文化祭─加瀬夏海視点─

恋する乙女

 教室の窓際の席。外の曇天を眺め考え事をしていた。今日は文化祭。


 ──圭吾のヤツ、どうするつもりなのかしら。


 天気予報では今日は降水確率50パーセント。朝ニュースで見てドキッとした。雨が降ったら圭吾は来ない。降らなかったら来てくれる。なんとなくそんな気がしたんだ。


 喧嘩(?)したあの日から圭吾とは会っていない。ていうか勢いで告白までしてしまって恥ずかしくて合わせる顔がない。


 と言ってもちいさなアパートの住人同士完全に接触を断つのは難しくて、なんどかすれ違ったけど私は知らんぷりした。


 空にどっしりと腰を据えているような分厚い雲は私のそんな事情、どうでもいいと思ってるようにも見えたし、嘲笑っているようにも見えた。


「夏海ー?なにぼーっとしてんの」


 おさげで眼鏡をかけた少しオタクっぽい友達が声をかけていた。


「うーうん、なんでもない」


 もう少しで文化祭が始まるというのに私の意識は上の空だった。


「なんでもないってこたぁないでしょう」


 友達は私のほっぺを両手で挟んで無理やり私の顔を自分の方に向き変えた。


「な、なんでそうおもうの」


「だって夏海、さっきからしきにりスマホ画面を見てるじゃない。時間を気にしてるか、もしくは誰かから連絡が来てないか確認してるか。どっちにしろなにかあるんだろうとは思うよ」


 うぅ〜…そんなに落ち着きなかったか。


「なんでもないんだよ。…多分、ほんとに何も無い」


 現実的に考えれば、圭吾は来ない。チキンで真面目なやつだから1度決まったバイトを放棄することはないだろう。


 でも、もしかしたら。なんて思ったりもする。


「ふーん。…男かッ!」


「えぇ、分かるの?」


「オタク舐めんな。白馬の王子様の登場を待つ恋する乙女の顔くらい分かりますとも」


「そっか」


 恋する乙女、か。…そうかもな。


 喧嘩別れした今でも、ちゃんとご飯食べてるかな?とか、今日は寝坊してないかな?とか、部屋は散らかり放題なんだろうなとか考えてしまう。


 申し訳なさそうにはにかみ笑う彼がやってくるのを妄想してしまう。


「…でもオタク関係なくない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る