おもい
現在16:30。文化祭の盛り上がりは最高潮を迎えている。そんななか文化祭のトリを務める形で私たちの発表は行われようとしていた。
学校の上空は厚い黒雲に覆われ、瞬きの間に降り出しても不思議ではなかった。
依然待ち人の姿はない。
もう一緒に文化祭を回ることは時間的に出来ない。けど、せめて私の発表を見て欲しい。
気づけば私の思考は、圭吾は来れるわけない、とか来れるかも、とかの論理的思考じゃあなくて。ただ来て欲しい、姿を見せて欲しい、という願望に変わっていた。
学校の中庭、教室4個分くらいのスペースのそこにギュウギュウに観客が入っている。
残夏の気温の高さに人々の熱気が相まって見ているだけでくらくらするような雰囲気だ。
生徒会役員のアナウスが始まった。
もうすぐに出番だ。
私はこの時、胸に決めていた。圭吾が来てくれたら、もう一度ちゃんと告白して返事を貰う。もし来ないのなら圭吾は私のことはどうでもいいのだと判断して手を引く。もう会わない。
音楽な流れ始めクラスメイトと共に一斉にステージへ上がる。すると観客もそれに呼応するように割れるような歓声を上げる。
ステージの上からの景色は壮観だった。好き勝手に叫ぶ人。飛び跳ねたりする人。様々だが一様にそれらは“楽しい”を全身で全力で形容していた。
こんなにも沢山の人に見られているのに、不思議と緊張はしない。身体は練習の通りに動いているけど、自分で動かしているという実感がない。見えている景色もどこか他人事のようで友達がやっているゲームの画面を見ているようだった。
そして不安もなかった。必ず来てくれると信じているから、では無い。来てくれなかったとしてもそれでもいいと思っているからだと思う。
いつからだったか、今となってはもう覚えていない。それくらいずっと昔からあいつの事が好きだった。一生懸命料理も勉強したし、ちょっと恥ずかしかったけどガード緩めな格好してみたり。
でもこんなことになってもあいつには伝わらなかった。
あなたの事を考えると胸がドキドキする。あなたを想うと幸せな気持ちになる、けどそれはとても苦しい事でもあるんだ。
数年にわたって肥大化させてしまった、この重い想いを。
もうスッパリ諦めてスッキリしてしまいたい。
そう思う気持ちもあった。
もしそうなったらずっと切ってなかったこの髪を切ってみようかな。なんて、今どき時代遅れか。
頬に冷たい感覚が伝わる。それを皮切りにいくつもの水滴が空から降り注ぐ。発表中の私たちは勿論。観客もそんな雨を気にする素振りはなかった。
それは夏に涼しさを届ける涼雨であり、私の頬の上を流れる悲しみをいっぱいに含んだ温い雨を洗い流すには適任だといえた。
発表が終わっても大田圭吾が姿を現すことはとうとう無かった。
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