第8話 弟の存在・・・ひとりぼっちじゃあなかった
変化していく崋山をよそに、事態は待ってはくれなかった。シャトルのドアが開くと、迎えの人とは違う感じの、今度は宇宙服とヘルメット姿の人がいた。
「皆さん、連合軍へようこそ。私は整備班のキースです。今はこのゲートは地球環境になっていますが、シャトル全体は地球の環境ではありませんから、常時宇宙服を着ることとなり、あなた方の部屋だけ地球環境になります。そこのドアを開けると着替えの宇宙服がありますから、着替えてもう一方のドアから出てください。案内のルルがいます。私は今からこのシャトルを整備します。なにせ初めての遠出だったから。では、行って下さい。
宇宙服の着用の仕方は、説明画面が繰り返し流れていますよ。間違えたら命取りだからね。あは」
親切そうな人だった。ヘルメットにスピーカーが付いていて、そこから共通言語の聞きやすいのが流れていた。多分自動翻訳機が備わっているのだろう。
「何だ、必死で言葉覚えなくても翻訳機があるじゃないか」
「能天気なやつ。さっきへましていなかったかな」
双市朗にぴしゃりと言われた。
キースさんに言われたとおりに部屋に行って、画面を見ながら皆で注意しながら着用した。なにせミスは命取りだそうだから。
崋山はいつの間にかニャンさんが居なくなった事に気付き、名前が分からないのでニャンさんと呼ぶ事にしたのだが。さっき整備の人が言っていたことは、多分ニャンさんの言うことであって、やっぱりあのコミュニケーションの取り方は、怒らせただけだったらしいと反省する事にした。
皆でなんとか着替え、言われていたドアを出ると、ルルという人が待っていた。
「大部着用にてこずった様ですね。早く慣れないと。招集がかかったら多分30秒くらいで着ないと、間に合いません。地球の人の部屋は、中央のミーティング室からかなり離れていますからね。そのテンポではねえ」
多分にっこりしたようなルルさんは、四人を引き連れて色んな所を回って説明してくれた。
「この母船には主に三種類の人がいて、迎えに来ていた第16銀河から来ているムニン3番さんは、地球環境でも生存できます。というよりどんな環境でも生存できます。燃えない限りはね。つまりだいたい100度以内なら大丈夫だし、空気も自分に適している気体を肺にしばらくためて、それで呼吸できます。どのくらいの時間まで溜めていられるかは、内緒だそうです。私は第7銀河からきています。地球は第3銀河と呼ばれているのですよ。このことは、共通言語を習うときに教わっていましたっけ。地球の人と私たちはこの母船では宇宙服が必要です。というのもこの船の所有権は第16銀河にあるのです。それで、彼らの本来の環境になっています。上層部は概ね第16銀河のやつら」
コホンと咳払いをして。
「人達です」
と、言い直した。そういう事なのかと四人は察した。双市朗ににらまれている気がしたが、崋山は知らん顔しておいた。とあるセクションに行くと、そこには黒光りする連合軍の戦闘機が十数機並んでいた。
「ここがあなたがた第3銀河専用の戦闘機の格納庫です。先輩たちがいますから、彼らに出航の要領とか聞いてください。この船の戦闘機用出入り口は、左右に一か所ずつしかないのですよ。出入口が少ないと侵入される可能性も低いというのが、この船の設計のコンセプトらしいです。私ら第7銀河所有の船はこんなじゃありませんけどね」
ますます雰囲気が解って、落ち込んでくる崋山。睨む双市朗。たまらず。
「ごめん、双市朗。反省しているから」
崋山は謝ったが、彼はため息をついただけだった。
「気にすることないよ。何とかなるって」
カイが慰めてくれた。
「カイが何とかなるって言うから、何とかなるんだろうよ。カイには少し予知能力が出てきたらしいよ」
ルークがにっこりした。
「あなた方の色々な能力は、軍の幹部達がかなり期待しているらしいです。それもここの船の船長は気に入らないようです。でも何とかなるんでしょうね。じゃあ、一通り回ったのであなた方の部屋へ行きましょう」
ルルとは仲良くなれそうだ。多分、先輩たちも第7銀河の人たちとは協力し合っていると思えた。
「第3銀河の人たちはここでは一番少なくて、あなた方が来てやっと二桁になりました。以前はもっといましたが、戦闘が激しい時に亡くなったのです。私たちの仲間もね。この、あなた方の部屋へ行く通路に、亡くなった人の写真が貼ってあるでしょう。私たちの通路にも貼ってあります。彼らの事を忘れることはできませんから。ここに写真を貼られる事が無いようにしてください。イザとなったら、何でも有りです。自分の身を守る事が最優先です。そちらの先輩達も言うでしょうけど、私も言いたいんですよ」
ルルさんはなんだか思うところがあるようだけれど、それだけ言うとドアの前まで案内してさっさと帰って行った。自動ドアとかでは無いらしく、開かないのでどうやって開けようかと、何か取っ手とかないか探すうちに、鍵とかで開けるんじゃないかと思い立った双市朗は、宇宙服の入っていた袋を調べ出した。三人も袋を見るが分からない。で、カイは服にポケットがあると気付き探ると、少し膨らんだ所を見つけた。
「あった、これじゃないか。カードだ」
無事鍵発見。どうすべきか、またドアをきょろきょろ探していると、急にドアが開き、
「お前ら、面白かったぞ。入りな。カメラがほら、上についているだろ」
と大柄な男がにやりと指さした。やれやれである。ドアの開け閉めを教わりながら中に入ると、もう一人少し細身だが背の高い男がいた。先輩たち二人は体格が良かった。崋山達は皆中肉中背だったので、きっと体力勝負なんじゃないかなと思い、崋山は早くも気が重くなった。やっていけるかな。体力に自信がある方じゃないし。だけど他の三人も似たり寄ったりだから、まっ良いか。機嫌はころころ変わる。崋山は自分がカサンドラと崋山が同居して、ややこしくなっているのに気づいて狼狽していた。先輩は六人いてみんな自分の部屋から出て来ると、自己紹介を始めることになった。
最初に会ったのは、ゲーリー・ワトソンとガン・ホワイト、他の人は皆中肉中背でほっとした。モーリス・キャメロンとアンドレ・日向、例の話の日向さんと関係ありそうだ。そして、ヒューイ・ジンとアスカ・チャンそれぞれ戦闘機のコンビだった。
アンドレが、
「やれやれ、龍昂の孫がそろいもそろったな」
双市朗は、
「僕は関係無いですから」
崋山は、双市朗ときたらとうとう保身に走りだしたな。と思い、少しがっかりした。
「いやいや、それだけ仲が良いと、龍昂一族だ。大体あの一族は血のつながりのあるやつは居なくても、今まで結託していたんだぞ。血のつながりのあるお前らが、とうとう大きくなって使えるようになったってとこだな。まあこっちに居るけど」
「どうして、彼らと敵対しているんですか」
崋山が言うと、
「P9原石の取り合いだ。習わなかったのか」
ゲーリーが呆れて言った。
「でも何度も、協議して採掘のルールが決まっていましたよね」
ルークも聞いてきた。疑問を感じていたのだろう。
「ところがそのルールが守られないのさ。戦闘で負けそうになったら、奴らは和解話を持ち掛けて、停戦して時間稼ぎする。まあ、こっちもそれをやる事もあるがな。そして、新しいメカとか戦闘機のグレードアップに勤しんで、これなら勝ち目があるって事になれば、勝手に沢山採掘し出す。龍昂一族がそれを取り上げる。こっちの人間に取られたんだからってことで、向こうから仕掛けてくる。その繰り返しさ」
「じゃあ、徹底的にやっつけて、当分大人しくさせるってのが、今回の最終的な目標なんですね。でも、どうせまた何年か先には戦争になるんですね」
崋山が結論づけた。するとガン・ホワイトが、
「おや、なんだか自信有り気な言い方だが、お前の爺さんと三つ巴になっているんだけど」
「関係無いです。僕の方は」
崋山が、素っ気なく言うと、カイは、
「爺さんは何か訳ありで、その原石が必要らしいですけど、もうすぐ解決しそうな気がします」
と、言い出した。崋山達も初耳である。
「カイ、何だよその訳ありの解決って」
崋山はあきれて聞いてみた。だいたいテレパシー能力者はこっちの考えは筒抜けだけど、自分の持っている情報は小出しにする。良くないぞと思ってやった。筒抜けだから、分かっているだろう。
アンドレ・日向が、
「お前テレパシー能力があるんだろ。じゃあどれくらいか、言ってみろ。さしずめお前らの爺さんの事知っていることを全部話してみろ。俺も少しネタがあるんだが、誰にも話していなかったんだ。孫が来たんだから、大っぴらにしようと思う」
「はい、日向さん一家は代々お医者さんの家系で、癒し系の能力があるんですよね。地球に居た頃は、新人類達の医者として頼りにされていました。普通の人間たちと争っていた時、怪我人を分け隔てなく治療していたのが、爺さんの恋人だった日向リツの親達が経営していた病院です。ある時、戦闘で負った怪我がひどくて倒れていた普通の人を、気の優しい新人類が見殺しにできず拾ってきて、その病院に連れて行った時のことです。リツさんの親が、その怪我人を入院させて治療していたら、普通の人間に誤解され、仲間が拉致されたと思われて病院に取り戻しに来ました。その病院にいたスタッフはリツさん共々、彼らに襲われて、皆殺しになったんです。それで爺さんは仇討ちで、人間を襲いだし、なおさら、争いが激しくなり、爺さんは仲間にも嫌われました。爺さんの一家も爺さん以外は全滅。だけと親類の日向さん一家に、息子のレインが育てられていました。リツさんが死ぬ間際に、『私の事は忘れて、別の人と幸せに暮らして』と言ったそうです。爺さんはそれからしばらくして、メイソン家のゲルダさんに惚れたけど、その時ゲルダ婆さんには恋人がいたので、片思いのまま身を引くつもりだったそうです。そんな時、その恋人が中心的に作っていた宇宙船の保管場所に、人間たちが襲撃してきました。それで、爺さんは助けに行ったら、婆さんの恋人が死んでいて、そこで恋人と入れ替わることにしました。とっさの思い付きだったそうです」
「おいおい、まるで聞いて来たような話し方じゃないか」
日向は驚いた。
「いや、ホントに本人がテレパシーでコンタクトして来たんだそうですよ」
崋山が解説した。双市朗に黙っていろと小突かれる。
「それから宇宙船を作り上げ、地球を出て10年ぐらい婆さんと暮らして、僕らのママの絵でばれて離婚して出ていきました。この辺の事情はもう有名ですよね」
「ああ、有名だよ。お前の話は終わったのか。じゃあ俺のネタを教えるよ。日向一家に育てられていた息子のレインは、お前の親父だよな崋山」
「そうです。その辺の事情は僕も話せますが、多分省いていい所と思います」
「そうかい、まあいいさ。じゃあ省いて、日向達は、龍昂一族とは別のシャトルで例の惑星に十数年遅れて来ていて、日向レインはそのうち、地球との連絡係になって、地球から恋人を連れ帰って結婚した。依田アンという人だな。龍昂は日向家が来る数年前に正体がばれてしまい、彼らとは入れ違いに立ち去っている。こっちの一家はべつに恨みつらみは無い。多分連絡を取り合っていたんじゃないかな。で、そのうち日向レイン達に息子が生まれて、幸せに暮らしました。とはならなった。息子が十二歳になり、その年齢の学年になると学校では、小型シャトルであたりを巡るっていう勉強をしていた。今はやっていないが。というのも、第35銀河の宇宙船が、そいつは敵対している銀河の一つだな。丁度その息子の乗っているシャトルの所へワープして来て、近すぎて事故になった。近場をうろつくための学校のシャトルは破壊されて、子供達は宇宙空間に放り出された。その時、第35銀河の奴が救助して子供たちを返してくれたが、日向レインの息子だけは居なかった。第35銀河の奴らはその子は助けられなかった、と言って急いで立ち去ったが、結局何しに来たのか、まるでぶつかりに来たみたいなんだ。立ち去った後、子供たちに聞くと子供は全員助けられ、大人は放っておかれたそうだ。つまり日向の息子、龍昂の孫を誘拐したって事だな。それを聞いたレインは息子を取り戻しに行くことにした。彼の友人に予知能力と透視能力のある人がいて、捜索を協力してくれるそうなので、急遽宇宙船をワープ装置のついたやつに改造して、奥さん共々連れ去られた息子を探しに出発したんだ。多分奴らは、龍昂に対する交渉に孫を使うつもりだったのだろうってのが、俺の知っているネタだ」
崋山はその自分の弟がどうなったんだろうと、心配になった。多分日向も知らないだろうとは予想できたが、
「それでその子は見つかったのかな」
「俺は知らない。しかしそれから龍昂は日向レインと落ち合い、共々、P9原石を不法に採掘して持って帰ろうとしたやつの帰り際を襲って、横取りを始めた。何か訳ありだというのが俺の予想だ」
「原石と引き換えに返してやる、とか言われたのかな」
カイが言った。崋山もそう思った。
「まあな、だけど人質は殺されるっていうのが、この戦争の決まった結末だ。生きていると思うのは甘すぎる」
崋山は、彼らはその子が死んだとは思っていないのだろうと考えた。
「でも、ほら、透視能力と予知能力のある人を連れているじゃないですか」
カイは、
「その能力は精度が微妙だし、解釈するセンスも必要だっていう話を聞いたことがあるよ。透視や予知した場面は断片的だそうだから。生きているか死んでいるかは、血の繋がっている親や爺さんの勘の方が正確だそうだよ。だから生きていると感じているんだと思う」
「そうなのか、じゃあ言いなりになっても、仕方ないな」
「だけどそれじゃあ、俺らが困るんだよ。何時までも戦っていられないよ」
「何とかしなきゃね。俺どこに弟が居るか分かったら助けに行きたいな。カイ、お前分からないかな」
「そういう能力はないし、分かったところで行けないでしょ。ここに雇われて居るんだから」
「ううむ、解雇されなきゃ。何かしでかす」
「宇宙船という、足もないぞ。それに操縦できるかな。戦闘機の操縦とはかなり違うし」
双市朗が指摘した。
「うう、操縦覚える」
「宇宙船は手に入るの。きっと物凄い値段だよ」
ルークが肝心な事を言った。
「むむむ、何とか、ローンとか組んで手に入れる。働いて返す。だけど雇用が長引いたら地球に帰ってズーム社をつぶす計画がおそくなるし・・・」
「お前はその救助計画について、しばらく考えてろ。無理だと分かるまで。では服の脱ぎ着の練習をしよう。合格タイムまで続ける。その後格納庫でお前らのメカを選ぶ」
ここの班長っぽいアスカ・チャンが仕切って、宇宙服を着る速さを競う事になった。優勝者は掃除当番一週間免除。初年兵は掃除当番を日変わりでする事になっているが、一週間免除はかなり負担が減る。崋山はこれは頑張らねばとやる気になった。崋山はやる気を出すと様子が変わる。結果は圧倒的に崋山が勝った。
「お前やる気になったらすごいな。餌をちらつかせれば、とも言えるな」
先輩たちが感心してほめてくれた。
「はい、旨そうな餌があると頑張れます」
崋山は本気で答えて、笑われてしまった。
それから皆で格納庫へ行き設備の説明や、ホログラムの練習では出来なかった、実際の戦闘機のメカの説明。整備班の係もいるけれど、まかせっきりには出来ないと言われる。覚えることが多くて崋山は頑張って集中した。初年兵の彼らにも専用の戦闘機を決められ、明日から乗って戦闘訓練をすると言われた。今日は整備の仕方と、右舷と左舷、それぞれ一機ずつしか出られない、と言う例の構造について不満気に、出入りの方法を説明された。そして最近、急に敵機が間近に表れる様になったと言われた。前は敵機が来ても遠方からやってくるので、一機ずつ出て行っても余裕をもって戦えたが、最近この母船近くに、急に敵機が現れるそうだ。敵の母船のシールドが巧妙になったらしく、姿を現さないまま戦闘機だけやって来る。どういう訳か分からないが、こっちの位置が分かっているのかも知れないらしい。そうなると一機ずつ出ていけば、必ず最初のやつはやられてしまうそうだ。だから、最初に出る戦闘機は各銀河の順番になり、どの機になるかは、当日班長がくじを引くことになったそうだ。だが、第3銀河は人数が少ないので下手したら全滅だ、と言いながら先輩たちが笑うので、とうとう開き直ったらしいと崋山は思った。だけどここで死ぬつもりはない。
「まあ運が良くて、当たり所が大したことが無ければ、近くのやつが、助けるから思い切って出ていくんだな。そうだ、最初は救護の仕方を教えるべきだな」
班長がそう言って、最初の日は終わった。
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