第9話 崋山の活躍・・・しかし現実は厳しい
次の日、崋山達は昨日教わった通りに、自分たちの戦闘機を整備し、いよいよ実地訓練を始めることになった。
先輩たちの後をついて行き、宇宙空間に飛び出た。初めての経験は何にしてもワクワクするものである。
「うわあ、やっぱり本物は動きがシャープだね。思い通りに動くよ」
「そりゃ、動かした通りに動いてもらわなきゃ、どうなる」
「へっ、いつも冷静な見解だな。双市朗は。分かった次に乗るときはお前が操縦席に座れば、この感動がわかるよ」
「そうしてもらえば、有難い。俺も操縦してみないとな」
「そこの初年兵。私語はやめろ。真剣にやらなければ、危険だ。これから救助訓練を行う。機体が破壊されて、外に飛び出した奴を拾って自分達の戦闘機に入れるんだ。見ての通り余分な席は一つしかない。一人救助したら、もう一人は他のやつに任せるしかない。他のやつがいなかったら、お前らが救助する一人を選ぶしかない。かなり厳しい選択になる。真剣にやれよ。助けやすい方、もしくは生きていそうな方を助けるんだ。今から見本を見せる。一番左にボタンとレバーがセットになっているのを確認しろ。それが通称チューインガム。略して俺らはガムと呼んでいる救助の装置だ。ボタンを押すと先きに粘着質の吸盤が付いている、ニョロリとしたやつが外に飛び出す。それをレバーで左右上下に操作して、浮かんでいる奴に引っ付け、吸引しながら機体に引っ張り込む。要領がある。慣れるまで練習だ。よく見ていろ」
そう言う訳で、一日目は救助訓練。二日目は操縦席を入れ替わって同様に行った。そして三日目から戦闘訓練も始めた。何時敵機が現れるか分らないが、班長は救助訓練にこだわった。救助訓練は毎日行った。それだけ厳しいのだろう。崋山達もだんだん身の引き締まるような気分になってきた。
実際の戦闘機でも、崋山の能力は際立っていた。先輩たちは崋山が初年兵とは思えない。まるで何年も乗っているベテランの様だと驚いていた。そうこう訓練しているうちに、あっという間に一週間経ち、何とか訓練が皆、慣れ始めたころの朝、とうとう敵機が現れたと招集がかかった。班長は、
「今回は俺らが一番機だぞ」
と言った。道理で救助訓練ばかりしていたのかと、崋山達は納得した。その事を黙っておいたのもさすがである。格納庫に到着すると、船長がクジの箱を持って待っていた。
「最近の出航のルールだが、予てより第3銀河の君たちは人数が他より少ないことが懸念されていた。そこで、君たちは今回から、右舷だけの一番機にする。左舷は常時第16銀河担当だ。では、班長引いてくれ」
「はいはい」
班長はさっさと引くが、引いたカードを開いて顔をしかめた。
「崋山と双市朗だ」
「わかりました」
そう言って、二人で戦闘機に走って行った。ぐずぐずできない。なにせ早くしないと後が閊えてしまう。すると後ろから班長の声が聞こえた。
「じゃあ、今度は左舷だ。ドイツかな。あれっ、また崋山と双市朗だ。あいつら二人ずついたかな」
「何をしているんだ。左舷はわしらの担当にすると言ったじゃないか」
「貴様、全部崋山と双市朗のカードにしたな。まてー、崋山。俺らが行く。船長がずるしやがった。今のクジは無効だぞっ」
「でも急がなきゃ、僕たち行きます」
崋山は答えて、戦闘機に乗り込み、出口に向かった。双市朗も黙って乗り込んだが、
「ああ言ってくれたんだから、任せたらどうだったんだ」
双市朗は惜しげに言うと、ずっと窓の外の敵機を見ながら移動していた崋山は、
「駄目だよ、遅くなればなるほどこっちが不利になる。ほら、あそこを見ろよ。ちょっと離れて数機いるよ。きっとあの中心にいる奴が、司令官みたいな事をしていると思う。出たら俺、あいつを撃ち落とすから、お前は他のを適当に頼むよ」
「おい、あんなに遠いのに命中出来るのか」
「多分。ホノグラムの時やっていたんだ」
そう言って崋山はかなりのスピードで、外に飛び出した。敵機がビームで襲ってきたが、それを躱しながら目指す敵機を見ると、丁度囲んでいる敵機の隙間を抜けて、標的が見えた。ついていると思った崋山は、ボスらしき敵機を狙い撃ちした。際どいところで命中した。ボスをやられた敵機は、明らかに狼狽している。思惑通りだった。攻撃を避けながら、次々に遠くのボスの周りにいた敵機を、狙い撃ちした。近くのは双市朗がサクサク撃ち落として、気が付くとほんの数機しかいなくなり、そいつらが逃げ始めた。
「あれ、他の人たちはどうしたのかな」
崋山はきょろきょろするが、自分たちだけだった。
「あれっ、俺たちだけで追い散らした?」
双市朗に聞いてみた。
「そうらしい、出口が閉まっている。まさか帰るのに入口まで閉まってないだろうな。締め出されちゃかなわない。帰ろうぜ。誰か親切な人が一人くらい居て、開けてくれることを期待しよう。キースさんとかがね。きっと俺らの機体を整備するつもりだろうから、開けていてくれるよ」
「そうだといいね。船長も俺らが帰って来て、がっかりだろうな。あはは」
「船長、気に入らないやつの名を全部のカードに書くって技、いつも使っていたんじゃねーの」
「そうだね、班長も察していたようだね」
そんな会話をしながら、入口に行くと予想どおり、キースさんが開けていてくれた。
「あなた方、凄かったですね。みんな感心して見ていましたよ。実は、左舷の一番機が出航に失敗して、壁にぶつかったのですよ。丁度ドアの電源の線の所だったので、線が切れて、左右の出入口がロックされてしまいました。だからあなた方しか、出ていけませんでした。無事で良かったです。あなた方が帰って来ているので、入口を手動で開けました。ところでここだけの話ですが、こんな事めったに無いと思ったら大間違い、これで最近三度目ですよ。第16銀河のやつがよくやるのです。ドアの電源の所に丁度ぶつかるって訓練でもしているんでしょうね」
「へえ、そうなんですか。訓練は大事ですよね。あはは。じゃあ後の整備よろしくお願いします」
崋山達はそう言って、笑って格納庫を出たものの、だんだん腹が立ってきた。
「やつらグルで、今まで皆を無駄死にさせていたんだな。こんな事許されないよな、崋山」
「そうだな、訴えるべきだよな。で、何処にうったえるのかな。双市朗は知っている?」
「本部に、多分連合軍にも地球軍にあるような、警察的な組織が無きゃならないはずだろ。訴えてやろう。そうだ、戦闘機に一部始終が録画してあるよな。コピーさせてもらおうぜ。証拠を保管しとかなきゃ」
そう思い立ちキースさんの所へ戻った。
訳を話してコピーを取っていると、キースさんは、
「気を付けて保管場所を考えておかないと、盗まれますよ。今までも色々理不尽な事があって、訴える事を思いついたのは、あなた方だけでは無いのですけれど、証拠を盗まれてうまく行きませんでした」
しんみりと話した。
「おまけに、そのせいで例の技をやられて、命を落とした仲間がいます。ルルさんの恋人だった人のコンビです。彼とコンビだった人は機体を撃ち落とされて飛び出た時、近くに仲間は一機しかいなくて、一人は救助される事無く亡くなりました。二機だけ出た後出入口がロックされましたから。それが一回目。その顛末を記録して保管していたルルさんの恋人も、結局奴らに殺されたようなものです。コンビが亡くなりアンドロイドの狐哲11号と乗っていたのですが、また例の技で一機だけ出航して、敵機にやられました。2回目ですね。狐哲が何とか助けようと奮闘してくれたのですが、敵機に集中砲火を浴び燃え尽き死体も無く、遭えない最後となりました。あなた方もできればあまり目立たない方が安全でしたけど、後の祭りです。ルルさんの恋人とその相方はかなり優秀で、船長は目障りだったのかもしれません。仲間達以外の者が活躍するのを、本部に報告したくないようです。ですが、こんなことを味方であるはずの人たちにするとは、尋常な考えではありませんね。気を付けないとあなた方も危ないです。もっとも、今回の事は普通の人なら死んでいますから、例の技は通用しないと考えるかもしれません」
崋山達はキースさんの話にショックを受け、貴重な話のお礼をした後、そそくさと格納庫を出た。そこへ班長のチャンが走って来て、
「お前ら、待てと言ったじゃないか。命令だったんだぞ。命令には従え。今度言う事を聞かなかったら、ずっとトイレ掃除係にしてやるからな」
どうやら、崋山の急所を早くも察している。
「でも、うまくやったから、結果オーライで許してください」
「バカ、今日はまぐれだ。今度は上手くいかないぞ。もう情報は敵に知れ渡ったはずだ。今度やって来る時はそのつもりで来る。あほう。あほう」
チャンは何故か地団太踏んで悔しがっている。
「どうしたんですか」
双市朗は驚いて聞くと、
「もう良い。そのうち分かるさ」
チャンは、急に白けて部屋に向かいだした。追いかけながら、崋山は小声で、
「多分目立つのが不味いって言いたいけど、やめたんだな。キースから聞いた話、俺らがまだ知らないと思って、言わないで置いたんだ。いい人だな、班長は。また船長にやられると思ったんだろう。何とかなると思う。死ぬ気がしないし、お前もだろう」
「俺はそんな気はしないけど、死ぬ訳にはいかない。地球の会社の皆が、俺が帰って来るのを待っているから。なるようになるって事だな」
部屋に戻ると皆崋山達の無事を喜び、活躍を誉めてくれた。一先ず結果オーライと言うことで、配線を切った奴に如何こう言うのは止めて、船長の様子を見ることになった。それから数日でまた敵機がやってきた。今度は7銀河と16銀河が一番機だったから、崋山達は7銀河の人を機会があれば救護するつもりで、出航した。一番機は崋山達の戦闘機の近くには居なかったので、救護は他の人に任せて、崋山達は敵機を又撃って撃って撃ちをとしたが、この前とはどうも敵機の動きが違う、
「あれ、双市朗。なんだか前とは感じが違うね」
「よく見てみろ。無人機だ」
「本当だ。ちぇっ、これじゃあ張り合いが無いな」
「と言うより、この前が特別だったんじゃないかな。奴ら俺らを撃ち落として、船に乗って来るつもりだったんじゃあ無いかな。だから偉そうなのが出て来ていたのかも知れない」
「なるほど、それなら今度はどうするつもりなのかな」
「さあな。無人機はあらかた撃ち落としたぞ。だけど皆戻らないな」
「うん。帰艦命令が無いからな」
すると班長が、
「母船を探しているんだ。聞いてなかったのか。攻撃に夢中の様だったからな、最初の使い方の説明の時、シールドの見破り方教えたよな。カイ達は知っている様だし」
「カイは何でも察するんですよ。知らないですよまだ僕らは。良いです、カイに聞くから。おーいカイ。どうやっているんだ?」
班長は、
「言ったんじゃなかったかなあ」
と不満気にしていたが、カイからコンタクトが来た。
『僕は聞きました。崋山達は何か二人で会話していましたからね』
「しっ。今の事、船長にも言ったのか」
『戦闘機からのテレパシーは、最近皆に伝わるようですから』
「聞こえていたぞ。言っておくが」
「すみませーん。反省しています。カイ、できればやり方だけ言って欲しかった」
カイがやり方をコンタクトしていると、カイ達の戦闘機の側に急に敵の母船が現れた。慌ててカイが逃げようとするが、母船から巨大なガムらしきものが出て来て、カイ達の戦闘機にくっつき、母船に引っ張り込もうとし出した。
「ひええっ」
誰彼となく叫び声が上がっている。
皆狼狽しているらしかったが、成すすべもなく見ている。崋山は慌てて近くに回り込むと、ガムを打って戦闘機から外そうとした。一回目は当たらなかった。チャンスはもう一度しか無さそうだった。入口が開いて中に引っ張り込まれる寸前、カイは中にビームを撃った。同時に崋山もガムを撃って切る事が出来た。母船に一番強力なビームを撃ったのだろう。中で爆発が始まったようだ。爆風でカイ達は吹っ飛んで行ったし、側の戦闘機も飛ばされた。体制を立て直せた皆は慌てて追いかけた。爆風から逃げようとしたとも言える。
「わあ。ずいぶん遠くまで行ってしまったなあ。見つかるかなあ。おーい、何処にいる」
『ここだけど。メカが壊れている』
『ここって何処かな』
『分からない。でも近づいているみたいだよ』
そうコンタクトされて、崋山は方向を変えずに進んでいると、彼らの機体が見えてきた。ほっとして、ガムで機体をくっつけ、引っ張って帰ろうとした。
「あれ、俺らの母船は何処かな」
そこへ班長から連絡が入った。
「崋山、カイ達見つかったのか」
「はい。班長、今から連れて帰ります」
「ご苦労、待っているぞ、と言えればいいが、母船が居なくなったぞ。俺らを見捨ててワープしたぞ。あきれた奴らだ。奴らの仲間もまだ外に数機残っていたのに。カイが捕まったのを見て、帰艦することにしたらしい奴らだけ乗せてな」
「どうなるんですか。僕らは」
「第7銀河の人たちが、近くに自分たち銀河所有の母船が居ないか、探している。居るといいね。居なけりゃ宇宙の塵になる運命だな。ははは」
「チャン、笑いごとじゃないぞ。地球の所有の母船を探す気はないのか」
ゲーリーとガン組が話しかけてきて、班長は答えた。
「近くには居ないと思うよ。それにあまり燃料を使いたくないし、持久戦になるかもしれないぞ。皆集まって一機だけ救難信号を出そう。交代でな。日向たちは近くにいるか」
「崋山達の近くに居ますが。そちらに向かっています」
「じゃあ、とりあえず燃料の残量が同じになるまで、俺らとゲーリーらとで交代で信号を出してみよう」
何だか大変な事になったものだ。崋山は、
「双市朗、まだ死ぬ気しないよな」
確かめてみたくなった。
「死ぬわけにはいかないんだってば」
双市朗が、強気でほっとした。
皆元母船が居た付近に集まりだし、そこで救助を待つ事になった。崋山達はかなり遠方に行っていたので、まだそっちへ到達できていない。皆、口々に話しだしている。第7銀河の方の救助のあても無いようで、絶望的とは、まだ断言できないが、かなりそれに近い状況になりつつある。班長が崋山達に訊ねた。
「カイ達の戦闘機は故障したようだな。応答が無い。崋山、彼らは大丈夫なのかな」
「そういえば、怪我がないか聞いていなかったです。コンタクトして来た時は元気そうでしたが、聞いてみます」
「やれやれ」
双市朗が後ろから色々言ってくるので、崋山はイラついてきた。冷静に考えると、パニック一歩前になって来ていた。
『僕は異状ないけど、ルークの元気が無い。どうしたのか分からないけど』
カイからコンタクトが来た。
『分からないって?すぐ後ろに居るのに分からないってどういう事だよ。生きているんだろうな。後ろを振り返ってみれば?』
『実を言うと首が回らない。むち打ちかな』
『分かった。班長に報告する』
「班長、カイによるとルークにトラブルがあるようです。カイはむち打ちで振り向けないそうです」
「わかった。近くに居る奴に様子を見させよう。日向、様子を見に行け」
「はい、少し後ろに居るようなので見に行きます」
崋山達はアンドレ・日向の戦闘機がやって来たので、嬉しくなった。
「わあ、先輩が来た。さみしかったです。カイ達をお願いします」
「了解、迷子の気分を久しぶりに味わったな。俺らもお前らを見てほっとした」
後ろに引いていた戦闘機に、日向の相方のモーリス・キャメロンが命綱を付けて乗り込むのが見えた。どういう事か心配になって来た。しかしああいう技はまだ崋山達は習っていないので、怪我をしているのが分かってもなすすべは無かった。双市朗が、
「かえって怪我とか確かめていない方が良かったんじゃないか。俺たちにはどうしようも無いんだから」
急に慰めだしたので、ますます嫌な予感がしてきた。
「いや、早く分かっていたら早く日向さん達が来てくれていた筈だ」
キャメロンさんが、ルークを連れて自分の船に戻っている。日向さんが話しかけてきた。
「ルークの服が破れていた。少しずつ空気が漏れて酸欠になりだしていたが、こっちで新しい奴に着替えさせている。まだ生きているから安心しろ」
「良かったな、崋山」
双市朗が言ってきた。彼は崋山の危うさを察したらしい。
「うん」
崋山は涙が出て来て、ヘルメットをかぶっているので、不味いなと思うが、次は鼻水も出だし、ズガズガ言い出し、
「何だか前がよく見えないよ。どうしよう双市朗」
「そうなったら、不味いと思ったんだが、手遅れか。日向さん達を追いかけろよ。それくらい見えるだろ。計器は見づらくても」
「多分ね。日向さん置いて行かないでよ―」
「バカ、甘えるな。こっちは早く皆と落ち合いたいんだ」
『ルークが気が付いた。崋山にありがとうと言えってさ。まだお礼言っていなかったな。ガムを切ってくれていなかったら、爆発に巻き込まれていたから。ルークがビームを中に撃てと言ったんだ。俺は捕まっても何とかなると思ったけど、ルークは絶対捕まりたくないって言ったんだ。ルークって名だけに捕まって奴らのゲームのコマにはなりたくないと言ったんだ。死んでもね』
『笑っていいのか、深刻になるべきなのか』
「双市朗、ルークが、死んでも敵のコマにはなりたくないから、ビームを撃てと言ったそうだけど、ここは笑うべきところかな」
「笑うな。あいつが受けを狙ったとしてもな」
そんな会話をしていると、皆のいるところに戻っていた。
「やあ、戻ったな。無事なようだな。良い知らせがある。第7銀河の所有母船と交信できた。救助が来る。助かったぞ」
班長に言われ、崋山達は嬉しさがこみあげてきた。
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