約束
外に出ると、折り紙の青を隙間なく貼り付けたような一片のくもりもない1面の青空に迎えられた。
夏ももう後半だと言うのにまだまだ元気な太陽が遮るものがないのをいいことにこれでもかと照っている。
初めは夏海の学校での出来事を聞いたりしていたがネタも尽きたらしく少し沈黙が流れていた。(というか話を聞く限り夏海にはそれなりに友達が居るっぽいのだが。皆ディズニーが嫌いなのだろうか)
10メートルくらい前の信号が青く点滅している。1人だったら駆け込むが今は2人なので赤で足止めを食らうのを許容する。
すると、おもむろに夏海は話しだした。
「そうだ。今度の日曜日、学校の文化祭でさ。一般の人も入れるんだけど来ない?」
うちのクラス、浴衣でダンスするんだよ。可笑しいでしょ?と、夏海は付け足した。
「へー面白そう。けど、1人でそういう催し物に行くのは勇気いるなぁ」
「だ、だったらさ!…私と回ろうよ」
夏海は、右隣に立っていた俺の方に向き直り、俺より少し低い位置にある眼でこちらを見上げる形になる。
視線が絡まる。
ドクンと心臓が1度だけ大きく脈打った気がした。
あれ?この気持ちはなんだろう。緊張しているようでそれとは少し違うが、体が強ばり体温が上がるのを感じる。
俺はすぐには返事ができなかった。
信号が青になり無言のまま歩き出す。彼女と交わっていた目を逸らし、ようやく口が動いた。
「…でも、いいのか?学校の人と回らなくて」
そう、ディズニー嫌いの友達と。
「いいのいいの」
「俺が行っても迷惑じゃない?」
「全然。寧ろ来て欲しい」
「…なら行こっかな」
「来てくれるの!?」
「うん」
「約束だよ!?」
「ああ」
並列して歩いていたのを夏海は何歩かスキップのような足取りで俺より前に進み、振り返る。
「ありがとね!隣駅いくならここ曲がった方が速いでしょ。ここまででいいよ。じゃあね!」
俺に返事を許さぬ猛早口でまくし立て足早に進んでいってしまった。
俺はしばらくその後ろ姿を見ていた。
程よく日焼けをした健康的な小麦色の肌。漆器のように艶やかな長い髪。それら全てが青空によく映える。
その後ろ姿は昔の幼い面影も残しつつ、凛々しい1人の女性のものになろうとしていた。
風で靡くセーラー服。
中卒の俺は人生において着ることの無いだろうセーラー服。
──いや…高校行っててもセーラー服は着ないか、男だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます