1-1 天界にて
「さて、転生することも決まったからさっさと行ってしまえ。と言いたいところだがまぁお前のことだ。どうせそのまま異世界に行けばすぐ死ぬだろ?」
「いや、あぁ、はい。」
もう反抗する気もでない。
さっきからイジりのパンチが痛い。
なんかもうね、ずっとストレートとフックのラッシュ。
・・・このクソジジイ。
「そういえば君は異世界に行ったら何の職業に就きたいとかあるのか?」
速攻でニート!!って言いいたい気分だが異世界ということを考えると日本よりも生きていくことに必死にならないと駄目なんだろうな。
少し迷っている俺にゼウスは手に持っていた本を渡してきた。
そこには色々な職業が書かれていた。
剣士。魔法士。騎士。魔道士。剣術士。召喚士。闘士。
正直言ってどの職業もとてつもなく強い。
(迷うなぁー。)
「うーん。」
「ほう。あまり悩む奴など見たことないんだがな。」
そんな訳あるか!
そいつらの頭が逝かれている可能性が出てくるぞ。
「えーっと、剣術士か魔法士になりたいかなーって感じです。」
「うむうむ。そうなると少しじゃが修行が必要じゃのう。」
チッ。めんどくさいのを選んでしまった。チッ
「まず、剣術士だが、一応どうにかなる。振り回しておればいいからな。しかし魔法士に関してはそうはいかない。」
最悪だ。俺は世に言うコツコツ型じゃないからな。努力という言葉ほど嫌いなものは無い。
「よし、もう修行を始めるぞ。まずは見せる。」
初めて見る魔法。テンションが下がり始めている今の俺だが少しずつ鳥肌が立ってきた。興奮している証拠だろう。
「「ファイアー。」」
ゼウスの手の平から小さい火が出た。
夏場にたまに起きる熱風も遅れてやって来た。
流石は魔法。規模は小さいとはいえ迫力は半端ない。
なんか感動してきちゃった。
「「ウォーター。」」
軽く水道を捻った時くらいのチョロチョロした微量。
モコモコの地面に吸い込まれる。
「「ウインド。」」
爽やかな風。扇風機の弱より強くて中より弱い。
「「アース。」」
砂場で拾って来たって感じの砂。サラサラしてて所々キラキラしたのも混じっている。
「「ボルト。」」
静電気程度の微弱。ビリビリボールペンくらいともとれる。
「これが初級魔法。これをマスターするので約3ヶ月といったところかな。」
ゴクリ。
俺は少し覚悟した。
「時間かかるからもう始めるぞ。」
「「ファイアー。」」
あ、あれ?出ない。
俺は首を傾げているとゼウスが声を掛けてきた。
「違う。もっと力を込めろ。」
そう言って持っていた本を読み始めた。
・・・それだけ?主語がない。主語が。誰が分かるねん。
力を込めろって言われてもなぁ…。
「「ファイアー。」」
フライパンの上に手をかざしたように手が熱くなってきた。
「そうだ。そのまま炎のイメージを大きくしろ。」
(火をもっと大きく…。)
シュボボボボ。
「はっはっは。汚いのぉ。お主の火。オナラでも出しとんのか?」
このクソゼウス何ツボってんだよ。泣いてんじゃん。
そんな面白かったか?
ま、まぁ音は変だった。普通は ボン! とかでしょ。
「ふぅ。久しぶりにここまで笑ったわ。まぁこれで炎魔法のファイアーは取得完了じゃな。」
そんな簡単に取得できんだな。これなら他の魔法も案外簡単に取得出来ちゃうんじゃ。
「では、初めて魔法ができたってことでテストするぞ。」
いや、だるい。ここは学校じゃないんだからテストなんて学生であっても必要ないのに死んだ俺には最も不要な物なわけ。
ダルいし。いざ「始め!」ってなったらやるけどそれまでが嫌なの。
いきなり抜き打ちテスト始まった時とかもっとそう。
もうね、学生をやったことがある人なら分かるけどね、テストって単語を聞くだけで憂鬱なの。
症状が重い人はテストって聞いた瞬間発狂して失神しちゃうんだから。
何ならそのまま姿を現さない人だって出てくるくらい凶悪な単語だからこそ迂闊に口に出してはいけないと言うのが世間一般の常識なのだ。
とりあえず一言でまとめるととにかくやりたく無いの。
ポチャン。
そんな気持ちとは裏腹にゼウスは足元に魔法陣を描き、そこからとあるモンスターを召喚させた。
・・・スライム?水色がオーソドックスだがこの世界は透明だったりするのか?
「では、お前にはこのスライムをさっき取得したファイヤーで温めて膨張させろ。」
な、なんて残酷なことをこのジジイは言い出すんだ。可哀想だろ!
「言っておくが異世界で最も悪なモンスターはスライムじゃぞ。なんなら魔王より恐ろしいと儂は思うぞ。なぜならコイツらは常識という概念がない。魔王だってゴブリンだって行儀良くドアを壊して入ってくるがコイツらは隙間があれば何処からでも入ってくる。そして体の、しかも肺の近くまで侵入し、器官を塞いで窒息死させるのがセオリーやぞ。」
お前こんな愛おしい体をしていながらなんて恐ろしいことをするんだ。
まぁ異世界なんて「弱肉強食の世界やで!」とかでしょ?
俺はしょうがないともいながらスライムの前に座って手をかざす。
「「ファイヤー。」」
い、意外。スライムってすぐ膨らまないんだな。もう少し手に負荷をかけるか。
ピョンピョン。
俺がどんな感じでコイツ(スライム)を見ているかは知らないがなんだかスライムがビビっているように見える。
(俺そんな怖い?でも倒そうとしているわけだしそりゃ怖いか。)
「「ファイヤー。」」
バン!
既に発動していたファイヤーにファイヤーを重ねたからかスライムは大爆発を起こして消えた。
「こんなの3ヶ月も要らないわー。」
とか言ってたさっきまでの俺をぶっ飛ばしたい。どうやっても無理だけど。いや、目の前にゼウスが居るんだ。時の神でも連れてきて貰えば良いんじゃ?
「いいから集中しろ。」
今習得しようとしている水魔法ウォーター。話にならない程難しい。
問題は魔力の調節。
一応ファイヤーの時も魔力を使っていた。というか魔法は魔力が無いと使えない。
体の心臓に近い所に魔力の貯蔵庫があるらしくそこから魔力を手に運び込んで放つ。
で、ファイヤーは形になる。しかも絵で描け。と言われるならみんな同じように描くと思う。
が、ウォーターはそうはいかない。水は流れる。要するに手に集めている間に魔力が手から流れてしまう。
じゃあ勢いよく集めてしまえとも思ったがそうすると魔力を使い過ぎて目眩が襲ってくる。
早速躓いた。
「「ウォーター。」」
ダメだ。手から流れる。ちょうど中間ってのは頭で理解できているがいざやると上手くいかないものだ。
「躓いた様じゃの。」
ゼウスは本から俺に視線を変え、言った。
「じゃあもう1回ファイヤーを打ってみろ。」
「「ファイヤー。」」
ボゥ。
勿論習得した俺は普通に発動させる。
一度覚えれば難なくこなすタイプ故そこらへんは苦労して来なかった。
「じゃあウォーター」
「「ウォーター。」」
で、出ない。ここまで来ると才能無いのかな。
俺がうーん。と唸っているとゼウスが口を開いた。
「もう気付いていると思うがウォーターの難しい所は形として表しにくい。ということだ。」
そうなんだよな。形形・・・。
ゼウスはそっと手の平を見せて来た。
「まだピンと来ていないようだから教えるが水は流れる。その理を抗うは出来ない。しかしそれはそのまま産み出しているからだ。ということは魔力を魔法に変化させにくい。だが、こうやって魔力を集める段階で手に渦を作り、留めてやればいい。」
手の平に水を・・・いや、渦を作る。イメージは洗濯機。渦が安定したら魔力を水魔法に変換・・・。
「おぉ、いいぞ。いい調子だ。」
そのまま水を一本の棒状にしていく。捻って、捻って、手から押し出す!
「習得じゃな。まぁもう一個の方法もあったはあったがお前さん的にこっちで正解だったな。」
出会ってそこまで経ってないのに俺の性格に熟知してるな。流石ゼウス様。
「あ、今お前さんが死んで2ヶ月半になったからの。」
マジか・・・まだ2個しか魔法習得してないのにもう2ヶ月半。
とりあえず次の魔法だ。
「「ウインド。」」
シーン。
「何をしている。」
・・・。いや、わかっている。分かっているから言わなくていいからな?
「風なら全く吹いてないぞ。」
言ったよ。言いやがったよ。このジジイ。人の心読めるのにそういうことするんだ。
今回のウインド。さっき苦戦していたウォーターより難易度が高い。
ウォーターはまだ目視出来た。だがウインドは風魔法。要するに目視出来ない。
そうするとさっきの様に渦を作っても飛び散りやすい。
「今回は前回と違って見えない。そこが壁みたいだな。まぁ儂、風魔法は感覚でしているから教えられんのぉ。」
うっそ、使えねえn。正直そこをなんとかして欲しいところではあるんだが…。
「あっ。」
思わず声にしてしまったが気づいた。
見える風もある。風で見えて、攻撃に転じることが出来そうなのって言ったら自然災害。
俺は手の平に出来るだけ風を生成する。
それを油断して本を読んでるゼウスに向かって…。
「「ウインド。」」
集まった魔法を押し出しゼウスにぶつける。
「うおっ!この威力なら初級魔法のウインドではなく中級魔法のゲイルじゃの。」
「ん?一個飛躍して習得したってこと?」
「そういうことだ。それにしてもどうやったんだ?」
そうだよな。2回目で成功したと思ったらいきなり中級なだもんな。疑問しか無いと思う。
「気付いちゃったんだよ、風も見えるってことに。」
ゼウスはイマイチ、ピンと来てない様だ。
「例えば竜巻だとか台風とかは見えるだろ?そこから導いてみたんだ。」
「なるほど、見方と考え方を変えたってことじゃの。」
その時俺はまだ気付いていなかった。
魔法のヒントが今までの日常生活の中にあったことに。
そして今までと違い、命という重さがどれだけ重いのか。
殺されるかもしれない。殺さなければ生きていけない。
躊躇えば仲間の命をなくすことに。
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