打ち上げ─加瀬夏海視点─
やってきた男
傘にボトボトと音を立てて落ちてくる、雨の音を聞いていた。昼までの暑さはどこかへ行ってしまって、すこし肌寒くすら感じられる。
「加瀬さん、元気なくない?」
結局打ち上げは男の子4人女の子4人の計8人になった。ほかの女の子3人は私とのあんまり関わりのないような派手な子達だった。
「ん?いやいやそんなことないよ、焼肉たのしみ!」
「そっか!よかった。…あのさ、夏海ちゃんって呼んでもいい?」
「え、」
「いや、ごめんごめん。急だよね。なんでもないんだ」
「ううん。ビックリしただけ。じゃあそう呼んで!私はなんて呼べばいいかな?」
「拓海ってよんで」
「分かった」
本当は下の名前も今知った所なのに、積極的な彼に少しドキドキしている私がいた。
「寒いね…夏海ちゃん」
「そうだね。拓海くん」
本当は言うほど寒くないんだけれど、それはご愛嬌だろう。今はそういう雰囲気なんだ。
彼が私の目をじっとみて手を差し伸べてくる。手を繋ごうということだろう。
──圭吾とは手、繋いだことないな。
圭吾とは下の名前で呼びあっていた。けど、手を繋いだことは無い。
なのに彼、拓海くんと手を繋ぐってことは、取り返しのつかないことをしてしまっている気がして躊躇してしまった。
しかしそれでは前に進めない。私は圭吾との決別の意味を込め、拓海くんの手を繋ぎ返そうとした。
「なぁ、あいつ滅茶苦茶こっちみてね?」
前を歩いていた男子が言った。
「うわっこっち来るよ」
前の男子の傘で前に誰がいるのか分からない。
不審な人物がいるのだろうか。
やがて、前の男子を跳ね除け私の前に現れたのは大田圭吾だった。
傘を差していない彼は濡れることをまったく気にせず真っ直ぐに見詰めてくる。
「おい、お前なんだよ」
拓海くんが私たちの間に入る。身体は拓海くんの方が高い。圭吾の頭のてっぺんが拓海くんの目線くらいだ。しかし、圭吾はガタイが良い。その点拓海くんは細く、多分体重は圭吾の方があるんだろう。
「加瀬夏海に話がある」
圭吾が言った。目の前の拓海くんとは目を合わせず、ただ前を見ている。
「用があるなら俺を通せ」
拓海くんが圭吾との距離を詰めていく。
「拓海くん。ごめん、まって」
私は拓海くんを止める。ここままだと喧嘩になってしまいそうだったし、なによりこれは私の問題だ。
「夏海ちゃん…」
「先、焼肉屋さん行ってて」
「でも──」
「大丈夫だから、…お願い」
私の言葉を聞き入れてくれた皆は訝しげにコソコソ話しながらも先に行ってくれた。
私たちは見つめ合う。私は傘を指し、彼は雨ざらし。私はあえて圭吾が口を開くのを待っていた。
「場所を変えようか」
彼が口を開く。ここは歩道の上だった。
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