第5話  それぞれの事情・・・ ルークの場合

 メイソンは重い口を開いた。

「聞けば聞くほどつまらない話さ」


「お前らは知っているかどうか、以前は、結構新人類と普通のやつとの争いが多かった。とくにヨーロッパではね。俺のばあさんが若かった頃のことだ。ばあさんの家系はテレパシーで会話できていたんだ。新人類の能力と言えば、運動神経の良いやつ、頭の良いやつのほかにテレパシーとか、未来の予知とか、怪我しても直ぐ治るやつや、それから他の人の怪我や病気を治したり出来るやつ、こいつは好かれるよな。だけどプッツン系もいたんだ。すぐプッツンとなって怒り狂うやつ。まあ、理由はあるんだけど、やりすぎるやつがいて、おかげでばあさんたち新人類は普通の人間には嫌われ者だった。今もだけど、昔はもっと普通の人間の方が多かったんだから、ばあさんたちみんなは能力を隠して暮らしていたんだ。プッツン系以外はね。そのプッツン系の家系はほとんど人間から殺されたんだけど、1人どうしてもつかまらないで人間を殺戮するやつがいたんだ。そいつは新人類の能力をほとんど持っていてその上催眠術が出来て、捕まえようとしても、錯乱させられて、見方同士で殺しあわされたり、仲間と思いこませて逃がさせたりして、いろいろやったんだそうだ。そのころばあさんには恋人がいて、頭のすごく良い系の新人類でね、その系統のやつらは、地球脱出計画を立てて、シャトルを設計したり、人間が住める惑星を探したりしていたんだ。けっこう目立つ活動していたもんで、普通の人間に見つかって活動の拠点を襲われてね、その時プッツンが助けに来てくれたんだけど、ドサクサでばあさんの彼は死んだんだ。ところがそこにいた連中は、プッツンの催眠術にかかって死んだのはプッツンで、ばあさんの彼は生きていると思わされたんだ。プッツンはばあさんの彼になっちまったんだ。驚きだろ、彼を知っている皆に催眠術をかけることが出来たんだ。ばあさんもそう」

「能力もすごいけど、どうしてそんなことを?」

 崋山はあきれて、口を挟んだ。

「プッツンはばあさんが好きだったらしい。なんか用も無いのにばあさんの居る所に現れたり、ばあさんに何気なさそうに話しかけたりしていたそうだ。下の弟がばあさんから聞いたことがあったと言っていた。話しを元に戻すと、プッツンは、ばあさんの彼の成りすましを貫き通して、シャトルを皆と協力して作って、ばあさんと結婚して、惑星めがけて出発したんだ。そして、連合軍と懇意になってね。その頃地球人は連合軍には入っていなかったんだけど、何だか戦闘区域を通った時、彼らの味方をしたらしくて、とにかくプッツンはばあさんと結婚してからはすごく良い人になって、活躍して、連合軍のコロニーの一画に住むことになったんだ。他のやつは発見した惑星に行くことにしていたから、そこで別れるんだ。わりと近くにその惑星はあって、テレパシー能力のあった数家族がコロニーに住んで、他のやつは惑星に住んだけど、よく行き来はしていたそうだ。プッツンは連合軍に入って、しばらく平和に暮らしていたけど、10年くらいそこで暮らして、とうとうばあさんに正体がばれてしまった」

「へえ、それまでばれなかった事がすごい。でもどうしてばれたんだ」

 崋山はあきれるばかりだ。

「それはな、俺のママが原因。プッツンは自分の子供に催眠術はかけられなかったんだ。と言うのも、ママはばあさんの彼を知らないだろ。だからプッツンは素の姿を娘にさらすしかなかったんだ。それでもばあさんはかかったままだから大丈夫なはずだったんだけど、ある日ママはプッツンパパの誕生日にパパの絵を書いてプレゼントすることを思いついた。ママが13歳の時さ。描いた絵をママは、そのママであるばあさんにこっそり見せて、感想を聞こうと思った。プッツンパパが連合軍の仕事で留守の時にね」

「何という悲劇だ。どうしたおばあさんは?」

 神崎が尋ねると

「びっくり仰天。絵はとても良くかけていてね。何度か見たことのある、プッツンの顔だとはっきり判る程度のうまさだった訳さ。だまされていたと言う怒りよりも、愛していた彼を弔えなかったことの怒りか大きくてね。プッツンが返ってくると大喧嘩が始まった。ママはショックでしばらく寝込ほどの大喧嘩の末の別れだったそうだ。この話は全部下の弟が教えてくれた事だ。俺はママとは生まれてこのかた会話した記憶が無い。テレパシー能力が無いからね」

「それは、どういう意味だ」

 そこで、神埼は鋭く質問した。そしてため息混じりに、

「お前の鬱々とした雰囲気の原因の話に入ってきたな」

「うん。ママは近所のテレパシー能力者一家に生まれたパパと結婚して、俺が生まれたんだけど、俺は普通の人間でしかなかった。俺が赤んぼうのころ、テレパシーでばあさんやママは必死で話しかけるが反応が無いと騒ぐと、パパは能力が開花する時期は個人差があると言ったけど。これも弟がママから聞いた話だけどパパは反対したけど、連合軍の医学班に頼んで、俺のDNAを調べてもらって、普通の人間だったってわかったら、ばあさんが俺をひどく嫌って、ママにも俺をかまうなときつく命令したそうだ。そんな時上の弟が生まれて、今度は直ぐ、DNAを調べて、テレパシー能力があると分かってばあさん大喜びだったって。そして俺は食い物だけ与えられて、ほったらかしになり、ばあさんとママは弟にかかりっきり。パパは連合軍で忙しくしていてね。ほら、例のオリエンテーションにあったろ。連合軍と新人類の戦い。あれはプッツンに戻ったじいさんとの戦いでさ、パパはそれにかかりっきりでめったに戻って来れず、戻ったところで、二、三日居るだけだったそうだ。下の弟がママに聞いた話ではね。一年後には下の弟も生まれて、年子でばあさんとママは大忙し。4歳の俺はまだ話すことも出来なかったらしい。なんせ誰も音声で話しかけなかったからね。俺が5歳になって戦争も一段落した頃、パパがまだ戻って来ないうちに、学校に入る前の面接とか言って、他の新人類達のいる惑星から教育関係の人が家に来たんだ。学校はその惑星にあって、そこで学生時代は過ごす事になっていたからね。その人が俺を見て、なんだかすごく立腹して帰ったことがあったんだけど、つまりネグレスト発見だな。その時その人が、俺の状態が大変だってことで、惑星の方の養護施設に入れろとパパに連絡とかして、結局パパとママは俺の施設入りをきっかけに離婚したんだ。その時だれも気付かなかったけど、俺の上の弟も病み始めていたらしい。これも下の弟が言ったんだけど」

「ふむふむ、ところで、弟達の名は」

「ああ、上の弟はカイで、下はセインと言うんだけど、そのころカイは俺のことが気になっていて、ばあさんやママの真似をして、俺を無視していても、それが悪いことだと判っていたそうだ。セインはまだ幼くてそういう事は分らなかったそうだ。だけど、二人とも俺に話しかけたり遊んだり出来なくて、カイは悩んでいるうちに、どこで仕入れてきたネタか知らないけれど、自分は悪魔の生まれ変わりだから悪いことをしても良いのだ。と思うことにしたらしい。そうしたら良心の呵責に悩むこともないし、自分の行動に納得できたそうだ。で、俺が施設に入った後は親の離婚だ。その時なぜか、両親の離婚は自分が悪魔の生まれ変わりのせいで、俺が施設に入ったのも、そのせいだと思い込んだそうだ。これはやつが10年生の時、問題行動を起こして、問題行動って言うのは、カッターでクラスメイトを切りつけて怪我をさせたんだけど。その時カウンセラーに話した内容だ。この前セインが俺に話しに来たんだ。その時俺は普通の地球軍に居たんだけど。カイが俺を殺しに来ると忠告しに来てね。その時俺の知らなかったことを色々聞いたんだ。そしてカイが、魔王から俺を殺せとお達しが来たから殺しにいくとセインに伝えて、更正施設を逃げ出したって言うんだ。で、それなら、カイが来たら、カイは悪魔の生まれ変わりなんかじゃないと説明してやるから、とセインに言ったら、カイは狂っているらしいってセインが言うんだ。と言うのも、カイにはテレパシーが通用しなくなっているらしい。更生施設で調べたら、脳に萎縮が見られたそうだ。まだ若いのにアルツハイマーのような脳になっているから、話は通じないってさ。そのくせ、他の能力が出てきてさ、運動神経とか抜群で脳の萎縮はコミュニケーション能力の所だけだそうだ。それで、カイが俺の居る所が判らなくて手間取っているうちに、俺はここに入ったんだ。ここには部外者は入って来れないからね。」

「コミュニケーション能力の欠如?それはお前の入学前の頃と似てるね」

 神埼が言うと、崋山も思いついた。

「そうだね。それって彼の良心の呵責が原因じゃないかな」

「そうだよな、カイのせいじゃないのに。ばあさんとママの仕打ちがカイにも影響していたんだ。俺は施設に入れたけれど、カイはあいつらから離れることが出来なかった。判っているのかな、あいつら。もう腹が立ってきた。悪魔はあいつらの方じゃないか」

「でもテレパシーって人の考えている事が解るんだろ。どうしてカイの事分からなかったのかな」

 崋山は疑問を挟んだ。

「セインによると、カイはブロック能力があったそうだ。普通、子供は自分の考えがダダ洩れなんだそうだけど、カイは教えられてもいないのに考えをブロックしていたそうだ。ブロックのやり方は親が追々教えることだったんだ」

「そうなのか、だけどおばあさんや母親が気づかないってのは迂闊だと思う。うーん、だんだん俺も腹が立ってきた。お前んちにアクセスさせろ、お前、アクセス番号ぐらいは知っているだろ、俺がガツンと言ってやる」

「セインによると十分反省しているらしいよ。そんなことしなくて良いよ」

「ふん、どうせカウンセラーとか穏やかなやつしかいないんだから、大したこと言っていないはずだ。俺なら、お前ら、くそだ。くそ婆ども。肥溜めの中が似合っている、とか言ってやる。そんな事、言われた事なんか無いだろう」

「そりゃ、無いな。言っちまえ、がつんと」

 神崎も同調してきた。

「教えろや、ルーク」

 崋山と神崎が騒いでいると、非常ベルが鳴りだした。

「あれ、どうしたのかな」

「侵入者あり。侵入者あり。警備班直ちに非常態勢をとれ。レベルA。レベルA」

 三人は顔を見合わせた。

「カイが、来たかな」

 するとすぐに、

「侵入者は部外の人間。レベルD。レベルD」

 と言い出した。

「こりゃ、カイだな」

 三人は確信した。

「メイソンだけ危険なのはDなんだねえ」

 とか冗談交じりに言っていると、ロックされているはずの自動ドアが、ギイッーとものすごい音を立てて開いた。

「ゲッ、素手で開けられたのか」

 三人はドアを一斉に見た。

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