボードを引っ張り出した。
「あんた、それって犯罪と違うの?」
崋山はきょとんとイヴを見て、
「何の事?僕は今から確かめるだけ」
イヴは呆れて、
「見てて良い?」
「うん、見るだけだってば」
前にチラッと調べておいた連合軍のシステムへの侵入方法がまだ使えた。おかげで楽に侵入できたが、そろそろアクセスキー、変えた方が良いんじゃないかなと思った。次に地球軍のシステムに入れるか試した。やはり、侵入できた。
「まあ味方なんだから、侵入出来たって構わないよね」
「そうかなあ」
イヴは違う意見の様だ。
「この前、連合軍が仲間割れしたんでしょ」
それもそうである。だが今は手間が省けて都合が良い。書き換えは出来るだけ、自然な形にしておきたい。
「普通、地球軍からの推薦で連合軍に入るんだ。だから初めに地球軍に入れとかないとね。手間が省けてよかった。推薦者は俺の伯父さんにしておこう。彼は推薦の出来る立場らしいから、自然だろ。もしかしたら俺の仕業とばれるかもしれないけど、まあ奴らにばれたって構わない」
「どうして?もしかしたら罪に問われるかも知れないよ。ハッカーって最近重罪でしょ」
「ふん、ズーム社はハッカーばかりやってるだろ。こっちだってやり返してやる。仕返しだって思われても、それはそれで構わない」
地球軍の隊員名簿を出して、ナの所に中務恭吾を入れようとしていると、既に入っていた。
「もう入ってら、良く地球軍に入る気になったな」
と、不思議がっていると、横で見ていたイヴが、
「軍隊に入りたがる奴なもんか。と言う事は誰かが崋山と同じことしたんだ」
「あは、皆、似たような事考えるとはね。敵の多い奴だな」
詳しく見てみると、
「上官、神崎双二朗だって、あいつと似たような名前だな」
「あたし達の大叔父さんだよ。じゃあ彼が怒って軍隊に入ったことにしたんだ。それも最近。見て日付、まだ本人も気づいていないんじゃあない?」
「ひと月経っていないね。入隊日は毎月一日だからね。彼がやってくれていたなら、連合軍に推薦だってしてくれるよね」
「多分してくれるよ。そのつもりじゃあないの?」
「だけど、これ以上は地球軍のシステムではどうにもならない。だから俺の出番さ」
崋山は神崎双二朗さんのしてくれていた、地球軍入りの志願書の本人のサインをコピーして連合軍への入隊志願書も作った。ひょっとしたらと、ほかの奴の個人検索もすると、全員地球軍に入っていた。そこで、皆の志願書を作ってやった。作業は長時間に及んだ。
「ねえ、こんなことして大丈夫なの?」
「ふん、依田崋山に怖いもの無しだ。これで18人の兵隊さんが家に帰れるさ」
やるべき事を終えイヴの機嫌も直ったので、システム管理室を出て、今から何をしようかと思っていると、うろついていた皆が足早に移動し始めていた。何か放送を聞き逃したなと、皆について行くと、ミーティングルームに集合になっていた。ソーヤさんが真面目な顔で、
「明日、敵軍の研究施設のある惑星付近に到着する。敵には感づかれてはいない筈だが、油断はできない。先に偵察機を出す。その後、破壊計画を練るからそれまで待機だ。戦闘準備をしていろ。体力を消耗するなよ」
何故か最後のセリフをこっちを見ながら話している。システム管理室にしばらくしけこんでいたのを、誤解されていたらしい。ふざけてイヴがつついて来た。小声で、
「やめろ」
と言ったつもりだが、周囲から笑われた。ソーヤ船長が、
「今日の所は、以上だ」
と言うので、部屋へ帰ろうとすると、イヴは今度は腕を組もうとしてきた。崋山は思わず振り払おうとするが、しつこく腕を絡めて来るので、また小声で、
「やめろ」
というと、
「あんたの声、デカいって自覚ある?」
「そうなの」
明日から実戦なのにと、気分を引き締めたい崋山だった。
操縦室に戻ったソーヤ船長と、チャン副船長は、
「崋山ときたら、システム管理室で何をしているかと思ったら、連合軍入りの志願書を捏造していやがりましたね。こういうの、重罪だって知らないんですかねえ。監獄星行きでしょう。どうしますか」
「まあ、報告は待て。おそらくイヴの仇を討ったつもりなのだろう。放っておいても神崎さんが推薦していただろうからバカなことをしたもんだ。これでは推薦が早すぎるから、表ざたになるな。しかし今度の任務で際立った活躍をすれば、情状酌量を願い出て相殺になるだろう。活躍するに決まっているから心配は要るまい。イヴの機嫌が良くなっているから、大目に見てやりたいな」
「そうですか、船長もイヴの事は気にかけていたんですね。ああいう目に合った子は様子で分かりますからね。機嫌が良くなってほっとしましたね」
どうやら、崋山の行状はお見通しになっていたようだった。
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