第11話 巡り合い、そしてそれぞれの道へ
崋山は双市朗があっけなく立ち去って、急にさみしくなった。そこへ日向レインとアンがやって来た。
「父さん、マーカスさんは敵のアンドロイドだったそうですね。始めから知っていたのではありませんか。そして泳がせていたのですね。どうして私たちに教えてはくれなかったのですか」
「気が付いても良さそうなものじゃ無かったかな。透視や預言が出来るなら、もう少しフロリモンがどうなったか、判りそうなものじゃあないか。最初に会った時、私が調べた事と反故がっても、マーカスの言う事を聞いていただろう。何時気づくかと、放っておいたのさ」
「何てことでしょう。そうでしょうとも。あなた、私たちが愚かだったのよ。父親の言う事より、他人の話を信じて。敵なら何もかも知っていて当然だったのね」
そう言って、アンは泣き崩れた。
「なるほど、私たちは自分たちに都合の良い話をするマーカスを、信じただけだったのか。ではあの子は死んでいたのか。それが判っていて、何故父さんは言いなりに、味方の船を襲ったりしたのですか」
「私は始めから、連合軍を襲って必要なものを頂いていたよ。知らなかったのか。敵を襲うのは危険だぞ。味方なら捕まっても大丈夫だろ。しかし近頃は長生きする気も無くて、敵の船も襲うことにしたのさ。気が変わった理由は分かるだろう」
「では、やはりフロリモンは・・・。では何故マーカスを泳がせていたのです」
「ひょっとしたら、本拠地が判って、攻撃のチャンスがあるかもしれないからね。まあ今回は、カイがNO.2の船を爆破したから停戦になりそうだ。だが、停戦だろうと、本拠地が判れば攻撃するから、お前たちもそのつもりで居ろよ」
崋山は話を聞きながら、爺さんは復讐に生きる人なんだなあと、つくづく思った。その時アンが、気付いたようだった。
「あなたは、ひょっとして。カサンドラのような」
「そう、カサンドラのような奴でして」
にっと笑って、崋山は妙な気分になりそうなので、どうやって立ち去るべきか悩んだ。このままでは大泣きカサンドラが出てきそうだ、まずい。
『出て来ても良いんじゃないですか。生みの母親でしょ』
カイが言ってきたが、
『出たくないんだ。こっちにも意地がある』
『あほな親父に意地貼る必要無いでしょ』
『だまれ、出て来る。今必死で抑えているとこ』
崋山は野次馬が大勢いるドアを抜け、走って船の外に出た。
「ふう、何とか切り抜けたな」
「崋山じゃない?」
長身の、切れ長一重の目をぱっちり見開いた女性に話しかけられた。
「え、どなたですかね」
「私、神崎イヴ。双市朗にさっき会ってさ。崋山はすごいハンサムだからヘルメット越しでも直ぐ分かるって言うから、来てみた。双市朗が乗って帰った船で来ていたのよ。あいつの代わりに相方になってあげる。相方いなくなって困っているでしょう。あいつが帰ってしまって、私も予定が狂ってしまったけど、考えてみればこれで正解だったね。あんたの事、人畜無害だって言ってたよ。だから安心だって。ホントそんな感じね。登録しに行こうよ。相方は二人で登録すれば希望通りにしてくれるって言う話だよ」
「そうなの。じゃあそうしよう」
崋山はイヴと連れ立って第7銀河の支部の管理棟へ行った。
「場所知っているんだね。何時からここに居たの」
「多分一週間くらい前。ここは地球と時間が違っているから、正確じゃあないけれど」
「地球の人たちはどこに居るの。僕、調べたいことがあるから、ここの事に詳しい人に聞きたいんだ」
「私一週間前からいるよ」
「そうらしいね。だったら、和平の話し合いに必要な被害の記録とかあるところを知っている」
「急に難しい話になったね。知らないよ。届が済んだら皆の所に行こう」
管理棟に行ってみると、同じ船だった第7銀河の人が大勢たむろしていた。崋山達と同じ目的で管理棟に来て、そのまま、まったりしていた。皆はヘルメットなしで快適なようだ。班長達から話を聞いていたようで、
「崋山は龍昂の孫だったんだってねえ」
等と話しかけてきた。そんな中に、ルルと仲がよさそうだったココと言う人が、
「ちょっと、ちょっと。崋山にはきっと興味ある話聞いた。言おうか」
「言ってくれ」
「第7銀河の船がだいぶ前、第3銀河の男の子を拾った事あるんだって。敵機が急にワープして来たから、攻撃しようとしていたら、中から何かはじき出されてきてさ、そうなると何かなって興味湧くじゃない、だからシールド張って敵に気付かれないようにして、弾かれて出てきたものがこっちに来た時拾ったんだそうだけど、それが棺桶だと分かっても、私たちの性分でさ、そういうのって開けたくなるのよね」
「それでっ」
「開けたらびっくり、第3銀河の子供だったって。それも酸欠で瀕死なのよ。でもあいにく、その船には第3銀河の傭兵とかいなくて。まごまごして、他の船に問い合わせて何とか、その子に会う空気を作って、看病したけど、目を覚まさないから本部に戻って、また本部で色々手を尽くしてさ」
「それで、その子はどうなったって」
「あなたの弟よね。分かるわ。そのうち第3銀河の船が本部に避難して来て、それが間の悪いことに龍昂と一戦交えて、船が壊れて避難して来たんだけど。その人たちに目を覚まさないその子を渡したって。知らないもんね、こっちは。その時、今わかっている事情とかは」
「ありがとう。それが、僕が知りたかったことなんだ。ありがとう。誰が拾ってくれたのか知っていますか。お礼が言いたいです」
「その後どうなったか分からないのよ」
「後は僕が調べます。とにかく拾ってくれて、色々手を尽くしてくれたお礼が言いたいです」
「えーと、そのこと教えてくれたのが、あそこに居るピリ-さん、今はこの管理棟の主みたいな人だけど、当時その拾い上げた船に乗っていたんだそう。副船長だったそうだから、きっと色々看病してくれたんじゃあないかな」
崋山は彼に走り寄った。
「ありがとうございます。僕はあなた方が助けてくれた子供の兄です。感謝します。本当にありがとうございます」
彼の手を握りしめ、ブンブンふっていると、
「こういうのが、君たちの最高のお礼なんだろうが、手が痛いので止めてくれないか」
「すみませんっ」
崋山は慌てて止め、今度は何度もお辞儀をした。
「おやっ、傷が痛まないな。おかしいな」
「ピリーさん、第3銀河の人たちが言っていたけれど、この人怪我や病気を治す超能力があるって。怪我の後遺症が治ったの?すごい。銀河が違っても治せるんだね」
ココさんが仰天して叫んだ。
ポカンと見ていたイヴも驚いて。
「うっそう、信じられない。すさまじい能力よ。これは。あんた、医者になったら。傭兵よか儲かるよ、きっと」
「何だよ、儲かるとか。双市朗も不思議がっていたけど、イヴが傭兵になった理由はまさか」
「決まっているでしょ。あんた、10年でいくら手にして退役すると思っているのさ。それが傭兵ってものでしょ」
ピリーが、
「何をごちゃごちゃ言っている、とにかくこれが一番のお礼の品だ。今までずっと背中の古傷が痛んでいたが、治ってしまった。有難い、こっちが礼を言うぞ。それよりお前の弟はどうなったのかな。あれから私もずっと気にかかっていたんだ。こういう事はめでたいニュースになってもいいはずだろう。だがあれから音沙汰無い。君が初めてだぞ。第3銀河であの子を気にかけている人に会ったのは」
「はい。僕も変だと思います。第3銀河の船の事はご存じないですか」
「はっきり覚えている訳ではないが、船長はたしか、超能力者で、テレパシーとかで相手の考えを読めるんだった。彼も君みたいに他の銀河の人でも関係なく、考えている事が分かると言っていた。戦闘で能力が開花したそうだ。超能力と言うものは、感情の爆発で開花するそうだね。彼がそう言っていたよ」
「そうでしたか、ありがとうございます。貴重な情報です。調べてみます」
崋山は頭を下げ、イヴと一緒に相方の届に行こうと、イヴを見ると、彼女はさっきの元気はどうなったのか、顔色が悪い。
「待たせたね。届に行こう」
そう言ってみると
「うん」言葉少なに
「こっちだよ」
と言いながら踵を返した。
「どうかしたの」
聞いても黙っている。仕方なく崋山も黙って届を出し、地球の皆の滞在棟に行った。そこで楽し気な班長や日向さんに弟の情報を話し、引き渡されたはずの船の事を相談した。日向は、
「つまり、あのころ第7銀河の本部に行ったことのある船だな。船長はテレパシー能力者」
「分かりますか」
「そんなに多いはずはない。だけどもう期待しない方がいいな。ニュースにならなかったからな」
「そうですよね。解っています」
「ここの責任者のソーヤさんに相談してみよう。ついて来いよ」
日向は、たむろして先輩たちがここへ来た事情を皆に話しているところへ行き、その中でも年配の一人の前に行った。崋山達もついて行った。
「ソーヤさん、彼が依田崋山です。さっき話した通り、とても良い奴なんで、彼の弟を探すのを手伝いたいのです。実は第7銀河の船が彼の弟を拾ったという情報が出て来て、あのころ第7銀河の本部に来た、私たちのどこかの船の人に渡したと言っているそうです」
「ほう、それは初耳だ。私たちも一時期その話はよく話題になった。どうやら敵に、子供を返してほしければ、例の原石5Kgと交換だと言われていたそうだな。随分吹っ掛けられたものだな。その件が和平交渉の要になりそうなんだが、本当は生きていて、こっちに居るっていう事になるとややこしくなるな。その船は分かっているぞ。龍昂と何時もやり合っていたんだ。はっきり言って遺恨有、の関係だな。崋山、船長は君の従兄弟のメイソン兄弟の父親だぞ。名は、アレクセイ・イワノフと言ってテレパシー能力者だ。最近はかなりの実力者だそうだが、連合軍の中の第11銀河と懇意にしていて、第3銀河本部には最近来たことが無い。変わり者で有名だ。連絡取れるかなあ。ここは今度の事を仕切っている、第7の幹部に相談した方が良いな。第11銀河から、イワノフ船長に聞いてもらった方が、うまく行きそうだな」
「そうなのですか。よろしくお願いします」
ソーヤさんは近くにあったネットワーク画面で第7銀河の幹部の人を呼び出し、第11銀河本部に、イワノフ船長に連絡を取ってもらう相談をしてくれた。いよいよ弟の消息が分かる。崋山は結果が良くなさそうなのは分かっていたけれど、でもなんだか一縷の望みが沸き上がっていた。ソーヤさんは振り返って、
「すぐ連絡を取って、確かめてくれるそうだ。この事は今後の和平交渉に影響しそうだから、ちゃんと対応してくれるぞ。良い情報が来るといいね。おや、君たちは相方なのかな。何だかかわいいねえ。こういう子たちが来て良いのかな。ここはそんなに切羽詰まっているのか?」
何だか、ソーヤさんはあきれたように言った。崋山は良く考えたら、今カサンドラのような気がする。そうなると、ソーヤさんが狼狽するのも無理もない。イヴだってカサンドラとは別のタイプの美人だったし。と言うことは、龍昂の船に行ってTシャツを持ってこなければならない。
「ソーヤさん、僕、龍昂の船に私物を取りに行きたいですけど、第11銀河の回答はまだ来ないですよね」
「ははは、気持ちは分かるが、そんなに早く連絡が取れるものではないよ。あの船に君は孫だから気安く行けるのだね。じゃあ行っておいで。気をつけろと言いたいところだが、その必要は無いのだろうね」
「はい、行ってきます」
崋山が船に戻ろうとしていると、イヴが付いて来ている。
「何だよ、付いて来るのか。別に来なくていいのに」
「あそこに居ても何もすることないし、それより龍昂の船って言うのに興味あるんだ」
「言っておくけど、中には入らないよ。従兄弟に、入口まで持ってきてもらうんだから」
「あれ、何時連絡していた?」
「俺らテレパシーで連絡できるんだよ。俺の能力じゃあなくて、向こうのだけどね」
「ふうん。龍昂って超能力全部持っているんでしょ。崋山は孫だから同じような事できないの」
「出来ないよ。遺伝の仕方は複雑なようだね」
「そうなんだ。まあ、崋山は凄いスナイパーだって噂だから。傭兵向きな能力よね。豆粒みたいな標的でも百発百中だってね。どんなふうにすれば当たるの」
崋山はギョッとして立ち止まり、
「その噂はどんな噂なのかな」
愛想笑いを浮かべながら聞いてみた。
「ほら、敵のアンドロイドに騙されて、本部の副官に薬剤撃ったでしょ。あれってすごく難しいんだってね。普通の弾丸とかと違って当てても場所によっては、はじいてしまうんだってね。噂ではちゃんと首に当たっていて、物凄い離れ業だったっていう評判だよ」
「じゃあ、その話は知らない奴は居ない感じ?」
「居ないよ。ひょっとしたらどこの銀河の人も知っているかもね。とにかく敵の奴らはみんな知っている。崋山がやって来たら、相手をせず逃げる事という申し送りになっているらしいよ。何度も敵機を全滅させているでしょ。ほとんど一機で」
崋山は、馬鹿なやつと言う噂になっていなくてほっとした。
「何度もじゃあないよ。まだ実戦は2回しかない」
「凄い、最初からなんだ。だからあいつら白旗上げたんだ。これ以上被害を出したくないから。話し合いたいって、連合軍に申し出たんだってよ」
「いや、それはカイが敵の母船を爆破したからだ」
「でもひゅるひゅる船に戻って行くガムを撃ったから、その人、母船にビームを撃つ気になったんでしょ」
「いや、死ぬ気で撃ったらしいよ」
「ほんと?すごいね。私、そんな根性で戦えるかなあ」
「もう和平交渉になるから、傭兵辞めて帰ったら」
「でも、まだ小競り合いは止まらないってソーヤさんが言っていたよ」
「ふうん」
船に着くとカイが早々と出て来ていた。
「まだ、誰にも言っていないけどあの子の情報があったんだね。もうすぐ僕らの親父から回答があるんだね」
「うん、そう言えばカイ達も親父さんにしばらく会っていないんだろう。ルークはどうしている?親父さんの情報が知りたいんじゃないの?」
「ルークは崋山のママの相手をしている。慰めているよ。一度しっかり話し合ってみた方が良いんじゃないかなと思うけど、ルークも同意見だよ」
「そのうちね。ついて来ないんなら、もう行くよ。何だか直ぐ連絡が来そうな気がするんだ」
「僕もそう思う。ついて行くよ。ルークは分かっているけど、今抜けられないんだ」
「そうか、何だかルークに悪かったな」
「良いよ、ルークは崋山に全面的に協力するんだって」
「所で、爺さんとカイの親父さんはどうして仲が悪いのかな。噂ではそうなっているらしいけど。カイに理由分かる?」
「多分、最初の頃の争いで犠牲者が居るんだ。事故っぽい感じだけど、お互い恨んでいるみたい」
「なるほど」
「そう言えば。この人が双市朗の従姉」
「そう、神崎イヴでーす。双市朗より一歳年上だから、あんたたちよりもちろん、年上でーす。よろしくね。接近戦のみ得意です。つまりガチの喧嘩とか」
「わあ・・分かりました。よろしくお願いします」
「カイが怯えているけど、イヴは何かしたの」
「知らないの?だったら内緒」
崋山は今まで色々有りすぎて、少し失念していたが、ロボットさんの言っていたことを思い出した。その話題は避けた方が良いのだろう。三人でみんなの所に戻ってみると、何だかざわついている。
班長が、
「あっ、戻って来たな。カイも来たか。崋山、お前の予感が当たったぞ。あっという間に回答して来た。この話が出ると、分かっていたんだな。お前の弟、カイの親父さんが育てていたそうだ。だけど生憎、酸欠の後遺症で以前の事を覚えていないというか、脳にダメージがあって気が付いた時は何もわからなくて、赤ちゃんの時みたいに一から覚えさせたんだそうだ。若いから回復は早かったそうだけれど、本当の親の事は全く覚えていない。イワノフ船長を親の様に思っているが、お兄さんが探していると言うと、会いたがっているから、こっちに来たいと言っているそうだ。つまりイワノフ船長はお前が探していると察していたんだな」
崋山がウルウルしだしたので、イヴが、
「よかったね、崋山もうすぐ会える」
と、抱き寄せてそこいらに座っていた先輩たちを押しのけ、ベンチに座らせた。崋山が泣き出したので、部屋は地球環境になっているから、ヘルメットを取ってやり涙を拭いてやったりして世話を焼いている。
カイは、父親はきっと離婚して自分達とも別れたので、その子を自分の子供の様に育てたのだろうと思った。何だかその子が羨ましくなっていた。
ひとしきり泣いて気が付くと、崋山はすっかりイヴに懐いてる感じになっていて、ギョッと驚いた。
「何よその態度は」
イヴが気分を害したようだ。
「いえいえ、別に僕は」
と誤魔化そうとしたが手遅れで、腕をぎゅっとつねられている。カイは慌てて、
「じゃあ、僕は船に戻って、このことを報告しようかな」
崋山はその役をカイが引き受けてくれてほっとした。向うは、何だか気まずくなりそうな雰囲気だ。
「言ってきてくれるの?ありがとう」
自分で涙を拭きながら、片が付いたな、何もかも、これで和平になったら地球に帰れると思った。
「いやいや、崋山。まだ片を付けることがある」
声の方を振り向くと、やはり龍昂だった。
「何の事」
聞くと、
「お前は敵に取られていたろう、卵巣を。ズーム社にやられたと思っている様だが、ズーム社は敵の奴らが地球に入り込む隠れ蓑になっていた。そうだ。すでに地球は敵の手に落ちているが、地球に帰る前に片をつけねばならないところがある。お前のDNAの研究をしている場所を破壊しなければならないぞ」
「何処ですか、それは」
「フロリモンをさらって、連れて行こうとしていた場所だ。敵から寝返ってこちらに付いた第35銀河からの情報が入って来ている」
「フロリモンをさらおうとしていた人たちでしょ」
「それが失敗して仲間から弾かれて、こちらに情報を流してきた。お前のDNAではクローンがうまく言う事を聞かないので、フロリモンに変えようとしたが、あいつはそれを察して死のうとしたのだろう。子供心に見上げた根性だな。イワノフに借りが出来ていたのだが、あいつは俺に言わなかった。フロリモンを私たちに返したくなかったのだろう。あいつにかかったら、私たちはゲス野郎らしいから自分が育てた方が良いと判断したのだろう。まあ、そうに違いはないがな。だがお前は見込みがあると思われているな。フロリモンを一目見せてくれるんだろう。だが、引き取らせはしない。仕方がないから、一目見た後は、研究所を破壊しに行こう」
「分かった。行くよ。ところでイヴはどうする?この事は僕らの、言わば私用なんだけど」
「うっそう、歴とした公用だと思うけど。ソーヤさんに言ってみれば。私も行くからね」
龍昂は、
「いやいや、私の船で行くつもりだからね。お嬢さんは此処に居て欲しいな」
「悪いけど、あたしは公用でついて行くつもり。それにお嬢さんじゃあないのよ。もう。破談になったけど、ほぼ人妻なの」
「ほぼ、お嬢さんに見えるけど」
イヴの機嫌が悪くなってきているのに気付いて、崋山はその話題はもう止した方が良いと思っていると、察した爺さんも話題を変えた。
「あ、ソーヤさんが来たね、では一応聞いてみるとするかな」
すたすた、ソーヤさんのほうへ行った。
ソーヤさんは龍昂が自分の方に来るので、ギョッとしている。
「そんなに嫌わなくても良いじゃあないですか。取って食やあしませんよ」
等と言われている。
それを見ながら、イヴは、
「あの人怖そうな感じと、面白そうな感じが同居してるねえ、不思議な感じの人。崋山も物凄いできる奴の感じと、可愛い感じが同居している、あんたら不思議な系統の人たちだね」
「褒められていると、解釈して礼を言おう」
敵のDNA研究所を破壊する作戦はやはり連合軍でやることになった。和平交渉の前にやろうということになり、準備を進めだした。しかし、龍昂の方はルークやカイから盛んに病院に良くことを勧められ、拒否していたのだが、ある日、本人が我慢できないほどの体調悪化で、病院へ行くと今までの無理がたたって長期入院になった。それで彼の船は行かない事になったが、大体、和平交渉で色々追及される予定で、本来この第7銀河の基地を出られるはずがない。それで、体調が悪化しなければ逃げ出すつもりだったらしい。そうこうしているうちに、とうとう弟の乗っている船が着いた。崋山や従兄弟たち、それにイヴとで港で待っていた。両親は龍昂の病室で待つ事にした。あれから、彼らとイワノフ船長と連絡を取り合い、イワノフ船長から両親は手厳しい指摘をされたらしい。カイにはすべて筒抜けで、崋山に教えてくれた。
事は、カサンドラを置いて地球を出た事から始まっている。龍昂も思っていた事だが、他人からの指摘は手厳しかったそうだ。あの時カサンドラが具合が悪くて連れていけなかった、という理由は成り立たない件。他人からはどう見ても、遺棄である。病気の子供用の設備を整えようとすれば出来たはず。父親不明となっているからズーム社は気が付かない、という理由も成り立たない。ズーム社にカサンドラが狙われるのは必然で、超能力のある保護者が居ないところに預けるのは、ズーム社の手に渡したも同然。日向レインの住んでいた惑星でも、本人達に面と向かっては言わなかったが、陰では批判し合っていた。そして、うわさでカサンドラが捕まったと知ると、なおさら批判は高まっていた。フロリモンにも批判や姉の悲劇は耳に入って来ていた。他の子の親から、お前の父親は利己的で自分本位だから、注意しろと助言されたりしていたそうだ。だから誘拐されて自分のDNAが実験台になると知った時、助けが来るとはとても思えなかったのだろう。そもそも、そういう親の子供だから、襲われたと考えたようだ。イワノフ船長は催眠術で、フロリモンの記憶を呼び戻そうと試みた時、彼の気持ちを知り、記憶喪失は彼の心の逃げ場ではないかと考えて、記憶喪失のままにしておいたそうだ。自然に回復を待つべきだし、記憶が戻らなければそのまま一生を終えることの方が、彼には幸せだと考えたそうだ。そして今回、崋山に会ってどうなるか、と言う所である。
崋山はどうして両親は自分を置いて行ったのか、誰にも訊ねる機会は無かった。だが、カイの予想によると、当時カサンドラは度重なる入院で、アンに懐いていなかった。どちらかと言えば、ペネロペの方を慕っていて、連れて行こうと船に乗せると、ペネロペを探して泣くだろう。それが二人とも嫌だったのではないかと、コンタクトした。崋山は、本人達に訊ねる気はしなかった。
船が着いて、中から若い男が真っ先に出て来て、崋山達に駆け寄った。崋山はまたヘルメットの中が、ぐじゅぐじゅになるから、早く第3銀河の建物に行こうと誘おうとしたが、間に合わなかった。
「あなたが僕のお兄さん、僕に似ている。探していたんだってね。嬉しいな。一人ぼっちじゃあ無かったんだ。お兄さんがいたなんて知らなかったんだ」
抱きついて来たので、崋山は泣きながら、
「うん、会えて僕も嬉しいよ。さあ、第3銀河の居住棟に行こう」
と、フロリモンを誘った。他の3人は笑って、
「崋山、向こうを見ろ。フロリモンの彼女みたいだぞ。僕らよりかなり進んでいる」
見ると、船の入口に泣きながらこっちを見ている女の子がいる。一人ぼっちと言う話の人数に、彼女は入っていないようだ。つまり、フロリモンと一心同体と言う事だろう。
「あ、彼女とかじゃないです。僕の事、気にかけてくれて、一緒に勉強とかしてくれたり、励ましてくれていた人です。船長のお嬢さんです」
「ふうん、再婚したんだね。と言う事は僕らの妹だっ」
ルークは叫び、
「おーい、僕らだってめぐり会ってるぞ。君の兄貴だぞ。俺ら」
と、女の子の方に走り寄った。カイも付いて行く。
「あいつ達、利口なようで鈍いね」
イヴが呆れて言った。
「僕たちの事を気にかけ過ぎていたんだよ。フロリモン、行こう、ヘルメットを脱ぎたいんだ」
「うん、でもあれっ。僕、お姉さんが居たんじゃなかったかなあ」
「その話もあっちでしようよ」
思い出しかけているフロリモンを、引きずって崋山は第3銀河棟に急いだ。後からイヴが、
「カサンドラの癒し能力出て来たね」
と言いながら付いて来ている。フロリモンは歩きながら、
「あれ、カサンドラなの。お姉さんなの。あれ」
「いいから来い」
「お兄さんに変わったんだ。ズーム社で変わらせられたんだ。うわーん」
説明なしで察して泣き出す。
「泣くな。それはもう終わった事なんだから」
「畜生。もう少し、強くなったらやっつけに行く。僕がやっつけるから、お兄さんはお医者さんでお願いします」
崋山は立ち止まり、
「お前、爺さんに言われているんじゃあないか。言う事聞くなよ。ブロックしとけ」
「どうして分かったの。ブロックって?」
「なんか、歌でも歌っとけ。心の中でな」
「声に出さずに歌うの?でもどうやって?」
呆然とするフロリモンに、
「難しく考えるな。歌の歌詞を思い浮かべて、歌っている気分になるんだ」
崋山はカイから聞いた、ブロックの易しいやり方を言った。
「凄いわね、崋山。あっという間に思い出させたね」
イヴが言うので、
「爺さんの影響も有りそうだ。そういえば、爺さんには癒し能力とかないのかな」
『無いよ。催眠術で自己治癒力を増強させる事は出来るがな』
『それは違うの』
『自己治癒力には限界がある。癒し能力はその能力者の力加減で出来る事の程度がある』
『そうなのか、フロリモンをそっちに連れて行こうか?』
『どうかな、フロリモンに親に会いたいか聞いてみろ』
ほぼ一瞬でコンタクトを終えた崋山は、考えながら、第3銀河棟に入った。すると日向さん達が待ち構えていて、フロリモンは大歓迎を受け、はにかんでいた。崋山はその間に涙を拭こうとすると、また、イヴに世話を焼かれた。崋山はイヴがどんどん来るなと思い、どうすれば逃れられるのか悩むところとなって来ている。以前の事がトラウマになっていた。
そんな間に、イワノフ船長達は龍昂の入院先に行っていて、レイン達に会っていた。崋山に変わって言いたいことは言ってくれていたようだ。龍昂の子供は彼の身勝手な性分も受け継いでいるようだ、と言うのが、イワノフ船長の見解である。
フロリモンは少しの間両親に会ったものの、船長の船が地球に行きズーム社から敵を排除する任務に就くので、付いて行きたいと言った。ルークやカイも父親について行くと言い出航した。きっと双市朗と会って一緒に片を付けるのだろう。皆それぞれの道へと分かれる事になった。
崋山やイヴは第3銀河の皆や7銀河の人たちと共に、敵の研究施設を破壊しに行く。そして行く途中になるかその後になるかは分からないが、行方不明の第7銀河の船の捜索の任務もあって、長期に及ぶ任務になる可能性もある。崋山の人生が、次のステップへ移っていく。
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