フリーター生活

 期待と不安を胸に店の門を潜る。


 新しいバイト先。今回は飲食店のキッチンに挑戦することにしたのだ。ちなみに前回は引越し。


 ふと、考える。俺は中卒だが、年齢的には高校1年生。いま、どのくらいの16歳が働いているんだろう。夏海が言ったように、ほとんどがまだ中学生気分で遊び呆けているのではないだろうか。


 働いていて、辛い、と思う度そういう奴らが恨めしくて仕方なくなる。


 ──いや、そんな弱気じゃダメだ。


 時々分からなくなってしまうが、俺は母親に少しでも楽をさせたくて働いてるんだ。


 自分を奮い立たせる。


 開店前の飲食店。正面から入ったはいいがどこに行けばいいのか分からずキョロキョロしていた所を面接の時に1度顔を合わせた店長さんが遠くから気付き手を振ってくれた。


「お、きたきた!新人くーん」


「おはようございます」


 出来る限り明るい印象を持たれるように練習してきた挨拶をする。


「うんうん。元気でいいね!」


 店長は小太りの30代くらいの男性。優しそうな顔をしている。


「うん。大田圭吾おおたけいごくんだったよね?」


「そうです」


「うん。僕は酒井っていうんだけど皆に店長って呼ばれ過ぎて最近じゃあそっちの方がしっくりくる始末だよ」


「は、ははは。そうなんですか」


 ぎこち無いとても不自然な笑い方になってしまった。今どきAIの方が流暢に笑うだろう。


 でも俺は少し安心していた。この手のくだらない事を沢山言ってくる大人(褒めてる)は下手な愛想笑いでも満足してくれる傾向にあるからだ。


 今までどのバイトも人間関係が原因で長続きしなかったので今度の職場では上手くやっていきたいと思う。


「うん。じゃあ、こっちが控え室だから付いてきて」

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